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第7話のサブタイトルは「第四段階」。ラノア魔法大学の卒業式でリニアとプルセナが送り出され、その足で族長を決める決闘が始まる。一方でナナホシの研究は前世の野菜を呼び出すところまで進み、ノルンはアリエルから生徒会に誘われる。そして最後に、ナナホシがルーデウスに紹介したい人物の名前が出る。




卒業式と、見送りに来た二人
卒業証書と、魔術ギルドD級の証
第7話はラノア魔法大学の卒業式から始まる。壇上で読み上げられる卒業生代表はリニアとプルセナで、授けられるのは卒業証書と、魔術ギルドD級の証だった。
★この「D級」がまず良い。特別生として在学していた二人が、外に出た時点ではまだ下から数えたほうが早い等級であることを、式のいちばん厳かな場面でさらっと告げてくる。★学校を出ることは強くなることではない、という前提がここで置かれている。
客席にはルーデウスたちがいて、本人が「二人がリニアとプルセナの卒業式に参加するなんて意外だったよ」と漏らす。「二人」というのは隣にいるザノバとクリフのことだ。★この作品はいつも、退場していく人にきちんと時間を使う。
クリフの見送り方
ザノバの答えは「いろいろありましたが、彼女らは師匠を慕っておりますからな」、そして「いつまでも敵対心を持っていてはなりますまい」。★人形を壊された過去のある人物がこれを言うので、重みが違う。
良かったのはクリフのほうだった。「正直、僕は下品なあいつらとほとんど接点は持たなかったが」と前置きしたうえで、「同じ特別生として勉学に励んだ仲間だとは思っている」「だから、きちんと送ってやろうと思ったんだ」。★好きではないと言い切ってから、それでも送ると続ける。
★仲良くなったから見送るのではないという理屈が、この人らしくて気持ちがいい。ルーデウスも「俺が入学したときは特別生同士、なんか気まずい雰囲気だったが」と振り返りかけたところで言葉を切る。★変わったという結論を本人に言わせないのが、上手い切り方だった。
この一年、ナナホシの具合が悪い
解毒魔術では治らないもの
場面が変わってナナホシの研究室。入るなり「また風邪ひいたのか?」と聞くことになるくらい、状態は良くない。ルーデウスの整理では「ここ一年、どうにもナナホシの具合が悪そうだった」で、空咳をしたり熱を出したりがずっと続いている。
★引っかかるのはここだ。解毒魔術で治してやっても、少しするとまた体調を崩す。そしてルーデウス自身が「解毒魔術じゃ、不健康な体までは治らないんだぞ」と口にしている。
★つまりこれは毒でも風邪でもない可能性がある、と本編がわざわざ断っているに等しい。ザノバの「せめて、風邪が完全に治るまで休むべきですな」に返した「研究のほうが順調なんだから、休んでなんていられないわ」も、熱心というより★急いでいるように聞こえた。
研究は第三段階
研究の進み具合も整理される。現在は第三段階で、「植物、もしくは小動物といった生物を召喚しようとしている」段階。「もう少しで、前世の野菜がこの世界に現出するだろう」というところまで来ている。
★段階で管理されているのがこの研究の面白いところで、今回のサブタイトルもそこから来ている。順を追って対象の範囲を広げていく作業なので、成功も失敗も次の段取りに繋がっていく。
★ただし逆に読むと、★ナナホシの体調は研究の進み方と同じ速度で悪くなっているようにも見える。順調だと言われるほど不安になる作りで、この回はずっとその不穏さを下に敷いたまま、上では明るい話が進んでいく。
族長を決める決闘
ここは思い出の場所だ
そこへリニアとプルセナが押しかけてくる。「ボス、探したにゃ」「ちょっと顔貸してほしいの」。ルーデウスは「また決闘だろうか」「負けたまま帰れないなんてことを考えているのだろう」と身構えつつ、「まあ、いいか。最後だし」と付き合うことにした。
連れて行かれた先が「俺とザノバがリニアとプルセナを拉致した場所」である。★出会いが拉致だったという事実を、この作品はごまかさない。ザノバの「師匠、これはあの時の再戦という流れでしょうか?」に対する答えも「そうかもな」だった。
ところが用件は違った。「勝ったほうがドルディア族の族長になるにゃ」。ルーデウスが「デドルディアとアドルディアで二つ部族があるんだから、それぞれの族長になればいいんじゃないのか?」と当然の疑問をぶつけると、返ってくるのは★迫ってくる求婚者を全部倒してしまったので、結局どちらより強い男も現れなかったという説明である。「より強いほうが族長になって、もう片方は好きに生きるの」「族長になるだけが人生じゃないの」「恨みっこなしにゃ」。★勝負の前に、答えのほうはもう二人で出してある。
実況を始めてしまうルーデウス
ルーデウスは「お前らが納得するなら存分にやり合うといい」と許可を出し、「おそらく、二人の強さは互角だ」「万が一を避けるためにも、見届けてやらねばなるまい」と立会人に回る。ついでに「別に訂正しないが、喧嘩じゃなくて決闘だ」と念まで押すあたりが律儀だった。
ところが始まった途端、この人は実況を始める。「これから始まるのは獣同士の本気の殺し合いだ」で入り、「どうですか、実況のザノバさん」と振り、打撃が入れば「これにはプルセナ、たまらない!」と煽る。★立会人の仕事を数十秒で忘れている。
そこに刺さるのがナナホシの一言だった。「ねぇ、二人ともあんなに必死なのに、どうしてあなたは、そんなにふざけていられるの?」。ルーデウスは「あ…ごめんなさい」と素直に引き下がり、そこから見え方が変わる。「壮絶な姿だった。立派な姿だった。死闘を乗り越えた姿だった」。★★同じ喧嘩が、見る側の態度ひとつで別のものになるという書き方で、ここが今回いちばん静かな山だったと思う。
「プルセナのデベソ!」「リニアのアホ!」
四歳のお漏らしまで持ち出す
肝心の中身はというと、ほとんど子供の喧嘩である。開幕が「うるせえな。前々から言いたいと思ってたけど、実はお前のこと気に食わなかったにゃ」「それは、こっちのセリフなの」。
そこから始まるのが恩の応酬だった。「リニアは子供の頃は、私の後をよちよちついてくる妹分だった分際で、最近顔がでかいの」「妹分だったのはお前にゃ」「4歳のとき、プルセナのお漏らしを隠してやった恩も忘れたのにゃ」「アドルディアは恩を100年忘れないって言うけど、まったくのデタラメにゃ」。返しが「それは、川に落っこちて溺れかけてたのを助けてあげたので、おあいこになったの」。
最終的に「プルセナのデベソ!」「リニアのアホ!」まで落ちる。ザノバの「まるで、子供の喧嘩のようですな」は正しくて、ルーデウスも「うん、まあ、そうとも言うけど」と認めている。★★ただ、族長を決める戦いの内容が四歳のお漏らしなのだとしたら、この二人は本当にずっと一緒にいたということになる。★喧嘩の低さが、そのまま付き合いの長さの証明になっていた。
傷は残しておく
決着はプルセナ。「私の勝ちなの」で、ドルディア族の族長が決まった。
良かったのはこの後だ。ルーデウスが治癒魔術を申し出ると、プルセナは「ありがたいけど必要ないの」「この傷は名誉なの」と断る。理由が「リニアとは、もう会えるかどうか分からないから、残しとくの」だった。
しかも「街を出るまでは一緒にいるんだろ?」に対する答えが「ここでお別れなの」「荷物はまとめてあるから、今日のうちに出るの」。★自分が勝った証ではなく、相手が残していった傷のほうを持っていくという発想が良い。ルーデウスの「かっこいいな」には完全に同意した。
リニアのほうの別れ方
負けたほうが笑っている
一方、倒れているリニアはまったくしょげていない。「生きてるにゃ」「美人が台無しだな」「本当にゃ」から始まって、こう言う。「ボスの声、全部聞こえてたにゃ」「ずいぶんお楽しみだったにゃ」。
ルーデウスが「ちょっと空気読めてなかったかもしれない」と謝ると、返ってくるのが★「最後に楽しんでもらえて何よりにゃ」「よそから見ればただの喧嘩にゃんだから、楽しんだもん勝ちにゃ」。★さっき叱られた実況が、当事者のほうからは許されている。
そのうえでザノバとの和解まで入る。ザノバ「獣族の戦いは分かりませんが、正直、目を奪われました」→リニア「お前に褒められるなんてにゃ。ここで拉致された時とは大違いにゃ」→「あの人形のことは悪かったにゃ」→「その件は師匠がお許しになっております。余はすでに、リニア殿への敵対心はありませんので」。★★「リニア殿」である。呼び方ひとつで、何年ぶんかを片づけてしまった。
乗り合い馬車の噂
別れ際も軽い。これからどうするのかと聞かれたリニアの答えが「適当に旅でもしてから商売を始めるにゃ」「予定では、5年もすれば大金持ちにゃ」。ルーデウスの心の声が「商売か。嫌な予感しかしないな」「浅はかな考えで物事を進めて、やらかしそうな気がする」で、★見ているこちらの気持ちを全部代弁してくれる。
それでも「なんか困ったら、俺を頼ってもいいからな」「余も力を貸しましょう」と手は差し出す。リニアの返しが「アチシが成功したら、金でも貸してやるにゃ」だった。
そして締めが最高だ。後日、乗り合い馬車で言い争いをしている包帯だらけの獣族の女二人を見た、という噂が耳に入ってくる。ルーデウスの結びが「大方、出発のタイミングがつかめず、鉢合わせしてしまったのだろう。締まらないことだ」。★今生の別れを決めた二人が、同じ馬車で喧嘩している。★別れの場面をきれいに作っておいて、その直後に自分で崩してみせるのがこの作品らしかった。
スイカと、それぞれの次の道
キャベツを呼んだらスイカが来た
実験の日。魔力を注ぐのはルーデウスで、「さすがにすごい消費量だ」「俺以外だと、誰も使えないんじゃないだろうか?」という規模である。★ここで彼が思い出すのが転移事件の直前に見た光で、「やめるか。また転移が起こったら、みんなが」と一瞬手が止まる。
それでも「そうならないように、これまで研究を積み重ねてきたのだ」「大丈夫だ、いける」で押し切って成功。現れたのがスイカだった。ルーデウスの第一声が「それにしても、禍々しい模様だな」なのがひどい。
★笑ったのはこの後で、ナナホシが「今回だって、キャベツを召喚するつもりだったし」と白状する。まだ対象物を選べないのだ。ルーデウスも内心で「野菜を召喚するという計画は、最初から欠陥があったのではないだろうか?」と気づきかけて、「野菜を召喚しようとしてスイカが出たならば、成功といっても過言ではないはずだ」で片づける。★★この世界にもキャベツに似た野菜はあるので、狙い通りキャベツが出ていたら成功か失敗か分からなかった。★狙いを外したことが、そのまま証明になっている。
ノルンは一年以上前からやっていた
夜は祝いの宴会。ルーデウスの独白が「だが、リニアとプルセナはもういない。その代わり、ロキシーとノルンが参加している」で、★出席者の顔ぶれがそのまま時間の流れになっている。ほろ酔いのロキシーが「ルディ、ちょっと椅子を引いてください」と甘えてくる横で、シルフィエットは「僕、お酒飲んだら変になっちゃうから」と控えていた。
そこでノルンが切り出すのが生徒会の件である。アリエルに誘われたという。理由が「成績は決して優秀ではないけど、人を惹きつける力があるから」。ルーデウスは剣術と本の執筆と勉強を数えて「そんなにたくさんのこと、できるのか?」と渋る。
決め手になったのはシルフィエットの「ノルンちゃん、今のところはきちんとやれてるよ」「生徒会の手伝い自体は、1年以上前からだし」だった。ルーデウスの納得の仕方が良い。★「できるかどうかじゃなくて、できてから言ってきたのか」「それじゃ、反対できないな」。そして「もともと、俺が許可を出すもんじゃないと思うけど」と付け足す。★★この後の独白「その頑張りを応援するのは周囲の義務だと思う」「俺だって、周りの人に応援されているから今がある」が、この回の全部を束ねている。
「第四段階」まとめと考察
紹介したい人物の名前
宴会のあと、ナナホシが切り出す。第四段階は「召喚物の詳細を指定する」段階で、それには詳しい人物に聞きに行く必要がある。そこで前の実験のお礼として、その魔術師を紹介するという提案になった。
決定打は次の一言だった。「もしかすると、あなたのお母さんの記憶喪失も、なんとかなるかもしれないわ」。根拠が「何せ、長生きしてるから、知ってる可能性も高いわ」である。ルーデウスはゼニスについて「順調に回復はしていると思うが、記憶に関してはいまいち治るかどうか分かりにくい」と見ており、治らない場合まで考えて「病名や似た症例について聞けるのなら」と手を伸ばす。
会う条件も妙だった。「12人までは問題ない」「会おうと思えば1日で会える」のに、「近所ではないし、会ってもいない」。そして明かされる名前が甲龍王ペルギウス。400年前のラプラス戦役で人族を勝利に導いた、魔神殺しの三英雄の一人である。
段階を上げたのは誰だったのか
通して見ると、この回はほとんど全員が段階をひとつ上げている。リニアとプルセナは卒業して族長と自由に分かれ、ノルンは手伝いから正式な生徒会員へ、ナナホシの研究は第三段階から第四段階へ。★サブタイトルは召喚術の話だが、指しているのはそれだけではない。
★そのうえで、上がっていないのがルーデウスひとりだというのが効いている。彼は今回、見届ける側、実況する側、応援する側に回り続けた。「俺も、みんなをいくらでも応援するんだよ」と言い切ってしまえるくらい、自分の番だと思っていない。
★だから最後にあの名前が置かれるのだと思う。★他人の段階を上げる手伝いをしていた人が、他人の紹介で自分の段階を上げにいくことになる。しかも動機は自分の研究ではなく母の記憶のほうだ。★応援する側から始まる次の段階、という繋ぎ方が丁寧な回だった。




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