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第6話のサブタイトルは「片田舎のおっさん、父と対峙する」。討伐を終えた村の祭りの最中、モルデアがベリルを呼び出して道場へ連れていく。ずっと聞けずにいた「なんで俺に道場を譲ったんだ」への答えが、言葉ではなく木剣で返ってきた。そしてベリルが勝つ。ところが家に帰ると、母はまったく別の答えを返してくるのだった。




討伐の翌日、村は祭りになる
仕留めた牙が、村の酒に変わる
第6話は帰還の「ただいま」から始まる。山から下りた一行が体を洗って上がり、ベリルが「あれ、親父どこ行った」と探すが見つからない。この時点で父がいないことが、そのまま今回の仕掛けになっている。
祭りの場でベリルに声をかけてくるのが、同い年で同じ村の生まれだという商人のフーフィルだった。「今年は大漁だったな」「牙と皮はだいたい捌ける目処が立った」「お前さんが仕留めた大物の牙は、貴族にでも売り込んでやるつもりだ」。ベリルの説明が身も蓋もなくて良い。「おかげでみんなが飲む酒も買える」。毎年悩まされる相手ではあるけれど、「魔物は恵みをもたらしてもくれる」「悪いことばかりじゃない」。討伐の翌日に、仕留めた牙が酒代に変わっている。この村の狩りが行事として続いている理由が、一場面で腑に落ちた。
「ビデン村とはそういう場所ですか」
村を「見ての通り何にもない村だけど」と紹介したあと、ベリルが一つだけ付け足す。「これだけはちょっとよそと違うところかな」。代々続く道場があり、門下生がいる。「来年か再来年にはアデルたちも山に連れていけるといいんですが」という話まで出て、「もし叶うならその際は私も同行し、アデル殿とエデル殿の成長を確かめたい」と返される。
ベリルがミュイに「もしここを気に入ってくれたなら、また一緒に来たいんだけど」と聞くと、返事は「うんいいよ」の一言だった。内心の「連れてきてよかった」がそこに重なる。第4話でこの村に来たときのミュイは、外に出るのも初めてで木剣を離さない子だったので、この短いやり取りだけで二泊三日ぶんの距離が縮まったのが分かる。
首都では、団長がやけ酒を飲んでいた
ダブルでおかわりする騎士団長
ここで場面が首都に飛ぶ。「おかわりをお願いします、ダブルで」と繰り返しているのは、留守番になったアリューシアだった。「いつにも増して異常なピッチだな」と呆れられ、「人の飲み方にまでケチをつけるのですか」と噛みつく。
理由が理由だった。「先生がビデン村に帰省されているのです」「もう何日、先生の顔を拝んでいないことか」「この辛さ、飲んで紛らわせるしかありません」。「とりあえず置け、ジョッキを」となだめられても「私に指図するのですか」と返し、「ヘンブリッツとクルニに先生と同行する許可を与えましたが、本当は私が先生と行きたかった」「そうですよ、だから飲んだくれているのです」。許可を出した本人が一番行きたかったという構図で、騎士団長の顔と弟子の顔が完全に分離しているのがおかしかった。
誰も、父の剣を見たことがない
相手をしているのは、幼い頃にベリルに拾われたスレナである。話がモルデアに及ぶと、二人の記憶がそろって薄いことが分かってくる。スレナ「先生はいつもモルデアさんに言い負かされていたからな、道場に通っていた頃は」。アリューシア「道場に通っていた頃はモルデアさんとの接点がなかったので、それは知りませんでした」。
そして二人が同時に気づく。スレナ「三年も一緒に暮らしていたのに、先生とモルデアさんの立ち会いは見たことがない」。アリューシア「私は四年通いましたが、モルデアさんが剣を振るところすら見た記憶がありません」。「先生が強いことは十二分に承知していますが、モルデアさんについては知る機会すらなかったということか」。作品として二期にわたって「親父は俺より強い」と言われ続けてきたのに、その根拠を誰も見ていない。この立ち合いを見せる前に、まず「誰も見たことがない」を確認させてくるのが上手い。
肉を焼く手と、消えていない残り火
今年一番の大物を仕留めた者の役目
祭りに戻ると、ベリルは肉を焼き続けている。「手を休める暇がないよ」とこぼすと、「肉焼き担当は、今年一番の大物を仕留めた奴に与えられる名誉だぞ」と返される。子どもに「ベリルのおっちゃん、おかわりのお肉ちょうだい」とせがまれ、「みんなから感謝されていい気分だろ」「悪い気はしないけどね」と軽口を叩かれ、「じゃあせいぜい頑張れよ」に「十回以上聞いた」。
焼き場から見える景色が良かった。ヘンブリッツとランドリドは「ベリル先生からは普段どのような指導を」と剣術談義を始め、アデルはミュイに「肉ばっかりじゃなくて野菜も食べなさい」と世話を焼いたうえで、「しっかり鍛えて仕上がったら、姉弟子の私が稽古をつけてあげる」と先輩風を吹かせる。妹のエデルが「お姉ちゃん、あんまり調子に乗っちゃダメだよ」と釘を刺し、ベリルは「アデルは言葉はきついが面倒見がいいんだよな」と笑う。討伐の回のあとに置かれる、こういう何も起きない時間がこの作品はとにかく良い。
「自分の中にああいう気持ちがまだあるとは」
ところがベリルの内心は、賑わいを眺めながら別のほうへ向かう。「みんなが楽しんでるなら何よりだ」「俺も、ここに帰ってきてよかったよ」に続いて、「自分の中にああいう気持ちがまだあるとは、思ってもみなかった」。討伐の場で自分が高ぶったことを、彼はまだ持て余している。
ここでナレーションが一言だけ入る。「残り火。風が吹くと勢いづくのか、それとも吹き消されるのか」。前回の内心が「もういい歳だしね」「実際とっくに峠は越えてる」「だとしたら、あの高ぶりは何なんだ」だったので、その続きがこの一言に集約されている。しかも風を吹かせに来るのが父親だというのが、この時点ではまだ誰にも知らされていない。
「ちょっと来い」
なんで俺に道場を譲ったんだ
肉焼きが一段落したところで、モルデアが呼びに来る。「ちょっと来い」「いいから来い」。「昨日今日とあんまり見かけなかったけど何してたんだ」と聞けば「好きにさせろ。それともまだ俺は子守りしなきゃならんのか」とかわされ、ベリルは「おっと、また親父のペースに乗せられるとこだった」と踏みとどまって、本題を出す。「なんで俺に道場を譲ったんだ?」。
返ってきたのは答えではなく問い返しだった。「お前は何でだと思う?」「もう少しよく考えてみろ」「ガキの頃教えてやっただろう」。ベリルが思い出すのが「命のやり取りになったら、考えることをやめた奴が先に死ぬ」で、これが後の立ち合いにそのまま効いてくる。二期をまたいで引っ張ってきた疑問を、答えではなく宿題として返すのがこの父親らしかった。
「強くなれないと思ったことは今まで一度もないな」
ベリルの推測は年齢だった。師範を降りたとき父は四十を過ぎていて、たしか四十三。「俺には負けないけど、その歳でこれ以上強くなることもない」「だから引退したんじゃないのか」。そして自分についても白状する。「歳食ったせいで強くなれないと思ったこともあるんだよ」。
返事が短い。「強くなれないと思ったことは今まで一度もないな」。そのうえで足が家ではなく道場へ向かい、「久々に付き合え」「ようやく重い腰を上げて都会に出ていったせがれの実力を確かめたい。親としては不自然なことじゃねえだろ」。決め手が「剣士なら口でしゃべるより、こいつの方が伝わる」で、つまり今から始まるのは答え合わせそのものである。問いを言葉で返さなかった理由が、ここでようやく分かる作りになっていた。
木剣で返ってきた答え
「性根を据えてかかってこんか」
ベリルは最初、相手を気遣ってしまう。「今日は腰の調子は大丈夫なのか」「やるにしても明日とか」。これが一番怒らせた。「バカにするな。お前に気を使われるほど耄碌しちゃいねえ」「お前が俺とやるのを怖がってるだけだろうが」「いいのか、そのままで」。
構えたあとの言葉も容赦がない。「息子を殺す気はねえが、当たり所が悪ければ一生剣は握れなくなるぞ」。「分かってるよ」に「なら性根を据えてかかってこんか」。気遣いを侮辱として突き返し、危険を明示したうえで本気を要求する。この短いやり取りだけで、村では腰痛持ちのジジイを自称していた人の顔が完全に切り替わった。
意識の隙間を縫ってくる剣
立ち合いの最中、ベリルの内心が実況になる。「ヘンブリッツほどのパワーもないし、スレナみたいに連撃が続くこともない」。弟子たちのような分かりやすい強みが父にはない、という分析から始まるのが面白い。
そのうえで核心に触れる。「親父は意識の隙間を縫ってくる」「くぐり抜けた修羅場の数が違う」。だからこそ自分に言い聞かせるのが「意識の隙間を作るな。本当に一生勝てないまま終わってしまう」だった。父が冒頭で出した宿題、考えることをやめた奴が先に死ぬ、がそのまま立ち合いの条件になっている。技の説明ではなく、思考を止めないことが勝敗の分かれ目として描かれるので、見ているこちらまで息を詰めることになった。
「あの時点でお前は俺より強かったからだよ」
壁の正体は、苦手意識だった
決着がついて、座らされたベリルはまだ呑み込めていない。「道場を譲った理由がどうとか抜かしてたが、まだ分からねえか」「全然分からない」「はあ、バカな息子を持つと苦労するぜ」。そして答えが出る。「あの時点でお前は俺より強かったからだよ」。
「え、一度も勝ててなかったのに」と食い下がるベリルに、「そいつは俺への苦手意識だ」「こんな年になるまで引きずりやがって」。さらに「俺は生まれてこの方、剣士としての格が落ちたと思ったことはねえ」「歳なんざ関係ねえんだ」「お前が俺より強いと思った。それ以外に理由なんてあるか」。つまり譲ったのは衰えたからではなく、追い越されたと判断したからだった。そしてベリルが越えられずにいた壁は実力差ではなく、勝てないと思い込んでいた自分自身だったことになる。二期ぶん引っ張った伏線の答えとして、これ以上ないほど気持ちがよかった。
「胸を張れ、ベリル」
念を押すように父は続ける。「勝たせてやる気は一切なかった。それでもお前が勝った」「苦手意識を断ち切れたのは、あの頃より強くなったからだ」。そして「胸を張れ、ベリル。お前は確かに強くなった」。自己評価の低さで二期を走ってきた主人公に、一番評価が厳しかったはずの人が正面から与える言葉だった。
直後の「何泣いてんだお前」に、本人が「俺、泣いてるのか?」と返す。自分が泣いていることに気づいていない。締めが「手のかかる息子だ」「やっと肩の荷が下りたぜ」で、ずっと重かったのは息子の側だけではなかったことが最後に分かる。勝った側が泣いて、負けた側が安堵している。この立ち合いが勝負ではなく引き継ぎだったことが、決着してから逆算で見えてくる作りになっていた。
「片田舎のおっさん、父と対峙する」まとめと考察
母の答えだけが、剣の話ではなかった
家に戻ったベリルに、フレンは「これでも飲んで落ち着きなさい」と一杯出したあと、何も説明されていないのに一言だけ聞く。「壁」。「越えられたのかな、やっと」「よかったじゃないの」。慌てて「あの、もしかして見てた?」と聞くと「何をよ」でかわされる。見ていないはずなのに、息子が何を抱えていたかを把握している。
そのうえでベリルが「おふくろは俺と親父、どっちが強いと思う?」と聞くと、答えは即答で「そりゃあの人でしょ」だった。理由が「女一人守りながら息子一人育てあげたんだから」「あんた、そんなことできないでしょ」。剣で勝った直後に、強さの物差しごと差し替えられている。追い打ちが「早くお嫁さんの一人くらい見つけないと、あんた一生あの人に負けたまんまよ」で、勝利の余韻がきれいに消える。父が剣で答えを返し、母は剣以外で答えを返す。この対比が、今回のいちばん効いた仕掛けだった。
「剣は俺の方が強い。でも親父にはまだまだ勝てない」
翌朝の見送りは短いが目配りが利いている。ランドリドとヘンブリッツは「ぜひまたお手合わせを」「こちらこそ」と再戦を約束し、ミュイには「いつでも遊びに来てね」と声がかかり、モルデアの餞別は「おい、ベリル、早く帰って都会で嫁さん見つけろ」だった。深刻な話をした翌日にこれを言えるのが、この親子の距離感である。
そして帰り道、ミュイが本題を持ってくる。「おっさんとモルデアさん、どっちが強いんだ?」「モルデアさんが、おっさんに聞いたら教えてくれるって」。答えは「剣は俺の方が強い。でも親父にはまだまだ勝てない」。ミュイの返しが「は? なんだよそれ、意味わかんねえし」で、こちらの気持ちを代弁してくれる。
ただ、この矛盾した答えは母の言葉と同じ地点に立っている。剣士としては越えた、人としてはまだ届かない。第4話から引っ張ってきた「なぜ道場を譲ったのか」に決着をつけながら、その決着が新しい未達を差し出してくる回だった。残り火は吹き消されなかったし、勢いづきもしなかった。越えた場所からもう一段上が見えただけで、この人はまた「まだまだ勝てない」と言いながら首都へ帰っていく。自己評価が低いのではなく、測る物差しを一つ上に架け替え続けているだけなのだと、この回でようやく分かった。




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