この記事の作品:
第7話のサブタイトルは「狙われた新汰」。ハルゴンとのキス動画が広まって、新汰が怪獣王子と呼ばれてしまう回だ。取材の電話は本人の携帯にも、妹の最愛のところにまで届く。会わないほうがいいと言った当人が一番会いたがってしまい、たどり着いた答えが花火大会だった。そして作戦はことごとく失敗するのに、いちばん見たかったものだけはちゃんと見られるという回でもある。




怪獣王子と呼ばれてしまった
教室が動画の話で埋まる
第7話は、前回の引きで話題になっていた怪獣王子の続きから始まる。教室でも通学路でも、聞こえてくるのは動画の話ばかりだ。「ぼかしなしの動画あるよ」「見たい」「南新汰で検索してみな」と回覧され、本人の前でも「写真撮っていい?」「すっげえな新汰、時の人じゃん」と好き放題である。「マスクつけて投稿とか、もう芸能人気取りか」という茶化しまで飛んでくる。
当の新汰は「いやいや、みんな騒ぎすぎだから」と受け流そうとするのだが、そのうち知らない番号から電話がかかってくる。出てみると「南新汰さんの電話番号でしょうか。私、テレビの情報番組の者ですが」。とっさに「すみません、人違いです」と切るしかない。同級生にからかわれる段階を、この時点でもう越えてしまっている。
騒ぎの中身が、噂ではなく実物の動画だというのが今回のつらいところだ。否定しようがないし、消えようもない。前回のラストでトレンド入りした一語が、そのまま日常の全部に染み出してくる速さが妙に生々しかった。
「私のせいなんだよ」
同級生に「彼氏、えぐいことになってんじゃん」と言われた黒絵の反応が早い。「私のせいで南くんがとんでもないことに」と抱え込み、新汰が「何が? 赤石さんのせいじゃないよ」と否定しても「私のせいなんだよ。何か私にできることがあれば言ってくれ」と食い下がる。動画に映っていたのは自分なのだから、彼女の言い分にも理はある。
これに対する新汰の返しが、この人らしくてよかった。「こんなふうにさらされて、きっといろんな人がいろんなことを言うと思う。傷つくこともあるかも」「あったときは言ってほしいんだ」と、自分の被害ではなく彼女の被害の話をする。黒絵のほうも「私、きっと南くんが思うよりずっと強いと思うから」と返し、新汰が「心強い。俺、本当に赤石さんが大好きだ」と笑う。そのすぐあとに黒絵が心の中で「もし尻尾出てたら、怪獣王子どころの騒ぎじゃない」と冷静に見積もっているのが可笑しい。
騒動の当事者が二人とも、相手のほうを心配して先に口を開く。この作品の恋愛は毎回このかたちで、どちらかが我慢して黙るという展開に落ちないのが気持ちいい。
距離を置こう、という提案
守るために離れる
そのうえで新汰が切り出すのが、この回の出発点になる提案だ。「騒ぎが落ち着くまで、少し距離を置いたほうがいいかも」。理由も添えられている。「俺といると写真撮られたり変なこと書かれたりするかもしれないし。俺はいいけど、赤石さんには嫌な思いしてほしくないから」。自分が我慢する側に立つ形の提案である。
「きっと一週間くらいでみんな飽きるよ」という見通しに、黒絵も「私も南くんに迷惑かけたくないもんな」と同意する。話はそれで終わるはずだったのだが、新汰は最後に「邪魔されないとこ探しとく」と言い残していく。距離を置こうと言った本人が、その場で会う算段を始めているわけだ。
提案そのものは正しいのに、言った直後から破綻の予感しかない。この回の面白さは、正しい判断と会いたい気持ちがずっと同じ人の中で戦っているところにある。しかも結論はいつも会いたいほうが勝つ。
取材は家族のところにまで来ていた
騒ぎの規模を示す役目を担うのが、新汰の妹の最愛だ。第5話で黒絵に弁当を託していた小学生の妹で、名前は南最愛と書いてみなみもあと読む。演じているのは花井美春だ。帰宅した兄に開口一番「最愛のところにもテレビの人来たよ」「妹さんですかっていきなり来るんだもん。髪ちゃんとしたかったのに」と報告する。聞かれた内容は「お兄ちゃんはどんな人ですか」と「ハルゴンとはどんな関係なんですか」。小学生に向ける質問ではない。
それでも最愛は「でもでも、お兄ちゃんには可愛い彼女さんがいるので、って言っておいたからね」と胸を張る。兄を守ったつもりで、いちばん取材されたくない情報を渡してしまっている。そのあと友達との通話で「お兄ちゃん見たい」「ダメー」「あ、後ろちょっと見えた」とやり合うくだりもあり、家の中にまで見物人がいる状態になっているのが分かる。
一方の赤石家では、母の凛子が「黒絵は感情が高ぶると怪獣化しちゃうの。もっと気をつけてよ。こんな人前でチューなんて」と説教していた。怒りどころが道徳ではなく体質なのが、この母らしい。受けた黒絵の「そもそもの話、なぜこんな体質に生まれたんだ私は」も、説教への反論としては規模が大きすぎて笑ってしまった。
ビデオ通話でつないだ距離
視線を独占する
会えない期間の代替として選ばれたのがビデオ通話だった。始まり方からしてぐだぐだで、黒絵が「すまん、まだ準備中で、いじってたら繋がってしまった」と謝り、新汰は「ビデオ通話ってあんまりやったことなかったけど、いいね」と素直に喜ぶ。
ここで黒絵の心の声が入る。南くんが目の前にいたら、いつでも会える。けれど「私、今、南くんの視線を独占してるんだよ?」。学校では人気者を大勢と分け合っている彼女が、画面の中でだけ独り占めできていることに気づいてしまう。会えない状況の埋め合わせだったはずのものが、会えている時間より濃い時間になっている。
新汰のほうも「リラックスモードの赤石さんも可愛いよ」「一緒に暮らしたらこんな感じなのかな」と、普段は言わない距離のことを口にしてしまう。画面越しのほうが踏み込める、というのはよくある話だが、この二人がやると初々しさのほうが勝つ。
角度にこだわる
そのうえで、この通話は延々と映り方でもめる。「あれ、赤石さんどこ?」「もうちょっと顔見せて」と言われて「準備不足でお見苦しいぞ」と引っ込み、近づきすぎて「ごめん、なぜかドアップになってしまって」と慌てる。ようやく「この角度ならいいだろう。うん、完璧だ」と落ち着いたところで、新汰の「俺はダメだと思います」が返ってくる。黒絵の「結構こだわるな君」で締まるこの応酬が、今回いちばん笑ったところだった。
通話は母に呼ばれてあっさり終わる。「すまん」「ううん、ちょっとでも話せてよかった」で切れたあと、新汰がこぼすのが本音だ。「距離を置いた方がいいって言ったのに、やっぱり会いたいよ」「お昼も一緒に食べたいし」「家帰ってからも、ずっと赤石さんのこと考えてたし」。そして「人目につかないところだったらいいかな」と考え始める。
これに黒絵が心の中で「いや、人目につかないとかありえないだろ、南くんが」と突っ込むのが正確すぎる。ところが新汰の発想は逆で、「俺がいても誰も気にしないところに行けばいいんじゃ」だった。隠れるのではなく、目立たない場所へ紛れる。「すごくいいこと思いついちゃった」と本人が言うとおり、この切り替えは確かに賢い。
人混みに紛れるという作戦
視線誘導と同じ理屈
答えは花火大会だった。落ち込んでいると思われていた黒絵が妙に上機嫌なので、らいりーと真夏に問い詰められ、うれしさのあまり言葉にならない声を出してから白状するのだが、らいりーが即「花火大会? 南くんと?」と大声で復唱するので「しー! らいりーさん、しー!」と慌てることになる。
真夏の「人が多そうですけれど、大丈夫ですね?」という確認に、黒絵は新汰の理屈をそのまま説明する。人混みなら逆に目立たないのではないか、みんな花火を見ているのだから、と。それを聞いたらいりーの返しが「なるほど、視線誘導メイク的な?」で、「クマとか毛穴を隠すんじゃなくて、別のとこを目立たせるテクニックだよ」と続く。隠すのではなく視線の行き先を作る、という発想が、メイクの話とそのまま同じ形になっている。
前回の主役だった人が、自分の専門分野の言葉で恋の作戦を翻訳してみせる。この作品はこういう受け渡しがうまい。第6話で黒絵がコスメの知識を人を褒める言葉に使ったのと、ちょうど裏返しになっている。
浴衣と、着せてくれた人
らいりーは当然のように浴衣を推してくる。「花火大会は絶対浴衣だって」「南くんも喜ぶし、一緒に買いに行こう」「浴衣メイクも教えるから」。黒絵のほうも準備は万全で、トイレの場所も着崩れの直し方も把握し、「あとはこれを着て、こっそり抜け出せば完璧だ」というところまで計画していた。
ところが肝心の浴衣が着られない。「動画を見ながら何日も前から練習したのに」「初めからやり直しだ」「やっぱり私服で行くか」と心が折れかけたところへ、母が晩御飯を聞きに来て見つかってしまう。ここからが良かった。凛子は止めるどころか「背筋伸ばして」「一旦解くわね」「前向いてて」と、その場で着せ直してくれるのだ。驚く黒絵に「もうママだって、これくらい」と返す。
黒絵の「ダメって言われると思ったから」に対して、凛子が言うのは「そうね。黙って行こうとしたのは、ママ悲しかったな」だけだった。怒られるのを覚悟していた娘が、悲しかったとだけ言われて送り出される。去り際に黒絵が小声で「その、ありがとうな」と付け足し、残された凛子が「何やってんのかしらね」と照れるところまで含めて、この母娘の距離の取り方がとても好きだ。
作戦は、ことごとく失敗する
お面をつけた王子
当日、待ち合わせ場所に現れた新汰はお面をつけていた。「バレにくいかなって。お面もつけてみたんだ」と本人は言うのだが、花火大会でお面をつけて立っている高身長の男が目立たないはずもない。とはいえ、この日のためにここまでするというのが伝わる格好ではある。
そして開口一番「赤石さん、浴衣すげー似合ってる。かわいい」。黒絵が「いや、そんなことは」と返しつつ「南くんも素敵だぞ」と言い、新汰が「マジか、よかった」と喜び、黒絵が「い、いやもう素敵すぎて」と重ねたところで尻尾が出かける。「ちょっと帯がズレただけだ」とごまかしながら、心の中では「浴衣じゃ尻尾隠せないぞ」「落ち着け私」と必死である。褒め合うだけで存亡の危機になるカップルは、そうそういない。
この作品の見どころは、恋の高揚がそのまま物理的な危険になるところだ。浴衣は隠せる面積が少ないぶん、いつもより条件が悪い。デートの服装がリスク計算に直結しているのが、怪獣ものの恋愛としてきちんと機能していて面白かった。
穴場は満員で、はぐれて、充電も切れる
新汰の用意していた切り札が「いい穴場見つけたんだ」だった。「めったに人が来ない場所でさ、二人で静かに見れると思うよ」という説明に、黒絵が「恐ろしいな」「怖いなー、怖いなー、大丈夫かなー」と震え出し、新汰が「そんな変な場所じゃないから安心して」となだめる前振りまで完璧だったのだが、着いてみたら普通に人でいっぱいだった。
しかもそこで「え、やば! 怪獣王子じゃん!」と見つかってしまい、その場を離れるはめになる。残ったのは人混みの真ん中で、花火はもうすぐ始まる。「ここからじゃよく見えないだろうし」と焦る新汰に、黒絵が「もし花火が見えなくても、南くんと一緒なことが嬉しいから」と言う。そのすぐあとに二人ははぐれ、追い打ちのように黒絵のスマホの充電が切れる。
人混みに紛れる作戦、穴場の確保、浴衣の準備。積み上げてきたものが一つずつ外れていく組み立てが容赦ない。一人にされた黒絵が「南くん、どこ?」「全然見つからないし」とつぶやいて感情が振り切れるところまで、きれいに一本道になっていた。
「狙われた新汰」まとめと考察
この道50年の意地
ハルゴンが現れて、当然ながら会場は騒然となる。ところがこの回で一番かっこいいのは、逃げなかった大人たちのほうだった。「避難しないとまずいっすよ!」と言われた花火職人の親方が、「上げろ! 俺はこの道50年だぞ。ぽっと出の怪獣なんかに負けてられっかよ!」と怒鳴り返すのだ。「親方!」「もういっちょ!」「一生ついていきます!」と若い衆まで盛り上がってしまう。
その理由が「この日を楽しみにしている人たちもいるから」であるところが効いている。そしてその言葉は、そのまま怪獣にも刺さる。何日も前から楽しみにしていたのは、ほかならぬ黒絵だからだ。巨大化したまま彼女が言うのは謝罪だった。「ごめんなさい。この日を楽しみにしていた皆さん。ちゃんとおとなしくしています。もう叫びません。絶対に暴れません。花火を見てもいいですか?」。
怪獣が観客に許可を求める場面というのは、なかなか見られるものではない。しかも許しを乞う相手が、自分と同じように今日を待っていた人たちなのだ。第6話で「私もいつかこの姿を可愛いと思えるかな」と言った人が、その姿のまま人の輪に加わろうとしている。怪獣化を隠すべき失敗としてしか描かないなら、この場面は書けない。
手のひらの上から見た花火
はぐれてしまった新汰も、あきらめてはいなかった。「好きな子がさ、せっかくオシャレして来てくれたのに、俺、失敗しちゃって。今も一人にさせちゃってる」「見てるかな? 赤石さん」と独りごちてから、「お待たせ。こんなのしかなかったけど」と手土産を持って戻ってくる。そしてハルゴンの手のひらの上に乗り、二人で花火を見る。理由は「どんな場所でも一緒なら嬉しいって、言ってくれたから」。はぐれる直前に黒絵が言った言葉を、そのまま実行してみせたわけだ。
翌日の会話も良かった。「ハルゴン出てびっくりしたけど、花火見れてよかったね」と言う新汰に、黒絵が「ハルゴン、喜んでくれたかな?」ととぼけ、新汰は「転んだって言ってたのは心配だけど」「赤石さんって、ちょっと無防備すぎ」と返す。正体はまだバレていない。ただ、彼が好きだと言い続けている相手と、彼が手のひらに乗せた相手は、この回でとうとう同じ夜を共有している。
そして最後、待ち構えていたのは真夏だった。「お待ちしておりましたわ。南くん。お座りになって」。ハルゴンを誰よりも愛している彼女が、怪獣王子と呼ばれる男を呼び出したところで話は切れる。作戦は全部失敗したのに、見たかった花火だけは見られた回。その締めくくりに、一番厄介な人が笑顔で座っているというのがうまい。次回のスイーツはトロピカルフルーツだそうだが、その前に片づけないといけない話がありそうだ。




関連作品:











コメント