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第7幕の公式サブタイトルは「表の世界と裏の世界」。ところが公式サイトのあらすじは、双子が変装して地下へ潜入し、そこがユニオンという結社の集会だった、というところまでしか書いていない。実際の第7幕は、その後に来る回想のほうが長い。そしてこの回は、デスマスクを作ってかぶる側と、デスマスクを剥がして名乗る側を、同じ集会の中に並べて見せている。




変装して忍び込んだ先で、もっと大掛かりな変装を見せられる
第7幕の公式サブタイトルは「表の世界と裏の世界」(※1)。この回に出てくる「表と裏」は、一つではない。三つある。
公式のあらすじは、前半でぴたりと止まっている
公式サイトのあらすじはこうだ。「ティゲルとリオンの双子は学生寮に侵入してきた不審者のデスマスクを作り、変装して本校舎の地下へと潜入する。地下広場には大勢の者たちが集まっており、その中にはエスリン、ボーレート両国の大物もいた。そこで双子の後を追って潜入していたエディソンと合流。不審者の正体は『ユニオン』と呼ばれる結社だった。」(※1)。
書いてあるのは潜入して、集会にたどり着いて、結社の名前が分かるところまでである。ところが実際の第7幕は、そこから先が長い。結社の教義、その頂点が誰なのか、そしてその人物がどうやってそこに立ったのかという回想が続く。公式が伏せているのは名前ではなく、この回の後半まるごとだった。
デスマスクをかぶる側と、デスマスクを剥がす側が同じ部屋にいる
効いているのはここである。双子がやっているのはデスマスクで、作中の説明では魔鉱石の粉末と粘土を混ぜ、顔の型を取って作る術式だという。侵入者を返り討ちにして型を取り、その顔で門を通る。面を作る時間はないのでフードをかぶってごまかすという、かなり手作りの潜入だった。
その手作りの変装で入った先で起きるのが、演説していた学長が、自分の顔をデスマスクごと剥がすという場面である。双子は顔を作ってかぶり、演説者は顔を剥がして名乗った。同じ回で、同じ道具が正反対の向きに使われている。集会の幹部たちが口にするのも「背景や声すら変えてしまうあの魔術」、そして「どうやって表と裏の顔を使い分けているのか」である。粘土で顔を作った二人が、顔ごと世界を切り替える相手を見物する構図になっている。副題が「表の顔と裏の顔」ではなく「表の世界と裏の世界」なのは、この回の三つ目、鏡の中にいるアリシアの話までを含んでいるからだ。
ついでに書いておくと、この作品で「世界」が副題に入るのは二度目である。一度目が第2幕「もう一つの世界」で、二度目が今回(※2)。一度目はもう一つ、二度目は表と裏。並列だったものが、上下のある関係として言い直されている。
第7幕「表の世界と裏の世界」で起きたこと(要点だけ)
本編で起きる順に並べるとこうなる。
- 双子が学生寮の侵入者を制圧し、デスマスクで顔の型を取って変装する。
- 本校舎は結界に守られ、招かれた者しか入れない。生徒が眠っているかの確認も行われている。
- 地下広場に到着。エスリンとボーレート、両国の大物が勢ぞろいしていた。
- 変装なしで潜り込んでいたエディソンと合流する。「ずっと見てたから」で変装を見抜かれている。
- 双子がユニオンの正体を説明する。魔術が大道芸の域を出ていない頃からある結社。
- 演説が始まる。黒い塔の出現と謎の結界で聖地は非常事態にある、という現状確認から入る。
- 教義の開示。聖典=「永遠の書」は神族史の源であり、勇者伝承はそこに記された神の言葉だという。
- 第二節「はじまりの町」の書は手中にある。残りも一つを除いて揃え、最後の一冊が黒い塔と共に現れたと語られる。
- 演説の途中で「私ももう正体を隠す必要は」と言い出し、そこで演説者の正体が明かされる。
- 回想。皇帝ベイスワーズが娘を訪ね、ローメインが別人のように変わったことを疑う。きっかけはドレル将軍との接触。
- 皇帝が鏡に思い当たる。ドレルの部屋にあった大きな鏡は、もともとミレアの部屋のものだった。
- さらに古い回想。母を亡くした四歳のミレアと、ドレルが皇帝に売り込んだときの約束。
- 集会の回想。十四歳のミレアが「私は裏の学長になる」と宣言する。
- アリシア側。鏡の世界のひび割れから赤い光が漏れていることに気づき、自分から飛び込む。
ユニオンが崇めているのは、勇者伝承ではなく書のほう
双子の説明が簡潔で分かりやすい。「まだ魔術が大道芸の域を出ていない頃からある結社だ」、目的は勇者伝承のおとぎ話に出てくる魔術の完全再現、「近代魔術の発展の陰には常にこいつらがいる」。そして「ユニオンにとっちゃ、国家間の争いも魔術の実験所」。戦争が実験場だと言い切っているので、危険度の説明としてはこれで足りている。
教義の中身が、この回で初めて開示される
演説のほうは、もっと踏み込んだことを言っている。力とはすなわち聖典であり、「我らが永遠の書と呼ぶ、神族史の源だ」。「神族はこの書と共に生まれたといっても過言ではない」、「いわば神族の領域」。そしてこの書に記されているのは、それを広げるための手段であり、それこそが勇者伝承であり、我らが従うべき神の言葉だという。
順番が逆になっているのが面白いところだ。この結社にとって、勇者伝承は目的ではなく、書に書かれた手段である。勇者を復活させたいのではなく、書に記された手段を全部そろえたいという組み立て方をしている。だから集める対象が伝承ではなく、節ごとに分かれた書そのものになる。
最後の一冊は、向こうから出てきた
開示される進捗が具体的だった。第二節「はじまりの町」の書はこうして私の手にある。残りの節の書も、一つを除いて全て揃えた。そして最も守りが固く、入手が困難だった最後の書が、黒い塔と共に現れたと語られる。
ここが第5幕とつながる。黒い塔を建てて望むものはここだ、取りに来いと挑発したのはクレン自身で、狙いは探すのが面倒だから餌で釣って出てこさせることだった。その挑発が、敵側の集会では「最後の一冊がついに姿を現した」という報告として扱われている。釣ったつもりの側と、釣られて喜んでいる側が、同じ出来事を正反対の朗報として受け取っていることになる。
双子の結論は、間違ってはいないが足りない
潜入した二人が出した見立てが「この学校にユニオンの息がかかっているのは予想してたが、それにしてもだ」、「ここの学長がどうやらユニオンのトップだってのは、マジで予想外だったぜ」である。ところが集会そのものが、その結論をすぐ更新してしまう。演説者は途中で「私ももう正体を隠す必要は」と言い出す。学長という肩書きのほうが、この結社では表向きの顔だった。
剥がれた下から出てくるのが、皇帝ベイスワーズの娘であり、かつて始まりの町と呼ばれていたこの土地の書の所有者だった司教アローザの末裔という肩書きで紹介される人物、ミレアである。結社の頂点は、学長ではなく理事長だった。双子が命がけで潜り込んで持ち帰れる情報が、集会に出ていた者にはその場でただで配られている。
ややこしいのは、この回が同時に「本物はどこにいるのか」という線も走らせていることだ。後述する皇帝の場面では、娘の部屋に踏み込んだところで「本物の学長は」という一言が出る。顔が一枚剥がれたところは見せておいて、その下がどうなっているのかはまだ見せない。視聴者に配られているのも、結局は途中までである。
皇帝は、娘を大賢者に育てる男を、自分の手で雇っている
この回でいちばん重いのが、後半の回想である。順番に見ると、話がきれいに一本につながる。
「まるで別人」は、比喩ではなかった
皇帝ベイスワーズが娘を訪ねてくる場面から始まる。用件は「ソルセインについて、理事長でもあるミレアに聞きたいことがある」。そのうえで独白するのが、ローメインへの疑いだった。エスリンの教区にいた頃は、信心深いただの司祭に見えた。変わったのは赴任してからか、それともドレル将軍と会うようになってからか。そして「まるで別人」。
この一言が、この回ではそのままの意味になる。別人のようだ、という感想ではなく、実際に中身が入れ替わっているという話だからだ。しかも皇帝は、そこに続けて「そして、時を同じくして、もう一人」と言う。同じ時期に変わった人間がもう一人いる、と自分で気づいている。その心当たりの先に、自分の娘がいる。
鏡が、部屋を移動している
決め手として置かれているのが鏡である。皇帝の連想は「ふと浮かんだんです。鏡の前に立つ自分」から始まり、「どうにも引っかかるワードだ」と続く。思い当たるのが、あの男も人を近づけない大きな鏡を部屋に置いていたこと。そして「あれはもともとミレアの部屋にあったはずのものだ」、「なぜ同じ鏡がドレルの部屋にあったのか」。
娘の部屋の鏡が、将軍の部屋にある。それだけで皇帝は動く。「ミレアは部屋か。寝ているなら叩き起こせ」と言い、「先ほどお顔を出されましたが、誰も部屋に入れるなと」という制止を「皇帝の命だ、どけい」で押し切る。そこで「本物の学長は」という一言が置かれて、この線はいったん切れる。父親のほうが先に答えにたどり着いているのに、視聴者はまだ何を見たのかを見せてもらえない。
ドレルが売り込んだ約束が、そのまま実行されている
さらに古い回想で、ドレルが謁見に現れる。十年も行方をくらませていた男が、「この国に忠誠を誓いたく、我が力、我が魔術の知識のすべてを買っていただきたい」と申し出る。皇帝が「それ次第で貴様を雇うか殺すかを決める」と返し、要求された報酬がただ一つ、魔道の探求の自由だった。
その先が、この回の芯である。皇帝が「貴様は勇者伝承のおとぎ話に出てくる大賢者になりたいということか」と聞くと、ドレルはこう答える。「残念ながら私ではなれません」「しかし、大賢者となるものを見つけ、育て上げることはできるでしょう」「これは確信しております」。皇帝は「面白い。ドレル、貴様を買ってやろう」と応じる。
皇帝は、自分の娘を大賢者に育てる男を、自分の手で雇ったことになる。しかも本人はその場で「ドレルの加入で軍もより強くなるだろう」「これからは魔術の時代だ」と満足している。直後に娘が「お父さん、これからは魔術の時代です」と、同じ言葉を返す場面が置かれる。父の口癖を娘がそのまま引き継いだ、という形で見せている。
母の遺言が、四歳の娘に届いていない
その手前に、もっと短い回想がある。母を亡くした直後のミレアはまだ四つで、「一日中ああしておられます」「何もないところをじっと見つめて、無表情になることがしばしばあった」と報告される。周囲はそれをアローザの血筋のせいだと説明していた。
母のほうが遺した言葉が「生まれてきてくれてありがとう」「ごめんなさい」で、皇帝の口から出るのは「勝手に飛び降りよって」である。そして「母などいなくとも、ミレアはしっかり育てあげてやるわ」「この皇帝ベイスワーズの娘なのだからな」と言い切る。この宣言と、大賢者を育てる男を雇う判断が、同じ人物から続けて出てくる。何もないところを見つめていた子どもが、のちに鏡の向こうを使う人物になる並べ方も含めて、回想の置き方がかなり意地悪だった。
「私は裏の学長になる」は、十四歳の本人が言った言葉
集会側の回想も、同じくらい効いている。
就任のあいさつが、乗っ取りの宣言になっている
幹部たちの雑談として語られるのが、「初めて我らの前に現れた時がもはや懐かしい」、「何しろ一対一の魔術(の)勝負で、当時の会長を圧倒してしまったのですから」、そして「それ以上に驚いたのは、あのお方が十四の時でしょう」である。結社の頂点は、決闘で取られている。
その回想の中身がこうだ。「ソルセインの主は私である」「今日、私は理事長に就任した」。そして「表向き、学校運営の決定権はあるが、魔道の完成を目指すのであれば、学長としての力も必要となるだろう」、「なので、私は裏の学長になる」。
副題の「裏」を、本人が最初に口に出している。しかもこれは比喩の言い回しではなく、職務の説明として言われている。理事長の権限では足りないから学長の力も要る、だから裏の学長も兼ねる、という手順の話だ。乗っ取りを、事務連絡の口調で宣言している。
幹部にも仕組みが分かっていない
面白いのは、結社の側もその魔術を理解していないことである。「背景や声すら変えてしまうあの魔術」、「我らの術の応用だとはおっしゃっていたが」、「いやはや、永遠の力は恐ろしい」。自分たちの術の応用だと言われているのに、応用のされ方が分からない。崇めている書の力を、崇めている側が使いこなせていない。
見ていた双子の反応が「やべえな」「超欲しいぜ、あの力」で、この二人はどこまでも一貫している。デスマスクという手作りの変装で入ってきた側が、本物を見て素直に欲しがっている。潜入の緊張感より、この感想のほうが二人の性格をよく説明していた。
アリシアは、裏の世界の「綻び」に自分から飛び込む
三つ目の表と裏が、鏡の中のアリシアである。ネズミの姿のままで、言葉は通訳を介してしか届かない。それでもこの回では、情報を出す側に回っている。
第5幕で一人で得た情報が、ここで共有される
通訳を介して伝えられるのが、鏡の魔術の仕組みだった。鏡の魔術で表と裏の世界を行き来できる。その魔術にとらわれると、表の姿は魔術となり、裏の世界から見るとすべてが朽ちたような醜い姿に見える。それは勇者伝承の試練に似ている。そこで生き残れば紋の力、スキルと呼ばれるものを獲得する。ただし、そこでの記憶は失う。そしてそれには北の魔獣王ヴォーデインが関わっているとも。
第5幕でアリシアが一人で受けて、記憶をなくすのは困ると言って紋を受け取らなかったあの試練が、ここでようやく味方の情報になる。一人で確かめたことを、一人で抱えずに済むところまで来たという進み方をしている。
回復していること自体が、手がかりになっている
推理の立て方が良かった。アリシアはこの裏の世界にはところどころひび割れがあり、そこから赤い光が漏れていると言う。「つまり、あれは綻びなんじゃないかと思う」「世界の綻び」、「きっと、まだここは完璧じゃないんだ」。
根拠が自分の体だというのが効いている。「そのせいかな、今はクレンの存在も少し感じるよ」、「だからだよな、砕けたはずの体も少し回復している」。第5幕の時点ではクレンと連絡が取れない今、傷の回復は見込めないという状態だった。その回復が起きていること自体が、世界に穴が開いている証拠になる。自分の不調と回復を観測装置に使っている。
「そういうところに飛び込めてこその勇者だろ」
そのうえで「私は今から、あのひび割れに飛び込む」と決める。止める側の言い分は「うまくたどりつけたとしても、君は一人で敵地のど真ん中に飛び込むことになるよ」で、アリシアも「たしかに、まったくそのとおりなんだが」と認めたうえで、「そういうところに飛び込めてこその勇者だろ」と返す。
良かったのはその次だ。「とか言って、あいつなら私を蹴落としたに違いない」、「考えたら笑けてきた」。勇者の定義を自分で言った直後に、その定義を茶化している。第5幕で一度たりとも勇者を辞めると命じたことはないと言われて世界が広がった人物が、今度は自分で勇者の定義を口にして、そのうえで笑っている。言葉をもらう側から、言葉を使う側に移っている。
飛び込む前に役割を振っていくのも、指揮官の動きだった。ガルトにはクレンへの伝言、ロッドには学長の追及。「たぶん本を持っているから、それを煮るなり焼くなりしてくれ」という言い方に対して、「きっと、焼いたくらいでどうにかなる本じゃないがな」と返されるのも、集会側で語られた書の格を知ったあとだと効いてくる。
まとめと次回予想:表と裏が、まだ一度も出会っていない
この回は、三つの線を並べただけで終わっている。双子とエディソンは集会を見ているだけ、皇帝は答えの手前まで来て切れ、アリシアは飛び込んだところで終わる。誰も、まだ相手に届いていない。
脚本は第1幕からずっと一人で書いている
制作面で一つ書いておくと、脚本は第1幕から第7幕まですべて小柳啓伍である(※1)。分担がまったく無い。第7幕は絵コンテが浅井義之、演出が宮崎修治で、総作画監督は佐古宗一郎(※1)。回想を三つ重ねて時系列を行き来する構成は、書いている人が一人だから成立する組み立て方ではある。
次回予想:先に届くのは、たぶん皇帝の線
予想として書けるのはここまでだ。三つの線のうち、いちばん先に答えを持っているのは皇帝である。鏡の移動に気づき、娘の部屋に踏み込むところまで進んでいて、「本物の学長は」という一言まで出ている。ここが開けば、双子が仕入れた情報より早く核心に届く。
アリシアのほうは、ひび割れの先に秘密の部屋があるという読みを自分で立てている。第5幕で一瞬だけ見えた赤い世界を、今度は自分の足で確かめに行く形だ。敵地のど真ん中に一人という条件は変わっていないが、体が回復し始めているという事実だけが味方になっている。どこで表と裏がつながるのかが、次に見るところになる。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト STORY 第7幕「表の世界と裏の世界」(あらすじ・脚本・絵コンテ・演出・作画監督)/clevatess.com
※2 dアニメストア 作品ページ(各幕のサブタイトル一覧)/animestore.docomo.ne.jp




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