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第8話の公式サブタイトルは「ニャーたちも師走は走るにゃ」。誕生日から正月までを一本で走り抜ける回だが、いちばん効いているのは、大家の餅つきループより手前にある。前半で仲間全員をけなしていた人が、サンタへの手紙の裏面に何を書いたのか。そして大家の脱出方法は、実は公式サイトのあらすじが餅つきの動詞に置き換えて予告していた。




第8話「ニャーたちも師走は走るにゃ」で起きたこと(要点だけ)
公式サブタイトルは第8話「ニャーたちも師走は走るにゃ」(※1)。誕生日から正月まで、短い場面をいくつも重ねて季節を丸ごと一つ進める回なので、まず起きたことだけ並べておく。
- 十一月十一日はヤニねこの誕生日。妹子たちがサプライズパーティーを計画し、「誕生日おめでとうにゃ」の予行練習までしていた
- ところが本人への連絡が誰からも行っておらず、主役だけが会場に現れない
- 妹子が用意したプレゼントは、姉の毛を使って作った「お姉ちゃんぬいぐるみ」
- カンサイねこの弟・シュンランがハメねこと組んで「彼氏」と名乗り、大学の飲み会をひっかき回す
- 大学でのカンサイねこは「西さん」で通っている。慕っている後輩の前で、乱入してきたヤニねこに素性をばらされる
- 漫画家の部屋では、一年前に締め切りを助けた後輩と「今年ももう終わり」という話になる
- クリスマス。ヤニねこがサンタに宛てた手紙は、裏にもう一行ある
- 年が明け、大家はアパート恒例の正月餅つきの日を何度も繰り返すループに閉じ込められる
- ループでは毎回、誰かがタバコがらみで死ぬ。回数表示は18回、36回、88回と飛ぶ
- 大家は88回目に、誰も臼に近づかせずに餅つきを完結させるという方法でループを抜ける
- 正月のカンサイねこの実家では、淡路島バーガーを食べに行くはずが渋滞で引き返す
一話で、十一月から正月まで走り抜ける
サブタイトルにある「師走」は十二月のことなのに、話が始まるのは十一月十一日の誕生日だ。そこからクリスマス、雪の日、忘年会、そして正月の餅つきまでが一本に詰まっている。第6話が「ニャーの夏が始まって終わるにゃ」、第7話の締めが換毛期のブラッシングだったことを思い出すと、この作品の季節は、視聴者が見ている現実の季節より半年ぶん先を走っている。夏に始まった放送が、八本目でもう年を越してしまった。
誕生日の予行練習に、主役だけが呼ばれていない
プレゼントは、前回のオチから作られている
冒頭は「誕生日おめでとうにゃ」の唱和から始まる。ただしこれは本番ではなく予行練習で、「よっしゃ、予行練習はこんなもんでええやろ」で締められる。十一月十一日という日付に「ワンワンワンで犬の日やろ」と茶々が入り、「その頃ちょうど修羅場だわ」「その日はどうしても外せない用があるんだ」と、来られない者の欠席連絡まで済ませてある。段取りは完璧なのに、本人にだけ声がかかっていない。
妹子が用意したプレゼントは「お姉ちゃんぬいぐるみ」。姉の毛を材料にしたので「こんなにそっくりに作れます」という理屈だ。ここは前回を見ていた人だけが分かる仕掛けになっている。第7話の締めは換毛期のブラッシングで、山になった抜け毛を前にした「これ、もう一人ヤニねこちゃん作れるんじゃない?」が最後の一言だった。その冗談を、妹が本当に作って持ってきている。
そのすぐあとに、全員がこき下ろされる
パーティーの段取りを見せたあと、提供のアイキャッチでヤニねこ本人が「今日はニャーの周りにいるやつらを紹介するにゃ」と語り出す。内容がひどい。ヤクねこは「しょっちゅう仕事クビになってるにゃ」「昔なんかやったにゃ」、ハメねこは「人が変わってこえーにゃ」、カンサイねこは「本当につまんないやつにゃ」「関西人の面汚しにゃ」、アルねこは「酒ばっか飲んでる」「シラフの時がねえにゃ」。妹子だけが「このかわいい子が妹ちゃんにゃ」で済んでいる。自分のために集まってくれた面々を、本人は全員けなしている。この落差は後半でもう一度効いてくる。
大学での彼女は「西さん」で通っている
幹事をやる、卒論を終えた四年生
公式のキャラクター紹介には、全員の本名が書いてある(※2)。カンサイねこの本名は西 薫子。だからアパートで「関西」と呼ばれている人物が、大学では「ニシちゃん」「ニシさん」「カオルっち」と呼ばれる。第8話は、その大学側の生活をまとめて見せる初めての回だ。
飲み会の場面で、後輩が「ニシちゃんには私がお酌するんだから」と割り込んでくる。外で酔いを冷ましているところに追いかけてきた後輩は、「私なんかとは違って」「幹事とか私、絶対できないですもん」「人と喋るの得意じゃないし」と自分を下げ続ける。対する返事が「幹事はたまたまですよ。卒論終わったんで」。卒論が終わっているということは、彼女は四年生だ。アパートでは笑いを取ることしか考えていない人が、外では幹事をやり、後輩から手の届かない先輩として見られている。
丸焦げで乱入したヤニねこが、全部ばらす
その空気を壊すのがヤニねこだ。「焚き火してたら全身燃えたにゃ」と丸焦げで現れて「誰か捕まえて」と騒がれ、「生きとんねん、お前」「戦争してたんか」と突っ込まれる。そして後輩に向かって「こいつ、ニシじゃなくて関西人」と言い放ち、ついでに「ヤニくれにゃ」とたかる。「お前、黙ったれ」ではもう間に合わない。
ここで面白いのは、正体がばれても後輩が離れていかないことだ。むしろ距離が縮んで、近寄りがたかった先輩がただの人になったところから付き合いが始まる。この回のカンサイねこは、笑いを一度も取れていないのに好かれている。「みんな遠慮せんで笑ってええんやで」という公式紹介文の人物にとって、これは皮肉でもあり救いでもある。
サンタへの手紙は、裏にもう一行ある
表は冗談で書いてある
クリスマス。「こいつまだサンタ信じとるんか?」「どうせカート欲しいとか、そんなんちゃう?」と笑われながら開かれた手紙の表には、「サンタへ プレゼントは喫煙所をくれにゃ ヤニ子」と書いてある。すかさず「喫煙所関係なく、どこでも吸うギャルかい!」「あと靴下には大きすぎるわ!」と突っ込みが飛ぶ。ここまでは、いつものこの作品だ。
ところが「あ、裏にもまだ書いてますよ」で場が止まる。裏に書いてあるのは「みんなと日向ぼっこして吸いたいにゃ」。「こういうの自分、弱いんす」「ずるいやろ、こんなん」「いつもあんな適当なくせに、形になるもんですね」と、その場の全員が黙る。
口ではけなして、願いごとでは「みんなと」
前半のアイキャッチで、この人は全員を名指しでけなしていた。その同じ回で、一年に一度だけ本音を書く機会に選んだ言葉が「みんなと」だ。しかも欲しいものは喫煙所ではなく、喫煙所で誰かと一緒にいる時間のほうだと裏面が言っている。
第7話で大家がペンペンねこに「知らねえ仲じゃなし、もう家族みたいなもんじゃねえか。お前もみんなも」と言った台詞と、この裏面は同じことを別の角度から言っている。この作品は、いい話をいい話の顔で出してこない。手紙の表を冗談で埋めてからでないと、裏の一行を書かせてもらえない。
「あれから一年」と数える人たちの年末
一年前の助けが、今の居場所になっている
漫画家の部屋では、原稿を挟んで別の会話が進む。「あの時はほんと助かったよ」「確実に締め切り落としてたからね」という礼に対して、後輩は「おかげでこうしてプロの現場に遊びに来れるようになったんですから」と返す。そして「けど早いもんだね。あれから一年で、今年ももう終わりなんだから」「濃密な一年でした」。誕生日から始まった回が、ここで一年という単位を数え直している。
この後輩は、ヤニねこを「先輩」と呼んで慕う小説好きの子だ。第4話で唐突に現れ、第6話では創作の悩みを相談していた人物が、八本目でようやく「なぜこの子がここにいるのか」の説明を受け取っている。一年前に締め切りを助けた縁で、プロの現場に出入りできるようになった。たったそれだけの説明だが、それまで浮いていた立ち位置がこれで座る。
読んでいないのはお互いさま
会話は説教に転がる。「自分の好きなことで生計を立てる先生は憧れの存在です」「だからこそ、ヤニねこ先輩もアシスタントは」と後輩が言いかけたところで、ヤニねこが自分の雇い主の漫画を一度も読んでいないことが露見する。「一回読んで、キャラの髪色とか覚えてほしいんだけどね」「ダメですよ先輩。そういう意識の低さがクリエイターとして」。
そこへ返ってくるのが「おめえは、マンカスの漫画読んだのにゃ」だ。マンカスというのは、この漫画家の公式の愛称である(※2)。後輩は「当然読んでます」と即答するが、続く一言が「いいんだよ、無理しなくて」。説教していた側も読んでいなかったという一往復で場面が終わる。尊敬は本気だが、作品は読んでいない。この距離感は、たぶんこの作品でいちばん現実に近い。
餅つきループで死んでいるのは、毎回タバコがらみだ
厄除けの餅を説明した直後に
年が明けて、アパート恒例の正月餅つきが始まる。「俺がつき、お前は水を餅にかけてこねる係だ」という配置で、相方はヤニねこ。「報酬にタバコもらったんじゃないっすか?」と言われるほど機嫌がいい。
一周目。高速餅つきの最中にヤニねこが姿を消し、「知らん、逃げたんちゃうの?」で片付けられる。そのまま型取りに移り、「よもぎは魔除けの意味合いがあってな。縁起がいいんだ。厄除けっつってよ」という解説が入る。その直後に「なんかこの餅、ヤニねこの髪の色に似てない?」「餅がヤニ臭くなっちまう」「さあ、焼くとするか」。厄除けの説明をした口で、厄そのものを焼こうとしている。この並べ方は偶然ではないと思う。
一周ごとに、死因はタバコ
目が覚めた大家は「初夢じゃねえか、これ」「新年早々、縁起でもねえ」で片付ける。ところが同じ朝が来る。二周目に聞こえてくるのは「タバコの誤飲ですって」「あら、まだ若いのに」「何でも餅つきの最中にタバコが混じって」という近所の噂話だ。
そこで独白が入る。「俺は、ループしている」「理由はわからんが、俺はこの餅つきの日を繰り返している。そして、決まって誰かが死を迎え、また同じ朝がやってくる」。一周目はヤニねこが餅に混ざり、二周目は誰かがタバコを誤飲する。死因が毎回タバコがらみで、しかも臼のまわりで起きている。そして画面には、繰り返した回数が数字で出る。18回、36回、そして88回の三枚だけだ。この独白が入るのが36回目なので、「決まって誰かが死を迎え」と言った時点で、この人はもう三十六回ぶんそれを見ていることになる。そして脱出が88回目。つまりここから五十回以上、方法を探し続けている。その五十回は一枚も映らない。大家がこの日から出られない原因は、厄除けの餅ではなく、餅をつきに来る住人たちのほうにある。
大家の脱出法は、公式サイトのあらすじが予告していた
臼に近づけないほどのインパクトを与える
大家が出した結論は、住人を臼に近づけないことだった。「ループから脱出する方法はわからん。けど、誰も死ぬことなく、この餅つきを平和に終えられれば」から、「これまでいつも、あいつらが臼に近づくと命に関わるトラブルが起きた。ならば、近づけないほどのインパクトを与えるまで」へ。そして88回目に実行される。
ここで公式サイトのあらすじを読み返すと、面白いことになっている(※1)。第8話の紹介文は「円環の理に抗って運命を変えるため――立ち上がれ、大家! 振り回せ、大家! たたきつけろ、大家! ナニがなんでも――!」と書かれている。立ち上がる、振り回す、たたきつける。三つとも杵の動作の言葉だ。そして最後のカタカナも、放送を見たあとだと言葉どおりの意味になる。大家は下半身を出したまま杵を振り、ついた餅を住人の口へ順番に投げ込んでいく。受け取ったのはヤニねこを除く四人だ。放送前にこの紹介文を読んで意味が分かった人は、たぶん一人もいない。
餅つきをやめたのではなく、一人で全部やった
ここが第8話でいちばんよくできているところだと思う。この人が選んだのは、餅つきの中止ではない。誰も臼に近づかなくても餅つきが終わる形に、工程のほうを作り替えたのだ。つく人がいて、こねる人がいて、型を取る人がいて、焼く人がいるから、誰かが臼のそばに立つことになる。その全部を自分ひとりで引き受けて、最後の配りかたを投擲にしてしまえば、住人は一歩も動かなくていい。
餅を受け取らなかったのがヤニねこだけ、というのも理屈が通っている。この人は毎回「俺がつき、お前は水を餅にかけてこねる係だ」で指名される相方で、はじめから臼のそばにいる。遠ざける対象のリストに、そもそも入っていない。
ループの死因は毎回タバコがらみで、しかも全部臼のまわりで起きていた。つまり問題は餅ではなく動線だったということになる。88回かけてこの人が突き止めたのは、そういう身も蓋もない結論だ。そして正月の恒例行事は、その日ちゃんと成立している。
通報したのは、前回この人が家に入れた相手だった
結果として飛んでくるのが「大谷さんですね。通報がありまして、署まで同行願います」。公式のキャラクター紹介によれば、大家の本名は大谷おう也、四十五歳(※2)。本編では第1話からずっと「大家」としか呼ばれてこなかった人物だ。その人が名前で呼ばれるのが、よりによって連行される瞬間だという。
そして通報したのはペンペンねこだった。第6話で河原にテントを張り、「社会的価値観に縛られてはいけないよ」「全てを捨て自然と共に生きるからこそ見えるものがあるのさ」と無欲を説いていた人物である。第7話では台風でテントを流され、大家に「知らねえ仲じゃなし、もう家族みたいなもんじゃねえか。お前もみんなも」「アパートの一角ぐらい、いくらでも貸してやるから」と言われて迎え入れられたばかりだ。
無欲を説いていた側が社会の側に付き、家族だと言った側が連れていかれる。第6話は無欲を語った直後にテントが流され、第7話はいい話をした直後に生理現象で落とされた。この作品はいい話を気持ちよく終わらせない型を毎回やっているが、第8話は落とす役を、前回いい話をしてもらった本人に振っている。
第3話でキャベツ畑を食い尽くされ、第7話で家族みたいなもんじゃねえかと言った人が、その家族を全員生かすために、自分の社会的な立場のほうを差し出している。笑わせにきている場面なのに、選択の中身だけを取り出すと、この回でいちばん筋が通っているのがこの人だ。
まとめ|同じ正月を、ループと渋滞で潰している
淡路島バーガーは、結局その家で焼かれる
大家の正月と並べて置かれるのが、カンサイねこの実家の正月だ。「今日は淡路島バーガー食いに行くでー」と言い出したのは本人なのに、道は渋滞で動かず、「もう進まへんし、腹減ったし。帰るで」「帰るんかい」で撤収する。帰った先で出てくるのが「お手製 淡路島バーガー」で、感想が「やっぱり家が一番やな」。「出かけよう言うとったんはあんたや」と刺されて終わる。
大家は同じ朝を何度繰り返しても先へ進めず、カンサイねこ一家は渋滞で一メートルも進めない。この回の正月は、二か所とも「進まない」で出来ている。そして両方とも、前へ進むのをやめた瞬間に片がつく。片方は引き返して家で焼き、もう片方は餅つきそのものを成立させないことでループを抜ける。並べ方が上手い。
ついでに、母親の「カオルコ、年末年始で太ったんとちゃう?」と、弟の「姉ちゃんも、あのアパート住んでからおふくろに似てきたよな」で、この人が誰に似て育ったのかまで説明が済んでいる。「まあ兄弟つっても腹違いだけどな」という重い一言が笑いのテンポの中にさらっと置かれるのも、この作品らしい。
脚本は、八本とも同じ人が書いている
公式サイトのあらすじページには各話のスタッフが載っている(※1)。並べてみると、第1話から第8話まで、脚本はすべて あおしまたかし さんだ。分業がふつうの深夜アニメで、八本続けて一人というのは珍しい。誕生日、大学の飲み会、クリスマス、年末、餅つきループ、実家の正月と、毛色の違う短編がひとつの回に同居していても崩れないのは、たぶんここが効いている。
一方で絵コンテは回ごとに替わっていて、第8話は絵コンテが夏野桃子さん、演出が山田紡さん。この二人は、どちらもこのシリーズで初登板だ。同じ朝を繰り返して少しずつ画を変えるという、この作品でいちばん構成に手のかかる回を、初めて参加する二人が担当していることになる。総作画監督は第2話以降ずっと松浦力さんと能海知佳さんの二人体制で、第1話だけが松浦さん単独だった。
最後にサブタイトルの型を一つ。この作品の各話タイトルは八本すべて「ニャー」で始まって「にゃ」で終わるのだが、複数形の「ニャーたち」になるのは第5話「ニャーたち秘境に行くにゃ」と、今回の第8話だけだ。第5話は四人で秘境へ出かける回、第8話は住人ほぼ全員に出番が回る回。主語が「ニャー」から「ニャーたち」に変わる回は、ヤニねこ以外の人生が映る回になっている、という読み方ができる。サンタへの手紙の裏に「みんなと」と書いてあった回が「ニャーたち」なのは、出来すぎているくらいだ。
出典
※1 TVアニメ『ヤニねこ』公式サイト STORY(第8話「ニャーたちも師走は走るにゃ」あらすじ・各話スタッフ)yanineko-anime.com
※2 同 公式サイト CHARACTER(西 薫子/大谷おう也/佐藤ヤニ子ほか、登場人物の本名・年齢・愛称)yanineko-anime.com




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