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第8話は、この作品がはじめて「カムイが押し切れない回」を出してきた話である。公式は放送前のキャスト告知で、第8話に出る怪異の名前だけを「???」で伏せていた。依頼の嘘がどこで割れたのか、なぜ二体ぶん伏せる必要があったのか、そして三話に一度だけ回ってくる制作班のことまで、順番に見ていく。




公式が、第8話だけ怪異の名前を「???」で伏せている
副題は「サキュバス」なのに、キャスト表にサキュバスがいない
この作品の公式サイトは、放送の一〜二日前にニュースを出し、そこに「▼第N話の怪異」という欄を立てて、その回に出る怪異とキャストを並べている(※2)。毎回きちんと名前が入っている欄だ。
ところが第8話の欄はこうなっている。「???:CV.桔梗/???:CV.石上静香/閻魔大王:CV.井口裕香 他」。副題では「サキュバス」と言い切っているのに、キャスト欄のほうはどれがサキュバスなのかを書いていない。
第1話から第7話までは、全部名前が出ていた
並べてみると異常さが分かる。第1話=メリーさん/テケテケ、第2話=コックリさん、第3話=隙間女、第4話=口裂け女/ろくろ首、第5話=化け猫、第6話=峠の霊/ジェットババア。第7話にいたっては、六校ぶんの花子さんを学校名つきで六人ぶん並べている(※2)。
つまり名前を伏せたのは第8話がはじめてだ。しかも伏せられているのは二体。事務所を訪ねてきたのが誰なのかを、公式の側が守っていることになる。
名前が出ているのは閻魔大王だけ
逆に言えば、閻魔大王は最初から隠されていない。地獄が出ること自体は、公式にとって伏せるべき秘密ではなかったわけだ。この非対称は覚えておいてほしい。後半でもう一度効いてくる。
依頼が嘘だと割れるのは、夫の話のところ
訴えの中身
依頼人は、自分の意思とは関係なく男につきまとわれて困っている、と訴える。この呪いのせいで夫も家を出て行ってしまった、娘のためにもどうか、と。「あなたの噂を聞いて日本へ来た甲斐あります」という言葉まで添えられる。筋の通った、同情を引く依頼である。
「淫魔憑きなら夫も魅了される」
カムイが引っかかったのは一点だけだった。「夫の話でボロが出たからな」。憑いているものの性質からすれば、「淫魔憑きなら夫も魅了される。家を出て行くなんてことはしないはずだ」。
ここがこの回のいちばん頭のいいところだと思う。嘘を暴いたのは霊視ではなく、話の辻褄なのだ。被害の訴えが、加害しているものの性質と噛み合っていない。怪異の設定を知り尽くしている人間だけが気づける矛盾で、この作品の主人公が本当に凄腕なのは、こういう場面である。
娘は何のために連れてこられたのか
続けてカムイは、あの子供は人間を油断させるためにどこかからさらってきたのかと問う。返ってきたのは「そんなのどうだっていいでしょ」。つまり娘は依頼を本物に見せるための小道具で、母娘という関係そのものが最初から嘘だった。
そう分かってから振り返ると、シヅカが「娘の相手をしてろ」と応接室へ追い出されたのは、体よく遠ざけられただけの扱いに見えて、この回でいちばん実のある仕事になっている。お市が人形として遊び相手を務めていたのも同じだ。
シヅカが応接室へ回されたとき、カムイは「あいつがいい遊び相手になるから大丈夫だろ」と言っている。あいつ、というのは付喪神のお市のことだ。人形が子供の相手をするのは、この作品ではただの冗談ではない。第5話でお市は少女に拾われて遊び相手を務め、「うちらはな、遊ばれてるうちが花なんや」と言っていた。どこからさらわれてきたか分からない子供の隣に、その台詞を持っている人形が座っているという配置になる。
ドライアドは出てくるが、犯人ではない
ギリシャ神話の木の精霊
葉と花が舞ったところで、いつもの解説ナレーションが入る。ドライアド。ギリシャ神話に登場する、緑色の髪を持つ女性の姿をした木の精霊。美しい男性を誘惑し、木の中へ引きずり込んでしまうと言われている。
この作品は毎回、怪異の由来をこの調子で説明してから片づけていく。メリーさんもコックリさんも隙間女も同じ形式だった。ところが今回は、その解説がそのまま外れる。
「だが解せんな」のひとこと
カムイはこう続ける。「だが解せんな」「ドライアドは面食いで、男を選り好みするはず。あんな無差別に男を誘い寄せることはしないはず」。目の前で起きていることが、その怪異の設定と合わない。
第7話でお市が「噂の数だけ出現パターンも姿形も異なる花子さんがいる」と説明していたのと、考え方はまったく同じだ。怪異には仕様があり、仕様から外れた振る舞いは別のものが混ざっている証拠になる。この作品の除霊は、見た目の派手さのわりに、いつも理屈で動いている。
本命は、正気を喰らうほうだった
案の定、木の精霊は本命ではなかった。人間の正気を喰らう情欲の悪魔が別にいて、木の精霊のほうも巻き込まれていた側だったことになる。公式のキャスト欄に「???」が二つ用意されていた理由は、たぶんここだ。副題で名前を出した一体のほかに、もう一体いることまで隠したかったのだろう。
なお視聴者の反応では、石上静香が演じたのがサキュバスだという見方で一致していた。もう一体(桔梗)がどちらなのかは、公式が伏せたままである。
シリーズではじめて、カムイが押し切られる
反応の第一声が「カムイさんが負けた!!」
放送直後の反応を並べると、第一声がこれだった。「8話に新展開 『カムイさんが負けた!!』」。七話ぶん、どんな怪異が来ても最後は押し切ってきた男が、はじめて押し切られる側に回る。
これまでの相手には、必ず弱点があった
思い返すと、この作品の怪異はどれも攻略法が用意されていた。口裂け女はポマード、化け猫は油、ジェットババアは「噂で生まれたから怪談の舞台となる道路を離れられない」という縛り。相手の由来を調べれば、必ずどこかに突けるところがあった。
今回の相手にはそれがない。というより、この作品がずっと武器にしてきた土俵の、向こう側の専門家である。得意分野で真正面からぶつかって負けるという、いちばん言い訳のきかない負け方をしている。
そして場面が、地獄に移る
負けたあと、画面はいきなり別の場所を映す。そこへ被さるのが、いつもの怪異解説とまったく同じ調子のナレーションだ。ここ、地獄。罪を犯した人間が死後に送られ、罰を受けるための世界。罪人はそこで様々な刑罰を受け、決して死ぬことのできない苦痛を永遠に受け続けると言われている。
毎回、怪異を一体ずつ辞書のように紹介してきた番組が、今度は地獄そのものを一体の怪異のように紹介する。手つきが同じだから、規模がひとつ上がったことがよく分かる。
地獄が、カムイを「未確認霊魂」として処理しはじめる
第7層、調査班、進路予測
ここからがこの回の白眉である。地獄の側は、起きている事態を役所の危機対応として扱う。「第7層に発生した未確認霊魂について、追加の報告は」「現場へ急行した調査班からはまだ何も」「映像きました」「進路予測の結果が来ました」。
報告・映像・進路予測と、順番がいちいち正しい。相手を怪物としてではなく、案件として処理しようとしているのがおかしい。最初は「大方、野良鬼でも見間違えたんだろう」と取り合わない上司まで揃っている。
逃げているのは、罰する側のほう
そして極めつけがこれだ。「現地の獄卒たちはみんな逃げ惑ってます」「なんで」——返ってきた説明が、最近は第7層まで落ちてくる極悪人も少なくなってきたから人間慣れしていなかったのだろう、というもの。上は「平和ボケか」と切って捨てる。
罰を与える側が、罰を受けに来た者から逃げている。視聴者からも「まずは鬼さん逃げて」という声が上がっていたが、この回の笑いどころは、負けたこと自体ではなく負けた先の世界のほうが困っているという構図にある。
閻魔大王の名前だけ、最初から出ていた
ここで冒頭の話に戻る。公式が伏せたのは事務所を訪ねてきた二体で、閻魔大王の名前は最初から出していた。つまり地獄行きは、隠すべき一発ネタのオチではなく、ここから先も使う舞台として告知されていると読める。
視聴者のあいだでも、エンディング映像を根拠に今回の相手がこのまま常連になるのではないかという見立てが出ていた。倒して終わりの一体ではなく、居座る側の一体。そう考えると、事務所に来た二体だけを伏せた告知の仕方にも辻褄が合う。
「必ず次の日には復活する」
もう一つ、視聴者が書き留めていた台詞がある。全ての力を使い果たしたとしても必ず次の日には復活する、という本人の宣言だ。これに「1日で復活すなっ」と突っ込みが入っていた。
笑いどころではあるのだが、負けた直後に本人だけが日程の話をしているのがこの主人公らしい。周囲は事務所でも地獄でも大騒ぎになっているのに、当人の中ではもう「明日には戻る予定」で処理されている。シリーズ初の黒星なのに悲壮感がまるでないのは、この温度差のおかげである。
三話に一度だけ回ってくる、少人数の班がある
第2話・第5話・第8話は、絵コンテも演出も作画監督も同じ
公式サイトの各話ページには、話ごとのスタッフが載っている(※1)。第8話は脚本・中條元史/絵コンテ・演出・小野田雄亮/作画監督・山本正嗣。これを第1話から並べ直すと、はっきりした周期が出てくる。
絵コンテ・演出が小野田雄亮、作画監督が山本正嗣という組み合わせは、第2話・第5話・第8話の三本だけ。きっちり三話おきである。ほかの回の作画監督は海外スタジオの名義や連名で、一人の名前だけが作画監督に立つのは、この三本しかない。
その三本は、一つの怪異をまるまる一話でやる回
そして中身も揃っている。第2話「コックリさん」、第5話「化け猫」、第8話「サキュバス」。いずれも副題が一つだけ、つまり一話まるごと一つの相手に使う回だ。ほかの回は「メリーさん/テケテケ」のような二本立てが基本になっている。
第5話は捨てられた人形が拾われて帰ってくる話で、この作品でいちばん情の出た回だった。腰を据えて一本やる回が、三話に一度この班に割り当てられているとすれば、シリーズ初の敗北がここに置かれたのも偶然ではないだろう。なお脚本は第1話から第8話まで全部、シリーズ構成の中條元史が書いている(※1)。
併映のミニアニメと、次回への予想
ミニアニメの並びが、今回はじめて崩れている
公式は各話を「本編+ミニアニメ劇場 そのN」と表記し、演目まで出している(※1)。一本目はずっと「スナックはざま」の連番。二本目は「デスゲーム」(第1・3・4・6話)と「メン地下アイドル」(第2・5・7話)が交互に来ていた。ところが第8話は「メン地下アイドル④」で、前回に続いて二回連続である。
ここで一つ、注意を置いておきたい。ミニアニメ劇場は「一部の配信サイトで配信中」とされていて、テレビ放送だけでは見られない(※1)。感想で見かける「スナック」や「メン地下アイドル」の話は本編ではないので、本編を追っているのに知らない場面が出てきた、という混乱はたいていこれが原因である。
版が三つあることも忘れずに
もう一つ、この作品には「映像差分」という項目が公式サイトに用意されている(※3)。オンエア版、デレギュラ版、完全デレギュラ版の三つが並び、「音声の規制有無は話数によって異なります」とまで書かれている。配信先も版によって分かれる。
何が起きたかで感想が割れやすい回ほど、見た版が違う可能性を先に疑ったほうがいい。今回のように結末が大きく動く話数では、とくにそうだ。
次回への予想と、シリーズの位置
ここからは予想になるが、次は戻ってくる話になるはずだ。閻魔大王の名前が最初から公表されている以上、地獄の側は一話で片づく背景ではなく、少なくとももう一話ぶんは向き合う相手として用意されていると考えるのが自然だろう。なお公式サイトの物語ページは第8話までしか公開されておらず、次回の副題はまだ出ていない。
最後にシリーズの位置も置いておく。原作はえろき(作画・コノシロしんこ)による小学館「マンガワン」連載の同名漫画で、アニメは監督・つくも匠、シリーズ構成・中條元史、アニメーション制作・ゼロジー×ZG-Rという座組み(※4)。怪異を一体ずつ辞書のように紹介しては片づけていく形式を七話続けたうえで、八話目でその形式の外側に主人公を放り出した、というのが今回の位置づけになる。
出典
※1 TVアニメ『うしろの正面カムイさん』公式サイト STORY(第8話「サキュバス」あらすじ・各話スタッフ・ミニアニメ劇場の演目)公式 STORY
※2 同 NEWS(各話の怪異・ゲストキャスト告知)公式 NEWS
※3 同 ON AIR(映像差分=オンエア版/デレギュラ版/完全デレギュラ版)公式 ON AIR
※4 同 STAFF&CAST(原作・監督・シリーズ構成・アニメーション制作)公式 STAFF&CAST




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