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『うちの弟どもがすみません』第11話「広島尾道湯けむり事件」で、成田糸は「何事もなく帰ってきてみせるよ」「成田の名にかけて」と誓って修学旅行に出る。布団の中の事故を、糸も源も「ただの兄弟」で片づけようとするが、最後に源は「俺って自分で思ってる以上に お前のこと好きなのかもな」と口にする。「これってなんだと思う」と聞かれた糸が返すのは「シスコン」。二人とも、気持ちの名前を家族の言葉でふさいでいる。




「好きなのかもな」に、糸は「シスコン」と返す
第11話のいちばん大きな出来事は布団の中の事故ですが、いちばん大事な台詞は、その翌晩に寝込んだ源の口から出ます。そして糸は、その台詞に家族の言葉で蓋をします。
源は、自分の気持ちに名前をつけられない
湯あたりで寝込んだ源のところへ、糸が様子を見に来ます。源の第一声が「今日は布団入ってこねえの」で、糸は「全然大丈夫そうじゃん」とあきれる。そこから源は、ゆっくり言葉を並べていきます。「お前が俺のことで頭いっぱいにして慌ててるとこ 見てて結構楽しいし」「なんでだろうな」「俺って自分で思ってる以上に お前のこと好きなのかもな」。
続けて理由を探すように、「姉ちゃんだけど同級生で喧嘩もするし」「たまに何するか分かんねえ時もあるけど」「お前がそばで笑ってるとなんか安心するし」と重ね、最後に「これってなんだと思う」と糸に聞きます。源は気持ちを言ったのではなく、気持ちの名前を糸に預けています。自分でつけられないから、相手に聞いているわけです。
糸がつけた名前は、家族の言葉だった
糸は「って言われても」と詰まったあと、源に何かして「何すんだよ 病人に」と言わせ、「元気にベラベラ喋ってんじゃん」と返します。そして「この」「シスコン」。
この言葉には前振りがあります。一日目の昼、二人きりで食事をしているときに、糸が「もしかしてうちらって人から見たらブラコンとか思われてたりして」と言い出し、源は「俺はブラコンじゃねえ」と否定して「お前の方が十分ブラコンだって」と言い返していました。一日目に源が突き返したブラコンが、最後にシスコンの形で源に返ってくる。糸は、源が差し出した気持ちに、きょうだいの言葉で名札をつけて返したことになります。
キスのことが、頭から吹き飛ぶ
そのあと糸は、キスのことが頭から吹き飛ぶようなことを言われた気がする、と振り返り、「盛り上がっちゃってるよ」と自分でも認めます。前の晩からずっと忘れようとしていた事故が、源の一言で上書きされたわけです。
糸は少し前に「そのうちかっこいい彼氏でも作るからさ」「そしたら上書きしてもらっちゃったりして」と強がっていました。上書きしたのは、未来の彼氏ではなく源本人だった。シスコンと返したのは、上書きされたことを認めたくない最後の抵抗にも見えました。
誓いは「成田の名にかけて」、結末は「幻だった」
修学旅行の始まりに、糸はひとつ誓いを立てています。公式サイトのあらすじが「成田家の秩序を守るため何事も起こさないことを誓う」と書くくだりです。
洛の軽い一言と、糸の重い覚悟
出発前、洛は「3泊4日の修学旅行か 楽しみだな」「二人の間に何か起こっちゃうかもな」とからかい、「いっそ起こしちゃったほうがよくない」「告白しちゃうとかさ」と軽く言います。それでも心配は本物で、「あのバカの距離感が狂ってるの分かってるでしょ」「この先ずっとあれに耐えていける」と続けました。
糸の返事は重い。「ありがとう心配してくれて」「私なら大丈夫だよ」「ルール破って勝手に好きになったのは私だから」「これ以上のことは望まないって覚悟もできてる」「何事もなく帰ってきてみせるよ」「成田の名にかけて」。家のルールを破ったのは自分だから、せめて旅行では何も起こさない。糸にとって、何事もないことは償いの形をしているように聞こえました。
「ただの兄弟」と言い張るのは、源のほう
観光中、声をかけてきた人に「カップルで楽しそう」と言われると、源は即座に「俺らただの兄弟なんで」と否定します。糸は「そうだけど そんなに強く言わなくてもさ」とこぼす。
一日目のこの場面では、兄弟という言葉を盾にするのは源のほうです。その盾を、最後の晩には糸が「シスコン」という形で使う。二人は同じ道具を、順番に持ち替えています。
謝る相手は、洛
締めくくりで糸は、「先に謝っとく」と洛に心の中で頭を下げ、「何事もない修学旅行なんて幻だった」と認めます。誓いの相手は成田の名で、謝る相手は洛。からかいながら本気で心配していた弟に、真っ先に謝っているところが糸らしいと思いました。
二人きりの時間は、源推しの友人たちが作った
糸の友人は遠藤リオと沢木萌音で、公式サイトのキャラクター紹介では、二人とも「糸の友人で源推し」、そして「推しは遠くから見守るタイプ」とされています。第11話の二人は、遠くから見守るどころではありませんでした。
見守るはずの推しが、段取りまでする
新幹線の中から、友人たちは「近頃すっかり丸くなったよね」「出会った頃は家のこと以外どうでもいいって子だったのに」「絶対糸ちゃんの存在がでかいよね」と盛り上がり、「義兄弟好きすぎるんだが」「この旅行でさらに絆を深めてほしいよね」とまで言っています。
広島城では、友人の一人が「私が一緒にいるから みんな他に行ってきなよ」と残り、もう一人は「ちょっと疲れちゃったみたい」「どこか静かに休めるとこ連れてって」と男子に付き添いを頼みます。残された源は「もう俺ら二人でとっとと行こうぜ」、糸は「2人きりだろうがなんぼのもんよ」。公式の紹介では遠くから見守る二人が、実際には二人きりの時間を段取りしている。見守る距離を、自分たちで縮めているのが可笑しいところです。
源の「どこでもついていくから」
二人になった源は、「どうせ俺らだけなんだし」「お前が行きたいとこ行けばいいじゃん」「どこでもついていくから」と言います。糸は心の中で「これは修学旅行なんだし」「一緒だから楽しいわけじゃないし」「セーフだし」と自分に言い聞かせる。
一日目の昼には、源は「旅行中くらいは家のことは忘れるから」「お前も忘れろよ」とも言っていました。糸は「源でもそんな風に言うことあるんだ」と意外がる。家のことを忘れると決めた源が、家の一員である糸には「どこでもついていく」と言っている。本人はその矛盾に気づいていません。
お土産の中に、糸の分だけがない
糸は家族やご近所の分までお土産を抱え込み、源に「重っ これ何なんだよ」と言われます。休憩で「膝くらい貸すから」「なんつって」とふざけた糸に、源は「じゃあ5分貸せ」と本当に横になる。そのあと源は、糸に小さな包みを渡します。「だってこんだけあるのに」「自分のものは買ってないだろ」「一つくらい自分だけの思い出 持っとけばいいと思っただけ」。
糸の心の声は「今日一日抱えきれないほど作れたってば」「こんなことされたら困るんだってば」。誰かのための荷物ばかり抱える糸に、源は自分のためのものを一つ持たせた。何事も起こさないと誓った糸にとって、いちばん困るのは事件より親切のほうでした。
布団の中の事件を「兄弟」で片づけるほど、忘れられなくなる
夜、友人たちは男子の部屋へ遊びに行き、トランプで盛り上がります。糸と源は「10連続でビリ争い」をして「お姉ちゃんの優しさで負けてあげてるんです」「強がってんじゃねえよ 最弱のくせによ」と張り合い、そこへ先生の見回りが来ました。
理性がはち切れる音
隠れ場所がなくなって、糸は源の布団に潜り込むことになります。源は「黙れよ」「バレたらめんどくさいだろ」とささやき、「下手に動くんじゃねえよ」「俺だって耐えてんだから お前も耐えろよ」と言う。糸の心の声は、源の心臓の音しか聞こえないと思った直後に「これは 私の理性が はち切れる音だ」と自分で訂正します。
先生をやり過ごしたのは男子の一人のとっさの嘘で、本人はあとで「ごめん 他に思いつかなくて」と謝っていました。そして、この布団の中で二人の唇が当たってしまいます。
「初めてが弟とか嫌だろ」
部屋に戻った源は「とにかく俺たちは何もなかった」「そういうことにするしかねえな」「妙な噂立てられてもあれだし」と言い、「お前だって初めてが弟とか嫌だろ」と続けます。糸は「なんで私が初めてって知ってんの」と噛みつき、「いや初めてだけど」「合ってるけどデリケートに扱ってくんないかな」。源は「悪い悪い」と返し、糸に「いやさらに軽い」と言われます。
源は同い年の糸に対して、自分のことを「弟」と呼んでいます。事故をなかったことにするために、源は自分を弟の位置に置いた。一日目の「俺らただの兄弟なんで」と同じ道具です。
「ただの兄弟だもんね」と、糸が自分に言い聞かせる
源のあっさりした態度を見て、糸は「口が当たったところで」「そんな大したことじゃなかったか」と受け取り、「私たちただの兄弟だもんね」「変に動揺する方がおかしいんだよね」と自分に言い聞かせます。そして「あの日私は何事もなく帰ると誓った」「源がそうするように 私も全力でなかったことにする」「忘れろ」「私は成田家長女」。
ここで糸が名乗るのは、名前ではなく肩書きです。成田家の長女という立場に戻れば、事故は家の外に置いておける。ただ、この作戦は翌朝にはもう崩れています。
リップと唇、そして宇宙の一部
二日目は、糸が忘れようとして失敗し続ける一日です。朝の糸は「運動すれば少しはすっきりするかと思ったけど」「結局朝まで眠れなかったし忘れられなかった」。源に「ひでえ顔だな」「昨夜は何してたんだ」と聞かれて「源には関係ない」と突っぱねたかと思えば、「リップあったけど使う」「乾燥ひどいって言ってたよね」と世話を焼いてしまう。源が使ったリップを見て、糸の頭はまた唇に戻ります。
そこからの糸の心の声が見事です。「唇が当たったからって何」「唇なんてただの顔の一部じゃん」「顔の一部は体の一部だし」「私たちは大地の一部であり」「宇宙の一部」。小さく扱おうとするほど話が大きくなり、最後は宇宙まで行ってしまう。忘れるための理屈が、逆に一晩の出来事を宇宙規模にしています。
忘れられない味
見かねた源は「思い詰めてばっかじゃもったいねえだろ」と気分転換に連れ出し、「少しは気分転換になったかよ」と聞きます。糸の返事は「おいしいです」「それはもう柔らかくて」「唇みたいに」「忘れられない味になりそうです」。源は「そうか よかったな」とだけ返しました。
糸は「こんなにも私が弱かったのか」「たった一つのキスも乗り越えられない」「弱々な姉だったのか」と落ち込みます。ここでも糸は自分を「姉」として責めている。家族の肩書きで事故を片づけようとしたぶん、片づけられない自分も家族の肩書きで裁いています。
「家のことは忘れる」と言った源が、湯の中で家のことを考えている
副題の「湯けむり」は、この二日目に起きます。男子の温泉では、我慢比べの果てに源が一人だけ湯から上がらず、「別にちょっと考え事したいだけ」と言います。友人たちに「俺らだってさすがに気がついてたよ」と言われ、「断じて俺じゃねえ」と否定しかけてから「まあでも やっぱり俺だろうな」と認める。
源の打ち明け話はこうです。「あいつが家で遠慮しないように 俺なりに普通っぽく兄弟やってきたつもりだったけど」「なんかそれが逆に困らせてるような気がして」「あいつとの距離感も急に分かんなくなってきたっていうか」。友人は「分かんないことあるならさ もう一個一個ぶつけてくしかないじゃん」と返し、その直後に源はのぼせて意識を飛ばします。
一日目に「旅行中くらいは家のことは忘れるから」と言ったのは源でした。その源が、湯の中でのぼせるまで家のことを考えていた。しかも考えていたのは、糸が家で遠慮しないように自分が選んだ「普通っぽい兄弟」という距離のことです。夜の告白めいた言葉は、この湯けむりの続きとして出てきます。
まとめ:副題の「事件」は二つあった
副題の「広島尾道湯けむり事件」は、旅情ものの推理ドラマのような言い回しです。一日目の夜、友人たちは「なんかこうドラマティックな事件とかなかった」と聞いていましたが、事件はそのあとに二つ起きました。
布団の事件と、湯けむりの事件
一つめは布団の中の事故で、糸と源はそれを「ただの兄弟」「弟」「成田家長女」という家族の言葉で片づけようとします。二つめは源が湯の中で考え込んでのぼせたことで、その晩に源は「お前のこと好きなのかもな」と口にし、糸は「シスコン」と返す。どちらの事件も、最後は家族の言葉で閉じられている。ただ、閉じたはずの蓋が、糸の「盛り上がっちゃってるよ」で内側から持ち上がっています。
尾道の場面では、実際の景色と見比べて看板まで描かれていると喜ぶ投稿もありました。旅先の風景がていねいに描かれているぶん、その中で起きた「事件」も、二人にとって忘れられない場所の記憶として残りそうです。
この先の見どころ(予想)
ここからは予想です。修学旅行はまだ終わっていません。糸がシスコンという言葉でふさいだ蓋を、源がどう受け取ったのかが気になります。温泉で友人に言われた「一個一個ぶつけてくしかない」を、源が本当に実行するのかどうか。何事もない修学旅行が幻だったと認めた糸が、残りの日程をどう過ごすのかにも注目したいところです。




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