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ついに迎えたウィンターカップ初戦。大喜からチケットを受け取った夢佳は、恋人の言葉にも背中を押され、試合会場にいた。千夏のプレーを目の当たりにした夢佳の中で、押し殺していたバスケへの想いがよみがえる。一方の大喜は、クリスマスの装飾をしながら、二人のわだかまりが解けることを願っていた。コートを見つめる夢佳、二人の幸せを願う大喜、そして涙で伝え合った本音まで、第30話を振り返る。




ウィンターカップ初戦
俺じゃダメなんです
『アオのハコ Season2』第30話「戻ってきたよ」は、前の話の続きから始まる。大喜は、苦労して手に入れた「ウィンターカップの 千夏先輩の試合のチケット」を、「夢佳さんにあげます」と差し出していた。「俺じゃダメなんです」、「バスケのことは夢佳さんじゃないと」。自分が千夏の試合を見たい気持ちよりも、千夏と夢佳のわだかまりがほどけることを優先する。大喜のまっすぐさがよく表れた選択だった。
夢佳の背中を押したのは、大喜だけではない。恋人からの「夢佳はバスケのこと好きなんじゃない?」という言葉も、彼女の中に残っていた。ずっと蓋をしてきた気持ちに、周りの人たちが少しずつ手を伸ばしてくれている。そうして夢佳は、ウィンターカップの会場へ足を運ぶことになる。
大喜にとって、千夏の大舞台を自分の目で見られないのは本当は悔しいはずだ。それでもチケットを譲ったのは、千夏にとって何がいちばん大切かを考えた結果だろう。好きな人の喜ぶ顔を、自分がいない場所で願えるところに、大喜の成長を感じた。
時間ってこんなに流れるの早かったっけ
試合が始まると、夢佳の目は自然と千夏のプレーを追っていく。「うまい」、「ディフェンスも硬いし」、「攻めのプレイができてる」。口をついて出る言葉は、観客というより、かつて同じコートに立っていた選手のものだった。
照明に照らされたコートで、千夏はシュートを放ち、ボールを奪い、相手のディフェンスを切り裂いていく。バスケの作画の迫力も見事で、試合の緊張感がそのまま画面から伝わってきた。ゴール横の席から見つめる夢佳の表情が、少しずつ変わっていくのが印象的だ。
試合を見終えた夢佳は、ふと気づく。「時間ってこんなに」、「流れるの 早かったっけ?」。「試合してるときは もっと1秒の密度が高くて」、「終わってから あっという間だったなって」。コートの外から見る試合と、コートの中で戦う試合。その時間の感じ方の違いに、夢佳は自分がプレーしていた頃の感覚を思い出していた。
そして「2年か」、「まだ」、「2年か」とつぶやく。バスケから離れてからの2年が、長かったのか、それともまだ取り戻せる時間なのか。その答えを探すような言い方に、押し殺していたバスケへの想いがよみがえりつつあるのが伝わってきた。
それぞれのクリスマスイブ
力不足のトナカイ
一方の大喜は、学校でクリスマスの装飾をしていた。頭に浮かぶのは「夢佳さん 行ってくれたかな」、「千夏先輩にも話したほうがよかったのかな」ということばかり。自分で決めたこととはいえ、結果が分からないまま待つ時間はもどかしい。
そこへ現れたのがトナカイの着ぐるみ姿の雛。「少しでもクリスマス感出そうって」、「新体操部は仮装してるんだよ」と、楽しげに装飾を手伝ってくれる。「こういうイベントは楽しんでいかないと」と、カラオケやプリクラ、特別に解禁したケーキまで、新体操部のクリスマスの予定を次々と挙げていく。
「別に彼氏いなくたって楽しめるんだから」という雛の言葉に、大喜は「あ、コメントしにくいんですが」と困り顔。明るく振る舞う雛の言葉の裏に、大喜への想いを知っていると少し切なくもなる。それでも、友達とのクリスマスを全力で楽しもうとする雛の前向きさは、とても雛らしかった。
一方、夢佳は恋人とイルミネーションの中を歩いていた。恋人らしき二人の姿や、家族とツリーを囲む姿もある。いろいろな場所で、それぞれのイブが静かに流れていく。群像劇として、登場人物一人ひとりの冬の一日を丁寧に切り取った構成が心地よい。
タンパク質が恋人
バドミントン部の男子たちも、部活の後にクリスマスの話で盛り上がる。「クリスマスをどう過ごすかって」、「何を大切にしてるか問われてる感じするよな」。「俺には部活しかない部活が一番大切なんだ」と強がったかと思えば、「俺だってデートしたかった」と本音が漏れ、「本音出てる」とすかさず突っ込まれる。男子高校生らしいやり取りに、思わず笑ってしまった。
話題は大喜にも向けられる。千夏と「少しでも一緒に過ごしたかったろうに」と言われても、大喜は「俺も別に彼氏ってわけじゃないし」と受け流す。そして「千夏先輩にはもっと大事なことがある」、「何を大切にしてるかってことなら 試合ってのは大正解じゃないですか」と言い切る。「願わくば」、「いいクリスマスイブになるといいな」、「夢佳さんにとっても」。自分のことより先に、千夏と夢佳の幸せを願う。この回の大喜の優しさが、もっともよく表れた言葉だった。
部活のクリスマス会では、あやめがクッキーを配り、そのあとは「ケンタッキーの代わりにサラダチキン」、「ケーキの代わりにプロテイン用意したからな」という筋トレ大会に。「俺たちタンパク質が恋人だろ」の一言には笑うしかない。それでも大喜は「二人のこと気になるけど」、「これ以上はうざいだろうし」、「せっかくのクリスマスイブだ」、「俺も楽しまないと」と、気持ちを切り替えようとしていた。
夢佳と千夏、本音の言葉
初戦突破おめでとう
試合後、会場の外で千夏は夢佳と顔を合わせる。「なんで ここにいるの?」と驚く千夏に、夢佳は「あのバドの1年生に チケットもらったの」と答える。そして「初戦突破おめでとう いい試合だったね」と、まっすぐに祝福の言葉を伝えた。
夢佳はさらに続ける。「ごめんね 前 サボってるみたいな言い方して」、「私の視野が狭いだけだった」。千夏を傷つけた言葉を、自分の口からきちんと謝る。素直になれなかった夢佳が、ようやく一歩を踏み出した瞬間だった。
千夏もまた、自分の非を口にする。「私もごめん」、「思ってること何も言わないの」、「私も同じだった」。夢佳に何も話してくれないと言っていた千夏自身も、本当の気持ちを伝えてこなかった。お互いさまだったと認め合うところから、二人の会話が始まっていく。
もっと一緒にバスケしたかった
そして千夏は、ずっと心の奥にしまっていた言葉を口にする。「私 夢佳と もっと一緒に バスケしたかったよ」。「バスケやめてほしくなかった」、「やめる前に 相談してほしかった」。いつも冷静な千夏が、涙をこぼしながら本音をぶつける姿に、こちらまで目頭が熱くなった。
泣いている千夏に戸惑う夢佳も、やがて同じ気持ちを打ち明ける。「じゃあ なんでやめちゃったの」と問われ、返した答えは「ごめん 寂しかった」。たくさんの言葉を重ねるのではなく、ただ一言。その短さに、夢佳が抱えてきた孤独の深さが詰まっていた。
二人そろって泣き出してしまい、お互いのせいにし合う姿に、「だってって あんたら子供か」という声が飛ぶ。ランドセルを背負って並んで走っていた小学生の頃と、何も変わっていない二人。泣き笑いの表情で向き合う姿に、ようやく二人の時間が動き出したのだと感じた。
何年もすれ違ってきた二人の関係が、たった数分の会話でほどけていく。けれどそれは、どちらもずっと相手のことを考え続けてきたからこそだろう。言葉にできなかった思いは、消えずにちゃんと残っていた。そのことが何よりうれしい。
好きは最強
夢佳の中で、父の言葉がよみがえる。好きは最強。「自分には」、「大切なものがあるという強さを持つ」、「最大の自己肯定」。前の話で語られた「好きは最強の感情」というテーマが、ここで夢佳自身の答えとして結実する。
子どもの頃、千夏と一緒にバスケをした日々。好きだから続けられた、純粋な時間。夢佳はその気持ちを、もう一度自分の中に取り戻した。そして父に向かって告げる。「戻ってきたよ」。副題にもなったこの一言は、バスケへの想いが夢佳の中に帰ってきたことを伝える、短くも温かい報告だった。
第29話で描かれた夢佳の過去を思い返すと、この一言の重みがいっそう増す。期待に応えようとして苦しみ、好きという気持ちに蓋をしてしまった夢佳。その蓋を開けたのは、千夏のプレーと、千夏の涙だった。好きは最強という父の言葉が、時間をかけてようやく夢佳の背中を押したのだと思う。
第30話のまとめ考察
ちょっと忘れ物を取りに
別れ際、夢佳は「あの子にチケットのお礼言っといて」、「なんだか苦労して手に入れたみたいだから」と千夏に頼む。仲間との食事の誘いを「私 用事あるから帰るね」と断った千夏は、家に戻るが大喜はまだ帰っていない。
千夏が向かったのは学校だった。「ちょっと忘れ物を取りに」と言う千夏は、そこで大喜がチケットを手に入れるために「松岡君と勝負して」いたことを知る。「あんなヘトヘトになるまで走って」、「そこまでしてチケットあげたいって」、「どんな友達だよって気になってたんだよ」。大喜が自分のために何をしてくれていたのかを、千夏は初めて知ったのだ。
大喜は、チケットを譲ったことを千夏に言わなかった。見返りを求めず、ただ二人のわだかまりが解けることだけを願っていた。その優しさが、本人の口からではなく、周りの何気ない会話から千夏に届く。この伝わり方がとても『アオのハコ』らしいと思う。
そして千夏は、クリスマスツリーの飾りつけをする大喜のもとへ向かう。雪の結晶に縁どられたような画面の中、扉の前に立つ千夏と、ツリーの前の大喜。赤らんだ千夏の表情からは、言葉にならない想いがあふれていた。
第30話は、夢佳と千夏が本音をぶつけ合い、二人の止まっていた時間がようやく動き出す回だった。その陰には、チケットを譲り、二人の幸せを願い続けた大喜の存在がある。誰かのために走ることができる大喜の優しさが、夢佳を会場へ導き、そして千夏の心を動かした。クリスマスイブの夜、千夏が大喜に何を伝えるのか。二人の関係にとっても特別な夜になりそうだ。
好きは最強という言葉は、夢佳にとってのバスケだけでなく、大喜にとっての千夏、千夏にとってのバスケにも重なる。それぞれが自分の「好き」を大切にしながら、誰かの「好き」も大切にしようとする。その優しい連鎖が、この回を特別なものにしていた。




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