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第28話のサブタイトルは「謎の怪盗デッチ・アゲイン」。ロンドンからの留学生ポールに届いたのは、ハートや花の模様が散りばめられた、これまでと様子の違う予告状だった。予告時刻も6時12分38秒という妙に細かい数字で、怪盗団ファントムの側でも「そんなもん、あんたしか送らないっしょ」と揉めている。誰かが名前を騙っている、という前提から始まる事件だった。




アメイジングな舞台の幕が開く
このデッチ・アゲインの完璧な演出で
第28話はアバンから新キャラクターの独白で始まる。「まことみらい市。まさかここに来ることになるとは」「待っててね、名探偵プリキュア」。そして名乗りが「このデッチ・アゲインの完璧な演出で、アメイジングな舞台の幕が開く」。
この一言だけで、キャラクターの設計が全部わかる。使う単語が演出、舞台、役者、幕で統一されていて、事件を起こすのではなく舞台を上演しにきたという立ち位置になっている。しかも名前がでっち上げとアゲインの掛け合わせなのだから、何をする相手なのかまで名乗りに入っていた。
折り返しで新キャラクター投入は定番、という指摘の通りだった。アバンで先に顔と目的を見せてしまうので、視聴者だけが最初から答えの半分を握っている。この構成が、後半の推理パートの見え方を変えてくる。
それ、二刀流だね
事務所ではくれあが新生活の報告をしていた。「店長に、これからは探偵もやるって伝えて、シフトを調整してもらったの」。パティシエと探偵の両立で、あんなたちの反応が「あ、それ二刀流だね」。二刀流というのは特技が二つあること、という説明まで丁寧に入る。
さらにくれあは、もらったばかりのプリキッドブックを見せて「真っ白なページを埋めて、早く二人みたいな名探偵になれるように努力するね」。第27話で自分は探偵ではなかったと明かした人が、今度は白紙から始めると宣言している。この「二刀流」という言葉が、回の最後にもう一度出てくるのがこの脚本の上手いところだった。
エンドカードがキュアエクレールの誕生日祝いだったのも良い。くれあの誕生日は8月10日で、放送のすぐ翌日にあたる。復活してからの数話で、この人はすっかり事務所の一員になった。
そんなもん、あんたしか送らないっしょ!
本日6時12分38秒に人形をいただく
そこへ依頼人が駆け込んでくる。取り乱して英語まじりに助けを求め、落ち着いてから「日本の大学に通うために、最近ロンドンから引っ越してきたんですよ」と自己紹介する留学生ポール。ロンドンと聞いた探偵側が張り切って英語で返してみせるものの、すぐに「でも英語はあまり得意じゃなくて」と白状するのが可笑しかった。
届いていたのが問題の予告状である。文面は「本日6時12分38秒に人形をいただく 怪盗団ファントム」。ところが紙面にはハートや花の模様が散りばめられていて、あんなたちは「この模様、もしかして暗号じゃない?」と食いつく。透かしてみたら場所を示すのでは、という推測まで出る。
狙われたのはポールの家に代々伝わるフランス人形だった。「先祖代々伝わる大切なものです。もし盗まれてしまったら…」という訴えに、「大丈夫ですよ、私たちが必ず守ってみせます」と請け合う。依頼人に同情した時点で、もう相手の舞台に乗っているのだが、この時点では誰も気づいていない。
誰かが怪盗団ファントムの名を騙っている
面白いのは、怪盗団の側も同じ予告状で揉めていたことだ。アゲセーヌが「予告状? そんなもん、あんたしか送らないっしょ! アルカナ・シャドウ!」と詰め寄り、るるかは「いいえ、私じゃない」と即答する。そこから導かれる結論が「つまり、誰かが怪盗団ファントムの名を騙っていると…」。
この場面には妙な小ネタが二つ入っていた。一つは「てか、あんたなんでそこ座ってんの?」という突っ込みで、「まあまあ、いいじゃねえか」と流されてしまう。誰がどこに座っているのかは台詞だけでは分からないのだが、ネットの反応がその答えを教えてくれる。
もう一つが、出ていくるるかに「俺も行くぞ! 一人じゃ不安だろ!」「おいおい、恥ずかしがるな! たまには頼ってくれてもいいんだぞ!」と声をかけたゴウエモンが、振り向いたときにはもう誰もいない、というやつだった。敵側の日常芝居が毎回きちんと面白いのが、この作品の強みだと思う。
その時刻じゃないといけない理由があるってこと?
6時12分38秒
調査の入り口になったのは、模様よりも時刻のほうだった。「模様もだけど、予告時間も不思議ね。6時12分38秒。普通は6時とか7時とか、ぴったりの時刻を予告すると思わない?」。そこから「その時刻じゃないといけない理由があるってこと?」と話が進む。
するとポールが思い出す。今日は6時に業者が来る。エアコンの修理、家具の配送、パソコンの配送の三人。予告時刻に部屋で作業をしている人間がいる、ということは「その三人が怪しい!」。きれいに筋の通った推理で、実際に三人ともやってくる。
今日の推理はレベルが低いという評もあったが、そう見えるのは推理の方向を最初から相手に決められていたからだ。模様と時刻という二つの派手な材料を渡され、探偵側はその二つの中だけで考えている。これを見破る側に回るのが、この回のくれあだった。
このままでいいの? 本当に守れるの?
三人を観察した結論が「三人とも怪しいところはないね」。予告の時刻は迫っているのに、模様の意味も時刻の意味も分からないまま手詰まりになる。「中途半端な時間の謎もだよ」という焦りだけが残った。
ここで揺れるのがくれあである。「このままでいいの? 本当に守れるの?」と自分に問い、そばにいたシュシュタンに礼を言って立て直す。「もう大丈夫。私の中のきらめきに従うの」。第27話で偽物を見抜いたときと同じ、この人の合図だった。
新幹部の参戦回でありながら、実際の主役は完全にくれあだった。デッチ・アゲインがアルカナ・シャドウの過去を知っていそうな素振りを見せるので、るるかの謎に踏み込む入り口としても機能している。
基本に立ち返る
本当なら初めに聞くべきことです
立ち直ったくれあが自分に確認するのが、探偵の基本だった。「探偵にとって大切なことは何?」「調査に行き詰まった時はどうする?」。答えが「基本に立ち返る」。
そして依頼人にこう切り出す。「改めて、予告状が届いた時のことを聞かせてください」。「今さらですか?」と怪訝な顔をされても引かず、「はい、本当なら初めに聞くべきことです。でも、変わった予告状に気を取られて、お聞きするのを忘れてしまいました」と、自分の抜けを正面から認めてやり直す。
今週も推理がキレッキレ、という評価がまさにここだった。派手なものに気を取られて基本を飛ばした、と自分で言えるのがこの人の強さである。そしてこの一手が、そのまま相手の設計の穴を突くことになる。
あの窓、開きませんよ
聞き直した内容は単純だった。予告状を見つけたのはいつか。今朝。どこで。ポールの答えが「あそこの窓から飛び込んできたんですよ」。ロンドンに比べれば日本の夏は暑い、エアコンも壊れているので窓を開けて涼んでいた、という説明つきである。
そこでくれあが返す。「なるほど。でもおかしいですね。あの窓、開きませんよ」。マンションの高層階では安全のために窓が開かない作りになっていることがある。実際その窓は一枚のガラスで、鍵もついていない。窓が開かないのに、そこから予告状が飛び込んでくることはありえない。
結論はこうだった。ではなぜ嘘をつくのか。「それはポールさん、あなたが予告状を書いた人だからです」。依頼人が犯人、という古典中の古典を、窓が開くか開かないかというたった一点で崩しているのが気持ちよかった。
公式が放送前から「癖をくすぐってくるキャラ性」と煽っていた通り、正体を現したデッチ・アゲインの第一声が「アメイジング!」「慣れない変装なんてするもんじゃないね」。そして「さすがだよ、帆羽くれあ」と、見破られたほうが拍手している。
でも嘘の中にも真実がある
はじめまして、名探偵プリキュアの諸君
名乗りは「俺はデッチ・アゲイン。はじめまして、名探偵プリキュアの諸君」。暗号の答え合わせもしてくれる。くれあの「あなたは模様を書くことで、私たちに暗号だと思い込ませた。そして、犯人である自分から目を逸らさせたんです」に対して、「その通りだよ」とあっさり認める。
そのうえで付け足すのが、この回でいちばん効いた台詞だった。「でも嘘の中にも真実がある。俺がロンドンから来たこと、そして、6時12分38秒に人形をいただくことだ!」。嘘の予告状の中で、時刻と出身地だけは本当だった。全部が嘘なら見抜けるが、本当を混ぜられると見抜けないという、実に嫌な作り方をしてくる。
ウソノワール直属の部下ではなさそう、という読みは当たっていた。そして「話には聞いていたけど、ジュエルキュアウォッチが二つあるなんて驚きだ」という謎の一言も残していく。探偵は完全に舐められている、という感想の通り、この人は最初から最後まで観客席の側に立っていた。
でも俺には特別な力がある
勝負を決めたのは推理ではなく能力だった。「他のファントムの連中だったら君たちの勝利だったよ。でも俺には特別な力がある。空間移動」。見破られようが関係なく、目的の時刻に目的の物を持っていける。推理で勝っても盗みは止められないという、探偵ものとしてかなり意地の悪い勝ち方をしてきた。
そこへるるかが姿を現す。「やっぱりあなたの仕業だったのね」「やっぱり君の変装だったんだね、森亜るるか」と、互いに相手の関与を読んでいたことが分かる。デッチ・アゲインの反応が「いいよ、君も舞台に立たせてあげる。優れた役者は好きなんだ」で、敵も味方も等しく出演者として扱っている。
そこから変身が続き、キュアアルカナ・シャドウも含めた顔ぶれが揃う。デッチ・アゲインの締めが「キャスト、名探偵プリキュア。演出、デッチ・アゲイン。歴史に残る舞台になりそうだ」。戦っている当人たちを配役表に書き込んでしまうのだから、大した度胸だった。
それはあなたに教わったことよ
シャドウの力も使いこなし始めているようだ
戦いの中でいちばん重いやりとりは、くれあとるるかのあいだにあった。るるかが自分の目的を「あなたを倒すため」と改めて口にする。第26話の打倒宣言を、今度は本人に向かって言ったことになる。
くれあの返しがまっすぐだった。「嘘じゃないのね。あなたの目的はわかった。私はどんな時も事件を解決しなきゃいけない。それはあなたに教わったことよ」。倒すと宣言してきた相手の教えを、そのまま自分の武器として突き返している。否定もせず、恨みもせず、教わったことだと言い切るのが強い。
そしてデッチ・アゲインが不穏な一言を落としていく。「それにしても、すっかり怪盗だね、アルカナ・シャドウ。シャドウの力も使いこなし始めているようだ」。初対面のはずの相手が、るるかの力の性質を最初から知っている。この人がどこから来たのかという話が、そのまま次の謎になっていく。
デッチ・ウソッチの仲じゃないか
撤収後の会話が、今回いちばんの情報源だった。「どうだった? 俺の刺激的な演出は」と得意げなデッチ・アゲインに、ウソノワールの返事が「それより、ロンドンはどうした?」。つまりこの人はロンドンを任されていた。
答えが「ああ、ロンドンの事務所ね。厄介なご婦人がいるけど、落ちるのは時間の問題かな」、そして「それより、こっちが大変そうだから助けに来たんだ。ロンドンと二刀流ってね」。冒頭でくれあが教わったばかりの言葉を、敵が同じ回の終わりに使う。二つの持ち場を掛け持ちしているのは、探偵だけではなかった。
やりとりはさらに続く。ウソノワールの「助けはいらない」に「遠慮はいらないよ。大王になるのも諦めてないんだろ」。ウソノワールが「能力を使って盗むのは華麗ではない」とこだわりを見せると、「まだそんなことにこだわってるのかい。まあ君らしいけどね。これからは盗む時に能力は使わない。約束するよ、ウソッチ」。「その呼び方はやめろ」に返すのが「デッチ・ウソッチの仲じゃないか」だった。
デッチ・ウソッチの関係、と書きたくなるのも分かる。あだ名で呼び合える相手が、ボスの側に初めて出てきた。しかも大王の件をからかえる立場にいる。変身バンクを三種類も見られる贅沢な回だったが、情報量ではこの数十秒の雑談が突出していた。
「謎の怪盗デッチ・アゲイン」まとめと考察
フランス人形は元の持ち主に返したし
事務所での後片付けが淡々としていて良かった。「それで大丈夫だったのか?」という問いに「うん、フランス人形は元の持ち主に返したし、一件落着だね」。先祖代々の宝物という話も嘘で、人形にはちゃんと別の持ち主がいたことになる。
それを受けての一言が「落着か…」「デッチ・アゲイン、新しいファントムか」「また厄介な奴が出てきやがったな」。解決したのに誰も勝った気がしていない。推理は当たり、犯人も見抜き、それでも盗みは成立したという後味が、そのまま次回への不安になっている。
ロンドンの事務所にいるという「ご婦人」が誰なのか、という点が視聴者のあいだでも最大の話題になっていた。ウソノワールと対等に話せる立場、るるかの力を知っている素振り、そしてロンドンという舞台。デッチ・アゲインが持ち込んだ謎は、どれも一つ前の階層に届いている。
その先に真実があるって
締めはくれあの独白だった。シュシュタンに「くれあ、るるかのこと考えてるでしゅ」と見抜かれ、「ええ。るるかは言っていた、私を倒すためだって。私を倒す。それは嘘じゃないと思う」と認めたうえで、こう続ける。「だけど、私の中のきらめきが言ってるの。その先に真実があるって。その真実は私が見つけてみせる。必ず」。
この回の骨格は、実はきれいに一本通っている。嘘の中にも真実がある、というのがデッチ・アゲインの手口だった。ロンドンから来たことも、6時12分38秒も本当で、だからこそ模様という嘘に全員が引っかかった。そして最後にくれあが言うのが、倒すという言葉は嘘じゃない、でもその先に真実があるである。犯人の手口を、そのまま相手の読み方に転用している。
もう一つの軸が「二刀流」だった。パティシエと探偵を掛け持ちすると宣言したくれあと、ロンドンと日本を掛け持ちすると言い放つデッチ・アゲイン。同じ言葉が、片方では努力の宣言に、片方では余裕の証明として使われる。白紙のプリキッドブックを埋めようとしている人と、すでに舞台を二つ回している人が、この回で初めて向き合った。
伏線が一気に出てきた印象、という受け止めに完全に同意する。ロンドンのご婦人、シャドウの力の正体、ジュエルキュアウォッチが二つあるという謎の言及。どれも今回は答えが出ないまま置かれた。そのうえで次回はくれあとるるかの過去に踏み込むらしい。倒すと言われた側が、その先の真実を見つけると誓った直後にこの並びなのだから、期待するなというほうが無理だった。




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