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第6話のサブタイトルは「わたしを照らす光」。ララが泡になってから蘇るまでの二百年を、リサとコータの側から埋め直す回だった。見世物にされ、憎んだはずの人間の手を借り、一生をかけて薬を作ろうとした人間の死まで見届けている。そして今、二人の手元にあるのは効き目の弱まった偽物の薬だけだ。




「そうか、リサに会ったか」
魔女の答えは「迷惑な話だ」
第6話は、姉と会ってしまったララが魔女に問うところから動き出す。「そうか、リサに会ったか」に続けて、「魔女様、どうしてお姉ちゃんに足があるの」。返ってきた答えが「奴が私の薬を飲んだからだ」だった。
理由を聞かれても「理由など知るか」「奴が勝手に私から奪ったんだ」「迷惑な話だ」で終わる。★グレイスは本当に何も与えていないし、与えていないことを隠しもしない。★この一言で、リサが今どういう状態で立っているのかが先に提示される。
大津茉里の反応が「ララにお姉ちゃんがおんの」という素朴なもので、そこへ「人魚と人間が愛し合うなんて許さない」という声が重なる。★家族の話と呪いの言葉が同じ場面に置かれているのが、この回の入り方だった。
琵琶湖博物館のリサ
場面が変わると、リサは琵琶湖博物館で子どもたちに魚の説明をしている。「皆さんの真上を元気に泳いでいるのはウグイです」「目の高さを泳いでいるのが鯉やフナなどになります」。★人間を憎んでいる人が、人間の子どもに囲まれて働いている。
良かったのが子どもとのやりとりだ。ビワマスの話になって、リサが「でも、いつかはふるさとの川へ帰るの」と言うと、子どもが「回遊魚って言うねんで」と得意げに返す。リサの答えは「物知りで偉いわね」。
★★いつかは故郷の川へ帰るという一文が、そのまま彼女自身の話になっている。★しかも本人が子どもに向かって言っているのがきつい。この短い場面だけで、リサが百年単位で何を待ち続けているのかが伝わってしまう。
妹は、何だって見つける子だった
「あの光で、どんな暗がりからだって世界を見つけるのね」
回想に入る。海の中のリサは、姉妹に「リサはあの子のことすごく好きだよね」「いつも一緒にいるもん」とからかわれて、「そうね、面白いのよ」「あの子、何だって見つけちゃうんだから」と答える。
具体例まで挙がるのが良い。「砂から目だけ出してる不思議な魚」「色とりどりの鉱石に満ちた素敵な穴蔵」、そして「今日遊んでるここだって、あの子が見つけたのよ」。★★締めが「きっとあの光で、どんな暗がりからだって世界を見つけるのね」だった。
★★★ここで「特別なプリンセス」の中身が初めて具体化される。第5話で連呼されたときは呪文のような言い方だったが、元は「見つけるのが上手い妹」を姉が自慢していただけだった。★称号ではなく、身内の惚気だったものが、二百年かけて一族の希望の名前に固まってしまっている。
光を失った城
ララが泡になった後、ローワンが城の者に告げる。「醜い人間どもに裏切られ」「お城に光を与えるプリンセスはもういない」「この城は次第に崩壊する」「城を捨て、新たな住処を探さねばならない」。★比喩ではなく、実際に城が保たなくなっている。
そこへ現れるのが魔女だった。「元気にしていたか、哀れな城の者どもよ」「頼りにならんローワンに代わって、この私が新たな海へ導いてやる」「ついてこい」「死にたくなければ」。「どうして魔女の住処なんかに」という疑問には「お前たちの王が私に頼んだんだ」「安全な場所が他にあるならば好きにするがいい」。
★追放したはずの魔女に、王のほうから頭を下げていたという順番が効いている。★リサから見れば、妹を奪った相手が今度は一族の面倒まで見ているわけで、この構図が「魔女さえ見つければ」という執念の出発点になっている。
見世物小屋
「呪われた下半身と、艶めかしい瞳」
そしていちばん重い場面が来る。リサは人間に捕らえられ、見世物小屋の演目にされていた。口上が「さて次は、世にも珍しい人魚とのご対面」、「呪われた下半身と、艶めかしい瞳に騙され、海に引きずり込まれないようにご注意を」、そして「紳士淑女の皆様、どうかその瞳で確かめてください」。
★★人魚だと信じてもらえているのに、扱いは客寄せである。★ここが残酷で、疑われて排除されたのではなく、本物だと分かったうえで見世物にされている。
★ララは陸に上がって、名前も知らない人間の家に置いてもらい、働き先まで世話してもらった。リサは同じ陸で、檻の中から人間を見ていた。★★同じ「人間」という言葉が、姉妹でまったく別のものを指している。この回はその一点だけを、丁寧に見せてくる。
「一番最初に見つけてくれたのは、リサ様なんですよ」
そこへ駆けつけるのがコータだった。「すぐに駆け付けられず、すみませんでした」から始まり、人間の姿になったリサを見て絶句する。リサの側は「あなたが無事なら、それでいいんです」と返す。
「どうしてそこまで」と問われたコータの答えが、今回いちばん温かい。★★「そんな僕を一番最初に見つけてくれたのは、リサ様なんですよ」「それが僕は嬉しかった」。★名前を与えられる場面もあり、コータの返事は「どこまでもあなたについていきます」だった。
★★★「見つける」がこの回のすべてを繋いでいる。ララは何でも見つける妹で、リサはそのララを探し続けていて、そのリサに最初に見つけてもらったのがコータだった。★憎しみの話をしているようで、実は誰が誰を見つけたかという話しかしていない回である。
偽物の薬
「憎き人間の手を借りるなんて、おぞましい」
魔女の薬には期限がある。「私たちの薬はもうわずか」「泡になって消えてしまう前に、あの薬を手に入れなければ」、そして「そのためなら私、何だってやる」。
その「何だってやる」の中身が、「憎き人間の手を借りるなんて、おぞましい」と自分で言いながらの選択だった。理屈は「私たちにとっては禁忌の薬でも、人間たちにとっては違うはず」。★これは賭けだったと本人が言い切っている。
★ここが今回いちばん苦い。★人間を憎む理由を人間から与えられた人が、生き延びるために人間を頼る。しかも頼った相手を憎むのをやめたわけでもない。この矛盾を抱えたまま百年以上歩いてきたのだと分かる。
「だが、その時間が、私にはもうないようだ」
借りた相手は、薬に取り憑かれた人間の研究者だった。「その薬が持つ輝かしい光に魅せられた」「命の可能性を無限に開く、その薬に夢を見た」。仮定と検証を積み重ねる日々で、その口から出てくるのが「この光の正体は何」「この光はどこからやってきたのか知りたい」「光輝く命の本質が知りたい」。
そして「だが、その時間が、私にはもうないようだ」。リサの受け止めが「人間の言葉はいちいち大げさね」「自分たちの短い命を、こんな風に飾り立てて」で、★感謝も哀悼もしない。
それでも残ったものは使う。「彼が一生をかけて作った、この似ても似つかない偽物」、「でも、こんなものでも、ほんの少しなら泡になるのを遅らせてくれるみたいです」。★★★一生をかけた成果が「延命の足し」にしかならない。★この回でいちばん静かに残酷なのは、見世物小屋よりむしろここだったと思う。
時間がない
効き目が弱まってきた
現在に戻る。「ララはまだ蘇らない」「この偽物の薬も、効き目が弱まってきたわ」。コータの報告は「もうすぐ琵琶湖の湖底調査が終わります」「魔女さえ見つければ、薬だって必ず」。
ところがその調査は空振りだった。「どこをさらってみても特別な場所はありません」「魔女が消えてから100年」「もうこの琵琶湖にはいない可能性が高いかと」。リサの返しが「私たちにはもう時間がないのよ」。
★薬を飲み続けなければ泡になるという条件が、ここで姉妹の対比になる。ララは愛を見つけなければ消える。リサは薬が切れれば消える。★どちらも期限つきなのに、期限の中身がまったく違う。だからリサには、ララの言い分がどうしても悠長に聞こえてしまう。
「どうして私たちを照らしてくれないの」
コータが「しかし、ララ様には人間の足が」と言いかけると、リサは「いい? ララ、人魚と人間が愛し合うなんてできるわけないの」と遮る。★目の前にいない妹に向かって言っているのがつらい。
そのうえで漏れるのが、今回の題名そのものである。「あなたはその光で、どうして私たちを照らしてくれないの」。★★★怒りでも命令でもなく、問いの形になっている。
★★リサはララを憎んでいない。むしろ待っている。「ララを見つけること」だけを支えに百年以上を過ごし、見つけたら見つけたで、その妹が人間の家で笑っている。★敵役の顔で出てきた人が、いちばん長く待たされていた人だったという組み立てだった。コータが体の異変を心配しても「これ以上は聞かない」で終わらせるのも、この人らしい閉じ方である。
ララの側で起きていたこと
「私もお兄と喧嘩した時は、一ヶ月口利かんかったで」
重い過去編の合間に置かれているのが、大津家の日常である。姉のことで落ち込むララに、茉里が言うのが「私もお兄と喧嘩した時は、一ヶ月口利かんかったで」。★★二百年ぶんの断絶に、兄妹喧嘩の物差しを当てている。
★これがこの作品のうまいところで、スケールがまったく合っていないのに、慰めとしては機能してしまう。リサの側には百年かけても誰も言ってくれなかった種類の言葉が、ララの側には最初から普通に転がっている。
★環境の差がそのまま思想の差になった、というのがこの回の答えだと思う。リサが人間を憎むのも、ララが人間を信じるのも、どちらも本人の性格の問題ではなく、★誰に拾われたかの問題だった。
王子によく似た少年と、体の変化
そして終盤、ララの前に二百年前の王子によく似た少年が現れる。★この場面は台詞がほとんど無いので細部は書かないでおくが、強い光とともにララの体に変化が起きるところまでが描かれた。
★★見ている側としては素直に喜べない。★この形の再会は、二百年前にもう一度やっているからだ。そして今回の前半で、その結末がどうなったかを延々と見せられてきた。
★★★しかも間の悪いことに、リサは「人魚と人間が愛し合うなんてできるわけない」と言い切った直後である。★もしこの場面を姉が見たら、それは説得の材料ではなく証拠として使われてしまう。
「わたしを照らす光」まとめと考察
誰が誰を見つけたのか
通して見ると、この回は「見つける」の連鎖でできている。ララは砂に隠れた魚も、鉱石の穴蔵も見つけた。リサはそのララを百年以上探している。コータはそのリサに最初に見つけてもらった。★与える側と与えられる側が、順番に入れ替わっていく。
★★だから題名が「わたしを照らす光」なのだと思う。光は持ち主のものではなく、照らされた側がそう呼ぶから光になる。ララにその自覚は無いし、リサもコータも本人には伝えていない。
★そのうえで、この回はララに一言も答えさせない。★ララは今回、ほとんど何も知らされないまま終わる。姉が見世物にされたことも、自分の名前が一族の希望として使われ続けたことも知らない。★知らないまま「特別なプリンセス」と呼ばれ続けているのが、この子の位置だった。
「魔女はやはり、あの家にいる」
引きが容赦ない。リサたちは「見張られていた」ことに気づき、そこから「魔女はやはり、あの家にいる」と結論する。★あの家とは、言うまでもなく大津家である。
★★探していたものが、妹のいる家にあった。リサにとって魔女は薬の出どころであり、同時に妹を二度も人間に変えた張本人でもある。★目的が二つとも同じ場所に置かれてしまった以上、次回そこへ向かわない理由が一つも無い。
★今回でいちばん怖いのは、リサ側の行動原理が一つも間違っていないことだ。家族を助けたい、時間がない、手がかりは一つ。★★ララと願いは同じで、経験だけが違う。その二人が同じ家を目指してしまうところで終わるのだから、次回に穏やかな解決を期待するのは難しそうだった。




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