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第6話のサブタイトルは「騎士狩猟祭・後編」。キールに押し寄せるモンスターの第二波と、それを呼んでいた吸血鬼の兄弟に対して、SS級冒険者シルバーが正面から名乗って立つ回だった。戦いが終わったあとに待っていたのはカルロスの裁定と、レオナルトの勝利。そしてアルノルトは、いちばん避けたかった立場を押し付けられることになる。




「街の真ん中に落ちてくる」フィーネが動く
第二波およそ三千、「ただの一体たりとも通すでないぞ」
第6話は、前話の戦いのただ中から始まる。モンスター第二波接近の報が飛び、数はおよそ三千。前線に立つ皇帝ヨハネスが「皆の者! ただの一体たりとも ここを通すでないぞ!」と声を張る。キールの守りはまだ持ちこたえているが、押し寄せる数そのものは減っていない。
この状況を作り続けているのが、モンスターを呼び寄せる魔道具を持った吸血鬼の兄弟だ。兄のディーンは「もっとモンスターを呼び寄せて 私たちの相手をしている場合ではなくしてやろう」と言う。★戦いの本体は前線ではなく、笛を握っている側にある。
★前話の引きをそのまま受け取っているので、今回は開始十数秒で全員が全力という珍しい入り方だった。個人的には、いちばん最初に来るのが皇帝の号令だったのが良かったと思う。★守られる側の前に、いちばん立場の高い人間が立っている絵から始まっている。
「私はとっても運がいいんです」
一方、屋敷では第三皇女クリスタが笛の落ちる先を口にする。「街の真ん中に落ちてくる…」。それを聞いたフィーネが「殿下 笛をお探しなら フィーネが取って参ります」と申し出た。
クリスタは「でも フィーネが危険…」とためらうが、フィーネは引かない。「私はとっても運がいいんです だから大丈夫です」「本当です ですから教えてください」「笛はどこにありますか?」。★戦う力を持たない人間が自分の持ち物として差し出せるものが「運がいい」しかないというのが、この台詞の重さだと思う。
そして本当に奪い取ってしまう。「それが何か知らないけど!」「どうせろくでもないものでしょう!」と言いながらの強奪で、吸血鬼は「何者だ! それを返せ!」と追いかけてくる。★中身を知らないまま「ろくでもないもの」と決めつけて奪った判断が、結果としてこの街をいちばん助けている。
SS級冒険者シルバー、名乗る
「貴様らを討伐しに来た」
追い詰められたフィーネを助けたのがシルバーだった。★この場面そのものは台詞で説明されないのだが、後でエルナが「特にフィーネを助けてくれてありがとう」と口にするので、誰が間に入ったのかははっきりしている。
笛はエルナの手に渡る。フィーネの「エルナ様 どうかこの街を救ってくださいね」に、エルナは「無茶をするな」と返し、「申し訳ありません また軽率なことを…」と謝る相手へ「話は後で聞く だが よくやった」と言う。「ご運を…」「任せておけ」で二人は分かれた。
そのうえで吸血鬼の前に立ったシルバーが名乗る。「貴様 何者だ?」「SS級冒険者シルバー」「貴様らを討伐しに来た」。続けて投げたのが「お前たち兄弟は 賞金首となってからは 怯えて暮らしてたんじゃないのか?」で、弟のサムが「馬鹿にするな!」、ディーンが「我々は機をうかがっていただけだ」と返した。
★この「機をうかがっていただけだ」を、シルバーは後半でもう一度使う。名乗りのついでに相手の言葉を一つ預かっておくのが、この主人公のやり方だと思う。
「断じて譲らないわ!」獲物の取り合い
ディーンは「笛は奪われたが モンスターはまだまだ押し寄せてくる」「貴様と勇者を倒せば我らの勝ちだ」と強気を崩さない。エルナは「なめられたものね」「二人でようやく互角だったでしょ」と返し、サムが「僕らはまだ本気じゃない!」と噛みつく。
エルナが「アムスベルグの名において 殲滅してあげるわ」と構えたところへ、シルバーが「いや 意気込んでいるところ悪いが」「こいつらは俺がやる」と割り込んだ。ここから今回いちばん可笑しい場面になる。
「今私の獲物を横取りするって聞こえたのだけど?」「お前は皇帝を守り…」「断じて譲らないわ!」「こいつらは私が一番嫌いな言葉を言ったのよ!」「邪魔するならあなたも斬るわよ!」。事情を知らないシルバーの「何を言ったんだこいつら…」が全部持っていった。
★前話でエルナが激怒した理由を、シルバーの中身であるアルノルト本人だけが知らないという構図になっている。★自分の悪口で怒っている幼馴染に、自分が別人の顔で困らされているわけで、ここは何度見ても笑ってしまった。
「俺が守るのは民であって国じゃない」
皇帝を助けに行けという揺さぶり
ディーンは「状況は良くて互角というのを分かってるのか?」と揺さぶり、シルバーは「互角?」「完全にそっちが劣勢だと思うが」と返す。そこへ「第二波! 間もなく会敵します!」の報告と、皇帝の「一歩も引くでない!」が届いた。
すかさずディーンが「皇帝が危ないぞ」「援護に行ったらどうだ?」と誘う。返ってきたのが「俺が守るのは民であって国じゃない」だった。この国には立場を約束された者たちがいて、帝国を守るのはそういった皇族や騎士の仕事だから、自分はその仕事を取らない、と続く。
★冒険者としての線引きであると同時に、皇族としての本音でもある。★守る相手を「民」と言い切った人間が、この直後に弟の軍を呼び寄せるのだから、言葉と手の内が完全に一致していた。
「キールの町を守れ!」
サムの「兄ちゃん! あれ!」で全員が振り向く。「騎士たちよ! 第八皇子レオナルト・レークス・アードラーが命じる! キールの町を守れ!」。前話で集まった騎士たちが、ここで到着する。
前線は「レオナルト皇子?」「どこからあれだけの騎士を?」とざわつき、やがて名前を呼ぶ声に変わっていく。皇帝は「息子に負けてはいられぬ」と自ら前に出た。シルバーが吸血鬼に投げたのは「というわけだ」の一言だけだった。
ここでエルナが「シルバー、じゃあこうしましょう」「そっちはあげるわ、こっちはもらうわよ」と提案し、シルバーが「良い提案だ、受け入れよう」と応じる。★斬り合いかけていた二人が、三十秒で分担を決めている。
★援護に行かないという答えの中身が、「もっと多くの手を先に送ってある」だったことがここで分かる。★揺さぶったつもりのディーンが、いちばん派手に足をすくわれた場面だった。
二つの結界と、伝説の聖剣
呪いの鎖と、味方からの罵倒
押されているように見えたシルバーに、ディーンが「貴様らみたいなのを恐れて隠れていたのが馬鹿らしい」「やはり所詮は人間か」と吐き捨てる。そこで拾われるのが「やっぱり隠れてたのか」だ。名乗りのときの「機をうかがっていただけだ」が、ここで潰される。
結界を張りながら戦っていたのかと問われたシルバーは、「半分正解だな」「正解は、二つの結界を張りながら戦っていた、だ」と答える。もう一つは縛った相手に呪いをかけて弱らせる古代魔法の結界で、鎖の形をしていた。
面白いのはエルナまで巻き込まれかけたことで、「ちょっと、この鎖私も縛ってくるんだけど」「あなたね、味方を鎖で捕獲するとかどうかしてるわよ」と抗議が飛ぶ。答えが「俺を味方と思っている奴に鎖は反応しない」「君が俺に敵意を持ちすぎなだけだ」だった。
そのうえ「相手はそんなに強くないでしょ!」「手を抜いてるの?」「カッコ悪いのよ!」と味方からも罵られ、心の中で「相手から煽られ、なぜか味方からも罵られる」「まったく冒険者も楽じゃない」とこぼしている。
★敵に囲まれている時間より、幼馴染に絡まれている時間のほうが長い。★実力が拮抗しているせいで、命のやり取りの最中なのに会話が全部じゃれ合いに見えるのが良かった。
煌々たる星の剣と、インフィニティダークネス
決着はそれぞれの大技だった。ディーンが「エルナ・フォン・アムスベルグ」「まさかと思うが」「聖剣を召喚する気か」と気づき、エルナは「だったら何」と返す。「街を破壊する気か」には「調整するから平気よ」。
シルバーが相手を拘束してくれたおかげで心置きなく召喚できる、という言い方をしつつ、「私はアムスベルグ家の人間よ」「帝国の敵を討つのが私の使命」「あなたになんて譲らないわ」と押し切る。詠唱は「我が声を聞き 降臨せよ 煌々たる星の剣」「勇者が今 汝を必要としている」だった。
シルバー側は「我は簒奪者なり 冥府の底より黒を簒奪した」「その黒は闇よりなお暗く」「その黒は夜よりもなお深い」と唱え、「全てはその黒より生まれ 全てはその黒に還る」からインフィニティダークネス。撃つ前に「モンスターの群れの中にいる者は すぐに逃げろ」と警告を出している。
締めの一言はそれぞれ「歯を食いしばれ」と「悔い改めなさい」で、第三波ごと消えた。★聖剣と暗黒が並ぶ画面なのに、直前まで獲物の取り合いで揉めていたのが可笑しい。★今回のシルバーは、強さそのものより段取りの良さで見せる人になっていた。
「首をはねるべきです」カルロスの裁定
他言無用で明かされた取引
戦いのあと、皇帝との短いやり取りがある。「礼を言うよ」「ああ」「そちらも見事だった」「協力に感謝するぞ」。そしてエルナが呼び止めて、「今回は助かったわ」「特にフィーネを助けてくれてありがとう」「彼女は私の幼馴染の大切な友人だから」と言う。
シルバーが「出がらし皇子のことかな」と返した瞬間、「命が惜しいなら取り消しなさい」「私の幼馴染は最高の皇子よ」「私の前でバカにすることは許さないわ」と凄まれる。「謝罪しよう」「確かに出がらしなどというのは失礼だ」と引き下がりつつ、「しかし君のような幼馴染を持って 彼もさぞや大変だろうな」と付け足すのが良かった。★中身が本人なので、これは自分で自分を庇わされている場面でもある。
場面が変わって、「これから話すことは他言無用だ」と前置きされた報告が入る。重傷だったカルロスが目を覚まし、サムとディーンという二人組の吸血鬼と繋がっていたことを認めた、という内容だった。
条件はハーメルンの魔笛でモンスターを操り、狩猟祭で一位になること、そしてキールにカルロスが到着したタイミングで撤退すること。見返りは、二人にかけられた賞金の解除だ。★前話で反故にされた「筋書き」の中身が、ここで正式に言葉になった。★利用されただけだとしても、自分の利益のために帝国全土を危険にさらしたことは変わらない、という整理のされ方が容赦なかったと思う。
レオナルトの答え
兄たちは寛大な処置を願い出る。「愚かではあれ 私の弟なのです」という言葉に、いくつもの声が重なった。そこで皇帝が指名したのが「レオナルト お前はどう思う」だった。
返ってきたのが「首をはねるべきです」「決して許すべきではありません」。「お前の兄だぞ」と確かめられても、「兄である前に 帝国への反逆者です」「ここで許せば 悪しき前例となりましょう」と引かない。決め手が「血を流した騎士たちに 僕はどう説明すればいいのでしょうか」だった。
皇帝が「民や一般の騎士には伝えぬ この場限りのことだ」と収めようとしても、レオナルトは「いけません」と重ねる。「正直に伝え 陛下が皇帝であることを見せつけるべきでしょう」「たとえ息子といえど 罪を犯せば裁くのだと」。皇帝の反応が「アルノルト お前の入れ知恵か」で、当人は「どういうことでしょうか」ととぼけた。結論は「エリクたちの意見を尊重して カルロスは除名する」である。
★兄思いだったはずのレオナルトが、いちばん厳しい答えを出す側に回っている。★しかも理由が私情ではなく、死んだ騎士に説明できるかどうかという一点だった。★この弟は、優しいから甘いのではないとよく分かる場面だと思う。
「騎士狩猟祭・後編」まとめと考察
「そのミスに褒美をやろう」
皇帝はレオナルトを勝者に指名する。レオナルトの一言目が「一つお願いがございます」で、駆けつけてくれた騎士たちへの十分な報奨を願い出た。領主に無断で駆けつけた者にもお咎めなし、という答えが返ってくる。★勝った直後に自分の話をしないのが、この弟らしい。
順位の内訳も明かされる。カルロスは失格、二位のアルノルトも失格、三位が同率でレオナルトとゴードン。騎士を率いてきた功績と帝都での人気を理由に、レオナルトを勝者として不満を抑えるという組み立てだった。
そこでエルナが嘆願する。「どうかアルノルト殿下の失格を取り消してください」「殿下は自らが失格になることも顧みず キールへ騎士を派遣しました」。皇帝は「お前は誤って腕輪を壊してしまったのだったな」と確認し、アルノルトは「はい 誤って壊しました」と答えるしかない。
裁きが見事だった。「意図的に壊しエルナを派遣したならば一考の余地ありだが ルールはルール」で優勝は動かない。しかし「アルノルトのミスが民とわしを救ったと言える」として、「そのミスに褒美をやろう」と続ける。出てきたのが全権大使補佐官の座だった。
「能力がないので」と逃げようとする相手に、「そろそろ一つくらい仕事をして自分もできるということを証明してみよ」。★誤って壊したと言い張った以上、断る理由まで自分で潰してある。★これは褒美の形をした罰であり、同時に父から息子への最短の意思表示だと思う。実際に本人は、直後に「計画が大幅に狂った」とこぼしていた。
一羽のカモメを撃ち落とした狩人
最後は、フィーネが茶を出す場面だ。いつもと違う味に気づいた相手に「お疲れかと思って疲労回復効果のあるものにしました」。魔力も体力も気力も使い果たしているのに「そんなに疲れてない」と言い張り、「二、三杯は飲んでください」「勘弁してくれよ」と押し切られている。
謝るフィーネへの返しが「迷惑なんかじゃない」「ただ あまり危ないことはしないでくれ」「心臓が止まるかと思った」。フィーネも「私も死んでしまうと思いました」「でもアル様が来てくれました」「嬉しかったです」と返す。
笛は冒険者ギルドによって厳重に封印されたという。ただし本人は「とりあえずはな」と言い、あの吸血鬼たちも誰かに利用されていたのかもしれない、と次を見ている。★前話でカルロスを黒幕から外した見立てが、まだ終わっていない。
そしてフィーネが打ち明ける。髪飾りをもらった日、皇帝に会うということで緊張して不安で、今にも倒れそうだったこと。たわいもない会話で落ち着けたこと。それからずっと憧れていたこと。一度は変わってしまったのかと思ったが、「あれはお芝居で、アル様はあの日と同じく優しいままでした」ということ。
締めが「あの日 一羽のカモメを撃ち落とした 狩人なんですよ」だった。★蒼鴎姫と呼ばれる少女が、自分を撃ち落とした側として相手を名指ししているのが上手い。
今回は、戦いの派手さより「誰が誰の仕事を取らないか」で通っていた回だったと思う。シルバーは皇帝を守る仕事を取らずに騎士へ回し、レオナルトは兄を庇う役を取らずに裁く側へ立ち、皇帝はアルノルトの嘘を崩さないまま褒美という形で仕事を渡す。★三者とも、相手の役割を奪わずに結果だけ動かしている。
そのうえで、いちばん割を食ったのがアルノルトだ。★目立たないために失格を選んだ人が、その失格を理由に表舞台へ引き上げられたのだから、皮肉としてはこれ以上ない。次回からは全権大使補佐官としての動きになるはずで、外国へ行っている間に勢力を潰されるという懸念をどう処理するのかが見どころになりそうだ。
★個人的には、最後の打ち明け話が「戦果の報告」ではなく「あの日の話」だったのが好きだった。この回で街を救ったのは笛を奪った本人なのに、彼女が持ち出したのは、緊張して倒れそうだった昔の自分のほうだ。★強くなった話ではなく、変わらなかった人の話として畳んでいるのが、この作品の温度なのだと思う。




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