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第6幕のサブタイトルは「囁く声」。ネズミのアリシアが鋏を突きつけられているところから始まり、そこへ潜入中のロッドが通りかかる。そしてアンドリューに囁いていた声の正体と、北の魔獣王が動いている理由が、この回でまとめて画面に出てくる。




鋏の下から始まる第6幕
「木や花ってさ、切った方が増えるよ」
開幕の一言がこれである。「知ってる? 木や花ってさ、切った方が増えるよ」。言っているのはアンドリューで、向けられているのはネズミの姿のままのアリシアだった。内心は完全に追い詰められている。「魔血を流し切ると死ぬとクレンが言っていた」「首が落ちれば確実に失血する」「まずい、こんなところで死ねない」。
そこへ足音が近づく。アンドリューの「迷わず来るね」「目的は何だろう。僕? それともこのネズミかな」という警戒のあと、現れたのは歴史の新任教師を名乗るマシュー・バーンズだった。「すまない、アンドリュー・ウィップ君。2、3話を聞いてもいいかな」。首をはねられる寸前で会話が始まる、という間の取り方がうまい。
苔の花が教えたこと
この探り合いが今回いちばん品のいい場面だった。「それネズミ?」「はい、そうです」「どうして木に?」といなされたあと、アンドリューがふいに言う。「踏んでますよ、先生」「花」。「花なんてあるのかい?」と返せば「見えてないだけですよ。苔の花です」。彼の紋は植物と対話できるので、踏まれた苔が足取りと体重を教えてくれる。
そこから導き出される結論が「迷いなく力強い足取り。先生はおそらく軍人ですね。並外れて強靭な」。証拠は地面の苔一つで、しかも相手はその苔が見えてすらいない。ちなみにこの時、ソルセイン全体には学長の魔術で強制力がかかっていて、紋も結晶も持たない並の人間なら立っていることすらできない。平然と歩いてくる時点で、もう答えは出ていたわけである。バーンズは「すごいな。これが紋を持つ生徒の力か」と素直に感心し、「私はただ消えた生徒を探しているだけなんだ」「けれど剣はないし戦う気もない」「知らないというのであれば、このまま引き返すよ」と引こうとする。
焦ったのはアリシアである。「おいおい、今引き返すと言ったか」「あれロッド・ロイエスだろ」「やっと助けになりそうな奴が現れたのに」「気づけ、私はここだ」。声は届かず、アンドリューの「知りませんね」で会話は終わってしまう。助けが目の前まで来て、そのまま通り過ぎようとする。この数十秒が今回いちばん歯がゆかった。
「囁く声」の正体
「全部邪魔をした二人を今ここで殺せ」
ところが、引き返そうとした背中をアンドリューが呼び止める。「やっぱりダメだそうです。先生をこのまま返すのは」。誰がそんなことを、と問われた答えが「時々聞こえてくるんですよ、紋の声が」「紋が言うには、全部邪魔をした二人を今ここで殺せと」。本人は自分の紋の声だと思っている。
だがアリシアには見えていた。「こいつ、クレンが言ってたヴォーデインの分身か」。サブタイトルの囁く声は、北の魔獣王だったのである。アンドリューの側は「声が聞こえた時って大抵ありえないくらいの力が出せるんですよね」としか認識しておらず、アリシアの「声だけか。こいつにはあの姿が見えていないのか」という観察が効いてくる。第4幕から不気味なだけだった少年が、ここで一気に「操られている側」へ位置づけ直された。
「本物の勇者の時代」
そして声の主が、初めて自分の言葉で語り出す。「そういえばドレルも言っていた。お前たちは本物を知らない」「本物の時代よ。クレバテスもそうだ。私が終わらせた時代」「魔獣と人がもっと近く争っていた、本物の勇者の時代」。1100年前に勇者との戦いへ決着をつけた張本人の口ぶりである。
結論はこうだった。「この時代は終わらせなくてはならない」「伝承は正さなくてはならない」「止まった時は動かさなくてはならない」「本物の勇者の目覚めのために、散らばった永遠の記憶を張り合わせなくてはならない」。つまり伝承を復活させたいのではなく、もう一度あの時代をやり直したいのだ。前回ザフティエが立てた仮説と、きれいに噛み合っている。
怖いのは、それがアンドリューの動機とも接続してしまうところだ。「学長のおかげで僕はささやく声と出会えたし、この声に従っていれば僕はもっと強くなれる」「強くなって僕は、世界を花で満たしたいんだ」。本人の望みは平和そのものなのに、その手段が首を切ることになっている。アリシアの「一体何を言っているんだこいつは」が、そのまま視聴者の感想だった。
領域という理屈
クレバテスは匂いで見抜く
その頃、霧を維持しているザフティエは「霧の維持のためにも、どこか安全な場所で休み、体力を回復なさい」と気を配っていた。身を貸しているサラサのほうも心得たもので、返ってくる注文が「どこか美味しいものがある所が良いですね」。戦場のど真ん中で食事の話をしているのがおかしくて、この二人の場面だけ空気の温度がまるで違った。
同じ頃、クレバテスの側も気づいている。生徒たちを相手取りながら「もっと本気を出せ、ワッパども」「貴様らの本気を叩き潰さねば、奴を引きずり出せぬではないか」と挑発しつつ、「魔血以外の方法でワッパらに力を与えているな」「匂いでわかるぞ、ヴォーデイン」と看破する。
そこから始まる説明が、この作品の設定でいちばん大事な部分だった。「魔獣王の力の源は各々の領域にある」「領域とは生まれ落ちた地であり、決して切り離すことのできぬ理だ」「故に魔獣王が領域を出て力を行使するのは難しい」「離れれば離れるほど弱くなる」。前回ザフティエが「ハイデンの時のようにはいきませんよ」と釘を刺した理由が、ここでようやく言葉になった。
この地に二つ以上ある
そのうえでクレバテスは切り返す。「だが、この漏れ出る力を我の色に染め上げれば利用できる」「領域の力は絶対だ」。敵が持ち込んだ力を、そのまま自分の燃料にしてしまう。相手の土俵で戦えないなら相手の道具を奪えばいい、という発想が実にこの魔獣王らしい。
さらに重い一言が続く。「それとは別に、この地全体を覆う力も感じる」「つまり、ハイデンのトアの書と同種のものが、この地に二つ以上存在するということ」。書は一冊や二冊の話ではなかった。別の場所では「四体の魔獣王を倒さねば世界の外門は開かない」「我々に下された直命は、十三本の至宝の回収」という声も上がっていて、盤面が学園の外へ大きく広がっていく回でもあった。
逃げ遅れを探す班
「ゆっくりゆっくり進むんだ私」
戦闘の合間に挟まる班の描写が、今回の息抜きにして白眉だった。家々の避難確認を任されたA班で、生徒が「一件一件見て回らなくてもいいのでは?」と言うのに対し、ナイエ先生は「万が一ということもありますから。一応見て回ります」「それがA班の務めです」と譲らない。生徒は「無意味だとは思いますけどね」と不満顔である。
ところが内心はこうだった。「待ってるのはただの学生じゃない。ていうか人間ですらない。魔獣王だぞ魔獣王」「うっかり行ったら殺される」「殺されなかったとしても脳をぐちゃぐちゃにかき回される」「できるだけ自然に、ゆっくりゆっくり進むんだ私」。つまり丁寧に見て回っているのではなく、全力で時間を稼いでいる。
しかも建前がまた立派で、「これはA班全員のためでもあるんですよ」「あなたたち全員が生き残るためにも」。嘘は一つも言っていないのがずるい。スパイとして潜り込んでいる人が、教師としては誰よりまともに生徒を守っている構図で、この先生の株が一気に上がった。
穏やかにする力
補佐のメリーウェイザーは、そんな上司をせっつく側に回る。「先生」「始まってますよ、戦闘」「林の向こうC班、それに森の先のB班。それぞれ得体の知れない何かと戦っていますね」「そしてここにも」「どうします先生。あれと戦いますか」。逃げる口実を全部潰してくるのが容赦ない。
覚悟を決めてからの先生は強かった。「この枷は対象を強制的に穏やかにする。眠るように穏やかに」と魔獣を鎮め、土の紋の詠唱で二体目も片付けてしまう。生徒たちの「これが紋を持つウィザードのレベル」「もしかして勝てる、中身が魔獣王も」という声を聞いて「結構手こずったな」と流すあたりも様になっていた。腕の傷と鼻血を指摘されても「ほんの少し肉がそげただけ」で済ませる。
ただし空気はすぐ変わる。生徒たちが急に「書を奪わないと」と繰り返し始め、「先生には聞こえないんですか。声が、ささやく声ですよ」。先生の返しは「聞こえないのなら、その方が穏やかでいいと思います」で、メリーウェイザーの「今のこの子たちからは、あいつと同じとんでもない怪物の気配がします」「これは穏やかじゃないですね」で締められる。穏やかという言葉を何度も使い回しながら、一番穏やかでない状況を説明していくのが好きだった。
「囁く声」まとめと考察
空から来た助け
アンドリューとの戦いは苦しかった。「剪定は木を美しく育てるための技術です」「切り倒した木を養分に成長促進」と、園芸の言葉のまま殺しにくる。とどめは「いい加減観念したらどうです先生」「森は僕のテリトリーですよ」で、ロッドが持ち込んだ至宝の欠片も「それも終わりです」と押し切られかけた。
そこへ空から助けが入る。止めに入った側の言葉が効いていた。「鼻血が出ているぞ、貴様。それに目からもだ」「器に見合わぬ力を使おうとするからだ」「あの方の意向で殺しはしないが、そのまま力を使えば死ぬぞ」「なまじ才能があったのがあだとなったな」。ロッドの「助かったよ、ガルト」に対して「相手が子供だからといって手を抜きすぎだぞ」と返され、「まあそれもあるが、使い慣れた自分の手法ではなかったしね」。アリシアの「あれ、知り合いだったのか、あの二人」が素直な反応だった。
囁く声は、従う者に力を渡す代わりに壊していく。クレバテスが指摘した「壊れるほどの過剰な力を与えて何をしたい」も、アンドリューの鼻血と目の出血も、同じことを別の角度から見せている。北の魔獣王がやっているのは支援ではなく消費だった、というのが今回の答えだと思う。
「何もかも話せ」
そして引きが素晴らしい。ガルトが「それはそうと、見つけたんだな。行方不明だった生徒」と言い出し、きょとんとするロッドに「気づいてなかったのか。あの魔獣、なりはあんなだが勇者アリシアだ」「ここではアリッサ・スレイハントと名乗っていたようだが」。散々「気づけ、私はここだ」と念じていた相手が、本人ではなく相棒のほうに見抜かれる。
アリシアの側も驚く。「私の正体に気づいた」「こっちの世界からは元の魔獣の姿に見えているが、これで言葉さえ」。そこへ返ってきたのが「貴様の言葉は俺にはわかる」で、続けて「何もかも話せ。この地の謎とヴォーデインの企みについて、知っていること全て」。前回の試練で言葉が分かるようになったのにこちらの声が届かない、という不便がずっと続いていたので、ここでようやく解消されたのが気持ちよかった。
通して見ると、第6幕は声を受け取れるかどうかの話で揃っている。アンドリューは声を受け取ってしまい、生徒たちも受け取って豹変し、ナイエ先生は聞こえないほうが穏やかだと言い、アリシアは届かない声を必死に投げ続けていた。頭蓋が割れても戦い続けた末にやっと一人だけ聞き取れる相手が現れたのだから、サブタイトルの置き方としては文句なしだった。




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