この記事の作品:
第7話のサブタイトルは「成金ラーナ狩り」。ツギハギベアを倒してレベルを上げたエルマとルーチェが、高額アイテムを落とすボーナスモンスターに挑む回だ。相手は素早さ67、防御力200で、属性攻撃も状態異常もデバフも完全に無効化する。エルマの攻撃では1ダメージも通らない。そこで鍵になるのが、前のパーティーでハズレスキルと切り捨てられたルーチェのダイススラストだった。




成金ラーナとは何者か
愛され枠の雑魚の、金ピカの個体
第7話は、ダンジョン天使の玩具箱の入口から始まる。ルーチェの「俺と組んでくれて本当にありがとうな」への返しもそこそこに、エルマが「レベルも十分上がった。ここからが本番だ」と宣言し、今回の目標である成金ラーナの名前が出る。前回ツギハギベアを狩り続けて稼いだレベルは、あくまで下ごしらえだったわけだ。第6話の次回予告で告げられていた狩りが、そのまま本編になった形でもある。
まず説明されるのが、ラーナという魔物そのものの立ち位置である。エルマの独白によれば、ラーナは「俺がこの世界で最初に倒したカエルの魔物」で、マジックワールドの代表的な、愛され枠の雑魚モンスターだという。その中に複数の種類があり、金ピカの個体が成金ラーナにあたる。出現率が低い代わりに、倒せば高確率で超高価なアイテムを落とす。しかもレベルが高いのに攻撃力も魔法力も低く、攻撃スキルすら持っていない。戦闘能力が低くて経験値がおいしくて高価なアイテムまで落とす、いいことづくめの相手なのだ。
こういうモンスターがいる、という説明から入るのが今回らしい。ゲームをやり込んだ人間が転生している作品なので、エルマにとって狩りの計画は思いつきではなく、知っている情報の運用でしかない。この相手を「愛され枠」と呼ぶあたりに、彼が前の世界でどういう遊び方をしていたのかまでにじんでいるのが良かった。
ゲームと違うのは、死んだら終わりというところ
ここでルーチェが「成金ラーナは私も聞いたことあります」と話に入ってくる。彼女が伝聞として持っていた情報は、早すぎて追いつけないうえに、たまに攻撃が当たってもまるでダメージが通った感覚がない、というものだった。さらに「追いかけていたら深追いしすぎて魔物に囲まれ、窮地に陥った人も少なくない」とも続ける。うまい話には裏がある、という警告である。
これを聞いたエルマの受け止め方が、この作品の芯に触れている。「ここはゲームとは似て非なる世界。死ねば終わりの世界か」と考え、だからこの世界の冒険者は、自然とキャラビルドが死なないことに特化したものになりがちなのだと結論づけるのだ。ボーナスモンスターを追いかけて全滅する余裕が、この世界の人間には最初から無い。同じ数値を見ていても、遊びとして最適化する人間と、生き延びるために最適化する人間では答えが変わる。
知識で有利に立つ主人公の話でありながら、その知識がそのまま通用しない理由を先に置いておくのがうまい。この一言があるので、後半のやたらと慎重な段取りが理屈として通る。
素早さ67、防御力200という壁
数字で示される絶望
成金ラーナの数値が明かされる場面が、この回で一番容赦ない。素早さ67、防御力200。そのうえ各属性攻撃、状態異常、デバフを完全に無効化する。素早さ67は、足の速い道化師クラスであるルーチェの2倍以上、鈍足の重騎士クラスであるエルマの3倍以上にあたる。
防御力200のほうはもっと絶望的で、エルマの障壁返しが完璧に決まっても1ダメージも通らない数値だと本人が言う。ルーチェのナイフが持つ防御貫通15パーセントも、当て握りの貫通効果も、この黄金の鉄壁の前ではあってないようなものだ。第4話でレベル40の魔物を3分足止めしたときの手札が、ここでは全部無効化されている。
強い敵ではなく、硬くて速いだけの雑魚に手札を全部潰される、というのが面白い。倒せない理由を数字で一つずつ並べていくので、この時点では本当にどうやって勝つのか見当がつかない。
それでも「大丈夫だ」と言う
並べられた数字にルーチェが「もしかして無理じゃないですか」と弱気になると、エルマの返事は「大丈夫だ」だった。そのうえで「一見完璧に見える奴の体勢にも抜け穴があるのさ」と続ける。無理ではない理由を、この時点ではまだ明かさない。
代わりに指示が飛ぶ。さきほどのレベル上げで得たスキルツリー用のポイントが8ある、それを全部ひとつの枝に振れ、というのだ。そこで得られる2つのスキルが今回の討伐の肝になる、と説明され、ルーチェは中身を聞かされないまま振り分けることになる。そして最後に一言、「ルーチェ、頼むぞ」。作戦の核心を担うのが自分だと、この段階で告げられている。
エルマがルーチェにかける言葉は、いつも短くて具体的だ。励ますというより、やることを一つに絞って渡してくる。第6話のスカウトからずっとそうで、この人は相手の自己評価を上げようとするのではなく、結果が出る場所へ連れていくことで納得させにいく。
見つからないことまで、織り込み済み
1日探してようやく2体
道中で別の魔物と出くわす場面がある。エルマは戦わずに「ルーチェ、今のうちに逃げるぞ」と離脱を選ぶ。理由は「あいつは今回のターゲットじゃないし、追い詰めると仲間を呼び始める」からで、今のレベルなら逃げるのが最適解だと言い切る。無双ものの主人公が、雑魚から普通に逃げるのだ。
成金ラーナがなかなか見つからないことも、彼の計算のうちに入っている。「なかなか見つからないのは織り込み済みだ」「1日限界まで探して、ようやく2体といったところ」「だが成金ラーナには、それだけの狙う価値がある」。そのうえで「いくらルーチェの幸運が高くても簡単に会える魔物ではないから、不安になったり不満が出てきたらいつでも言ってくれ」と先に断りを入れ、「遠慮はしないでくれよ」と念を押す。
この段取りの説明が長いことは、実際に視聴者からも指摘されていた。ただ、成果が出ない時間があらかじめ想定されていること、それを一緒にいる相手へ先に伝えておくことは、追放された経験のある人間と組むうえで一番大事な部分でもある。前のパーティーがルーチェにしなかったのは、まさにこれだ。
100でも1000でも狩りましょう
その気遣いに対するルーチェの返しが良かった。「私はエルマさんについていきます」に続けて、「100でも1000でも成金ラーナを狩りましょう。私、やってみせますよ」と鼻息を荒くする。第6話で「私なんかをパーティーに誘ってもらっちゃって」と縮こまっていた人物とは思えない勢いだ。
受けたエルマの返しがまた冷静で、「やる気があるのはいいことだが、そんなに狩ったらロンダルムの物価がとんでもないことになるぞ」ときた。高額アイテムを落とす魔物を1000体倒せば、当然そうなる。経済のほうを心配されて狩りの意気込みが止められる主人公パーティーは、なかなか珍しい。
そして直後、あっさり成金ラーナが現れる。エルマ自身が「思っていたよりもはるかに出現が早い」と驚くので、1日粘る覚悟の話は完全に前振りだったことになる。散々ハードルを上げてから即遭遇させる運び方は、ルーチェの幸運がすでに働いているという示し方でもあった。
耐性の抜け穴は、二つあった
通路を幻影でふさぐ
ここからが今回の本題になる。成金ラーナは冒険者の周囲4メートルまで近づかれると逃走を始める。そして天使の玩具箱の通路は、幅がちょうど4メートル。つまり通路の端に寄られてしまうと、ぎりぎり回り込めない仕様になっている。追いつけない理由が、素早さの数値だけでなく地形の設計にもあったわけだ。
そこで効いてくるのが、さきほど取得した1つ目のスキルドッペルイリュージョンだった。成金ラーナは状態異常に完全耐性を持つので、目つぶしや幻惑そのものは通らない。ところが、このスキルが作り出す幻影を見抜く力は持っていない。幻影は状態異常ではないので、耐性の外側にある。しかも臆病な性格なので、幻影へ突っ込む真似もできない。通路の幅では横をすり抜けることも不可能で、逃げ道がふさがれる。
完全耐性という表示を、状態異常ではないもので迂回する。この理屈の立て方が、いかにも仕様を知っている人間の発想で気持ちよかった。追い詰められた側が目を白黒させているのも、相手が愛され枠の雑魚だからこそ許される絵だと思う。
そして、影を踏む
抜け穴の二つ目が、取得した2つ目のスキル影踏みである。状態異常でも属性攻撃でもないので、これも耐性をすり抜ける。ただしエルマ自身が「問題は俺が影踏みに成功するかどうか」と認めるとおり、難易度は高い。通路の幅が狭いとはいえ相手の素早さは自分の3倍で、しかも影はせいぜい50センチ程度しかないのだ。
この一発に彼が慎重になる理由も、台詞で示される。言い出しっぺがしくじるわけにはいかない、というものだ。そのために、ルーチェのナイフと一緒に買っておいた魔石まで持ち出す。治癒効果が薄くてほとんど使われることのない品なのだが、「こんな使い方もある」と、本来の用途とは違う形で切る。第4話のハズレスキルの逆用と同じ発想が、道具の側でも繰り返されている。
いよいよという場面で、ルーチェが「私ならやれる、私ならやれる」と自分に言い聞かせるのもいい。そこへエルマが「別に失敗しても大丈夫だからな」と横から声をかけ、「深呼吸だ。奴を狩るには、まず冷静になることが重要だ」と落ち着かせる。追い込むのではなく、失敗していい前提を先に渡してから任せている。
ハズレスキルと呼ばれた一撃
クリティカルヒットしか通らない
影で縫い止めても、まだ倒せない。防御力200を抜くにはクリティカルヒットが要る。作中の説明では、クリティカルは相手の動きを読んで芯を捉えた一撃で、通常の1.5倍のダメージに加えて相手の防御力を50パーセント貫通する。ここでルーチェが「今ならいくらでも狙う猶予がありますね」と言うのだが、エルマの答えは「いや、俺の攻撃では仮にクリティカルになってもダメージは通らないぞ」だった。
しかも影踏みを維持している以上、彼は動けない。「言っただろ? ルーチェ、頼むぞって」。序盤に置かれていた一言が、ここで意味を持つ。問題は、クリティカルを出すには技術と幸運が必要で、狙って出せるものではないという点だ。そこで名前が挙がるのが、ルーチェが元々持っていたスキルダイススラストである。
ダイススラストは、1から6の数字がランダムに浮かび上がり、その数字に応じた効果が出るスキルだ。6が出れば確定クリティカル。攻撃力を1.3倍にしたうえでクリティカル扱いになるので、合計倍率は1.95倍。さらにナイフの15パーセント貫通とクリティカルの50パーセント貫通が重複して、攻撃力1.95倍、防御貫通65パーセントの一撃になる。この数字がそろって初めて、防御力200に手が届く。
「ハズレスキルじゃねえか」と言われていた
ここで挟まる回想が、この回で一番効いていた。元のパーティーでクラインがルーチェに浴びせていた言葉だ。攻撃スキルもなしに攻撃分散程度にしかなっていないのが問題だ、役に立ってないだろお前、と言われ、やっと攻撃スキルを覚えたと思ったら「通常攻撃より期待値が低い。ハズレスキルじゃねえか」と切り捨てられている。確率でしか当たらないスキルは、期待値だけ見れば確かに弱い。
その評価に対して、エルマが真正面から答えを置く。「活躍できる場面が局所的だったり、遅咲きだったとしても、役に立たないクラスやスキルはない」。そして「個人からの評価に囚われていても仕方ない。たまたまクラインたちから見て、パッとしないように映っていたというだけだ」と続け、「改めて言うがルーチェ、俺にはお前の力が必要だ。今後とも力を貸してほしい」と頼む。第6話のスカウトで言った「お前が必要なんだ」を、根拠つきで言い直した形になっている。
期待値が低いスキルは、期待値が意味を持たない場面でだけ最強になる。一発しか撃てず、その一発が通らなければ全部やり直しという状況こそ、確定クリティカルの出番なのだ。追放された側が見返す話は珍しくないが、見返す理由をここまで数字で組んでくる作品はあまり無い。
「成金ラーナ狩り」まとめと考察
レベル30と、1700万ゴルド
結果として、二人はきっちり取り分を持ち帰る。ルーチェはレベル27を経てレベル30に到達した。これは第6話でエルマが掲げた「今回の探索でルーチェをレベル30まで持っていくぞ」という目標そのもので、宣言した数字がそのまま達成されている。
そして本命のドロップだ。成金ラーナは経験値もおいしいが、一番の旨味は高額アイテムで、ドロップ率は50パーセント。落ちたのは攻撃力プラス12、市場価値1700万ゴルドの装備と、純度の高い金の塊だった。それでもエルマの独白は「だがまだだ。あのスキルブックを買うにはまだまだ足りない」で終わる。目標であるスキルブックは取り置き料込みで5500万ゴルド、つまりまだ道の途中でしかない。
この回でもうひとつ話題になっていたのが、ルーチェを演じる若山詩音の芝居だった。怯えている時間が長い役なので、情けない声を出し続けたあとで決めるところだけ決める、という落差がそのまま見せ場になっている。戦っている時間より、震えている時間のほうが長い主役級というのも珍しい。
カエル1匹に、1話まるごと使うということ
反応は、はっきり割れていた。アバンが前回の振り返りで、そのあと成金ラーナの説明が延々と続き、肝心の狩りがなかなか始まらないという不満は複数から出ている。ボス戦でもない雑魚のカエル1匹に丸ごと1話を使うのか、という声も同様だ。一方で、役立たずと言われたルーチェのスキルを輝かせる展開そのものは同じ人たちからも評価されていて、構成への不満と、中身への満足が同居しているのがこの回の特徴だった。
擁護するつもりはないが、説明が長くなった理由ははっきりしている。耐性の抜け穴が2つ、通路の幅が4メートル、素早さが3倍、影が50センチ、貫通が15と50で重複して65パーセント。この数字を全部先に置いておかないと、最後の6がただの幸運オチに見えてしまうのだ。追放された側が見返す話で一番やってはいけないのが、見返した理由が運でした、という決着である。だからこの回は、ルーチェが必要である理由の証明に尺の大半を使っている。
そのうえで最後の独白が「レベル上げと稼ぎ。楽しい時間だ」から「この世界はゲームじゃない」へ切り替わり、次回予告では「この世界で倒れることは、本当の死を意味する」と告げられる。ここまで数字の話をさんざんしておいて、締めで数字の外側を突きつけてくるわけだ。序盤にエルマが漏らした「死ねば終わりの世界か」という一言と、きれいに輪になっている。楽しい狩りの回で終わらせず、次の重さを予告して切るこの並べ方は良かった。




関連作品:


















コメント