第19話の公式サブタイトルは「ローゼンヘイムへ」。この回でアレンが口にする解決策は、回復薬六十万枚という数字である。敵の狙いも数字で読み、援軍の見返りも数字で釣り合わせる。そしてそれは思いつきではない。公式サイトの召喚獣ページは、八つの系統とH〜Bのランクごとに「半径50メートル以内」「体力を1000回復」といった仕様だけを並べていて、名前を一つも書いていない。この作品は、そもそも数字で書かれている。




この回の主役は数字で、それは公式サイトの作りとそろっている
第19話に出てくる数字を拾うだけで、この回の性格が分かる。魔王軍三百万と予備四百万、エルフの回復薬六十万枚、一枚で二千五百人以上、ネストの負傷兵十万、ティアモの負傷兵十四万と戦えるもの六万、街を囲む三十万、手元に残った霊薬二千個。戦況も、外交も、全部が数量で処理されていく。
公式の召喚獣ページは、名前を一つも書いていない
面白いのは、この数字づくめが本編だけの話ではないところである。公式サイトには召喚獣だけを集めたページがあり、虫・獣・鳥・草・石・魚・霊・竜の八系統をH〜Bのランクごとに並べてある(※2)。ところがそこに名前は一つも書かれていない。「バッタのような召喚獣」「サメのような召喚獣」「アーケロンのような召喚獣」と、見た目と特技だけで管理されている。
特技の書き方がまた徹底していて、「半径50メートル以内にいる任意の対象の体力を1000回復させる」、「魔力の回復時間が6時間から5時間に短縮される」、「通常時の移動速度は時速50キロメートルほどだが、特技を使うと時速100キロメートルになる」といった具合である(※2)。公式サイトの時点で、この作品は仕様書として書かれている。アレンが数字で敵の狙いを読み、数字で解決するのは、世界のほうが最初からそうできているからだと思う。
型番で並んでいるものに、主人公が勝手に名前を付けている
その一覧に対して、本編のアレンは全部あだ名で呼ぶ。竜のドラドラ、ハラミ、フカヒレ、ゲンブ。公式が系統とランクで管理しているものに、使う本人だけが名前を付けているという構図で、この主人公の性格がいちばんよく出ているのはここではないかと思う。効率を突き詰める人ほど、道具に名前を付けたがる。
声が用意されているのは、言葉を話す三体だけ
同じページで声優が明記されているのは三体しかない。霊系統のCランクとBランクが二体とも堀江由衣、竜系統のBランクが武田幸史である(※2)。霊系統の二体は紹介文にも「言葉を話せる」「言葉遣いは丁寧」とある。ところが魚系統のBランクにも「おじいちゃんのような口調で話す」と書いてあるのに、こちらには声優の記載がない。一覧のほうはあくまで仕様書で、声は本編に出た順に足されているように見える。スタッフ表を見ると「サブキャラクターデザイン・召喚獣デザイン」に井坪優奈、「魔獣・大型召喚獣設定」にごとうじゅんじと別々の担当が置かれている(※3)。召喚獣はキャラクターである前に、仕様として作られている。もっともその召喚獣たちは、この回では中央大陸に残って魔王軍の情報収集まで引き受ける。仕様書のほうには書かれていない働き方である。監督は玉川真人、シリーズ構成は谷村大四郎、アニメーション制作は横浜アニメーションラボ、原作はハム男(※3)。
第19話「ローゼンヘイムへ」で起きたこと(要点だけ)
公式のあらすじは「大陸間の協力関係を崩すため、侵攻を開始した魔王軍。そのことに気が付いたアレンたちは、敵の目論見を断つための要となるローゼンヘイムへ向かう」(※1)。本編で描かれる順に並べるとこうなる。
- 魔王軍の作戦=三百万でローゼンヘイムを攻め、中央大陸からエルフを帰還させる。予備の四百万は遊撃
- ソフィーが本命を言い当てる。「同盟に亀裂を入れ、大陸間の協力体制を崩す。これも魔王の狙いでしょう」
- アレンの一手=エルフの回復薬を六十万枚、中央大陸の前線へ。一枚で二千五百人以上を全回復させる
- ソフィーがそれを「エルフの部隊を引き上げるお詫びとしての供与」に読み替える。物量が外交の形になる
- 出発前、アレンが仲間に頭を下げる。出兵命令は国王からアレンへの嫌がらせだったから
- 避難所のネストは無事だが、負傷兵が十万で回復が追いつかない
- エルフたちは黒髪を見て精霊王が予言した救世主だと沸くが、回復薬のほうは信じない
- 女王レノアティールが最前線ティアモにいると判明。召喚獣で飛ぶ
- 女王は退避を拒む。「私の身より、明日を乗り切ることを考えなさい」
- その夜、五人で夜襲。目的は殲滅ではなく、討ち減らして回復の時間を稼ぐこと
筋そのものは一直線で、迷う場面がない。迷わないのは、判断の材料が全部数字で出ているからである。
敵の狙いを言葉にできる主人公と、それを言い換えられるヒロイン
この作品のいちばんの持ち味は、主人公が敵の作戦を口に出して説明できることだと思う。三百万でローゼンヘイムを攻めれば、中央大陸に出ているエルフは帰らざるを得ない。回復役の抜けた中央大陸は保たない。戦力差は絶望的なのに、話が絶望で止まらないのはそのためである。
本命は戦線ではなく、同盟そのものだった
そのうえで、より重い一手を指摘するのはソフィーのほうだった。侵攻されたローゼンヘイムは中央大陸から部隊を引き上げざるを得ず、引き上げれば同盟内に不信が残る。「同盟に亀裂を入れ、大陸間の協力体制を崩す。これも魔王の狙いでしょう」。ここでローゼンヘイムへ行く理由が、人助けから同盟を壊させないために変わる。目的が一段上に置き直された瞬間で、今回いちばん気持ちのいいところだった。
出兵が嫌がらせだと分かったうえで、全員が乗る
出発前、アレンが仲間に頭を下げる場面がある。「俺たち五人に出兵命令が下されたのは、国王から俺への嫌がらせだ」と自分から言ってしまう。返ってきたのがドゴラの「今さらだな」、クレナの「魔王を倒すって前から言ってたじゃん」、セシルの「頑張ろうねリーダー」だった。謝られる前から全員そのつもりだったという返し方で、短いのにここまでの積み重ねがちゃんと出ている。
分配も細かい。メルルにはエルフの回復薬を一万枚と、魔力を回復させるアイテムが渡される。キールは家族をハミルトン家のリフォルに託してきたと伝えるだけで、それ以上は言わない。別れの場面に時間を使わないのもこの作品らしいところで、かわりに置いていく数と託した相手の名前だけが残る。
公式のキャストコメントが、そのまま二人の役割を書いている
公式サイトのキャストコメントを読むと、ソフィアローネ役の安野希世乃が「アレン様の戦略からも目が離せません!」と書いている(※3)。アレン役の田村睦心のほうは「ずっとオレのターンと言わんばかりのセリフ量に私も日々頑張っています」だ(※3)。喋り倒す主人公と、それを聞いて別の言葉に置き換える王女。この回はその分担がいちばんきれいに出た回だったと思う。
回復薬六十万枚は、物量であると同時に外交でもある
ローゼンヘイムを救っても、回復役を失った中央大陸が落ちては意味がない。そこで出てくるのがエルフの回復薬で、アレンが挙げた数が六十万枚だった。一枚で二千五百人以上を全回復させるという。「完璧な策ではありませんが」と前置きしたうえで、人手の穴を物で埋めにいく。
「お詫びとして供与する」という形に読み替えられる
すぐに乗ったのがソフィーで、「ローゼンヘイムはエルフの部隊を引き上げるお詫びとして、回復薬を供与する」という形にしてしまう。同じ荷物が、援助から謝罪の品に変わる。ローゼンヘイムを救い、中央大陸を支え、同盟の亀裂も塞ぐ。一つの物量で三つの問題を同時に片づけている。しかもアレンは最後に「そううまくいくとは限らないから」と付け足す。言い切らないところが、この主人公の信用できる部分だと思う。
腕が生えたのに、霊薬のほうは信じてもらえない
ネストでの場面がその裏返しになっている。黒髪を見たエルフたちは精霊王が予言した救世主だと沸くのに、回復薬で欠損まで治ったのを見てもなおそんな霊薬は聞いたことがないという顔をする。予言は信じるのに、目の前で腕が生えたことは信じない。信仰と実物の扱いが逆になっていて、この回でいちばん笑ったところだった。
数字の外側にあるものも、ちゃんと置かれている
とはいえ、この回は数字だけで押し切ってはいない。避難民の女性の「我々には武器も食べるものも帰る場所すらない」という言葉が置かれ、ティアモへは馬車で一か月かかるという距離も示される。回復薬で戻せるのは体だけで、失われた場所と時間のほうは何枚積んでも戻らない。そこを一言だけ置いて先へ進むのが、この作品の乾いた良さでもある。
女王の一言と、アレンの一言が同じことを言っている
ティアモの女王レノアティールは、救出を待つ人ではなかった。第一声が「あなたが精霊王様の予言の救世主?」という疑いから始まり、側近から自分とソフィーだけでも逃げてほしいと進言されても受けない。返したのが「私の身より、明日を乗り切ることを考えなさい」である。退避できなかった民が七十万いる、というのがその理由だった。ソフィーが護衛のフォルマールに「あなたはここに残り、回復の作業を指揮しなさい」と命じるのも良かった。王女が自分の護衛を外して現場に置くという判断である。
「エルフを食いながら進んできた」
戦闘に入る直前、アレンの独白が一段冷える。三百万の魔王軍が攻め入ってから三か月、エルフ族の犠牲者は推定三百万。そこから出るのが「奴らはエルフを食いながら進行してきたってことだ」、続けて「お前らが始めたことだ。死をもって後悔しろ」。数字を積み上げてきた人が、その数字の中身を言葉にした瞬間に怒っているのが効く。
「みんな、まだやれるよな」
夜襲そのものは痛快だった。セシルのプチメテオが一撃で一万体近くを削り、「どこがプチなんだ」と突っ込まれる。倒された召喚獣はその場で補充され、自爆する敵は言葉どおり自爆させ、北門から三万が加勢に来ても押し返す。そして「これで夜襲は終わりか」と聞かれたアレンの答えが「このまま南側の五万にも夜襲をかける。みんな、まだやれるよな」だった。女王の「私の身より明日を」と、この「まだやれるよな」は同じことを言っている。今日をどう終わらせるかではなく、明日を残すために今動く、という話である。
まとめと次回予想:夜襲の答えは、公式の次回あらすじに数字で出ている
今回の解決手段は、ほとんど全部が物量だった。同盟の亀裂には六十万枚、回復の遅れには霊薬、三十万の包囲には五人と召喚獣。それでも雑に見えないのは、数字の使い道が毎回きちんと言葉にされているからだと思う。六十万枚は援助であり謝罪であり、夜襲は殲滅ではなく時間稼ぎである。
戦果は、すでに公式が書いてしまっている
第20話「ティアモ攻防戦」の公式あらすじが、「一晩で4万体以上の魔獣を撃退したアレンたち」という一文で始まる(※1)。第19話の夜襲がどこまで通ったのかは、次回のあらすじに数字で書かれている。最後まで数量で答えが出る作品だというのが、ここでも徹底している。
次回予想:タイトルが全員にかかる回になりそう
公式の第20話あらすじは続けて、アレンがティアモ以外の三つの町に回復アイテムの配布と召喚獣の配置を終えること、その働きの見返りとして精霊王ローゼンと対面すること、そして「廃ゲーマー」全員を「ヘルモード」にしてくれるように頼むことまで書いている(※1)。予想として言えるのは、作品名がここで仲間全員にかかる、ということである。これまで一人だけが背負っていた難易度を五人で分け合う話になるなら、第19話でアレンが頭を下げた「俺への嫌がらせだ」への返事が、そこで返ってくるのだと思う。ちなみに公式サイトは第19話の放送前、八月十二日と十四日にローゼンヘイム編の新キャラクターとキャストを二回に分けて出している(※4)。人手を先に並べているぶん、この編はまだ長い。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト ストーリー(第19話・第20話のあらすじ)/hellmode-anime.com
※2 テレビアニメ公式サイト 召喚獣(系統とランク、特技の仕様)/hellmode-anime.com
※3 テレビアニメ公式サイト スタッフ/キャスト(スタッフ表とキャストコメント)/hellmode-anime.com
※4 テレビアニメ公式サイト ニュース(ローゼンヘイム編の新キャラクター&キャスト情報)/hellmode-anime.com




















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