この記事の作品:
第18話の副題は「ダームエルの申し出」である。ところが公式サイトの第18話あらすじは、その申し出の中身を書いていない。「ブリギッテの危機にダームエルがとった行動とは!?」で終わる。第16話のあらすじでは「ダームエルは美しさに見惚れて恋に落ちる」と言い切り、第19話のあらすじでも「ダームエルの恋が動き出す」と書いているのに、いちばん大きく動いたこの回だけが空白になっている。しかも本編でも、申し出を受けたブリギッテ本人が「私の名誉を守ってくださっただけですのにね」と漏らす。副題だけが、それを申し出と呼んでいる。




副題だけが、それを「申し出」と呼んでいる
公式サイトの第18話あらすじは、星結びの儀式、フェルディナンドの還俗と後見人就任、新しい衣装をまとったブリギッテ、そこへ現れた元婚約者ハスハイトの再度の申し込みまでを書いて、最後を「ブリギッテの危機にダームエルがとった行動とは!?」で締めている(※1)。予告文も「ブリギッテの危機に立ち向かえ、ダームエル!」で止まる。副題が「ダームエルの申し出」なのに、その申し出の中身だけがどこにも書かれていない。
前の回では言い切り、次の回でも言い切っている
公式が結末を伏せる方針というわけではない。第16話のあらすじは「その姿を目の当たりにしたダームエルは美しさに見惚れて恋に落ちる」と言い切っているし、第19話のあらすじも「故郷の人々に囲まれたブリギッテの新しい一面に触れてダームエルの恋が動き出す」と書いている(※1)。落ちる回も動き出す回も書かれていて、いちばん大きく動いた回だけが空白になっている。
受け取った本人にも、申し出として届いていない
同じことが本編の中でも起きる。ブリギッテはあとで「私の名誉を守ってくださっただけですのにね」と漏らし、「でも十分嬉しかったです」と続ける。ハスハイトから庇ってもらった礼として受け取っていて、一年後に求婚したいという中身のほうは届いていない。
公式の紹介にも、相手にも、この回の申し出は登録されていない。申し出と呼んでいるのは副題だけである。今回いちばん面白いのはそこだと思う。
第18話「ダームエルの申し出」で起きたこと(要点だけ)
第18話は第十八章「ダームエルの申し出」。領主会議から戻ったジルヴェスターが二つの知らせを持ち帰るところから始まり、最後は販売会で終わる。
- アーレンスバッハに嫁いだジルヴェスターの一番上の姉が、前神殿長の訃報を知らされなかったと怒っている。夏の終わりに墓参りに来る
- 星結びの儀式に合わせてフェルディナンドを還俗させる案が出る。言い出したのはジルヴェスターで、理由は本人の口から語られる
- フェルディナンドは受ける。理由として挙げたのはエックハルトとユストクスの名誉
- 儀式のあとの宴で、ハスハイトがブリギッテに再度の婚約を申し込む。謝罪は一言もない
- ダームエルが割って入り、一年後までに魔力を上げて正式に求婚したいと申し出る
- ブリギッテは受ける。ただし名誉を守るための行動だと受け取っている
- ギーベ・イルクナーの招待が植物紙の工房の話につながり、エルヴィーラが兄のギーベ・ハルデンツェルへの橋渡しを申し出る
- 販売会では絵姿の代わりに騎士物語の差し絵集が出てくる
筋だけ並べると詰め込みすぎに見えるが、実際に見ていると散らかった感じはしない。還俗の通達もハスハイトの登場もダームエルの申し出も、星結びの儀式という一つの場の上で続けて起きるからである。
ダームエルの反論は、公式の紹介文の一行目を裏返している
ハスハイトの制止は「ブリギッテは中級貴族だ。下級貴族のそなたの出る幕ではない」「少しは身分をわきまえよ」だった。返したのが「身分をわきまえて引き下がった結果、私は罰を受けました」「騎士は守るべき者がいるときに、身分を理由に引き下がってはならない。故に私が引くことはできません」である。
「身分をわきまえた結果の罰」は、公式の紹介文の一行目に書いてある
ダームエルの公式キャラクター紹介はこう始まる。「下級貴族。トロンベ討伐で身分差に負けて護衛対象を危険に晒した罰として青色巫女見習いだったローゼマインの護衛を命じられた」(※2)。つまりこの台詞はその場の反撃ではなく、公式が最初から掲げている経歴を、そのまま裏返したものである。ダームエル役は梅原裕一郎(※4)。
「掃き溜めで魔石を拾った男」という噂も、公式に書いてある
同じ紹介文は「下級貴族が領主一族の護衛騎士になることは本来ありえない幸運で、周囲からは『掃き溜めで魔石を拾った男』と噂されている」とも書く(※2)。「少しは身分をわきまえよ」は、この回で初めてぶつけられた言葉ではない。ずっと言われ続けてきた言葉で、それを面と向かって否定したのがこの場面になる。
新しく足されたのは「一年」という区切りだけ
申し出そのものは「ブリギッテには私の光の女神であってほしいと願っています」「一年後までに釣り合うよう魔力を上げ、正式に求婚したいと考えています。それまでどなたの求婚も受けずに待っていてくださいませんか」。恋に落ちたこと自体は第16話で、公式のあらすじもそう書いている(※1)。期限を切ったところが、この回で新しく置かれた部分である。一年という数字を自分から口に出したことが、この人物のいちばん大きな変化だと思う。
「魔力が釣り合わない」という壁は、公式の紹介文が先に書いていた
ブリギッテの公式キャラクター紹介はこうなっている。「中級貴族で、地方領主であるギーベ・イルクナーの妹」「貴族院ではダームエルと同期」「剣の腕も確かで、魔力の量もダームエルより多く、戦闘で頼りになる存在」(※2)。同期と書かれている以上、差は年齢ではなく量そのものである。だから一年で上げると言う以外に手がない。ブリギッテ役は瀬戸麻沙美(※4)。
同じ物差しが、上の側にも効いている
面白いのは、この回で釣り合いに詰まっているのが下級貴族だけではないことだ。結婚相手を探しなさいと言われたフェルディナンドの答えは「無駄だ。ここには魔力の釣り合う女性がいない」で、ローゼマインが「魔力が高すぎるというのも困りものですね」と受ける。家格でも財産でもなく魔力で決まるという前提が、いちばん下といちばん上に同時に効いている。
そこから、ならばフェルディナンドがローゼマインを娶ればよい、成長すれば魔力も釣り合うだろう、という話まで出てくる。返しが「この問題児の面倒を一生見ろと、どういう嫌がらせだ」で、ローゼマインも「こんなお小言をずっと聞かされるなんて、嫌がらせ以外の何者でもありません」と応じ、「息はぴったりだな」で落ちる。
衣装が効いた理由も、紹介文の最後の一行にある
ブリギッテの紹介文は「実は可愛いものが好き」で終わる(※2)。第16話の試着で「悪くないと思っています」と言えたのも、三度目のお披露目になる今回にローゼマインが「うふふ、私の護衛騎士は美しいでしょう」と得意になれるのも、この一行があるからである。そして公式あらすじは、「ローゼマインの思惑通り貴族男性達の視線を釘付けにしていると、そこへ元婚約者のハスハイトが現れる」と書く(※1)。思惑通りに行った結果、いちばん来てほしくない相手が来たという順番である。
公式が「訳あって」で伏せてきた一行が、この回で言葉になる
フェルディナンドの公式キャラクター紹介には「貴族であり、領主ジルヴェスターの異母弟。しかし訳あって神殿にいる」とだけ書いてある(※2)。訳の中身は書かれていない。それがこの回で、ジルヴェスターの口から出る。
「二人を離すため神殿へ入るよう言ったのは私だ」
もともと厳しい人ではあったが、先代が亡くなる少し前からヴェローニカの悪意はフェルディナンドが命の危険を感じるほどになった、母上はフェルディナンドが先代の死を望み領主の座を狙っていると主張し続けた、と語ったうえで、「二人を離すためフェルディナンドに神殿へ入るよう言ったのは私だ」と続ける。公式のヴェローニカ紹介も「幼少期の神官長に『役立たずは必要ない』といった言動を始め、過酷な虐待を行う」と書いている(※2)。つまり還俗の提案は、政治的な計算より先に兄の後悔から出ている。
本人は、自分の話を側近の名誉に置き換える
神殿へ戻ったローゼマインが本人に確認しに行くと、返ってきたのは「いや、その必要はない」だった。一度還俗させ、君と同じく領主命令として神殿へ送り出すのだろう、神官長としての立場が変わらないなら君にとって損はない、と説明したうえで、本命の理由として挙げたのが「何より私についていることで、エックハルトやユストクスはつまらぬ悪意にさらされている。彼らの名誉のためにも還俗は有益だ」である。自分の身の上を、側近の名誉に言い換えている。
ローゼマインは引き下がらない。「周囲の損得ではなくて、神官長自身がどう思っているのか尋ねているのですけれど」と押しても、「どうせ執務の手伝いで城へ駆り出されることは変わらぬ。ならば利点の多い方を選択するべきだ」で終わってしまう。そこに重なる内心が「本当は、するべきじゃなくて、したいって言葉が欲しいんだけど」だった。見ている側が言ってほしい一語を、最後まで言わせない。意地が悪いようでいて、この人物にはこれ以外の返し方がないのだとも思う。
「保護者の一人」から「後見人」へ
公式のキャラクター紹介は、ローゼマインを囲む大人を「保護者の一人」という同じ言い方で三人ぶん並べている(※2)。この回は、その曖昧な「一人」のうちフェルディナンドだけが後見人という正式な肩書に移る回である。当人の感想が「君の後見人か。還俗は早まったかもしれぬな」なのだから、言葉にしないという点では最後まで一貫している。
原作者が声優に出した二つの注文が、この回の温度をそのまま説明している
公式サイトのスペシャルに、原作者・香月美夜の対談が載っている(※3)。アフレコにはリモートを含めて全話参加しているという話の中で、演技への注文を二つだけ挙げているのだが、その二つが、どちらもこの回の場面に当たる。
「もっとマインに厳しく、冷たく」
一つは、フェルディナンド役の速水奨への注文として「もっとマインに厳しく、冷たく」と頼んだ、というものである(※3)。還俗をめぐるやりとりは、まさにその温度で進む。「私の意思?」と聞き返しておきながら、答えを損得へ流してしまう。ローゼマインが欲しがった「したい」の一語は、最後まで出てこない。
「もうちょっと抑えてください」
もう一つは「エルヴィーラのフェルディナンドに対する思いがあふれすぎていた」ので、演じている井上喜久子に「もうちょっと抑えてください」と頼んだ、というものだ(※3)。この回の終わりがちょうどそれである。
販売会で客が求めたのは楽譜ではなく絵姿で、代わりに差し出されるのが騎士物語の差し絵集だった。添えられる文言が「この騎士物語は虚構の作り話であり、登場する団体人物などはすべて架空のものです。似て見えても別人なのです」。念の入り方は「ローゼマインには無理なのですよね」「そうです。困ったことに私は禁止されているのです」という確認にも出ていて、禁じられているのはローゼマインだけだと二人で読み合わせている。締めが「フェルディナンド様、素敵」「優雅」と重なる声を背に、「お母様、どう見てもフェルディナンド」「違います」。原作者が一度だけ抑えてくれと頼んだ相手が、この回の締めを持っていく。
背景の貴族を流し見してはいけない、と原作者が言っている
同じ対談にはもう一つ、「この作品は背景にちょっと写っているキャラクターがじつは後々の重要人物、みたいな見せ方もしている」ので初登場のキャラクターの作画も確認している、という話がある(※3)。貴族が一堂に会するこの回は、その仕込みがいちばん効く回ということになる。台本にないガヤの台詞もその場で確認していて、「貴族なので一人称『俺』は避けてほしい」と頼んだこともあるという(※3)。衣装に重なる「素敵」も、販売会の客の声も、そのチェックを通ったものということになる。
キャラクターデザインの簑輪愛子も「ローゼマインが家族や下町の仲間たちに向ける表情と、貴族として見せる表情の違いにもこだわっております」とコメントしている(※4)。儀式のあいだは役目を淡々とこなし、終えた瞬間に「ここからは大人の時間だ」と地が出る。同じ回の中で貴族の顔と中身がくり返し入れ替わるので、その使い分けはかなり見えやすい。監督は岩崎良明(※4)。
まとめと次回予想:期限が切られたのは、ダームエルの一年だけ
情報量は多い。還俗と後見人就任、上位領地との火種、イルクナーへの招待から植物紙の工房への接続、ギーベ・ハルデンツェルへの橋渡し、そして販売会。ただ、この回で期限が切られたのはダームエルの一年だけである。
全員が、自分の意思を直接言わずに済ませようとしている
見返すと、この回はほとんど全員が言い換えで話している。フェルディナンドは還俗の可否を側近の名誉で語り、ハスハイトは謝罪を一言も入れないまま「私ならば傷ついたあなたの名誉を回復させることもできるのだから」と言い、エルヴィーラは絵姿を売るために但し書きを用意する。建前を積み上げる人ばかりの回で、「したい」を言葉にしたのはダームエル一人だった。だからこそ、その一人だけが本気だと思われないという結末が効く。ゲドゥルリーヒの比喩をそのまま返して「痩せ衰えたゲドゥルリーヒを求めてくださる方が、他にもいらっしゃったようです」と言えるブリギッテが、申し出のほうは受け取り損ねているのも、この回らしい。
次回予想:動くのは魔力ではなく、伝わっていないほう
公式の第19話あらすじは「紙作りの視察のため、ローゼマイン達はブリギッテの故郷・イルクナーを訪れる」「ダームエルの恋が動き出す」と書いている(※1)。申し出をしたあとの回に「動き出す」と置かれているのは、受け取る側が第18話の時点で止まったままだからだろう。予想として書けるのは、次に動くのは魔力の量ではなく伝わっていないという一点のほうだ、ということである。もう一つ、夏の終わりに墓参りに来ると告げられた姉の件がある。「心をえぐるような嫌味を言うぞ」「アーレンスバッハはエーレンフェストより上位の領地だ。機嫌を損ねたら外交上の問題にもなりかねん」と釘を刺されているのに、こちらは夏の終わりという目安だけで、期限が切られていない。期限のあるほうより、期限のないほうが後で大きくなるというのが私の予想である。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト ストーリー(第16話・第18話・第19話のあらすじ)/booklove-anime.jp
※2 テレビアニメ公式サイト キャラクター(ダームエル/ブリギッテ/フェルディナンド/ヴェローニカ)/booklove-anime.jp
※3 テレビアニメ公式サイト スペシャル(原作者・香月美夜の対談)/booklove-anime.jp
※4 テレビアニメ公式サイト スタッフ&キャスト(キャスト表とスタッフコメント)/booklove-anime.jp




関連作品:





















コメント