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第7話のサブタイトルは「どう考えてもゲームセットでしょ」。言ったのは味方ではなく、境内の外から数字だけを眺めている男である。塔ノ森の神事は成功していて、怪異の値も魔力値も、闇森が半年かけて張った結界の中で下がりきっていた。それを上から書き換えられたところから、この回は始まる。そして後半は闇森の子供時代に丸ごと使われ、第6話で誰も答えられなかった「それならなんでうちに応募を?」の答えが、本人の独白として置かれた。




公式サブタイトルは「どう考えてもゲームセットでしょ」。神事は成功していた
魔力値32パーセント、怪異値5パーセント
回の入口は、赤坂の感想である。「様々な怪異と関わってきましたけれど、初めて見ますわ」「あの結界魔法も強力ですけど」。元の職場で相当な数を見てきた人が、塔ノ森の神事を珍しがっている。
そこへ関係者から声がかかる。「闇森くん、様子はどうや」「なんもなしっす」。見せられた数字が「魔力値が32パーセント、怪異値は5パーセント。一般的な怪異発生値の半分以下っす」で、「この程度の魔力値なら、変異が起こる可能性はほぼゼロっすよ」と続く。返ってきたのは「さすが、教魔大の学生さんやな。頼りにしとるで、闇森くん」だった。
前回、この人は半年前から結界を張っていると言っていた。その仕事の結果が、数字ひとつで示されている。祭りの当日がいちばん安全だという前回の説明も、ここで裏づけを取られた形になる。つまりこの回の異変は、手抜きの結果ではない。きちんと守られていた場所が破られる話なので、責任の向き先が最初から違っている。
「これより人を守り、地を静め」
境内の描写がやわらかい。見物に来た親子が「あれはね、神様なんよ」と話し、「あと5分」「少しかかりますよ、怪異封印の儀式」というやりとりが挟まる。マジルミエ側では「やっぱり食べ過ぎじゃないですか」「小便だから関係ねえ」という、締まらない会話まで置かれていた。
「魔法少女やってりゃ、こんくらいの尿意一瞬で失せるわ」と言い張る声に、「出動前にはお手洗い行ってください」と返る。直後にサカヱの「行くで、坊ちゃん。ここからが見せ場や」が来るので、落差の付け方がうまい。
神事の祝詞は「これより人を守り、地を静め、幾久しく塔ノ森の守り神となれ」。見届けた側の感想が「夢のようでしたわね」で、儀式そのものは何ひとつ失敗していない。祭りは成立し、封印も済んだ。ここまでが今回の前半である。
最初の異変は「電波の入りが悪い」だった
振り返ると、兆候は儀式の最中に一度出ていた。「今何か結界に揺らぎが」という報告に対して、「安定して見えっけどな」と流されている。気づいた側も確信が持てず、微調整だろうという線で片づけてしまった。
次の兆候は、もっと生活寄りの顔で来る。「二子山くん、社長から連絡きてるんだけど、そっち読める」「僕もです」「ちょっと電波の入りが悪いからな」。移動すればいいという話で終わり、「ありがとな、カナち」「おやすい御用です」と場は和んだままだ。
重本は神事に間に合わなかったらしく、「今、社長からのメールを読んでるとこで」「さっきの神事、見てもらいたかったですね」という会話が続く。電波が悪い、という誰も警戒しない一言が、実は外との遮断が始まっていた合図だった。事故の入口を日常の不便として見せるやり方が、この作品はいつも巧い。
感知、半径ゼロメートル以内
外が消え、電話も通らなくなる
急に暗くなった境内で、赤坂が「何ですの? 突然あたりが暗く」と身構える。そこへ怪異の確認結果が出るのだが、これが今回いちばん背筋の寒い一行だった。「感知、半径ゼロメートル以内」。探すまでもなく、もう内側にいるという意味である。
サカヱは「大神の炎、千里の川」から始まる祝詞で払いにかかるが、手応えがない。外部との連絡も同時に切れていて、「外には繋がりませんのね」「電話も繋がりません」「かなりの強度で妨害されてる」と分かる。
力任せに破ろうという声も出たが、「やっぱり、そうすぐには破れないか」で終わってしまう。避難経路の確保が指示され、閉じ込められた側は中で何が起きているかを外へ伝える手段を失った。守る前提だった結界が、そのまま蓋になっている構図だ。
「槇野が押し負けてますわ」
混乱の中で早かったのが槇野で、「簡易の結界です。短時間ならしのげます」と、その場で見物客を囲ってしまう。赤坂の「さすがの判断力ですわ」が短く入り、「では、メインに行きますか?」「行きまいりましょう」と前へ出た。
ところが押し返される。「槇野が押し負けてますわ」という報告が入り、二発目、三発目が続けて来ると告げられる。前に出たサカヱも「塔ノ森の領分や。やんちゃな真似はさせへんよ」と啖呵を切り、「心配いらんよ、響ちゃん。こんなん、境内のカラスと一緒や」と笑ってみせた。
この「心配いらんよ」が後で効いてくる。守られているのは境内の人たちだけではなく、自分の結界を破られた闇森の側でもあるからだ。半年かけた仕事を目の前で上書きされた人間に、最初に声をかけたのが幼馴染だった、という順番がきちんと組まれている。
「どう考えてもゲームセットでしょ」と言った男
戦っていない。数えている
視点が外へ切り替わると、この状況を作った男が座って眺めていた。第一声が「あれ? 魔法少女、あと二人いるじゃん。計算狂うな」である。焦りではなく、見積もりのずれとして扱っている。
続けて「あのデザイン、重本くんとこの子か」「変な縁だね。そう思わない?」と、そばの相手へ話しかける。前回の引きで、重本が「彼は本来、塀の中にいるはずだからな」と言った相手が、重本を旧知の呼び方で口にしたわけである。
そこから先が気味悪い。「ベースは土系で」と材料を並べ、境内の怪異と魔法少女をまとめて素材として数え上げ、「激レア怪異になるかな?」と品定めする。「せっかくなんで、おまけ」で結界と怪異をさらに強化してから、「どう考えてもゲームセットでしょ」。サブタイトルが敵の一言で、しかも本人は一度も戦っていない。この置き方だけで、これまでの怪異退治とは種類の違う話だと分かる。
「闇森くんのじゃない」
内側では、結界の異常が二度目として観測される。「まただ」「何がですか」「結界に不自然な歪みが加えられてる」、そして「闇森くんのじゃない」。作った本人の癖を知っている人間がいたおかげで、事故ではなく他人の手だと即断できた。
別の言語で上から書き換えられている、という表現も嫌な感じで良かった。守るための設計に、まったく別の目的の文が重ねられている。直後に「変身解除の反動や」で動けなくなる者が出て、「魔法が出ない」「こちらもです」「なぜ」と手が止まる。
それでも「私、救助行きます」と動く人がいるのが、この会社らしい。魔法が出ないと分かった直後に出る言葉が救助なのだから、順番として立派だと思う。ここまでが今回の戦闘部分で、残りの尺はまるごと一人の子供時代に使われる。
10歳の成人と、最初の大人
どっちボールの回転
「やっぱりここにおった」という声から、回想が始まる。小学生のサカヱが「どっちボールやらへん? 人数たらへんねん」と誘い、闇森は「ええよ、迷惑かけるし」と断る。「そんなこと言わんと、たまには一緒に遊ぼう」で引っ張り出された。
結果は圧勝である。「お前、ずるやろ」「ボール取ったら全員当てて、誰も取れへんボールなんて、ありえへん」と抗議されて、本人はまじめに答えてしまう。「ありえへんことない。僕の投げる角度とスピードを考えて、適切な回転を」。言われた側は「ええよ、ずるでも。これ、うちの外野に回すわ」と、要するに戦力扱いで隔離した。
遊びの輪に入れてもらったはずが、結果として一人だけ別枠に置かれる。子供のやることなので悪気はないし、褒め言葉すら混じっている。それでも、この日の出来事が本人の中でどう記録されたかは、次の場面で本人が言う。
「すごいって言われるたびに、みんな僕のこと嫌いになるんや」
帰り道、闇森は「やっぱり迷惑やったやろ」と確認する。サカヱは全力で否定する。「そんなことないって。闇森くんすごかったやん」「ぐるぐる回転して落ちるボールとか、一回で二人も当てる技とか、なんか魔法みたいやった」「闇森くん、なんでもすぐできるもんな。ほんまにすごいわ」。
返ってきた答えが、この回の芯だった。「そのすごいって、あんま僕好きとちゃう」「すごいって言われるたびに、みんな僕のこと嫌いになるんや」「大人もみんなそうや。最初はすごい言うけど、だんだんみんなに合わせ言うてくる」「みんなも大人も僕が嫌いなんや」。
別の日の場面が、その具体例として置かれている。学校を早引けしたことを咎められ、「せっかくの特進クラスやのに、追い出されるで」と言われて「特進なんて名前だけや」と吐き捨てる。理由を聞くと、プログラミングの授業で質問したら、先生が分からないという理由で怒られたという。能力が高いこと自体が罰になる環境が、ずっと続いていたわけである。
これに対するサカヱの返しが良かった。「うち神社やろ。塔ノ森の巫女は10歳から成人なんよ」と前置きしてから、「私な、闇森くんのこと苦手やない」「最初の大人になる」。すごいと言ったあとで離れていく大人しか知らない子に対して、離れない大人を一人だけ用意する、という約束である。10歳の成人という土地の決まりを、こういう形で使うとは思わなかった。
「けど、俺は結局一人だった」
そのあと、サカヱは仕事という形で居場所を作ろうとする。「さあ、響ちゃん、うちの仕事手伝ってくれる?」「塔ノ森の祭りに技術畑が足りひんの」「響ちゃん頭ええし、できるんちゃう?」。最後に本音が付く。「それにこのまんまやと、また一人になってまうやん」。
ところが神社でも同じことが起きる。「すごいな、響くんは」「ほんま、他の人にはできひん、大助かりやね」と褒められ、本人が「難しくないっすよ、これはサーバーを構築する」と説明を始めた途端、「いやいや、わしには分からんわ。頼んだで、響くん」で打ち切られる。そして独白が入る。「けど、俺は結局一人だった」。
ここで前回の場面が短く反復される。「んで、わざわざ事前になんすか。作業中なんで長引くと困るんすけど」。サカヱの「今、坊ちゃんがこうしておられんのは響ちゃんのおかげなんや」に対する「単なる作業っす」。カナの「着眼点はすごくいいと思うけど、普通ここまでできないよ」に対する「結局、その程度か」。どれも前回は感じの悪い態度にしか見えなかったのに、回想を通したあとだと説明を打ち切られ続けた人間の予防線に見えてくる。
そして、応募の理由が本人の口から出る。「俺が一人にならない世界を、サカヱに頼りすぎないように」。前回、断る前提の態度を取りながらなぜ自分から応募したのか、という問いが宙に浮いたまま終わっていた。答えは、幼馴染が一人で背負ってくれている状態から抜けたい、だった。最初の大人になると言ってくれた人に、いつまでも頼り続けないための就職である。
「どう考えてもゲームセットでしょ」まとめと考察
守るために作った物が、そのまま蓋になる回だった
終盤、封印が内側からこじ開けられる。「あの封印をこじ開けたのか?」という驚きに対して、サカヱの「坊ちゃん…うちのために…」が重なった。年に一度だけ外に出す約束で28代続いてきた怪異が、自分から出てきたことになる。前回、退治せずに祀る道を選んだ理由が、ここで一応の返事をもらった形だ。
外側では二子山が道を作りにかかっていた。「二子山さん、この結界にどうやって」と問われ、返ってきた答えに対する反応が「手動って、一人でこの量、全部を」である。公式のあらすじも、外から突破口を開こうとするのは二子山だと書いている。人見知りの裏方が、量で殴るという一番地味な方法を選んだ。
今回はきれいに対になっている回だった。境内では守るために張った結界が、そのまま閉じ込める蓋に変わる。回想ではすごいという褒め言葉が、そのまま人を遠ざける合図に変わる。どちらも、悪意なく作られたものが反対の働きをしてしまう話である。
だからこそ、外の男の「どう考えてもゲームセットでしょ」が引っかかる。数字の上では確かに詰んでいて、魔力も出ず、外とも繋がらず、前衛は押し負けている。それでも計算に入っていなかったものが二つあった。祀られていた怪異が自分の意思で出てきたことと、結界を手で削っている人間がいることである。どちらも数字にならない。一人にならない世界を自分で作りたい、と言った男がこのあとどう動くのかを、次回いちばん楽しみにしている。




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