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第7話のサブタイトルは「亜人の希望」。八番区の序列一位になったアリヒトたちの、まるごと一話ぶんの日常回である。ただしこの回で明かされるのは、解体屋ライカートンの妻が亜人で、メリッサはその母と離れて育ったという事実だった。テレジアを必ず人に戻すというアリヒトの約束が、何年かかるか分からない約束として置き直される回である。戦闘は一度もないのに、この作品でいちばん重い情報が並ぶ。




公式サブタイトルは「亜人の希望」。序列一位の直後に、かつあげ現場
未踏領域の発見と侵入で、八番区の序列一位へ
冒頭はギルドの報告からで、受付のルイーザが「アトベ様の功績があまりにすごかったので、少々の間意識が遠くなってしまって」と我に返るところから始まる。評価されたのは未踏領域の発見と侵入で、「一度もギルドに到達者が帰還していないことを意味しています」「ですが皆様、無事戻られています」という説明がつく。
つまり前回たどり着いたあの部屋が、制度の上では前人未到の到達として計上されたわけである。これで八番区の序列一位になるのだが、アリヒトの反応が「揉め事はなるべく避けたいし、他の探索者にはあまり知られたくないが」で、喜ぶより先に警戒しているのがこの人らしい。
一位になった瞬間から目立つ側に回る、という理屈を先に立てている。前回まで命がけだった分、こういう反応の落差が効く。
かつあげを、パーティー編成で解決する
街へ出ると、ファルマの子どもたちとシルバーハウンドのシオンが男たちに絡まれている。もともとは探索者に同行する護衛犬で、今は子どもたちの護衛をしている大型犬である。言い分が「このクソ犬がわざとぶつかってきやがって、大事な革靴が汚れちまった」「金貨十枚だ。それで見逃してやるよ」で、要するにかつあげである。子どもの側は「シオンはぶつかってないよ」「お兄ちゃんに、あの人がぶつかろうとしたから守っただけで」と食い下がっている。
ここでのアリヒトの手が面白い。「少しシオンの力を俺に貸してくれるか」と子どもに断り、「よし、シオンがこっちのパーティーに加わった」と宣言してから支援防御と支援攻撃をかける。この人の支援は同じパーティーでないと届かないので、助けるためにまず編成をいじったことになる。
締めが「守ったのはシオンです。俺はシオンの勇気に引っ張られただけで」で、手柄を犬に渡している。設定の説明でも見せ場でもなく、けんかの仲裁で職業の仕組みが使われるのがいい。
解体屋ライカートンが語る、メリッサの母のこと
「迷宮が探索者に残した希望のようなもの」
解体屋に素材を持ち込んだところから、この回の本題が始まる。ライカートンの口から出るのが「迷宮国では、探索者が死亡したり亜人になったりということは日常として起こっています」という前置きである。
そのうえで続くのが「しかし亜人の方は、元の姿に戻る方法があるとも聞きます」「迷宮が探索者に残した希望のようなものだと、私は思っていますよ」。副題の「亜人の希望」は、ここから来ている。アリヒトの答えが「俺もそう思います」「彼女を仲間にした時に、必ず元に戻すと決めましたから」だった。
戦闘がゼロの回なので、見せ場が無いという感想も出ている。ただ、副題が指しているのはこの数十秒で、そこだけは今シリーズでもかなり重い部類だと思う。
妻は亜人になった後に、メリッサを産んでいる
ここからが今回の新情報である。「今は他人事のような言い方をしましたが、私の妻、メリッサの母は亜人なのです」。経緯が「妻は迷宮で命を落とし、亜人となって捜索隊に発見されました」「その時すでに、彼女のお腹にはメリッサがいたのです」。
つまり亜人になったあとに出産している。そして「メリッサを産んだ後、妻は知人のパーティーに同行し、探索を続けています」「亜人化を解く方法にたどり着くには、序列を上げることが必要になりますから」。母は自分を人に戻すために、娘と離れて今も潜り続けている。だから父の側が店で娘を育ててきた。
これはアリヒトとテレジアの先の姿でもある。必ず戻すと言った人間が、それが何年もかかる約束だという実例を、目の前で見せられている。戦わない回なのに、いちばん背筋が伸びる場面だった。
「青春というものについて、どう思います?」
父が娘について相談してくる
続けてライカートンが切り出すのが「アリヒトさん、青春というものについてどう思います?」という、解体屋の店先には似合わない質問である。中身は「メリッサは子どもらしいことには興味が薄く、唯一関心を示したのが魔物の解体でした」「それゆえずっと店の手伝いをしてもらっていて、同世代の子と関わる時間を経験せずに来ました」。
そして「滅多に訪れない希少素材を楽しみに、今しかない若い時間、日々を浪費し続けていいのでしょうか」。アリヒトが要点をまとめると、「ええ、メリッサにはもっと外の世界を見てきてほしい」「父のおせっかいと言われるかもしれませんがね」と返ってくる。
娘を仲間にしてくれ、と直接は言わない。青春という言葉を持ち出して遠回りするのが、この父親のやり方なのだと思う。
迷彩石と、メリッサ本人への確認
素材から出たのが迷彩石で、装備に取り付けるとアクティブステルスという技能が使える。周囲の風景に溶け込めるが「魔力の消費が激しい。乱発はできないから要注意」という条件つきである。アリヒトが「じゃあ前衛の誰かに」と言いかけたところに、五十嵐の「何言ってるの、つけるのはアトベ君でしょ」「またあんな風に怪我してほしくないし」が入る。
前回の被弾がここに効いている。アリヒト自身も「逆に言えば、魔力の消耗を抑えられれば透明人間になれる」「敵に気づかれない間に攻撃も可能になるな」と、守りではなく攻めの道具として読み替えている。
そして仲間に誘う手順が丁寧である。父の頼みを受けたあとで「ところで、メリッサ本人は?俺たちと一緒に探索に出たいという希望は」と確認し、「ある」と分かってから「なら参加してほしい」と言う。メリッサの自己紹介が「私はメリッサ。解体と分解ができる。よろしく」だった。
二番手になった男、ゲオルグの登場
「それで、どんな新星が現れたのかと思ってね」
宿の手続き中に声をかけてくるのがゲオルグである。名乗る前に事情を明かすのが早い。「俺たちは八番区でトップのパーティーだったんだが、ついさっき二番手になった」「それで、どんな新星が現れたのかと思ってね」。
アリヒトの受け答えが「貢献度が思ったより多かったので暫定一位になったようですが、でも運が良かったのが大きいですよ」で、返ってくるのが「序列を駆け上がる人間にしては謙虚なんだな」。レベル九のエリーティアがいると聞いて「最近八番区に降りてきたっていう、エリーティア・セントレイルか」と当ててくる。
抜かれた側なのに、嫌みが一切ない。男性の探索者がほぼ画面に出てこない作品なので、同格の相手と対等に話す場面自体が久しぶりだった。
パーティーに名前をつける習慣を、知らなかった
名乗りが「俺はゲオルグ。北極星のリーダーだ」で、アリヒトが聞き返すと「パーティーの名前だよ。あんたのパーティーに名前はないのか?」。名前をつける習慣があること自体を知らなかったと分かる。新人であることの示し方が、レベルでも装備でもなくこれなのがうまい。
続きも人物が出る。「お前がリーダーだろ? 勝手に決めちまえばいいじゃないか」に対して、「一応リーダーってだけで、うちのパーティーが成り立っているのは他のメンバーのおかげなんだ」。ゲオルグの評価が「なるほどな。お前、面白い男だな」だった。
別れ際が「次は飲みにでも行こうぜ、アトベさん」「いや、アリヒト」で、姓を名で呼び直させている。敵か味方かを引っ張らずに、その場で距離を詰めきってしまうのがこの回の空気だと思う。
食卓と、明日の相談
湿地のカニと、伝えられない言葉
夕食は湿地のカニで、「泥臭いのかと思いましたが、下処理がきちんとされてますね」と評される。エリーティアが野菜を残そうとして「私は日によって身長が変わるの。今日は調子が悪いだけ」と言い張り、テレジアは出されたものを次々に引き受けて「いい食べっぷりだな」と言われている。
その流れで出るのが重い話である。「アリヒト、テレジアと筆談はできないの?」に対する答えが「文章を書いたりとかできないみたいだ」「見たり聞いたりして理解はしていても、自分から言葉として意思を伝えることが封じられてるんだろうな」。
亜人化は話せなくなることではなく、伝えることを封じられることだと言い直されている。スズナの技能でも声は聞き取れない。食事の場でさらっと出すには、かなりきつい情報だった。
別働隊という手と、誰と風呂に入るか
ミサキはレベルが低く体力が足りないので留守番のはずが、「メリッサちゃんと後ろの方からついて行きますね。戦闘には参加しないで、別働隊って感じで」と自分から案を出す。アリヒトの支援は仲間の後ろに立てば通じるので、離れた位置取りでも成立するという確認になっている。
技能選びの相談も入る。ミサキには当たり外れの大きいものを見送らせて「あと一レベル待ってみてくれるか」、スズナには本人の希望を優先して霊媒を取らせる。アリヒトの基準が「大事なのは手数の多さなんだ」で一貫している。
そのあとが風呂の順番の相談で、テレジアが誰と入りたいかで場が止まる。五十嵐の言い分が「アトベ君がテレジアさんと一緒だと、私が一人になるんだけど」で、アリヒトの「え、それを心配してたんですか?」が入るところまで含めて、この回でいちばん賑やかな場面だった。
「亜人の希望」まとめと考察
のぼせたテレジアと、「その時に教えてほしい」
夜、テレジアが眠れずにいる。原因は湯当たりで、アリヒトが「温度の変化はリザードマンには致命的だ」と言って回復をかける。リザードマンが変温動物だという設定が、そのまま看病の理由になっている。
そこで出るのが「こっちに来てからテレジアには助けてもらってばかりだったのに、お礼の一つも言えてなかった気がする」「俺のパーティーに入ってくれてありがとうな、テレジア」である。言葉を返せない相手に、まず礼を言っている。
締めが今回いちばんの台詞だった。「でも、もし俺に言いたいことがあるなら、覚えていてくれ。いつか必ず人間に戻すから。だから、その時に教えてほしい。テレジアの声で、言葉で」。今は聞けないと認めたうえで、聞くのを先に予約している。察してみせるのではなく、後で本人の口から聞くと決めているのがいい。
考察。希望とは、時間がかかると知ることだった
この回の情報を並べると、副題の意味が一段変わる。亜人は元に戻れる。これは希望である。ただし同じ場面で、ライカートンの妻はまだ戻れていないことも示された。希望があるという話と、すぐには叶わないという話が同時に出てくる。
アリヒトが第3話で全員に宣言した「テレジアを人に戻す」は、これまで目標として置かれていた。今回それが先に同じ道を歩いている家族の実例と並べられて、何年かかるか分からない約束として置き直された。だから最後の台詞が「必ず戻す」ではなく「その時に教えてほしい」という形になる。
仲間の増え方も同じ理屈で動いている。シオンは子どもを守った勇気で、メリッサは父の願いと本人の希望で、どちらも戦力として計算される前に、まず事情を聞かれてから入っている。そのうえで引きが、街へ押し寄せる魔物の大群である。一話まるごと戦わなかった分、次回は逃げ場がないと思う。




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