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第7話のサブタイトルは「お嬢様の悩み」で、この「お嬢様」が誰を指すのかが二重になっている回だった。前半は朝帰りした伊月に雛子がキレているところから、テーブルマナーの最終試験まで。後半で明かされるのが美麗は天王寺家の実の娘ではなく、赤ん坊の頃に引き取られた養子だったという事実である。そして美麗が本当のことを打ち明けたのに、伊月は嘘を返してしまう。締めの雛子の一言が、そのまま美麗の悩みへの答えになっていた。




公式サブタイトルは「お嬢様の悩み」。まずは朝帰りから
静音の第一報が「お嬢様がキレていらっしゃいます」
開幕から容赦がない。前話の終わりで天王寺家に泊まった伊月が戻ってくると、静音の第一声が「過去のことより今の問題です」「お嬢様がキレていらっしゃいます」「すぐに機嫌を直してください」だった。
部屋に入れば「おかえり」「朝帰り」の二段構えで、雷が鳴っていたから泊まらざるを得なかったという説明にも「うん」「長々と言い訳してご苦労様」としか返ってこない。伊月の判定は「これは確かにキレてる」である。
追及の仕方が独特だった。呼び寄せて匂いを嗅ぎ、「伊月の匂いじゃない」「落ち着かない」。そこから「一緒に食事したんだ」「家でお風呂入ったんだ」「天王寺さんと一緒にお風呂入ったんだ」と段を上げていき、伊月が笑って否定しかけた一瞬の間を「今の『あ』って何」と拾う。
言い逃れが崩れたところで出るのが「伊月は天王寺さんのお世話係なの」という詰め方だった。伊月が「違う、雛子のお世話係だ」と言えば「だったら、伊月は私のそばにいるべき」と返る。分かってると言えば「わかってない」と重ねてくるあたりで、もう理屈の話ではない。
電話でお願いしていたのは、テーブルマナーの最終試験だった
ここで冒頭の一行が効いてくる。戻った直後に伊月が確かめていたのが「静音さん、電話でお願いしたことは」「ご用意しております」というやり取りで、その中身が昼食の席で明かされる。
静音の宣言が「本日は伊月さんもご一緒に食事を取ります」。事情は「テーブルマナーを習得するまでは、雛子と一緒に食事をしてはいけないっていう約束だった」というもので、だからこそ天王寺家でテーブルマナーを重点的に教わっていた。静音の立ち位置は審査で、「これが最終試験です」「私の目で伊月さんのマナーを確認させていただきます」。
雛子の評は「すごく成長してる」、静音の判定は「合格です」。伊月が「これからはなるべく一緒に食事をしたいと思ってるんだが、いいか」と聞き、返ってきたのが「うん」と、そのあとの「伊月、こっち一緒に食べよ」だった。
内心の一言が「この笑顔を見られただけで頑張った甲斐があった」で、すぐ後ろに「天王寺さんにお礼を言わないとな」が続く。雛子の笑顔の材料を用意したのが美麗だったという並べ方が、後半に効いてくる。ちなみに合格後に静音が付けた注意は「常にマナーを守らなければならないというわけではありません」「ただし、この食堂には華巌様も顔を出されることがありますから」だった。
98点と、元気のない天王寺さん
小テストの点数が変わっている
放課後の勉強会に移ると、美麗の様子がおかしい。呼びかけに「あ、少し考え事をしてましたわ」と反応が遅れ、体調を気遣われても「お気になさらず。体調に問題はありません」とだけ返す。
それでも採点はしてある。伊月の小テストは98点で、美麗の評が「惜しいですわね」だった。前話の順位表で伊月は上位五十名の圏外、自己申告が「平均か少し下くらい」である。そこから満点に二点まで来ているのだから、教わる側も教える側も相当のことをやっている。
そのうえで告げられるのが「今日でテーブルマナーは一旦終了とさせていただきます」だった。根拠は「先日、私の父も問題ないと言ってましたし」。やるべきことは進めているのに反応だけが鈍い、という描き方で、伊月の見立ても「やっぱり天王寺さんにしては元気がないな」で止まっている。
誘われなかった成香と、「私はこれでも都島家の娘なんだぞ」
休憩中に登場するのが成香だった。こんな時間まで残っていた理由が「うちで開発した製品を学院で使用できないか打診していたのだ」で、実家がスポーツ用品のメーカーだという設定がちゃんと仕事の形で出てくる。
面白いのはその後である。伊月が「勉強しないとまずいんじゃないか」と言って別れかけると、「今のは私も勉強会に誘ってくれる流れじゃないのか」と引き止め、「やっぱり私は誘いにくいのか」「この前クラスメイトたちがそんな噂をしているのを聞いてしまったからな」まで自分から言ってしまう。
伊月が食事に誘えば「い、いいのか、こんな誘いにくい人間が参加しても」「やはり私の味方は伊月だけだ」と一気に戻る。落差だけで一場面が持つ人物になっていて、マナーができていると褒められて「お前、馬鹿にしているのか」「私はこれでも都島家の娘なんだぞ」と怒るところまで含めて可笑しい。
この場の食事風景を見て美麗が「お二人があまりにも楽しそうでしたので」と出てくる。楽しそうな二人を外から見ていたという置き方が、この回の美麗の立ち位置を一言で示していた。
縁談の相談と、名前のつかない気持ち
いつかはと覚悟していた。ただ少し急だった
伊月が「何かあったんですか」「俺でよければ話を聞きますよ」と踏み込んで、ようやく本題が出る。「実は縁談の話が来ておりますの」。
気が進まないのかと聞かれると否定する。「天王寺家の娘ですから、いつかはと覚悟していましたわ」「ただ少し急でしたので、戸惑っている状態ですわ」。横で成香が「私たちにとっては宿命といっても過言ではない悩みだな」と受けるのだが、自分の話になると「私はどちらかというと恋愛結婚がしたいというか」「とにかく私は縁談を受けないからな」と言い切ってしまう。
成香の家の対応も対照的だった。一度そういう話題になったことはあるが、「父も母も『お前にはまだ早い』の一言で終わらせてしまった」という。伊月の返しが「それは娘のことをよく見ているご両親だな」で、言われた本人は「どういう意味だ」と気づいていない。
伊月自身の答えは正直なものだった。「縁談というものが俺にはよく分かりません」「ただ、天王寺さんにとっていい話なら、その時は応援します」。美麗は礼を言い、「おかげさまで少し吹っ切れましたわ」「私は必要以上に身構えていたのかもしれませんわね」と一度は収める。
「変ですわね。何でしょうか、この気持ちは」
収まらなかったのが伊月のひとことのほうだった。「仮に縁談が決まったとしても、これまでと変わらず一緒に過ごしたいと思います」。成香が「わ、私もだ」と乗り、美麗も「ええ、そうですわね」と合わせる。
ところが内心はまるで違っていた。「まったく鈍い方ね」「縁談が決まったら、もう今のようには」「それにしても、もう少し何か言ってくださってもいいのに」「先日はあんなことを言ってたくせに」と続く。
ここで前話の一場面が差し込まれる。卒業後に自分のもとで働かないかと持ちかけたとき、伊月が返した「天王寺さんと一緒に仕事をするのは楽しそうですね」である。あの返事を、美麗はまだ抱えたままだった。
締めが「変ですわね」「何でしょうか、この気持ちは」。サブタイトルの「お嬢様の悩み」は縁談の話だと思って見ていたが、本人がまだ名前をつけられていないほうの悩みも同じ言葉に入っている。二重にしてあるのが、この回のうまいところだった。
ダンスのレッスンと、暴走する思いつき
視線や表情も重要ですわよ
テーブルマナーが終わった次の課題が社交ダンスだった。場所は貸し切りの体育館で、理由は「たしなんでおいたほうがいいですわ」「姿勢もおのずと良くなりますし」。「早く私のそばへ来てください」「もっと近くですわ」と距離まで指定される。
伊月の飲み込みは早く、美麗の評も「運動神経がいいようですね」。護身術で褒められたと言えば「武道は心身を鍛えるのにいいですわね」「私も少々たしなんでいますわ」と返ってきて、この人が何でもできる人だと改めて分かる。
問題は次だった。「ちょっと、どこを見ていますの」「ちゃんと私の方を見てください」「ダンスは体の動かし方だけでなく、視線や表情も重要ですわよ」と叱られた伊月が、言いにくそうに告げるのが「その服が汗で透けています」である。返事は「見ているんですの」の一言で、重い話が続く回の中でここだけ空気が抜けていた。
いっそ天王寺グループで役職を設けてお招きすれば
締めの会話が地味に重い。舞踏会の機会は会食ほど多くないと前置きしたうえで、美麗が言うのが「私の縁談が成立すれば、こんな風に放課後を一緒に過ごすことはできなくなりますわ」だった。理由は「できるだけその方のために時間を費やすべきでしょう」。
伊月の反応が「それは寂しくなりますね」で、聞き返されて「今日改めて思いましたが、天王寺さんと一緒に何かをするのは楽しいので、こういう時間がなくなるのは寂しいです」とまで言う。美麗の返事は「そ、そうですか」だけで、言いかけた何かも「な、なんでもありませんわ」で引っ込められた。
一人になってからの独白が今回いちばん可笑しい。「寂しいと思っていたのは私だけではなかったのですね」から「こんな日々をずっと続けるにはどうすれば」と考え始め、「いっそ天王寺グループで何か役職を設けてお招きすれば」「縁談が成立しても、これまで通り」まで行ってしまう。
そして自分で「何を馬鹿なことを」と止める。前話でスカウトの話を持ち出したのは冗談半分だったはずなのに、今度は縁談を回避する手段として同じ案が出てきている。本人が気づいていないだけで、優先順位はもう入れ替わっていた。
「私は養子なのです」
母の「無理に気負う必要はないのよ」
うなったり笑ったりしている娘を見つけた母が声をかける。「一人で笑ったり、うんうん唸ってるから」という指摘に「考え事をしていただけですの」と誤魔化されても、「あなた、友成さんと放課後を過ごすようになってから毎日楽しそうにしているわ」と続ける。
どんな人なのかと聞かれた美麗の答えが真面目だった。「初めてお会いした時は、どこか自信のない印象でしたが」「あの方には向上心があって、勉強もマナーも、今日のダンスの練習でも一生懸命で、尊敬に値しますわ」「何より一緒にいるといつも楽しくて」。母が「いいお友達と巡り会えたようね」と受けると、「ええ、できればこれからも彼と一緒に」と続けかける。
ここが大事なところで、母は縛っていない。「無理に気負う必要はないのよ」「あなたはいつもいろんなものを抱え込んじゃう癖があるけれど、本当はもっと自由に」。それに対する娘の返事が「心配ご無用ですわ、お母様。私は自由に生きています」だった。
前話で美麗は自分の生き方を「私が私のために定めたルールですわ」と言っている。親は求めていないのに本人が課している、という形が今回も繰り返された。顔合わせの打診にも即答で「もちろんですわ」と応じる。
「だってあなたも養子なのでしょう」
レッスンが早く切り上げられた日、用事の中身が顔合わせだと知って、伊月がもう一度踏み込む。「やっぱりその縁談にあまり気が進まないのでは」「いつもの天王寺さんじゃないというか」。返ってきたのが「私は立場上、縁談を受け入れなくてはなりません」だった。
そして打ち明けられる。「私は養子なのです」「引き取られたのは赤ん坊の頃ですから、あまり実感はありませんが」「私は天王寺家の実の娘ではありません」。両親は実の娘のように扱ってくれるが、血は流れていない。だから「より一層天王寺家の娘にふさわしい行動を心がけています」「それが私の義務ですわ」となる。
伊月が「まさか義務で婚約をするんですか」と食い下がっても「私たちのような家柄ではよくある話です」で流され、そのうえで正面から言われてしまう。「他ならぬあなたなら理解してくれますわね」「だってあなたも養子なのでしょう」。根拠は第4話で指摘されたつけ焼き刃のテーブルマナーで、「あの時点で察していました」とのことだった。
ここが今回の一番痛いところである。伊月の内心は「でも俺が守るのは此花家で」「俺は養子ではなく、ただの使用人だ」。本当のことを言えば此花家との約束に反するので、言えるのは「ご内密にお願いします」だけだった。美麗は「もちろんですわ」「やはり私の目に間違いはありませんね」と満足して去っていく。
残ったのが「胸が痛かった」「俺が今までずっと見て見ぬふりをしてきた罪悪感だ」という一行だった。相手は本当の秘密を差し出したのに、こちらは嘘を返した。身分を偽って通っているという設定が、ここで初めて痛みとして機能している。
「お嬢様の悩み」まとめと考察
同じ義務に対する、二人のお嬢様の答え
この回は同じ問いを二人に投げて、答えを並べる作りになっている。問いは「家に生まれた者は義務とどう向き合うか」で、先に答えたのが美麗だった。
美麗の答えは「それが私の義務ですわ」である。血が繋がっていないぶん、より一層ふさわしくあろうとする。注意したいのは、両親は一度もそれを要求していないことだった。父は前話で「無論、美麗が良ければの話だが」と付け、母は今回「無理に気負う必要はないのよ」と言っている。
つまり美麗を縛っているのは家ではなく本人の自己評価で、だからこそ外から「やめていい」と言われても効かない。伊月の「いい話ならその時は応援します」という返事が美麗を余計に苦しくしたのも、そこに理由がある。
一方で伊月は、美麗の秘密を受け取った直後に同じ問いを雛子にぶつけている。聞き方は「雛子は此花家の令嬢として、どんな風に自分の義務と向き合っているのか」。この並べ方があるから、最後の答えが効く。
天王寺家以外の世界があること
雛子の答えは身も蓋もないところから始まる。「勉強は普通にめんどくさい」。それでも続けるのは「私のせいで誰かが悲しむのも好きじゃないから」で、「家のことは息苦しく感じることもあるけど」とも認めている。
そのうえで出てくるのが本題だった。「伊月が来てくれて本当に嬉しかった」「私の世界は此花家だけじゃないってわかったから」。義務から逃げたのでも、義務を受け入れきったのでもない。外側があると知ったから中側に耐えられるという答えになっている。
それを受けた伊月の独白がこの回の締めだった。「あの人は知っているのだろうか」「天王寺家以外の世界があること」。美麗の悩みに対する答えが、美麗のいないところで、別のお嬢様の口から出ているという構成である。サブタイトルの「お嬢様」が誰なのか最後まで決めないのは、たぶんこのためだった。
引っかかりも残る。美麗は「私は自由に生きています」と言い切っていて、外側が無いのではなく今いる場所を自分で選んだつもりでいる。だとすると伊月にできるのは、世界の広さを教えることではなく、先に自分の嘘を回収することのほうだろう。顔合わせがどうなるかも含め、次が重い回になりそうだった。




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