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『猫と竜』第11話の副題は「終の寝床」。森の最長老ポムポラが、祭りの前のモシャモシャ広場、王都の弟子ハイブチと国王、夜の森のひ孫たちを順に訪ねてから、昔の縄張りへと向かっていく。史上最高の魔法の名手の最期の旅は、あいさつ回りの形をしている。ただ、その旅を最後まで引っぱるのは名前と同じポムポラの実で、締めくくりの一言も「あの悪童め」だった。




祭りの前に来て、祭りの話をして帰る
公式サイトのあらすじは、森の最長老ポムポラが、いつもと同じ朝日を見つめながら自らの「最期の時」を悟り、思い出の地を巡る最期の旅に出ると書いている。最初に顔を出すのはモシャモシャ広場で、弟子たちからは「もうちょっと待てば祭りがある」という声が漏れる。祭りの直前という、いちばん中途半端な時期に来ているのである。
「わしはただのじじいですからの」
四代目モシャモシャは「ずいぶんご無沙汰しておりやす」と頭を下げ、ポムポラのほうは「そうかしこまらんでくださいな」「わしはただのじじいですからの」と返す。一方で若い弟子は「誰です」と首をかしげ、兄弟子に「史上最高の魔法の名手ポムポラさんを知らない」と驚かれる。同じ一匹が、親分には頭の上がらない相手で、新入りには知らない老猫になっている。
先代の三代目について、ポムポラは「あれは少々口うるさすぎたんだよ」「自分でもずいぶんやんちゃしたくせに弟子には厳しかった」と笑い、四代目も「いろいろと教えていただきました」と応じる。先代になった友だちの話を、その弟子と笑ってできる場所が、旅の最初に選ばれている。
初めて猫じゃらしを見た日
若い頃のポムポラは町の暮らしに満足していて、森には「ほとんど興味がなかった」という。誘われて出かけた先が「森の中にあたり一面猫じゃらしっていうところ」で、はしゃいで魔法を撃ったところを「デタラメに魔法ぶっ放しやがって」「ここはモシャモシャ広場だぞ」と怒鳴られる。
そのうえで本人がまとめるのが「初めて猫じゃらしを見た日、三代目とも初めて会ったのさ」「あいつと知り合ってから、森に遊びに行くようになった」。森で生きた猫生の入り口が、この広場だったことになる。最期の旅がここから始まるのは、順番としてまっすぐだと思った。
別れ際、四代目は「すぐに祭りもありますし、いつでも来てやってください」と送り出し、ポムポラは「お前さんと話せてよかった」と返す。祭りの誘いを受けながら、祭りの前に来て帰っていく。四代目がそれをどこまで察していたかは、画面からは分からない。
「悪童」は、本人より周りが覚えている呼び名
広場で四代目が懐かしがるのは、子どもの頃に聞いた「旦那と師匠二匹だけで、でっけぇ魔獣と戦った話」だ。「ワクワクして聞いたもんです」と言う相手に、ポムポラは今思えば危なかったと振り返り、「褒められるようなことじゃないし、むしろ悪さばかりしていたからな」と取り合わない。
続けて四代目が持ち出すのが「羽のおじさんが旦那と師匠を悪童呼ばわりしてましたっけね」。武勇伝として語り継がれている話を、本人は悪さとして覚えている。その呼び名を使っていた一匹が、猫竜だった。
植物園で飛んでくる「果物泥棒殿」
王都では国の植物園に足を運び、弟子のハイブチが「やんちゃしてた頃の師匠の餌場でしたよね」と言う。そこで出てくる相手の第一声が「果物泥棒殿か」で、ポムポラは「久しいの、王子」と返す。続いて「爺たちを呼んで来い、悪童殿が来ているぞ」の声がかかる。
公式サイトのあらすじは、国王たちを「かつて彼を『悪童』と呼んでともに周囲を騒がせた」相手と書いている。一緒に騒いだ側まで、ポムポラを悪童と呼ぶ。王になった相手を今も王子と呼ぶポムポラと、年を取った相手を今も悪童と呼ぶ側とで、呼び名だけが昔のまま止まっている。
ひ孫に渡される「王都一の悪童」
夜、狩りの練習をしているひ孫たちに出くわしたとき、ポムポラは「わしの血を引いとれば、イタズラの一つもするとも」と言い、その場で「お前たちのひいじいさんは、王都一の悪童だったからな」と返される。本人がほとんど口にしない呼び名が、周りの口からひ孫にまで渡っていく。
旅の途中で、先の約束が増えていく
王都までは、市へ苗の買い付けに向かう農家の馬車に乗せてもらう。農家は「仕事を任せんと成長せんからね」「もっとも息子は、女房も子供もいるいい歳なんですがな」と笑い、ポムポラは「いくつになっても子供は子供だものの」と返す。「もしや同世代かな」と聞かれて、答えが「年上」と分かる流れには笑った。
師匠の顔で「まったくだらしない」
馬車を降りたポムポラは、気づかれないまま弟子のハイブチに近づく。「まったくだらしない」「気づかなかったのかの」とたしなめ、「まだまだ若い者には負けんよ」と言ってから、「で、どうだね、面白そうな人間は見つかったかの」と聞く。第8話で街の出来事を見ている姿が描かれたハイブチの人間観察には、話を聞きに来る師匠がいたことになる。
しかも、ハイブチが目をつけている人間が、さっきの馬車の農家だった。「長年、芋で酒を造る研究をしておりまして」「ついに最適な芋を見つけたそうなのです」。偶然乗せてもらった馬車が、弟子の観察の相手そのものだったという作りがうまい。
「見てみたかった」と「また聞きに来るでの」
芋酒の話を聞いたポムポラは「芋で酒を造ろうとした人物、見てみたかった」と言う。ハイブチは「見ましょう見ましょう」「すぐに仕込みを始めるはずですから」「その時はお迎えに行きます」と前のめりになる。
別れ際には、泊まる場所の手配も見送りの申し出も「いらんいらん」と断り、「それより芋酒の件、また聞きに来るでの」「よーく観察しておいてくれ」と約束だけを残す。広場の祭りに続いて、ここでも先の約束が一つ増える。一度は「見てみたかった」と口にした話を、弟子の前では次の宿題にして帰る。この老猫の気の遣い方が、いちばんよく出ている場面だと思った。
名前と同じ実を、最後まで食べに帰る
王都に泊まっていけばいいという申し出を断る理由は、「明日食べごろになりそうなポムポラの実を見つけておっての」「他の動物に食われんようにせんとならんのだ」だった。ハイブチの返事は「食い意地張りすぎです」。最期の旅の予定を決めているのが、木の実の熟れ具合なのである。
「だからあなたはポムポラなのね」
回想の中で、若いポムポラは「どうしてもポムポラの実が一番うまい」と言い、それを聞いた相手が「だからあなたはポムポラなのね」と返す。子どもたちに実を食べさせる場面でも「うまいか、ポムポラの実だぞ」と声をかけている。名前と同じ実が、自分の好物で、家族に食べさせる物で、最期の日の段取りにまでなっている。
「もう食えんな」
旅の終わりにポムポラがつぶやくのは「もう食えんな」。実の食べ頃を理由に王都から帰ってきた老猫が、最後に口にするのも食べ物の話だった。そこから「猫は死ぬと、黄金色の猫じゃらし畑に行くという」言い伝えへ移っていく。食い意地で決めた帰り道が、そのまま終の寝床への道になっている。副題の重さに対して、きっかけが食い意地というのがこの作品らしい。
史上最高の魔法は、子育てに回っていた
植物園の場面から、若い日に葡萄を食べた夜の回想に入る。姿と匂いを魔法で消していたポムポラに、声をかけてきた猫は「月が綺麗ね」「こんな日は、何か果物でも食べたくなるんだけど」と言う。見抜かれた理由は「だって美味しそうな匂いがするんですもの」。
ポムポラは「姿形も自分の匂いも消していたのに」と悔しがり、果物は「授業料って言うんですって」の一言で取り上げられる。史上最高の魔法の名手に、その魔法の欠点を教えたのがこの猫だった。それでも回想の締めは「でも、確かに月は綺麗だった」で、負けを認める言葉と惚れた言葉が一緒に出ている。
縄張りを持たない猫と、町猫
相手は「縄張りを持たず、他の猫たちの厄介事を片付ける」流れ猫だった。森に来たポムポラに「気をつけて、近くにクマの親子が住み着いたわよ」と教え、ポムポラは「俺は一応、町猫なんだ」と答える。狩りでも「ほらね、私のやり方でも取ってこれたでしょ」と言われ、「分かった分かった、認めるよ」と引き下がる。
「俺はもしや、子育てのために魔法を習得したんだな」
子どもが生まれてからも、連れ合いのところには助けを求める声が来る。「ごめんね、今はちょっと子育て中なのよ」と断りかけた相手に、ポムポラは「いいよ、行ってこいよ」「俺だけでも世話できるからさ」と送り出し、ひとりで子どもたちの前に立って「俺はもしや、子育てのために魔法を習得したんだな」と言う。
史上最高と言われた魔法の、本人による使い道のまとめがこれである。悪童として暴れた魔法も、欠点を突かれた魔法も、最後は流れ猫の留守を守るほうへ回っていた。
夜のひ孫たちとの場面にも、その続きがある。ポムポラが「危なくなったら体を浮かせる魔法を使うんだ」と教えると、「そんな難しい魔法は、まだこの子たちには使えんぞ」と止められ、それでも「素質はあるはずですとも」と譲らない。子育てのために覚えた魔法を、今度はひ孫に渡そうとしている。
「最高じゃねえか」で閉じる猫生
ひ孫たちと別れるとき、ポムポラは行き先を「昔の縄張りに散歩ついでですの」と答え、「この子らをよろしく頼みます」と羽のおじいちゃんに預けていく。散歩のような言い方のまま、最期の場所へ向かっている。
そこで思い出すのが「猫は死ぬと、黄金色の猫じゃらし畑に行くという」言い伝えで、続く独白が「嫁と子供と孫に囲まれて」、友の作った猫じゃらし畑に行けるなら「最高じゃねえか」だった。
最初と最後が、同じ猫じゃらし
若い日に初めて猫じゃらしを見た広場で三代目と出会い、最期には友の作った黄金色の猫じゃらし畑を思い浮かべる。この回は、猫じゃらしで始まった森の猫生を、猫じゃらしで閉じている。祭りの前に広場へ寄ったのも、祭りを見られない代わりに、畑そのものを見に行ったのだと読める。
「あの悪童め」
結びは、湖のほとりのポムポラの木の話だ。「この湖で狩りの目印にしてるポムポラの木」「すっごく甘くて美味しい実なんだけど」「たまに腰抜けちゃうほど酸っぱい実が混じってるんだよね」。そして最後の一言が「あの悪童め」である。
泣かせる副題の回を、いたずらの一言で締める。周りが呼び続けた悪童の名が、実の味になって森に残っている。静かな回なのに、最後に笑える余地を残してくれたのがうれしかった。
おまけを付けなかった回
いつもは放送日に小説を投稿している原作側のアカウントが、この回については、どんなおまけを付けても蛇足になりそうだという理由で、おまけの話を無しにしたと告知した。作り手の側がこれ以上は足さないと決めた回だった。
原作でも人気の一話
公式サイトのキャストコメントで、ポムポラ役の麻生智久は「この話、原作でもとても人気の一話なんです」と制作スタッフから聞いたと書いている。大きな事件は起きず、あいさつと食べ物と昔話が続くだけなのに、見終わると一匹分の猫生がまるごと残る。人気の理由はそこにあると思う。
振り返ると、ポムポラの旅は祭りの前の広場、弟子のいる王都、ひ孫のいる森と、どこでも相手の今を確かめる形で進んでいた。自分のことはほとんど話さず、呼び名は周りが覚えていて、名前は好物の実と同じである。
まとめ
第11話「終の寝床」は、最期の旅を、あいさつ回りと食べ納めの形で描いた回だった。祭りの誘いにも芋酒の話にも「また」と返し、最後は「最高じゃねえか」で自分の猫生を締める。悪童の名は、湖のほとりの酸っぱい実になって残った。
静かに見送る回のあとで、物語はもう一度にぎやかな方へ向かうはずだ。ポムポラの木の実をかじった猫が、また腰を抜かしているかもしれない。




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