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幼いころ、対価をもらわずに少女を助けた魔女の話を変だと言ったロゼ。月日がたち、買い出しに出たロゼは街の子どもたちに泥を投げつけられ、魔女だと知った大人たちには恐れられてしまう。そこへ駆けつけたハリージュは、子どもにも大人にもまっすぐな言葉を向けるのだった。対価のない魔法、ハリージュの言葉、そして完成した惚れ薬まで、第5話を振り返る。




第5話 幼いロゼと良き魔女
対価のない魔法
第5話「魔女であること」は、幼いロゼがティエンから昔話を聞かせてもらう回想から始まる。かぼちゃを馬車に、みすぼらしい服をドレスに変えた魔女の話に、小さなロゼは納得がいかない。「どうして対価ももらわずに」、「その子にドレスと馬車をあげたの」。
ティエンの答えは「その子がいい子で大好きだったからかな」、「それに良き魔女だったのかも」というものだった。けれどロゼは「魔女にいいも悪いもない」、「魔女はただそこにいて対価に望みを返すだけ」、「等価交換だもの」と言い切る。幼いながらも、魔女とはそういうものだと信じて疑わない姿が印象的だった。
「その難しい注文に応えるのがティエンの仕事でしょ」と言い返す小さなロゼに、ティエンは「じゃあとある湖に住む魔女のお話をしようか」と語り始める。時に人を助け、時に人を導く湖の魔女。「君はどんな魔女になるんだろうね」という言葉は、今のロゼを知っていると胸にしみる。
対価をもらわずに助ける魔女は変だと言った幼いロゼ。この冒頭の問答は、そのまま第5話全体の問いになっている。見返りを求めない優しさを受け取ったとき、等価交換で生きてきた魔女はどうすればいいのか。何気ない回想が、ラストの選択につながる仕掛けになっていた。
ティエンの見た成長
現在の庵を訪れたティエンは、ロゼを見て「いかにも魔女らしい魔女になったな」とつぶやく。出されたのは、牛乳を入れて茶葉とスパイスを変えたというお茶。「食事に何の興味もなかったロゼが」と驚きつつ、温度の話ばかりするティエンに、ロゼの「温度の話やめろ」が飛ぶやり取りが楽しい。
冬に向けて湿布や虫をいぶす薬を大量に頼むティエンに、ロゼは「今回は譲ってあげる」、「湖の良き魔女だから」と引き受ける。第2話で生まれた良き魔女という言葉が、いつの間にかロゼ自身の口から出てくるようになっていた。ティエンが「影響は甚大だな」と笑うのも無理はない。
「父親の気持ちってこういうものなのかもしれないね」、「あのロゼが僕にお茶を出してくれるようになったわけだし」。テーブルクロスまで使うようになったと喜ぶティエンは、そのクロスが誰の趣味かまで見抜いて「まあ好みはだいたいわかったから問題はない」。「あとはホープチェストに揃いの食器」と、何やら嫁入り道具の準備まで始めているらしいのがおかしかった。
一方でロゼは、頼まれた薬の一覧を見ながら「あとは惚れ薬」、「薬ができたらこれも返さないと」と考える。ティエンが勝手に先の未来を思い描いて浮かれる横で、ロゼだけは薬の完成が終わりの合図だと知っている。その温度差が、この回の切なさの始まりだった。
第4話では、ティエンがいつもの席に腰かけたとき、ロゼが心の中でそこは特別な席だと思う場面があった。今回のテーブルクロスも同じように、ロゼの暮らしの中に、いつの間にかハリージュの気配が増えている。本人は気に入っているわけではないと否定するけれど、ティエンにはすべてお見通しのようだ。父親のような目線でロゼの変化を喜ぶティエンと、その変化をなかったことにしようとするロゼ。二人の会話は軽やかなのに、どこか寂しさが残る場面だった。
魔女への偏見
泥を投げる子どもたち
買い出しに出たロゼのあとをつけていたのは、街の子どもたちだった。「魔女は森の奥から来てたんだ」、「俺たちはお前なんか全然怖くないんだからな」。子どもたちはロゼに泥を投げつけ、「恐れ入ったかざまあみろ」と得意げに笑う。
子どもにとっては、悪い魔女を退治する冒険のつもりだったのかもしれない。けれど一方的に泥をぶつけられるロゼの姿は痛々しく、手にしていた薬の材料まで台無しになってしまう。言い返すことも逃げることもせず、ただ受け止めているロゼの表情がつらかった。魔女の力を使えば、子どもたちを追い払うことなど簡単だったはずだ。それでも何もしないのは、ロゼが人を傷つける魔女ではないからだろう。泥にまみれながら材料の心配をしているところにも、薬を待つ人々を思うロゼの人柄がにじんでいた。
そこへ駆けつけたのがハリージュだった。「何があった」、「大丈夫か」。ロゼが大丈夫だと答えても、ハリージュは子どもたちを逃がさない。「お前たちが反省していれば 下ろしてやる」と、まずは子どもたちを捕まえて反省を促す。
本当に魔女なのかい
騒ぎを聞きつけた大人たちがやってくると、ハリージュは「子供たちはこの女性に泥を投げつけた」、「それも一方的に」と事情を説明する。大人たちは最初こそ子どもを叱るが、子どもが「魔女なんだぞ」と言った途端、空気が変わる。
大人の一人に「お嬢ちゃん、その、本当に魔女なのかい」と問われ、ロゼは「はい」とだけ答える。魔女は嘘をつけない。その一言で、大人たちは青ざめて「この子たちはまだ幼く、あなた様が偉大な魔女とは知らなかったのです」と平身低頭になってしまう。
そのときロゼの胸に浮かんだのは、「一体 魔女が何をすると思っているのだろう」、「4年前から何も変わっていない」、「魔女はやはり魔女なんだ」という思いだった。謝られているのに、少しも救われない。魔女だと分かった瞬間に恐れられ、持ち上げられる。その扱いこそが偏見なのだと、ロゼの静かな表情が物語っていた。
ハリージュの言葉
偉大でも魔女でも関係ない
「偉大なんかじゃありません」と言うロゼの横で、ハリージュは大人たちを制する。「彼女を持ち上げて 物事をうやむやにしようとするな」。そして続けたのが、この回でいちばん大事な言葉だった。「偉大でも魔女でも関係ない」、「人に泥をぶつけるのはいけないことだ」。
それでも子どもは「みんな迷惑してる」、「早く森からいなくなればいいって」と言う。ハリージュは「魔女殿がお前にどんなひどいことをした」と問い、まだ何もされていないと答える子どもに、魔女殿の作る薬のことを一つずつ確かめていく。作物の虫を殺す薬、腰を痛めた人の湿布。知らないうちに、街の人々もその恩恵を受けているかもしれない。
「知らない者は怖いかもしれん」、「だがその恐れを何の罪もない人にぶつけることは」、「最低な行いだ」。頭ごなしに叱るのではなく、相手が知らなかったことを示したうえで、それでも許されないことは許さない。「さあ、謝りなさい」と促すまでの流れが、とても誠実だった。
それでも一人だけ謝らない子どもには、「この冷たい湖の中で反省するんだな」と容赦がない。暴力ではなく、けれど甘やかしもしない。悪いことをした子どもに真正面から向き合うハリージュの姿に、思わず背筋が伸びた。
大人たちへの言葉
ハリージュの言葉は、子どもだけでなく大人たちにも向けられる。「自分たちでしつけができないしわ寄せを」、「彼女に押し付けるな」。「二度とこんなことをしちゃだめよ」、「魔女様に怒られるからね」と子どもを諭す親の言葉に、問題の根っこが見えていたからだろう。
「魔女じゃなくとも」、「人を罰することはできる」、「それは分別をわきまえた大人だからだ」。そして「少しは自分の目で物事を見る力を養うといい」。魔女を怖がらせる道具に使うのではなく、悪いことは悪いと大人が教える。言葉の一つ一つが、子どもを持つ親にも見ている側にも響くものだった。
騒ぎのあと、薬草を売っていた店の主人が「取り置きの準備してやるから」、「また来てくんな」と変わらず声をかけてくれたのも救いだった。ロゼが魔女だと知っても、いつもの客として接してくれる人がいる。ハリージュの言葉が、少しだけ街の空気を変えたように見えた。
第5話のまとめ考察
借りた外套と引いた線
泥だらけのロゼに、ハリージュは「いいから羽織っていろ」と外套を貸す。家に風呂はあるのかと尋ね、「問題がなければ我が家で貸すが」と言い出すハリージュに、ロゼは「問題大ありです」。真面目な顔でずれた気づかいをするハリージュらしさに、少しだけほっとした。
けれど、「魔女殿の平穏が乱されるようなことがあれば」、「きっと力になろう」という申し出に、ロゼは首を振る。「本当にもう十分です」、「これまでも一人でやってきましたから」。差し伸べられた手を、ロゼは自分から離してしまう。
ロゼの心の中にあったのは、冒頭の回想と同じ考えだった。「彼は対価を支払って」、「私は薬を作る」、「それだけの関係でそれっきりの関係」。対価のない優しさを受け取り続けることは、等価交換で生きてきた魔女には許されない。だから「もうこれ以上は何ももらえない」。幼いころの問答が、ここで痛いほど重く響いてくる。
完成した惚れ薬
それでもロゼは、「偉大でも魔女でも関係ない」、「この言葉さえあればこの先一人で生きていける」と心の中でつぶやく。もらった言葉だけを宝物のように抱えて、これ以上は何も望まないと決めた。その覚悟があまりにも静かで、見ていてつらかった。
「薬を完成させよう」、「できるだけ急いで」。それからおよそ1週間後、眠らずに最後の調整を終えたロゼの手で、「ハリージュ様に望まれていた惚れ薬が」完成する。薬ができればハリージュが庵を訪れる理由はなくなる。それを分かっていながら、ロゼは自分の手で終わりを早めたのだ。
第5話は、魔女であることとどう向き合うかを、ロゼとハリージュの両方から描いた回だった。ハリージュはロゼを魔女ではなく一人の人として守り、ロゼは魔女であるからこそその優しさを受け取れないと線を引く。同じ言葉を大切にしながら、二人の気持ちはすれ違っていく。
対価をもらわずにドレスと馬車をあげた魔女を、幼いロゼは変だと言った。けれど今のロゼは、見返りを求めない優しさを確かに受け取っている。完成した惚れ薬を前に、湖の魔女はどんな選択をするのか。ティエンが問いかけた「君はどんな魔女になるんだろうね」の答えが、少しずつ近づいているように感じた。




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