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第17話(第十七章)のサブタイトルは「領主会議のお留守番」。領主夫妻が城を空ける2週間を、ローゼマインは読書三昧で過ごすつもりでいた。ところが予定はお茶会と裁縫と礎への魔力供給で埋まっていく。さらにこの回では喋る魔剣シュティンルークが生まれ、おじい様に睨まれ続ける本当の理由まで明かされる。




見るからに脳筋
あなたのおじいさまですよ、ローゼマイン
領主夫妻が城を空けるあいだ、礎に魔力を供給するためローゼマインは城で留守番になる。ジルヴェスターは「ローゼマイン、ビルフリート、留守を頼む」と二人に託し、留守中はボニファティウスが領主代理として城に滞在すると告げる。「あなたのおじいさまですよ、ローゼマイン」と紹介されて、彼女は親族の名前を覚えさせられたときの記憶を引っぱり出していた。
そして初対面。名乗りが「ボニファティウスだ」の一言だけで、ローゼマインの内心が「見るからに脳筋」。第一印象がこれである。本人は「お初にお目にかかります、ローゼマインです。水の女神フリュートレーネの清らかなる流れに導かれし、良き出会いに祝福を祈ることをお許しください」ときっちり挨拶を返し、「許す」の一言で受けられる。この短さが、あとで全部誤解の材料になっていく。
お父様とお母様が帰ってくるまでの2週間は読書三昧だ
「何かあれば、ボニファティウスを頼るとよい」と言い残して領主夫妻が出発する。見送った直後のローゼマインの心の声が「お父様とお母様が帰ってくるまでの2週間は読書三昧だ」。この期待が、次の朝から順番に潰れていくのが今回の骨格だった。
実際の一日は、朝食のあと体力作りと勉強、午後は裁縫の練習、夕食後に魔力の供給、それ以外が読書。おじい様は魔力温存のため供給しないらしい、という補足も入る。しかも自由時間に図書室へ行こうとすると、リヒャルダから「それより、お披露目のお茶会の準備を進めなければなりませんよ」。
「準備はリヒャルダにお任せします」と丸投げしようとしたら「いいえ。良い機会なので、姫様にはお茶会の段取りを覚えていただきます。姫様主催のお茶会なのですから」と正論で返される。「私の読書時間」という嘆きが実に短くて良かった。領主の養女という立場は、読書の時間を守ってはくれないのだった。
流行よりも、自分を一番きれいに見せられる衣装を
どのような衣装を流行らせるつもりか、一度見せてちょうだい
お茶会のきっかけは「ブリギッテに新しい衣装を考えたそうね。どのような衣装を流行らせるつもりか、一度見せてちょうだい」という一言だった。前話で仕立てられた衣装が、そのまま社交の場に引っぱり出される。料理人の腕を褒められ、考案したカルタが話題に上がり、会そのものは上々の滑り出しだった。
そしてブリギッテのお披露目。「とてもよく似合うわ」に続いて「飾りのない胸元を見れば、殿方が魔石を贈ってくださるかもしれなくてよ」とからかわれ、本人は「からかわないでください」と赤くなる。外野が「魔石だって」とダームエルを小突いているのがおかしかった。
今の流行が似合わない彼女のために考えたものです
「この衣装でブリギッテに見惚れる殿方が必ずや現れますわ」という声を受けて、ローゼマインが会の趣旨を言葉にする。「この衣装は、今の流行が似合わない彼女のために考えたものです」。そして「皆様も、流行よりも自分を一番きれいに見せられる衣装をまとうのが一番だと、私は思います」。
流行を作る側に立った人間が、流行に合わせなくていいと言う。これは商売としても賢い。一種類を全員に売るのではなく、体型や年齢ごとに別の正解があると認めてしまえば、服の需要はむしろ増える。本人にその計算があるかは分からないが、友人を庇うための言葉が、そのまま新しい市場の宣言になっているのがこの作品らしいところだった。
それもう剣じゃなくて神官長だよ
補講にすべて合格したそうですね
読書に戻れると思った矢先、アンゲリカが帰ってくる。「補講にすべて合格したそうですね」という言葉に「はい、皆様のおかげです」と誇らしげで、勉強嫌いの彼女に勉強を教えるのはトロンベ討伐と同じくらい大変だったという一文が添えられる。
ご褒美として、ローゼマインが彼女の魔剣に魔力を注ぐことになった。「でも長いのですね。短剣かと思っていました」に対する説明が「込める魔力によって刀身の長さが変わります。魔物と戦うには、刀身は長い方が有利なのです」。さらにアンゲリカは、洗礼式で登録した適性以外も増やしたいと望む。彼女は火と風なので、それ以外が欲しいのだという。
問題は最後の注文だった。「自分の短所を補うのが苦手なので、それを補って欲しいです」。受け取ったローゼマインは、アンゲリカに足りないのは知性だから、周囲の意見を聞いて、間違ったことをすれば叱ってくれるような。そこまで考えて、自分で自分に突っ込む。「って、それもう剣じゃなくて神官長だよ」。この一行がこの回のすべての原因である。
我が主、君は何も分かっていない
そこへ本物が来る。「そこで何をしている!」と現れた神官長に「怒られる。マジで怒られる」と縮み上がるローゼマイン。「他人の魔力が入りすぎると、持ち主が制御しにくくなる。もしも、アンゲリカから君に持ち主が変わったらどうするつもりだったのだ」と叱られている間に、魔剣が口を利いた。「我が主、君は何も分かっていない」。
しかもその声が神官長そのものである。「魔剣が喋っています」「君の仕業か」というやりとりのあと、剣は「我が主の主であるローゼマイン様の魔力と望みにより、私は生まれた」と出自を語る。「何を望んだ」と詰められて「知性が欲しいと。このようなことになるなんて思わなかったのです」と白状するローゼマイン。
ところが剣は続ける。「主の主だけではない。そなたが魔力を通してくれたため、私は誕生するに至った」。神官長が「少しだけだ。影響がないか確認するためにな」と釈明すると、ローゼマインがすかさず「なら最終的にとどめを刺したのはフェルディナンド様じゃないですか」。返事は「明らかに君が悪いだろ」で、責任のなすりつけ合いが始まる。
救いはアンゲリカの受け止め方だった。「こんな残念な進化を遂げると思わなくて」と謝られても、「私の代わりに覚えてくれて、いろいろ教えてくれる剣なんて他にはありません。私はこのシュティンルークを大事にしたいと思います」と即答する。名前まで用意してあった。
極めつけが最後の一往復。剣が「我が主に足りない知識は私が補う」と宣言し、ローゼマインが「本当に良いのですか? ものすごく口うるさいですよ」と念を押すと、背後の神官長から「ほほう」。口うるさいのが誰の声で喋っているのかを、本人が忘れている。笑いの組み立てとして完璧だった。
下級貴族の良いお小遣い稼ぎになっていたので
貴族院を卒業した方々の資料を集めれば
シュティンルークに知識を蓄えて教えさせよう、という話から、ローゼマインの発想がいつもの方向へ伸びる。神殿で兵法の勉強をしていたら、通りがかったエックハルトが貴族院時代の資料を提供してくれた、という前例を引いて、「貴族院を卒業した方々の資料を集めれば、参考書を作れると思うのです」。
「なるほど、それは良いな」と乗り気になり、「売れるかしら」「売れると思います」と話が進む。本を増やす口実が見つかると、この人は途端に早い。
参考書が売られると金銭的に厳しくなるのか
面白いのはここで止まるところだった。「講義内容をまとめた木札を売ったり、代理で書き留めたりするのは、下級貴族の良いお小遣い稼ぎになっていたので」という指摘が入る。参考書を刷れば、その手間賃で暮らしていた人たちの収入が消える。
「参考書が売られると金銭的に厳しくなるのか。分かりました、もう少し考えてみますね」と引き取るところが良かった。便利なものを作れば誰かの仕事がなくなる、という当たり前を、思いついたその場で誰かが言ってくれる環境がこの子にはある。夕食後の魔力供給ではビルフリートが目に見えて消耗していて、神殿で慣れているローゼマインとの差もさりげなく描かれていた。
ローゼマインにはあまり近寄らないようにする
完全に嫌われてるみたい
魔力供給のたびに、ローゼマインは「おじいさま、いつもありがとう存じます」と礼を述べる。そのたびに返ってくるのが、あの視線だった。内心は「睨まれてるよね」。側仕えに「私、おじいさまを怒らせるようなことをしたかもしれません」と相談するところまでいってしまう。
週末に神殿へ戻る許可を取るときも同じだった。工房や子供たちの様子を見たい、ギルベルタ商会から面会依頼が来ているときちんと理由を並べて願い出るのに、「まただ。やっぱり怒ってる」と怯えてしまう。返事は「承知した」の四文字。許可は下りているのに、ローゼマインの結論は「完全に嫌われてるみたい」だった。
可愛い孫娘のためだ
そして種明かしが来る。「体調を崩しただと? 軟弱な」とこぼすボニファティウスに、「父上の大声で一喝したら、ローゼマインは死ぬな」と返す声がある。「大げさな」と言いながら、彼が出した結論がこれだった。
「ローゼマインにはあまり近寄らないようにする。可愛い孫娘のためだ」。睨んでいたのではなく、顔が怖い自覚と、孫娘が本当に虚弱だという事実の板挟みで、どう近づけばいいのか分からなかっただけである。
嫌われていると思い込む孫と、壊さないよう距離を取る祖父。どちらも相手を大事にしているのに、それが理由で遠ざかっていく。しかも二人とも自分の判断に自信を持っているから、誰も訂正してくれない。気の毒でありながら、ずっと笑ってしまう場面だった。
あいつから預かってるんだ
住み込みか。寂しくなるな
下町の場面も進む。トゥーリがコリンナの工房へ移れることが決まり、「正確に言うと移るのはギルベルタ商会だよ」という訂正が入りつつ、家族は素直に喜ぶ。そこへ「住み込みか。寂しくなるな」という父の一言が落ちる。娘が一人前になることと、家からいなくなることが同じ知らせなのだった。
翌日の買い物も良かった。10歳から丈が変わる決まりに「膝丈だったのに、すね丈か。変な感じ」と戸惑い、ブラウスは一着でいいと言う母に、ルッツが「そんなんじゃ全然足りねえぞ」と口を挟む。「うち、そんなにお金ないよ」に対する答えが「あいつから預かってるんだ。今までの稼ぎがあるから、それを使ってくれって」。
城にいる妹が、下町の姉の服を買っている。本人がその場にいないまま家族の生活に効いているのが、この作品のいちばん優しいところだ。そのルッツが「ずっと一緒じゃないと思う」と漏らし、ギルベルタ商会から紙作りと本作りを切り離すという話へ繋がっていく。
できた。世界に一冊の本
神殿に戻ると冬の眷属の絵本が仕上がっていて、「これで子供用絵本は全て完成です」と報告が上がる。ローゼマインは「私のグーテンベルクたちに感謝を捧げ、神に祈りましょう」と英知の女神と芸術の女神に祈りを捧げ、側にいた者から「あれが本を前にしたローゼマイン様の普通の反応です。慣れてください」と説明されていた。
そのあと、彼女がもう一冊を自分の手で綴じる。「できた。世界に一冊の本」。夏で10歳になるトゥーリへの誕生日の贈り物で、ルッツに託すときの言葉が「これトゥーリに渡してほしいの」。受け取ったルッツが「母さんの物語集か」と中身を言い当てるのが効いていた。
量産できる本を作る側の人間が、たった一冊しか存在しない本を姉のために作る。印刷を広めることと、手で綴じることが、この人の中では矛盾していない。ちなみに同じ場面では、兵士を辞めてギルベルタ商会に入ったオットーが貴族式の挨拶を披露していて、前話の教育がきちんと実を結んでいた。
まあグーテンベルクでなかっただけ良しとしよう
蔵書量でいきなり他領に嫁入りするんじゃないか
ベンノの用件は新しい店の話だった。「俺とマルクとルッツでな」と切り出し、理由をこう説明する。城での販売会以降、貴族との付き合いが増えたことを快く思わない大店の旦那衆から「ギルベルタ商会は服飾を扱う店だろう」と文句をつけられた。「やっかみですか」と聞けば「お前が関係してるからな。利益も莫大だしな」と返る。
そこでトゥーリの契約の話になる。正式にダプラとして結ぶ方向で進んでいるが、それだといざというときに動けないのだという。理由が最高だった。「図書室を発見して本読みたさに突然神殿入りしたように、蔵書量でいきなり他領に嫁入りするんじゃないかと不安で仕方がない」。
前科があるので反論できない。ローゼマインは「私の専属でもあるトゥーリを店から移れないように囲っておきたい、ということですよね」と要点をまとめ、この世界にはチェーン店がないから暖簾分けの考えが伝わらないと内心で唸ったうえで「いざとなったら、トゥーリのために工房を用意しますよ」と請け合う。返ってきたのが「君はもう本当にあの頃の君じゃないんだな」だった。
印刷に人生をかけた彼の印刷工房
新しい店の名づけも頼まれる。「お前のお墨付きで始めるということが分かるような名前がいい」という注文に、彼女が引っぱり出したのは前世の記憶だった。聖書を印刷したことで異端審問にかけられ、逃げながら多言語対訳聖書を生み出したクリストフ・プランタン。印刷に人生をかけた彼の印刷工房が、のちにプランタン・モレトゥス博物館になっている。
「どこから出てきた名前だ?」には「秘密です」で押し切り、ベンノの評価が「プランタンか。まあグーテンベルクでなかっただけ良しとしよう」。この人はもう、彼女が妙な名前を出してくる前提で構えている。そのあと「プランタン工房みたいに、どんどん本を作って売りましょうね」とはしゃいだところに拳が落ち、「性急さを直せと神官長に言われたんじゃなかったのか」で締められた。
「領主会議のお留守番」まとめと考察
結局最後まで嫌われたままだったな
領主夫妻の帰還前夜、最後の魔力供給が終わる。ボニファティウスの「二人ともご苦労であった」に「恐れ入ります」と返したあと、ローゼマインの独白が落ちる。「結局最後まで嫌われたままだったな。おじいさまとお話したかったのに。残念」。そして「本もあんまり読めなかったなあ」。
視聴者だけが真相を知っているので、この締めがひたすら惜しい。しかも2週間の目標だった読書も達成できていない。この回でローゼマインが得たものは、お茶会の段取りと、喋る魔剣と、姉への贈り物と、新しい商会の名前だった。本人がいちばん欲しかったものだけが手に入っていない。
誰も悪くないのに全員がすれ違う回
今回は事件らしい事件が起きない。それでも面白いのは、すべての場面が誤解と善意でできているからだ。アンゲリカは短所を補ってほしいと頼んだだけ、ローゼマインは知性をと願っただけ、神官長は影響を確認しただけ。その三つが重なって、口うるさい魔剣が一本生まれてしまった。
祖父と孫も同じ構図である。近寄らないという判断は孫を守るためで、睨まれていると感じるのは自分に非があると思っているからだ。誰も悪くないのに、全員が間違った結論に着地する。笑える回でありながら、後味がやわらかいのはそのためだと思う。
その裏で、印刷業がギルベルタ商会から独立し、トゥーリが住み込みで働き始め、参考書という次の商材の芽まで出ている。お留守番の二週間で、下町の商売の形が変わったことになる。本人が「本もあんまり読めなかった」とぼやいている横で、本を作る仕組みのほうが着実に前へ進んでいるのがこの作品らしい。そしておじい様との誤解は、まだ解けていない。




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