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第6話のサブタイトルは「きょうだいの想い」。ゲームを通じて柊と付き合いを重ねる糸が源に投げたのは、「最後に柊君とちゃんと話したのっていつ?」という一言だった。そして今回、柊が学校へ行けなくなった理由がついに明かされる。ボスを倒したその夜、入るなと貼られたあの扉が静かに開いた。




最後に柊君とちゃんと話したのっていつ?
ここのとこ毎晩、何やってんだよ
第6話は、糸と柊がオンラインで組んで狩りをしている場面から始まる。「私たちのチームワークなら余裕だって」と言い合えるくらいには、二人の呼吸はすっかり合っていた。ところが現実では、糸の様子がおかしいと源が気づいてしまう。
「飯食ったらすぐ部屋にこもるわ、たまに奇声も聞こえてくるわ」と詰められた糸は、つい正直に「実は柊君と一晩中会ってた」と言いかける。しかし柊からは「ゲームのことは恥ずかしいんでみんなには言わないでくださいよ。もし言ったら二度と口聞きませんから」と釘を刺されていた。
結局、源は本気にしない。「俺らにすら顔見せられないあいつが、お前と仲良く遊べるわけがないだろ」と一蹴されてしまう。しかもオンラインゲームという言葉が通じず、「なんだ、メールとかの話か」で終わってしまうのがおかしかった。
居場所を作ってあげることも大事だとは思うけど
その源が「今日は柊の学校に顔出して帰るから」と言う。弟のことは自分がいちばん分かっている、という顔をしている兄に、糸が投げたのがこの一言だった。「じゃあ聞くけど、最後に柊君とちゃんと話したのっていつ?」。
続けて糸はこう言う。「居場所を作ってあげることも大事だとは思うけど、それだけじゃ何か足りないんじゃないかな。柊君もどこに向かっていけばいいのか、分からなくなっちゃわないかな」。部屋にこもらせておくことを許すのは優しさだが、それだけでは行き先が生まれない。
血のつながらない姉が、いちばん痛いところを突いてくる。しかもこの人はけんかを売っているのではなく、本当に分からなくて聞いている。だから逃げようがないのだった。
どうせ何を言っても信じないですよ
みんなの中では、俺はそういうことになってますから
糸は柊にも同じことを聞いてみる。「ゲンたちに言いたいこととかないの」。返ってきたのは「どうせ何を言っても信じないですよ」という答えだった。
「みんなの中では俺はそういうことになってますから。誰にも心を開けなくなった可哀想な奴だって。実際そうだし。ほっとけばいいと思います」。家族が作った自分の像を、本人が受け入れてしまっている。糸の心には「言いたいことが何もないなんてあるわけがない」という言葉が浮かんだ。
言えるきっかけを待っているうちに、ここまで来てしまったのではないか。その推測はこのあと、いちばん残酷な形で当たることになる。そして柊は、都合が悪くなると機材の話へ逃げるのだった。
同じ空間に人がいるのが落ち着かない
糸が「明日また柊君の好きなもの作るからさ、部屋で一緒に食べない?」と誘うと、柊は「こういう付き合いはゲームでだけだって言ったでしょ」と断る。調子に乗りすぎたかと謝る糸に、彼は違うと否定した。
「同じ空間に人がいるのが落ち着かないだけなんですってば。変なこと言って相手の気を悪くしちゃったらどうしようとか、考えすぎると何も喋れなくなるし、それでいつもつまんないやつとか思われちゃうし。だから悪いのは僕の方なんです」。
拒絶ではなく、自分を責めるほうへ向かってしまう。糸の心の声が「想像してた以上に繊細な子だぞ。他の3人とは大違い」だったのも納得だった。同じ屋根の下にいるのに、この子だけ別の重力で暮らしている。
なるほどな、こうやってゲームの中で話せるのか
ハゲたおっさんと、猫耳の美少女
そこへ源が踏み込んでくる。「ノックしても返事ねえから」と部屋に入ってきて、画面を覗き込んだ。「なるほどな、こうやってゲームの中で話せるのか。全然気づかなかった」。糸の言っていたことが、ようやく形として理解される。
そして源が真っ先に突っ込んだのが、二人のアバターだった。糸が渋いハゲ頭のおじさんで、柊が猫耳の美少女。現実とちょうど入れ替わっている。「お前らキャラ選ぶセンスおかしくね」と言われても、「好きなキャラで好きなことして何が悪いのさ」と返されてしまう。
ここで源が怒らないのが良かった。「今更怒んねえよ。俺はこういうの付き合ってやれねえから、あいつの話し相手でも何でもなってくれれば」。自分にできないことを、できる人に任せると言えるのは強さだと思う。
あいつ自身のことなんて見もしなかった
そのうえで源は、この日あった出来事を打ち明ける。担任と会ってきたが、進路の話になると何も答えられなかったのだという。「本当は全然あいつのことなんか分かってない」。
さらに続けた言葉が重い。「守ってやんなきゃって、そればっかで、あいつ自身のことなんて見もしなかった」。糸が投げた「最後にちゃんと話したのっていつ」という問いを、この兄はきちんと持ち帰っていた。
なお洛と類は「大事件だぞ。柊と姉さんがなぜか急接近してんだけど」と外野から様子をうかがっている。全員がそれぞれのやり方で気にしているのが、この家のいいところだった。
そんなゲン君、見たくない
二度とやらないって言うまで、毎日話をつけに通ってやる
ボス戦で必死に食らいつく糸たちを見ているうちに、源の中にある日の記憶がよみがえる。靴をなくして帰ってきた柊を問い詰めた日のことだ。「謝れって言ってんじゃねえよ。なくした理由聞いてんだよ」。
原因は同級生だった。「兄ちゃんに迎えに来てもらってる」とはやし立てる相手を見て、源は動こうとする。止める柊に返したのが「俺はあいつらがお前にしたことが許せない。二度とやらないって言うまで、毎日話をつけに通ってやる」だった。
兄としては、これ以上ないくらい正しい怒り方だ。実際、第4話でも第5話でも、この人はいつも家族のために腹を立ててきた。ところが柊にとっては、それがいちばんつらかった。
学校やめる。明日からもう行かない
柊が返したのはこうだった。「嫌だ。そんなゲン君見たくない。本当は優しいのに、そんな怖い顔してほしくない」。そして続けたのが、今回いちばん重い一言である。
「もうやめる。そんな風に迷惑しかかけられないんだったら、学校やめる。明日からもう行かない」。第5話で「ちょっと嫌なことがあって学校に行けなくなった」とだけ語られていた理由が、ここでようやく明かされた。いじめそのものではなく、兄を怖い顔にさせてしまうことに耐えられなかったのだ。
源の述懐は「あいつなりに必死に立ち向かおうとしてたところだったのかもな。今なら、やり方間違えてたって気づけるのにな。遅すぎるよ」。誰も悪くないのに、こうなってしまった。その事実だけがずっと三年ぶん積み上がっていたことになる。
みんなで世界を救おうよ
それがどれだけの大義か、お分かり?
ボス戦は全滅を繰り返していた。「さっきから全滅してばっかじゃねえか」と呆れる源に、糸が本気で食ってかかる。「私たち今、世界を救おうとしているところなの。それがどれだけの大義で過酷な状況だかお分かり?」。
「邪魔をするなら出てってもらう」とまで言われて、源が「はいはい分かったよ、なるだけ息もしないで」と引き下がる。少女漫画の日常ものだと思って見ていると、竜が出て剣を振り回して弓を撃つのだから、演出を担当した側が戸惑うのも当然だった。
それでも源は「よくそこまで必死に」と目を離せずにいる。遊びだと思っていたものに、弟が全部を懸けているのが見えてしまったからだ。
私も諦めないよ
残り時間が一分を切る。「あと少しなのに」「でももう体力が」と弱気になる柊へ、糸が言った。「私も諦めないよ。力を合わせればきっとできる。みんなで世界を救おうよ」。返ってきたのは「分かりました。やってやりましょう」だった。
そしてボスは倒れる。ゲームをクリアしたその直後、入るなと貼られていた扉が開いた。第5話から引っ張ってきた扉が、あっさりと。「そんなあっさり」という声が漏れるほどの静かな幕開けだった。
柊は出てくるなり「勝手にとか大丈夫ですか。何かひどいことされて」と糸を心配している。何年もこもっていた人の第一声が、他人の心配だった。ここに柊という子の全部が出ていると思う。
ごめんな、頼りない兄ちゃんで
意味ないこと、全然ないだろ
糸が「柊君めっちゃ上手かったでしょ」と自慢すると、源も素直に認める。ところが柊は「ゲームなんてただの遊びだし、やってても意味ないことくらい」と自分から下げてしまった。
そこへ源の一言が飛ぶ。「は? 何言ってんだよ。普通に学校行ってるだけじゃ作れないような友達まで作っといて、意味ないこと全然ないだろ」。ゲームを知らない兄が、ゲームで得たものだけは正面から認めている。
そのうえで源は「じゃ、俺はこの辺で」と帰ろうとする。理由は「別に話すことないし」。糸の「無事に生きてる姿とかちゃんと見せてあげようよ」にも、柊は「見せたところで俺は何も変わってない」と返してしまう。簡単にはいかない、と糸が思ったそのときだった。
ずっと誰かと話したかった
源が切り出す。「柊、ごめんな。ずっとお前に謝らなきゃいけないって思ってた。あの時でしゃばりすぎてたよな」。お前なりに自分で何とかしようとしていたのに、俺が黙っていられなかった。やり返そうとしないお前にも腹が立っていた、と。
そして核心へ届く。「だけどお前はとっくに分かってたんだよな。あいつらと同じことなんかしてたら、あいつらと同じような人間になるだけだって。お前偉いな、一人で抱えて。俺なんかよりずっと大人だわ。迷惑かけてるのは俺の方だった。ごめんな、頼りない兄ちゃんで」。
柊の答えが良かった。「あの時、ゲン君が俺のために怒ってくれて、怖かったけど、ちゃんと嬉しかったよ。ゲン君の弟に生まれてよかったって思ったよ」。糸の「やっと顔見て話せたね」を挟んで、源が「これからはたまにでいいから、こうして話そうな」と続ける。そして柊がこぼしたのが「あのね、俺、本当はね、ずっと誰かと話したかった」だった。
「きょうだいの想い」まとめと考察
できるだけ頑張って、安心したいんです
後日、柊は担任と向き合っていた。学校に来たい気持ちはあるのかと問われ、「もし兄貴にそう言えって言われたら」と念を押されても、「大丈夫です。ちゃんと自分で考えてます」と答える。
そして自分の言葉で先を語った。「やっぱり将来のこと考えたら高校は行っておきたいし、だったら学校にも慣れておかないとって思うし。勉強の遅れは夏休みの間に取り戻します」。理由が「できるだけ頑張って安心したいんです。こんな自分でも、やればできるとこあるんだって」なのが、この子らしい。
誰かに背中を押されたからではなく、自分で決めた。糸のモノローグも「何のスイッチが入ったのかわからないけど」と、自分の手柄にはしていなかった。
誰も悪くないのに、こじれていた三年
今回の構造はきれいだった。糸が源に問い、源が自分の間違いに気づき、柊がそれを許す。その全部が、ゲームの中でボスを倒すという一本の線と並走している。扉が開いたのはクリアしたからではなく、三人がそれぞれ一歩ずつ動いたからだった。
いちばん効いていたのは、この家に悪い人が一人もいないということだ。源は弟のために怒り、柊は兄を思って身を引いた。どちらも正しかったのに、それがそのまま三年こじれた。だから解けたときの効き方も強い。
血のつながらない姉が来たことで動き出した、という点も繰り返し描かれてきた通りだった。ただ糸自身は何も特別なことをしていない。ゲームに付き合って、当たり前のことを当たり前に聞いただけである。部屋の外に出る理由を、本人が自分で見つけるまで待ったのがこの姉の仕事だった。次回、家族全員がそろった食卓で柊がどんな顔をしているのかが楽しみだ。




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