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第6話のサブタイトルは「透子とにゃん吉」。柚子が毎日の贈り物に戸惑う一方で、玲夜の婚約者だった鬼山桜子に婚約解消が告げられる。回の中心は副題どおり透子と東吉の馴れ初めで、そこで柚子は自分の気持ちを測る物差しを手に入れる。そしてラスト、祖父母の家で待っていた客が誰なのかで終わる。




不釣り合いです!
あのような凡人が至高の存在たる玲夜様の伴侶になるなど
第6話はいきなり怒鳴り声から始まる。「不釣り合いです!」。声の主は荒鬼高道で、鬼山家に乗り込んで文句をぶつけていた。迎える側の桜河も呆れ顔で「わざわざ人の家に来て怒りぶつけるの、やめてくれる?」と言うしかない。
言い分は筋が通っているようで、まったく通っていない。玲夜に花嫁が見つかったのは一族にとって喜ばしいことで、霊力が高まり価値も上がる。そこまで自分で言っておきながら「せめて桜子ぐらいの器量があれば、私とて許しますが」。極めつけが「私は許せないだけです! あのような凡人が、至高の存在たる玲夜様の伴侶になるなど」だった。
最初のシーンの高道がこんなに取り乱すことがあるのか、という驚きが視聴者側にもそのまま出ていた。桜河の忠告が「お前、それ絶対玲夜様に気づかれるなよ。消されても文句言えないからな」で、高道はようやく「すみません、取り乱しました」と我に返る。柚子の前では完璧な秘書でいる人が、よその家では本音を撒き散らしている。この人の忠誠が玲夜にしか向いていないことが、初めてはっきり見えた。
花嫁様が見つかられたのでしたら仕方ございませんね
そこへ当の桜子が呼ばれる。兄の桜河から告げられるのは玲夜に花嫁が見つかったこと、それによって婚約が白紙になったこと。人生を左右する通告が、廊下での立ち話のような軽さで渡される。
桜子の返しが完璧だった。「花嫁様が見つかられたのでしたら、仕方ございませんね」。取り乱しもせず、恨み言も言わず、そのうえで「それで、花嫁様はどのような方なのですか?」と自分から聞く。高道が爆発したのはこの質問のあとで、怒っていたのは振られた本人ではなく、周りの大人だった。
高道が最後に絞り出した答えが「花嫁は平凡な普通の女子高生です」。事実としてはその通りで、悪口ですらない。柚子を貶める言葉が一つも嘘になっていないのが、この冒頭のいちばん嫌なところだった。
こんな毎日プレゼントしてくれなくていいんだよ
屋敷で退屈してると聞いたから
柚子の日常が短くまとめられる。玲夜の会社での仕事は週に3日。仕事のない日はそのまま屋敷に帰って、玲夜を待つだけ。手持ち無沙汰になって使用人の手伝いをしようとすると、「花嫁様はお部屋でゆっくりくつろいでください」と止められてしまう。
この描き方が上手い。誰も柚子を粗末に扱っていない。むしろ全員が丁重に扱っている。それなのに、やることが一つもないという形で居場所のなさが再現されている。実家では邪魔者として、ここでは大切なものとして、どちらでも彼女は何もさせてもらえない。
実況が止まらない回だったという反応の通り、この静かな導入から後半の落差がすごい。物語が動き出す前に、柚子が何を持て余しているのかを先に見せておく構成になっていた。
そろそろ頬じゃなく唇にしてもいいんだぞ
そこへ玲夜が帰ってくる。「屋敷で退屈してると聞いたからプレゼントだ。今日は服を持ってきた」。翌日は花屋に寄り、その次の日はチョコレート。毎日である。さすがに柚子が「贈り物、本当にありがとう。でも、こんな毎日プレゼントしてくれなくていいんだよ」と止めに入る。
玲夜の返しが、この人らしくて怖い。「俺の気持ちだ。柚子に何かしてやりたいんだ。嫌じゃないなら受け取ってくれ」。そこまでは良いのだが、続けて「それにちゃんと礼はもらう。そろそろ頬じゃなく、唇にしてもいいんだぞ」。贈り物が善意なのか取引なのか、最後まではっきりさせない。
言葉にできない気持ちを抱くようになる、というのが公式の書き方だが、実際の柚子はもう少し具体的なところまで来ている。唇でもいいかもしれない、と思ってしまう自分に気づいてしまうのだ。戸惑いの中身が「怖い」から「揺れている」に変わっていた。
身の程というものを
私は花嫁様を恨んでなどおりません
鬼山家では、婚約解消が家全体の損失として受け止められていた。「筆頭分家として、当主の花嫁を出すことは最高の誉れであったが、仕方あるまい」。誰も桜子本人の気持ちを話題にしない。彼女がどう思ったかではなく、家の格がどうなるかだけが議題だった。
唯一そこに触れたのが兄の桜河で、「本音を言うと俺だって残念だ。玲夜様の隣で一際輝く桜子の姿を楽しみにしていたからな」。妹をかばう言い方だが、これも結局は「隣に立つ姿」の話でしかない。対する桜子の答えが「お兄様、私は花嫁様を恨んでなどおりません」で、桜河は「さすが俺の自慢の妹だ」と満足して部屋を出ていく。
完全に油断していた、という感想がこの直後にぴったり来る。ここまでの桜子は、非の打ちどころのない令嬢としてしか描かれていない。兄への受け答えも、婚約解消の受け止め方も、全部満点だった。
平凡な花嫁様には、教えて差し上げなくてはなりませんね
一人になった桜子が、静かに言う。「玲夜様の花嫁の役割は、鬼龍院の家を盛り立てること」。そして「平凡な花嫁様には、教えて差し上げなくてはなりませんね。身の程というものを」。恨んでいないというさっきの言葉は、嘘ではない。恨む必要がないほど、彼女は自分のほうが上だと思っている。
怖いのは、この理屈が高道の言い分とまったく同じだということだ。花嫁は一族を盛り立てる役割で、その役割に平凡な女子高生はふさわしくない。玲夜の周囲にいる有能な人ほど、同じ結論にたどり着く。柚子が戦う相手は悪意ではなく、きちんと機能している組織の常識のほうだった。
敵なのか味方なのか、案外仲良くなりそうな気もする、という受け止めもよく分かる。桜子は柚子を憎んでいるのではなく、値踏みしている。値踏みなら、結果次第で評価が変わる余地がある。そこが実家の人たちのときとは決定的に違っていた。
お礼にはキスで返すと覚えてしまったなんて
私と玲夜の真似をしているなんて
学校では、子鬼が完全にマスコットになっていた。手芸部が服を仕立て、試着会が開かれ、「子鬼ちゃんを愛でる会」まで日常化している。授業が始まっていても止まらないのが女子高生だった。
問題は子鬼のふるまいのほうである。誰かがお礼をすると、子鬼はそれを返そうとする。柚子の内心が「言えない。私と玲夜の真似をしているなんて。お礼にはキスで返すと覚えてしまったなんて」。屋敷での二人のやりとりが、そのまま学校で再生されてしまっている。
来週から更に面白くなりそう、という声が出るのも分かる。笑える場面の中身が、実は屋敷での関係の告白になっている。この作品は、こういう情報の混ぜ方が地味に上手い。
恩人に対するものなのか、恋心からくるものなのか
透子との会話で、柚子が初めて自分の気持ちを分解してみせる。「甘すぎて、どう反応していいかわからなくなる時があるんだもん。今まで甘やかされて育ってこなかったから、玲夜の優しさをどう受け止めたらいいのかわからない」。好きになったのかと聞かれると「嫌いじゃない。好きだと思う」まではすぐ出る。
そのあとが本題だった。「でも、それは玲夜の求める好きなのかなって。私にとってこの気持ちが、あそこから助けてくれた恩人に対するものなのか、恋心からくるものなのか、まだわからない」。透子の指摘が鋭くて、「婚約者がいるって知った時、ショック受けてたじゃない。なんとも思わない人にショックは受けないでしょ?」。
愛される経験を持たない子が、与えられた愛にどう応えるのかという読み方がそのまま当てはまる。柚子の結論は「あと一歩踏み出す勇気が、確信が、私にはまだない」。感謝と恋を区別できるだけの材料を、彼女はまだ一度も持ったことがない。だからこの回は、その材料を渡しにいく話になる。
これから好きにならせてやる!
なんであんたの子供を産む前提で話を進めてんのよ!
副題どおり、ここから透子と東吉の馴れ初めが語られる。始まりは最悪だった。街を歩いていたら突然腕を掴まれて「お前は俺の花嫁だ」。透子の第一印象が「新手の勧誘」で、翌日からは「よう、この前は突然悪かった。でも付き合ってくれよ」と押しかけてくる。
東吉の説明もひどい。花嫁を得たあやかしは霊力が増し、花嫁の産んだ子は強い力を持って生まれる。だから「猫又のように力の弱いあやかしにとって、力を強くしてくれる花嫁は、喉から手が出るほど欲しい人材なんだよ」。透子の返しが完全に正しくて、「何言ってんの! 私まだ中学生だよ! なんであんたの子供を産む前提で話を進めてんのよ!」。
東吉のほうは本気で困惑している。「なんでだ? 普通、花嫁に選ばれるのは喜ばれるんじゃないのか? なんかみんなが言ってた感じと違うな」。そして出した結論が「いや、俺の花嫁は透子だから! これから好きにならせてやる!」。透子いわく「ストーカーかって、もう恐怖よ恐怖!」で、返す言葉がない。
中学生の頃からプロポーズしていた、という要約に笑ってしまった。同時にこの回想は、花嫁という制度が受け取る側からどう見えるかを、作品が自分で言語化した場面でもある。柚子が言えなかった違和感を、中学生の透子が全部代わりに叫んでくれていた。
お前のためなら鬼を相手に戦える!
そこからどう今の関係になったのか、というのが柚子の質問だった。透子の答えは「最初は逃げ回ってたけど、だんだん話すようになって」。その過程で東吉が言うのが「好きだ! お前のためなら鬼を相手に戦える! でも多分、瞬殺されるけど」。透子の「そこは自信満々にしなさいよ」が完全に正解だった。
空気が変わったのは、限定グッズの話だった。「それ、限定グッズだよな。俺も持ってて」の一言で、透子が初めて笑う。その瞬間の東吉の内心が良い。「なんだこの気持ち。透子といるとすげえ居心地がいい。花嫁だからなのか」、そして「透子の笑顔が他の男に向けられるとか、考えただけでイラつくんだが。早く好きになってくれねえかな」。
ここが今回の設計のいちばん賢いところだと思う。東吉も、自分の気持ちが本能なのか恋なのか分かっていない。柚子が悩んでいるのとまったく同じ問いを、あやかしの側も抱えていた。花嫁という仕組みは、選ぶ側も同じくらい振り回している。
透子は千本木彩花、東吉は花江夏樹で、軽口の応酬がとにかく楽しい。この二人の過去を知ったうえで、同じ回の中で桜子が正面から出てくるという配置が効いていた。うまくいった花嫁の話を見せてから、うまくいかないかもしれない未来を置いてくる。
理屈じゃないのよ。人を好きになるって
私の愛の重さよ。受け入れなさい
柚子が「向こうからは好きだと言われたりしたの?」と聞くと、透子の答えが「そういや、まだ」。毎日押しかけてきて好きにならせてやると豪語していた男が、肝心の一言だけまだ言っていない。東吉が「なんだ、そういうこと?」と気づき、透子は「別に、別にいいけど」と誤魔化す。
そして最大の山場が明かされる。透子が東吉を殴った理由が「にゃん吉が取られるって思ったら、すっごく悲しくなって。ああ、私こんなに にゃん吉のこと好きなんだって理解したわけよ」。東吉の「だからって、いきなりぶん殴るか?」に返すのが「私の愛の重さよ。受け入れなさい」。そして落ちが「ちなみに、一緒に歩いてた人は、にゃん吉君の母親でした」。
パンチは私の重たい愛情、という要約が完璧だった。ストーカーと言われても仕方がない始まり方で、そこに殴られて終わるのだから相当に乱暴な恋愛である。それでもこの二人は、自分の気持ちに気づいた瞬間をはっきり持っている。柚子が欲しかったのは、まさにその瞬間の実例だった。
寂しい思いをさせてすまない
透子の結論が、この回でいちばん優しい台詞だった。「理屈じゃないのよ、人を好きになるって。柚子も今は悩んでいても、そんなの吹っ飛ぶくらいこの人が好きだ、渡したくないって思う時が来るわよ」。柚子の返しが「今は悩んでいても、そうだといいな」で、否定も肯定もしないまま、初めて希望の側に置かれる。
その日は祖父母の家に泊まる約束の日だった。許可を取るときのやりとりが「柚子、お願いする時は」「お願い?」「高道さんがいるから今は」「いないぞ」で、お願いがあるときはキスでおねだり、という決まりが健在である。しかも当日、玲夜が高道に「やはり柚子を外泊させるのは」と渋り出し、高道に「一度お許しを出されたのですから」と押し切られていた。
送りの車では、あやかしの会合の話が出る。年に一度、数日にわたって開かれる近況報告を兼ねた酒宴で、そのあいだ玲夜は家に帰れない。「寂しい思いをさせてすまない」と言われた柚子は「私は平気。玲夜もお仕事頑張ってね」と返しつつ、内心では「私も飛び込んでいけるといいな。こんなにも愛情を向けてくれて、優しく大切にしてくれる人。玲夜の腕の中に」と考えている。
お願いがある時はキスでおねだりって何、という総ツッコミには全面的に同意する。ただ今回は、その決まりに従っている柚子の側が変わっていた。言われたから応じているのではなく、自分から飛び込みたいと思い始めている。透子の話を聞いたあとだからこそ、この独白が出てくる。
「透子とにゃん吉」まとめと考察
気配が少しな。問題ない
祖父母の家の手前で、柚子は車を降ろしてもらう。理由が「こんな高級車、家の前に停めたら近所で噂になっちゃう。この辺りはご近所付き合いも密なの」で、花嫁になっても生活感覚がまったく変わっていないのが良かった。子鬼もいるから大丈夫、と言って歩いていく。
ところが見送った玲夜の様子がおかしい。高道の「玲夜様、どうかなさいましたか?」に対する答えが「気配が少しな。問題ない」。問題ないと言いながら、何かを感じ取っている。この一言があるかないかで、このあとの再会の意味が変わってくる。
来週で折り返しを過ぎる、という指摘の通り、今回は明らかに後半戦への切り替え地点だった。実家の問題が片付いたあとに用意されていたのは、あやかし社会の側からの品定めである。
あなたが花嫁様ですね
家に着くと、祖父が「お前にお客様だ」と言う。祖母も「とっても綺麗なお嬢さんよ」「私達じゃ緊張しちゃって」と落ち着かない。名前を聞いた柚子の頭に浮かぶのが、鬼の一族でも人気の高い絶世の美女で才色兼備という評判だった。そして本人が名乗る。「あなたが花嫁様ですね。私、鬼山桜子と申します」。
この着地が見事だった。桜子が現れたのは玲夜の屋敷でも学校でもなく、柚子がいちばん安心できる祖父母の家である。しかも祖父母が「緊張しちゃって」と言うくらい、先に懐へ入り込まれている。身の程を教える、と決めた人の初手がこれなのだから、相当に手が早い。
副題が「透子とにゃん吉」なのに、回全体の設計は完全に柚子のためのものになっていた。透子と東吉の馴れ初めは、花嫁という制度に殴りかかった人の記録である。中学生の透子は「子供を産む前提で話を進めるな」と怒鳴り、東吉は「花嫁だからなのか」と自分の気持ちを疑い、それでも二人は最後に自分で自分の気持ちを見つけた。その実例を渡された直後に、柚子は「制度としての花嫁」を体現する人と向き合わされる。
誰でも良いと思わせる演出からの気づきが素敵だった、という読み方がこの回のすべてだと思う。高道も桜子も、柚子個人を憎んでいない。ただ「花嫁の役割」に対して平凡すぎると言っているだけだ。それに対する答えは、家柄でも霊力でもなく、透子が言った「理屈じゃないのよ」のほうにしかない。次回、柚子が桜子に何を返すのか。折り返しにふさわしい、静かで嫌な引きだった。




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