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第6話のサブタイトルは「空白のテラス席」。雨で中止になった学祭の花火のあと、空野かけるが自分の部屋に冬月小春を招き入れるところから始まる回だった。別れ際に起きたことを一人で抱えきれず、翌日もんじゃ屋で鳴海と早瀬に打ち明けたのが運の尽きで、他人のウーロンハイを一杯飲んだ勢いのまま告白の動画を撮られてしまう。そして数日経っても、返信は来なかった。




「一旦寮に行こう 風邪ひくよ」
二つあった選択肢
第6話は、前話の雨の続きから始まる。空野かけるの独白が「学祭の花火が雨で中止になって 僕が思いついた選択肢は二つあった」で、内訳は「このまま雨宿りを続けるか 雨の中冬月を家まで送るか」だった。
そのうえで「もちろん頭では冬月を帰宅させることが 正しいと分かっていた」「本心ではもう少し一緒にいたかった」と、正しさと本心を並べて置く。★どちらを選んだかを言う前に、選ばなかったほうの正しさを先に認めているのがこの主人公らしい。
★この作品は、こういう「自分に都合の悪いところを先に言う」独白でできている。★今回はそれが最後まで一貫していて、後半のもんじゃ屋の場面でも同じ形で効いてくる。
「手繋いでもいい?」
口から出たのが「一旦寮に行こう 風邪ひくよ」で、「ありがとうございます」と返ってくる。続けて「手繋いでもいい?」「傘もないし滑ると危ないから」。★理由を必ず添えるのがこの人の癖だ。
★前話までは手を貸してと言われる側だったのが、自分から差し出す側に変わっている。★出だしの数十秒で、この回がどこまで行くのかがだいたい分かる作りだった。
透けていない、という嘘
「どこか雨で透けたりしてませんか?」
部屋に入っての第一声が「ごめん 狭いけど」「よかったら右手にあるベッドに座って」だった。★位置を右手と言い添えるのが、もう自然に出てくる。タオルを渡し、「結構濡れたね」「大丈夫? 拭けた?」と続く。
そこで冬月小春が切り出す。「あの、聞きづらいんですけど」「どこか雨で透けたりしてませんか?」「洋服」。独白が「うなじではなく洋服を見てほしいという意味なんだろうが」「透けてるよって教えたら」「教えたってきっとショックだろう」だった。
出した答えが「大丈夫 透けてないよ」「寒そうだからタオルを肩にかけておきなよ」。★嘘をつきながら、寒さのほうを理由にしてタオルを肩にかけさせている。★これは今回いちばん静かな見せ場だと思う。★どう伝えるかではなく、伝えないぶんをどう埋めるかを選んでいる。
早とちりと「死にたいくらい恥ずかしい」
そのあとが完全にコントだった。「かける君の部屋ですか?」「そう 鳴海と同じ部屋」「もしかしてこれはかける君のベッドですか?」「そうそう」。独白が「こんな風に女性と二人っきりになったことなんてない」「自分が招いておいてなんだけど」「妙に緊張してしまう」。
そこへ「その下着 見えそうだから」「見える前に忠告しただろ」という慌てたやり取りが挟まり、「エッチです」「だから見えてないって」「信じてやりましょう」で押し切られる。そして冬月が続けたのが「あ、花火のことです」だった。
話はとっくに花火へ戻っていたのに、こちらだけ別のことを考えていたわけだ。独白の「自分の早とちりに顔が赤くなる」「死にたいくらい恥ずかしい」で決着がつく。★見えていないほうが会話の主導権を握っている、という構図がずっと続く回だった。★勘違いしているのはいつも見えている側だ、という置き方が上手い。
「一緒に入ろうか」
来年の学祭と、花火のサークル
落胆した相手に「来年またやるよ」「なんか学祭の恒例らしいから」と声をかける。返ってきたのが「あのサークル入りたいな」「学祭で花火ってザ青春ですよね」、そして「けどやっぱり断られるかな」だった。
★ここが小さいけれど重い。★花火が好きだという話をずっとしてきた人が、入りたいと言った直後に、自分で断られる可能性を足している。
空野の答えが「一緒に入ろうか」で、「えっ いいんですか?」「別にいいけど」「約束ですよ」と続く。★断られるかも、という言葉に、慰めではなく「一緒に」で返しているのが良かった。★安全を保証するのではなく、同じ側に立つという答え方をしている。
「彼女さんとかっていないんですか?」
雨が弱まったのを先に気づくのも冬月で、「雨の音が弱くなった気がしませんか?」。★音で気づく側と、言われて確かめる側という役割は、この回でも変わらない。
帰り道の独白が可笑しい。「冬月からシャンプーの匂いがした」ので気を紛らわそうと心の中で念仏を唱え、短すぎたので円周率にも挑戦したが「小数点以下8桁が限界で 5秒も持たなかった」。
買った花火は夏にみんなでやろうという話になる。夜の外出を心配されると「だって私たちが出会ったのも 夜のコンパだったじゃないですか」。そして切り出されたのが「かける君って、彼女さんとかっていないんですか?」だった。
「えっ いないけど」に「よかった」。理由を尋ねると「よくしてもらっているので もし彼女さんとかいたりしたら悪いなって」「今もこうやって腕を組ませてもらってますし」。空野が「冬月が僕のこと好きなのかと」「こういう冗談は弱いんだ」と誤魔化すと、「意地悪」とつねられ、「痛いよ」「痛いくらいがちょうどいいと思うんです」。★「よかった」に説明を足させてしまったのが、この人の弱いところだと思う。
「目が見えなくても顔を見る方法があるって知ってます?」
手で顔を見る
マンションに着いて「着いたよ」「どうした?」。冬月が言い出したのが「目が見えなくても顔を見る方法があるって知ってます?」で、中身は「顔をですね 手で触ってどんな顔か見るんです」だった。
「つまり それをやらせろと」「いいですか?」「うん いいよ」「少ししゃがんでもらってもいいですか?」。★許可を取る側と取られる側が、ここで一度きれいに入れ替わっている。★この作品の距離の詰め方は、いつも「見る」という動詞の言い換えから始まる。見えない人が「顔を見る」と言い、見える人がしゃがむ。
「かける君はこういう冗談は弱いですか?」
顔に触れたあとに返ってきたのが「かける君はこういう冗談は弱いですか?」だった。★さっき空野が逃げ道に使った文句を、そのまま持ち出している。
そして「おやすみなさい」「おやすみ」。独白が「冬月のリップの香りだろうか」「唇から甘い匂いがした」で、次の場面の頭に「キスが初めてだった僕は」と置かれる。★冗談だと言った相手が冗談で返してきたのだから、これは反撃だと思う。★逃げ道に使われた言葉を、そのまま実行に使うのがこの人の強さで、しかも最後まで「冗談」の形は崩していない。
もんじゃ屋の相談
瓦そばと、他人のウーロンハイ
整理がつかないので鳴海に相談することにしたのだが、店に着くと早瀬もいた。もんじゃを前に「関西人ってもんじゃ食べないんじゃないの?」「お好み焼きでしょ?」と振ると、「母ちゃんが群馬出身で 俺、関西と関東のハーフやねん」が返ってくる。「群馬って関東か?」「今 日本の半分を敵に回したで」。
★そして早瀬が来ると、鳴海はまったく同じ話をもう一度やる。★空野の「それもさっきやったよ」が入るのが可笑しかった。
出身の話になり、「本州最西端」と答えたところから下関の瓦そばが話題になる。「一家に一枚 必ず瓦を持ってる」「じゃあ土鍋と一緒か」「冗談に決まっとるやろ」。
そのうちに事故が起きる。頼んだウーロン茶が、他の客のウーロンハイだった。「え? なにこれ苦っ」「これ他のお客さんのウーロンハイだったかも」。★一杯で目が据わり、何もないのに笑い出す。★「少し酔ってるくらいがちょうどええかもしれんな」で相談が始まるので、★この回の告白は全部この一杯のせいということになっている。
「だって冬月目が見えないじゃん」の誤解
打ち明けた中身が「ということがありまして、冬月とキスをしてしまいました」。返ってきたのが「リア充爆発しろ」で、そこから「なんで空野くんから迫らないの」「そこは男から好きだって言うべきでしょ」「世の中ジェンダーレスやんか」と好き放題言われる。
問題はその次だ。「そもそも部屋に連れ込んで何にもなしって」「それは無理だろ」「なんでよ」「だって冬月目が見えないじゃん」。早瀬が「はぁ? 障害があるからって無理だって言うの?」と気色ばむ。
説明されたのが「例えば急に触られたりしたらさ やっぱ怖いと思うんだ」「いきなり迫ったりしたらそれこそ恐怖じゃん」で、早瀬の答えが「ごめん、勘違いしちゃった」だった。
そのあとは「馬鹿にしてる?」「してないしてない」「やっぱ馬鹿にしてる」「してへんしてへん」「超馬鹿にしてんじゃん」「お前ら地獄に落ちろ」と笑われて終わる。
★★この短いやり取りが今回いちばん良かった。★同じ「目が見えないじゃん」という一言が、差別にも配慮にも聞こえてしまうことを、誤解と説明と謝罪の三手だけで見せている。★しかも訂正したのは言った側ではなく、怒った側が自分で引き返している。
「やっぱ人って内面なんだなーって思ったよ」
両親が離婚した話
「小春ちゃんのどこが好きなの?」に「言わない」と粘ったあと、「やっぱ顔ですかボディラインですか」「そんな男と小春ちゃんは釣り合わないよ」と煽られて、ようやく口を開く。
出だしが「なんか冬月っていつも笑うじゃん」「自分が目が見えなくなってさ あんなに前向きになれないと思うんだよね」。そこから「僕さ、両親が離婚したんだけど あんなに前向きになれなかった」と続いた。
「自分のせいじゃないのにって卑屈なことばっかり考えてた」「僕は人の顔色ばかりうかがってさ」。★内気で人を避けてきた理由が、ここで初めて言葉になっている。
結論が「冬月の方がよっぽど自由じゃん」「なんか自分に持ってないもの全部持ってるっていうかさ」「不幸かどうかって自分の気の持ちようなんだなーって、それを教えてくれた」「好きだなーって。やっぱ人って内面なんだなーって思ったよ」。
★★酔った勢いで出てきたのに、中身は今回いちばん整理されていた。★「かわいそうだから」でも「けなげだから」でもなく、「自分にないものを持っているから」と言えている。
早瀬の見ている小春
続いて早瀬が話す。「毎日ちゃんとおしゃれしたり 花火をしてみたいって空野くんを連れ出したり 講義も全部出席してるんだよ」「目のことを言い訳にせず」。そこへ「私だってたまに寝坊とかあるのにね」が足される。
「自分に素直でまっすぐで、私とは真逆だなーって」「憧れる気持ちはすっごいわかる」「かっこいいよね小春ちゃん」。空野の独白が「言い訳をせず自分のしたいことを何でもやろうとする姿 そういうところに早瀬も心を動かされるんだろう」だった。
★★この二人の答えが並ぶ構成が効いている。★片方は「自分に無いもの」として、もう片方は「憧れ」として、同じ人を同じ理由で見ている。★恋心の説明が、そのまま友情の説明にもなっていた。
「空白のテラス席」まとめと考察
一世一代の告白と、噛んだ言葉
話が終わると「よし、いっちょ告るか」が始まる。「そんなんじゃねーし」「本当に好きなの」「そうだけど」の押し問答のあと、鳴海の「勇気いるのもわかるでー 目が見えへん彼女って」にまた「だからそんなんじゃねーし」。
「じゃあ告るよ」「いつ」と詰められ、早瀬が「じゃあ練習でもいいから今しなよ 動画撮ってあげるから」。「はいはい、口だけ口だけ。小春ちゃんがかわいそう」で退路を断たれる。
独白が「止まるわけにはいかない」で、「ここで重大発表があります」と始めるのだが、「一世一代の告白のつもりでやってるのに、噛んじまった」。
そして「小春ちゃんに送っといたから」。画面に出るのが「小春に動画を一件送付」で、「まじ」「まーじです」「きっとうまくいくよ」「これで振られたらお前らのせいだからな」で終わる。★★予行練習という言葉が、最初から嘘だった。★早瀬は罠にかけたというより、★いつまでも動かない相手を動かすために自分が悪役をやっているように見えた。
返信のない数日
最後の一行が「そしてその後、数日経っても冬月からの返信はなかった」。サブタイトルの「空白のテラス席」どおり、いつもの時間にいつもの場所へ行っても、そこに冬月はいない。
ここで大事なのは、★気持ちが伝わらなかったのではなく、伝わり方を選べなかったということだと思う。動画は本人の許可なく送られていて、しかも中身は酔ったまま噛んでいる。
受け取る側の条件を考えると、なお厳しい。★★冬月には動画が見られない。表情も、途中で噛んだことも、真剣だったことも、音だけで判断するしかない。★この作品がずっと積み上げてきた「どう伝えるか」という問題が、いちばん雑な形で試されている。
そのうえで、前話で描かれた小春の内心を思い出すと、見当はつく。★断られることよりも、打ち明けること自体が怖いと考えていた人だ。返信がないのは拒絶とは限らないし、むしろ返し方を決められない側にいる可能性のほうが高いと思う。
★今回は言葉が届く順番が全部ずれていく回だった。透けているかと聞かれて嘘をつき、彼女がいるかと聞かれて冗談で逃げ、好きだと言うべき場面では酔って噛んでいる。★★この回で唯一まっすぐ届いたのは、本人がいない場所で語られた「好きだなー」だけだった。それが当人に届いていないことこそが、この空白の正体なのだと思う。




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