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第7話のサブタイトルは「少女の想い -Master Smile-」。前半は、宝物庫の番人が本人を目の前にしてエフタルを無能呼ばわりするという場面。後半は、魔族だけの魔法学院に人間がひとりで放り込まれる話になる。そして題名の少女はアナスタシアで、彼女が温泉旅行より何を欲しがったかが今回の芯だった。




宝物庫の番人と、四百年ぶりの刀
「僕たちは盗人じゃないよ」
第7話は、エフタルとアナスタシアが屋敷の奥へ向かうところから始まる。目的は雷切という一振りの刀で、理由は「せっかく剣を使えるようになったから、一振り欲しい剣があったのを思い出してね」。マーリンは二人の入学手続きで午後まで戻らない、だから今のうちに、という軽い足取りだった。
ところが宝物庫の前で行く手をふさがれる。番人であるランプの魔神が「これより先へは何人たりとも通させない」と立ちはだかるのだ。エフタルは「僕たちは盗人じゃないよ」「ここにある自分の刀、雷切を取りに来ただけなんだ。どいてくれないかい」と正直に言うのだが、通じるはずもない。魔神からすれば、雷切は四皇エフタルが魔王城から持ち帰ったとされる伝説の刀で、その希少価値は最上位。自分のものだと言い張る子供など、盗人以外の何者でもない。
ここまでは、よくある門番との押し問答である。面白いのは、エフタルの側に嘘がひとつも無いことだ。自分の刀を取りに来た、というのは事実そのままで、それが通らないのは相手が事情を知らないからでしかない。この構図が、そのまま今回の後半にもう一度出てくる。
目の前の本人を、無能呼ばわりする
魔神は「そもそもここはマーリン様か四皇のエフタル様以外は立ち入り禁止なのだ」と胸を張る。エフタルの「いやだから僕にはその権利が」は最後まで言わせてもらえない。そこから出てくるのが「年増のババアのお気に入りかもしれんから甘い顔していたが」「こっちはあのババアにこき使われてムカついとったんだ」で、話は雇い主への愚痴に変わっていく。
そして極めつけがこれだった。「それにね、知ってるか。ババアの師匠エフタルは、魔法適性のない無能だったらしいぞ」「そこからしてそもそもマーリンはうさんくさいんだ」「エフタルってのもどうせ実力ではなく、汚い手を使って四皇の立場を手に入れたのだろうよ」。言われている当人が、腕の届く距離に立っている。
返事は一言だけだった。「雷切の場所は」。聞き返されて、もう一度「雷切の場所は」。怒鳴りもしないし、正体も明かさない。自分の悪口には反応せず、師をこき下ろされた行にだけ温度が変わるのが分かる作りで、この二行だけで前半の役割が済んでしまうのが良かった。
レベル8、パーフェクトディスペル
言い返さずに、鍵だけ開ける
気を良くした魔神は「そこまで場所を知りたいか。特別に教えてやろう」と場所を教え、そのうえで種明かしをする。「ここの宝物は保護の魔術がかけられていてな。並の盗賊や魔術師では触ることすらできん」。アナスタシアが手を伸ばそうとすると「やめとけ」「近くで見るのはいいが、触ることなどできん」と止め、「マーリンのババアレベルでないとどうにもならんのよ」と得意げに付け加えた。
そこへ返ってきたのが「レベル8、パーフェクトディスペル」の一言である。保護の魔術は瞬時に消え、魔神は「そんなあっさり魔術を解除しやがった」と目を剥く。当のエフタルは刀を手に取って「うん、なかなかいいね」。見ているのは自分の解除術ではなく、刀の手応えのほうだった。
侮辱に一言も言い返さないまま、要求だけを通してしまう。反論しないのは我慢しているからではなく、相手の言い分が成り立たないことを実演したほうが早いからだ。この作品の主人公の強さの見せ方として、今回いちばん気持ちのいい場面だと思う。
「そういえば、ずっと本人みたいな口ぶりだったわ」
騒ぎを聞きつけて、マーリンが帰ってくる。第一声は「魔神、貴様ー!」で、続けて「誰がババアだ! 屋敷の外まで聞こえていたぞ!」。エフタルの「な、マーリン、お帰り」という気まずい挨拶がおかしい。
そこからのやり取りで、魔神の顔色が変わっていく。マーリンが「エフタル様、こちらにいらしたんですね」と当たり前に呼び、エフタルが「ああ、ここに雷切があるのを思い出してね」と当たり前に答える。マーリンは「なるほど、エフタル様は剣術も覚えられたのですね」「今度、ぜひ剣術のご教授もお願いします」と嬉しそうで、エフタルのほうが「え、そうだな、そのうち…」と逃げ腰になっていた。
魔神の頭の中で計算が合う。「レベル8、パーフェクトディスペルを無詠唱で瞬時に出してたし」「そういえば、ずっと本人みたいな口ぶりだったわ」「何たる風格! まさか本物?」「そうとは気づかず数々のご無礼をお許しください」。エフタルは「別にいいよ」「僕もアナスタシアも、ここの住人になったんだから、これからは顔をしっかり覚えてよ」で終わらせるのだが、マーリンのほうは「ババアなんて呼んだら跡形もなく抹消するからな!」と引かない。「エフタル様、助けてくださーい!」に対する答えが「僕の力ではどうしようもないよ。マーリンを怒らせたら怖いからね」で、すかさず「エフタル様? それはどういう意味でしょうか?」が飛んでくる。
正体を明かす場面を、追い詰められた側の勝手な理解だけで済ませたのが上手い。エフタルは何ひとつ名乗っていない。四百年ぶりの再会をしている二人の会話が普通すぎて、聞いていた側が勝手に気づいてしまう。前回のばれ方と同じ手つきで、この主人公は本当のことしか言わないせいで身元が割れるのである。
四百年ぶりの街歩き
カーテンを作ってもらった仕立て屋
場面は街へ移る。エフタルの「意外と400年前から変わってない店もあるんだね」に、マーリンが「お気づきですか?」と嬉しそうに応じ、「ほら、あそこの仕立て屋なども」と指を差す。返ってきたのが「ああ、マーリンの部屋のカーテンを作ってもらった店だね」だった。
そしてマーリンが続ける。「実はエフタル様とアナスタシアの制服も、ここで仕立ててもらいます」。四百年という数字を、年表でも回想でもなく同じ店で制服を作るという一点で見せてしまう。この作品はときどき、こういうさりげない置き方をする。個人的には、前回の派手な魔法の応酬よりこの二行のほうが効いた。
街ぐるみの宝探しと、針の穴を通す魔術
食事のあと、店の人から思わぬ誘いを受ける。街全体を使った宝探しが開催中で、隠された宝を一番多く見つけた者が優勝、見つけた宝はそのまま貰っていい。そして優勝賞品が温泉旅行だと聞いた途端、「温泉旅行かぁ…どうです、エフタル様?」と食いつくのがマーリンである。エフタルの「温泉に行きたいだけだろ?」に、「それもあります」と悪びれない。
参加を決めたものの、宝はシェイプシフトで別の物に化けていて、普通に探しても見つからない。マーリンの「パーフェクトディスペルで解除してしまうのはどうでしょう?」に対して、エフタルは首を振る。「それだと宝探しに関係のない他の魔術も解除してしまう」「目に見えないだけで、この街は至る所に様々な魔術がかけられているんだ」「何も考えずに使ったら、街中パニックになってしまうでしょう」。そのうえで「宝にシェイプシフトをかけた相手の術式にだけ介入して、解除しよう」と切り替え、「そんな針の穴を通すようなことができるのですか?」には「もちろん」の二文字で答えて「レベル5、マジックジャマー」。
ついさっき宝物庫で使ったばかりの魔法を、今度は使わない理由の説明に回すのが実にいい。強い魔法を持っていることではなく、どこまで細く絞れるかで格を見せている。力の大きさより手つきの細かさで格上を描く回は、だいたい信用できる。
「少女の想い」がどこにあったか
温泉旅行より欲しかったもの
宝探しの途中、アナスタシアが妙なことを言い出す。「わたしは温泉旅行よりも、その…宝物が…」。エフタルは「宝物? これが欲しいのか?」「なぜこんな物を…」と首をかしげ、「もしかして部屋が寂しいのか?」まで言ってみるが、返ってくるのは「いえ、そういうわけでは…」ばかり。問い詰めそうになったマーリンを「まあまあ、マリー」と止めて、「別に言いたくないことは言わなくていいんだよ」で切り上げてしまう。
種明かしは、優勝して温泉旅行のチケットを手に入れたあとだった。礼を言ったアナスタシアが、その宝物を見ながら「あの時のご主人様に似てるな」とこぼす。「え、似てる? そうかな?」「もしかして、それで欲しかったのか?」に「うん」、「温泉旅行よりも?」にも「うん」。そして「は、恥ずかしいです」。
題名の少女の想いは、ここに置かれていた。旅行より、助けてもらったあの日の姿に似ている物のほうがいい。しかもそれを本人には言えず、聞かれても答えられない。言わせないでおいてやったエフタルが、結局あとで全部聞き出してしまうのもおかしくて、今回でいちばん好きな数十秒だった。
特殊な奴隷紋と、「俺が決めたことだ」
その夜、マーリンが改まって切り出す。「先ほどアナスタシアと大浴場で湯浴みをしてきました」「目的はただ一つ。アナスタシアがエフタル様に夜の御奉仕をするに値すべき肉体か否か。その検分です」。エフタルの「何をいきなり! 僕とアナスタシアはそんな関係じゃないから!」はまったく届かず、「一流の男子は一流の女を抱かなければなりません」「エフタル様の一番弟子である私が、頭の先から爪先まで」と押してくる。
ところが、本題はその先にあった。マーリンはアナスタシアの奴隷紋が特殊なものだと告げ、「あれを見た上で、なお、アナスタシアをそばに置かれるおつもりで?」と問う。「ああ、そうだ」に「なぜです!」「それは手元に爆弾を抱え込むのと同義!」と食い下がったところで、エフタルの口調が変わる。「俺が決めたことだ!」「グダグダ言うんじゃねえ!」。マーリンは即座に「失礼いたしました」と引き、「エフタル君ではなく、エフタル様のご判断だったのですね」と付け加えた。
笑い話の勢いのまま、この作品でいちばん重たい情報が置かれていくのが怖い。しかも爆弾という言い方を否定しないあたり、エフタルの側もそれが危険だと分かったうえで抱えている。直前の「あの時のご主人様に似てる」と並べると、今回はアナスタシアという少女の輪郭を、可愛い側と物騒な側から一度ずつ描いた回だったことになる。
魔族だけの学院に、人間がひとり
劣等種と呼ばれる側に立つ
後半は入学初日。廊下を歩くだけで「なんで劣等種がうちの学院に?」「おい、人間だぞ」「なんでここにいるんだ?」とざわつき、しまいには「くせえ」「確かに人間特有の悪臭がするぜ」まで飛んでくる。強張るアナスタシアに、エフタルはこう言った。「ここは魔族だけが通う魔法学院なんだ。だから人間が珍しがられるのは当たり前なんだよ」「でも、どんな環境でも魔道の追求ができるんだ。それだけでありがたい」。
教室ではさらに露骨になる。エイブという生徒が「そんな入学の仕方で劣等種のゴミクズはここの教育についていけると思ってるのか?」と絡み、エフタルの「頑張るよ」に「なめるな」「こっちがどんなふざけた倍率の試験を勝ち抜いてここに入学したと思ってんだ?」と噛みつく。隣の女子生徒は「ごめんね」と前置きしつつ「私は種族で差別しないけど、実力主義での差別者ではあるわ」「出来るだけ私たちの視界に入らないように生きるのをお勧めしておくわ」。謝ってから刺してくるぶん、こちらのほうが冷たい。
そしてエフタルの内心が渋い。「確かに彼らの言う通り、魔族の方が人間より魔法の資質は高い」「その常識は400年後も変わってないみたいだな」。金の力でねじ込んだのだろうという陰口にも「あながち間違いでもないから少し気まずいな」と返す。差別される側に回ってなお、相手の言い分の正しい部分を勘定に入れてしまうのがこの人らしかった。
学長が担任になった日
ホームルームで担任変更が告げられる。教壇に立ったのはマーリンで、「今日からアルテナ魔法学院の学長であるこの私が、君らへ直々に教鞭を振るってやる」。教室は「マーリン様に教えてもらえるなんてすごいラッキーじゃない」「名前だけ学長として置いてるんじゃなかったか?」「なんで担任に?」と大騒ぎになった。
ここで真っ先に手を挙げたのがエイブである。「私のような優秀な生徒がいるのを噂か何かで聞きつけて、それで直々においでになられたのですね」と自分の手柄にしにいったところ、返ってきたのが「えっと、すまない、君は誰だ?」。「エイブです。このクラスで成績ナンバーワンのエイブ・ポルテスです」と名乗り直した相手に、マーリンは「残念ながら私が来た理由は君ではなく、彼だ」「本日彼が入学したから私が来た」と言い切ってしまう。
当のエフタルが「えっと、マーリン、それは非常に良くないと思うよ」と青くなるのが全てで、この人は目立ちたくないのに、毎回まわりが勝手に舞台の真ん中へ押し出してくる。しかも押し出しているのが、四百年待った当人だというのが困りものだった。
エイブという燃料
「魔術師としては三流だな」
エイブは食い下がる。「は? この人間のために学長であるあなたがわざわざ担任に?」「あ、なるほど。やはりよほどの権力者の子供か何かなんですね」。マーリンの「君にはそのように見えるか?」に「無能な人間がここにいられる理由は、それ以外には考えられません」と答えたところで、返ってきたのがこれだった。「凝り固まった固定観念でしか事象が見えないというのは、魔術師としては三流だな」。
そのうえでクラス全体に向けて、「彼との出会いは、君らの思う人間という種族に関する固定観念を吹き飛ばしてくれる絶好の機会となることは間違いない」と宣言してしまう。エフタルの「どういうつもりだマーリン」には「ということで、お手柔らかにお願いしますね、エフタル様」。様付けが教室に響き渡り、心の中で「僕の平穏な学院生活が」と嘆くしかなかった。
前半の魔神と同じ形をしているのが分かるだろうか。相手が勝手に決めつけて、勝手に足をすくわれる。違うのは、宝物庫では自分でひっくり返したのに対して、教室では師が代わりにひっくり返している点で、そこがそのまま、この人が四百年かけて手に入れたものの形にも見える。
クラス対抗戦の魔法禁止枠
それでもエイブは絡み続ける。「貴様何者だ?」「あのマーリン学長があんなに目をかけてるってことは何かあるんだろ?」から始まって、「マーリン学長はボランティアで人間の子供たちにも魔法教室を開いてるって話だ」「そこで特に可愛い美少年には手取り足取り教えているという噂だ」と、見当違いの結論へ突き進んでいく。エフタルが返したのは「学長に向かってババアっていう言葉は良くないと思うよ」だけだった。その一点だけは、相手が誰であっても見過ごさない。
そしてクラス活動の時間。議題はクラス対抗戦のメンバーで、まだ埋まっていないのが魔法禁止枠である。エフタルは「僕はパスするよ、マーリン」「勝負ごとになるともう一人の僕は熱くなっちゃう節があるからね」と早々に辞退。マーリンが「これは今後の内申にも大いに影響する」と煽ると、手を挙げたのはエイブだった。剣捌きは学年でトップクラスだという。マーリンの「少々私の予定と違うが」という本音がこぼれ、「他にはいないか?」と続けたところで、もう一本手が挙がる。
挙げたのはアナスタシアだった。「アナスタシア、本気か?」というエフタルの問いに、彼女は首を振ってこう答える。「わ、私はご主人様…いえ、エフタル様を推薦します」。呼び方を言い直してから名前を出すところまで含めて、見事な引きだった。
「少女の想い」まとめと考察
刀と枠が、最後で噛み合う
今回の組み立ては、ほとんど一本の線でできている。冒頭の理由は「せっかく剣を使えるようになったから」で、手に入れたのは伝説の刀。そして最後に空いていたのが魔法禁止枠で、そこへ名前を出されるのがエフタルである。しかも対抗馬のエイブは、剣捌きが学年トップクラスだと紹介されたばかりだ。
つまり第7話は、次の試合の道具と、相手と、出場理由を一話で全部そろえた回だった。買い物回や日常回に見えて、実は雷切を取りに行く場面から逆算して組まれている。こういう仕込みがきれいに決まると、遠回りに見えた街歩きまで気持ちよく読み返せる。
同時に、この主人公が毎回同じ理由で目立ってしまうことも見えてくる。隠す気はあるのに、嘘はつかない。自分の刀だから返してくれと言い、師をけなされたところだけ声の温度が落ちる。正体を隠しきれないのは詰めが甘いからではなく、隠す方向と本人の性分が最初から噛み合っていないからだった。
題名の少女は誰だったか
そして改めて、サブタイトルの少女はアナスタシアである。彼女がこの回でしたことは三つだけだ。宝物庫で刀に触ろうとして止められ、温泉旅行より主人に似た宝物を選び、最後にクラスの前で名前を挙げた。どれも派手ではないのに、並べると一本につながっている。
面白いのは、この回で人間を見下していた側が全員そろって同じ形の間違いをしていることだ。魔神は「魔法適性のない無能」と決めつけ、教室は「魔法もろくに使えない劣等種」と決めつけた。その二つを、名指しで否定できる立場にいるのが学長のマーリンと、四百年後にたまたま隣に座った少女しかいない。
だから最後の「エフタル様を推薦します」は、単なる引きではなくこの回の答え合わせになっている。自分では何も言わない主人公の代わりに、言える人が言った。次回はいよいよ剣を持った回になりそうで、そこにどんな顔で立つのかを見たい第7話だった。



























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