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第7話のサブタイトルは「弟が王子様?」。弟たちが仕組んだ里帰りで、糸は幼馴染のメグから「彼氏にするなら長男くん」と言われてしまう。夏が終われば今度は文化祭で、宇田川真冬という先輩に振り回されることになる。そして劇の配役が、源は王子、糸は白雪姫だった。




弟たちが仕組んだ里帰り
スイカ割りと、メグの見立て
夏休みの朝、糸は「出かけるから10秒で支度しろ」と叩き起こされる。「今日は何が何でも俺らに付き合ってもらう」という言い分で連れ出された先が、糸の地元だった。弟たちが家族サービスと称して仕組んだ里帰りである。「朝はどこへ連行されるかと思ったけど」という本人の感想が正直だった。
向こうでは幼馴染のメグがスイカまで用意して待っていた。割り損ねて謝る糸に「大丈夫だよ、まだまだ冷やしてあるし」と返す気安さで、この子との距離感がすぐ分かる。公式の紹介によれば本名は宝生恵、ロマンチックなことが大好きな子だという。はしゃぐ類たちの様子を見ながら、反応では柊が日陰に座っているのに気づいて驚く声も出ていた。前回まで部屋にこもっていた子が、家族の遠出についてきている。
そのメグが糸を捕まえて言う。「ちょっと雰囲気変わった? お姉ちゃんになったからかな」。そこから話は一気に飛んで、「男の子たちと一つ屋根の下だよ。しかも優しくてイケメン。何も芽生えないなんて」「血のつながりはないし、私はアリだと思う」。糸の心の中の注釈が「メグちゃんは昔から、ロマンスとともに育ってきたような子だったもんな」で、諦めの入り方が絶妙だった。
そして出るのが今回の起点になる一言、「糸ちゃんの彼氏にするんなら、やっぱ長男くんかな」。言ったほうは完全に思いつきである。けれども、家の中で誰よりも近くにいる相手を「彼氏にするなら」という枠に一度でも入れられてしまうと、もう元の見方には戻れない。第三者が軽く置いていったものが、いちばん深く刺さる形になった。
穴場で二人きりになってしまう
そのあと一行は穴場だという斜面へ案内される。「ここから飛び降りろって言うんじゃないよな」「脇のとこをバーッと滑って落ちるだけだよ」「それでも遠慮しとくわ」というやり取りが、地元の子と都会から来た子の温度差そのものだった。遊び倒したあと、糸と源が二人きりになる。
源の言い方が良かった。「気に入ってくれた?」に「主に類がな」と答え、そのうえで「なんなら毎年連れてきてやろうかな」と言う。糸が「来年はお父さんたちも来られたらいいな」と返すと、「お前も幼馴染に会えて寂しくないしな」と続けた。気を遣っているのを気づかせない言い方をする人である。
問題は、それを受け取る側がすでに揺れていることだった。糸の心の声が「なんでそんな風に優しく笑いかけるの。いつもと違う場所のせいで、特別な笑顔に見えるじゃん」。源が「まさかこっちに戻りたくなってないよな」と聞けば「なるわけないじゃん。こっちにはゲンもみんなもいないもん」と即答するのに、「二人きりなんて別に平気だと思ってたのに、落ち着かないじゃん」と一人で焦っている。
源のほうも「俺だって、お前が家にいるのが当たり前になってきたとこだしな」「もしその気になったとしても、問答無用で連れて帰るからな」と、本人にその気はないまま距離を詰めてくる。糸が心の中で唱えるのが「終われ、早く終われ、終わっといて!」「夏なんか早く終わってくれなきゃ、何かが始まってしまいそう」。そこへ源の「お前、なんか顔真っ赤じゃね? 大丈夫か?」が飛んでくる。この鈍さが、この作品のエンジンになっている。
夏が終わって、文化祭が始まる
実行委員に立候補した理由
「そんなこんなで悩んでいたら、夏なんてあっという間に終わってしまいました」。季節の飛ばし方が容赦ない。教室では文化祭の話し合いが始まっていて、実行委員の立候補で糸が真っ先に手を挙げる。「これは待ちに待ったチャンス」という心の声つきだった。
背中を押していたのはメグの言葉である。恋が分からないと言う糸に対して、「ゲンのことは大切だけど、弟だから当たり前じゃん」と言うなら「だったら他の人に目を向けてみるといいよ」。そのうえで「糸ちゃん、ずっと家の中のことしか見てないんだもん。そろそろ世界広げてみたら?」「実行委員なんて世界を広げるにはもってこいじゃない」と勧めていた。
つまり糸が実行委員をやる動機は、源から目をそらすためである。ところがその実行委員会で、話が全部源のほうへ戻ってくることになる。逃げるために選んだ場所が、いちばん逃げられない場所だった。この皮肉の作り方が、今回はとても丁寧だった。
宇田川真冬という先輩
委員会で隣に座ってきたのが宇田川真冬だった。第一声が「君も貧乏くじ?」で、「実行委員って雑用係みたいなものだから、誰もやりたがらないんだよね」と続く。名乗ったあとにやったことが「はい、俺の隣座って」「これ俺のノートね」「で、俺は寝るから会議終わったら起こして」。初対面でこれである。
糸は言われた通り議事録を取り、「うわ、マジで書いてくれたんだ。ありがとう」と受け取る先輩にきっちり抗議した。「皆さんが話し合いをしてる中で堂々と寝るのは失礼だと思いました」。返ってきたのが「だよね、ごめんごめん。次からは気をつける」で、怒られているのに一ミリも刺さっていない。
正門に飾る看板の制作を任されたので明日から来てくれと頼んでも、「気が向いたら行くね」。「必ず来てくださいってば!」と食い下がる糸に、「じゃあ、糸ちゃんが迎えに来てくれたら行こうか?」。「なんて人だ!」という心の声で締められるのだが、この人の厄介さは、まだ半分も出ていない。
王子と白雪姫
寝ている間に決まっていた大役
出し物は事前アンケートで演劇に決まり、演目は白雪姫。そして王子役に選ばれたのが源だった。本人の言い分が「寝てる間に勝手に決められただけだろ」で、衣装を着せられながら「ちょっと苦しいんですけど」とぼやいている。
そして糸が差し出した台本が「これ、お前がやるやつ」。つまり白雪姫は糸である。義理とはいえ姉弟が王子と姫をやることになった時点で、この回の落とし所はもう決まっていた。本人たちだけが、まだそれを直視できていない。
源の「実行委員までやるとか、どんだけ祭り好きなんだよ」に対する糸の答えが、この回でいちばん静かな場面だった。「今までこういう学校の行事って見に来てくれる人いなかったから」。自分のために頑張ってくれている母に無理は言えなかった、だけど今年は違うから、張り切ったっていいじゃん、悪い?家族が増えたことの意味が、ここで一つの形になっている。
そんなゲンが好き
それを聞いた源の返しが「こんなこと言われたら、やる気のねえ俺がすっげえ感じ悪いみたいじゃねえか」「分かったよ、王子でもなんでもやりゃいいんだろ」。そのうえで「あとで文化祭台無しにされたって文句言われたくねえしな」と、最後まで素直に言わない。
糸の心の声が続く。「ほらね、本当そういうとこ。人一倍文句ばっか言うくせに、最後はちゃんと家族の顔してくれる。そんなゲンが好き」。そこまで言ってから本人が跳ね上がる。「え、こわ! 私今、ポエムを読むように好きとか出てきそうになってなかった?」。
慌てて出した言い訳が「別に今の好きは家族目線での好きだから」。この一連の流れが良かったのは、きっかけを作ったのがメグでも先輩でもなく、源のいつも通りの態度そのものだったところだ。外から言われて意識してしまったのではなく、外から言われたせいで、前から見えていたものに名前がついてしまった。
試しに俺と付き合ってみる?
歪んでいる先輩
委員会に行くと、先輩が女子に振られている真っ最中だった。「この尻軽男! 二度と私に話しかけないで!」と言われて「分かった、今までありがとう」とあっさり返す。追いかけなくていいのかと聞く糸に、「どうせなんとなくで付き合ってたような仲だから」と平然としている。
そのうえで「他の女子と遊んだだけで浮気したって疑われてさ。なんで女子って付き合うとめんどくさくなっちゃうんだろ」まで言うので、糸の心の声が「歪んでる! この先輩なんだか歪んでますよ!」。恋愛に奔放という紹介がそのまま画面になっていた。
その先輩に「委員会なんてサボってデートしようよ」と誘われ、糸は「私は嫌です!」と断る。理由が「初めてのデートは、好きな人とって決めてますから!」。ここから先輩の質問が始まる。デートもしたことがない、彼氏もいない、好きな人も分からない。「だから、恋とか、したことはないので。そういう気持ちが分からなくて」。
そこで出るのが「じゃあ試しに俺と付き合ってみる?」。「ただのお試しだから」「俺ならそういうの慣れてるし」「俺と付き合ってるうちに、糸ちゃんにも恋が分かるようになるかもしれないよ」「ね? 悪い話じゃないでしょ?」と畳みかける。糸の心の声は「何言ってるの? この人、怖い」だった。軽口の顔をして、相手のいちばん柔らかいところを正確に突いてくる人である。
そいつから離れろ
そこへ飛び込んできたのが、王子の衣装のままの源だった。「糸! 何やってんだ! 来い!」「そいつから離れろ!」。先輩の「なんだよ、いきなり王子くん」がおかしい。「君、糸ちゃんの知り合い?」と聞かれて返したのが「こいつの弟ですけど、何か?」で、先輩の「本当に弟?」がそのまま今回のサブタイトルに繋がっていく。
家に帰ってからも源は収まらない。「遅くなるのは仕方ないけどよ、あいつとは絶対に二人きりになるなよ」。洛が「あいつって、姉さんをナンパしてきたって先輩?」と拾い、類が「そんなことあったの? 許せない!」と乗ってくる。弟たちが一斉に姉の味方をする流れは、この家らしくて安心する。
ただし源の詰め方は雑だった。「本当に変なことされてないだろうな」から「なんでお前みたいなのが襲われてんだ?」まで行ってしまい、糸に「悪かったね、こんなんがモテて!」と返される。心配しているのに口が最悪、というのが源の全部である。
弟は、一番にはなれない
虫が止まってんのかと思った
稽古のほうも順調とは言い難い。「王子、全然感情作れてないよ!」と止められた源が言い返すのが「ていうか、なんでお前が白雪姫なんだよ。その時点で感情が死ぬんだわ」。言われた糸が「優しくキスしてくれたら治るかも」「そんなピンチの人がいたらどうする?」と台本を持ち出して押し返すのも、この二人らしかった。
先輩のほうはあいかわらずで、「今日こそノルマ終わったら俺とデートするよね?」と誘っては断られている。「もしかしてあの弟くんに何か言われた?」「ていうか、本当に弟? 全然似てないよね?」と探りを入れ、「親の再婚でそうなったもので」という答えを引き出す。そのあとの独白が「思い通りにならない相手っていうのも面白いかもしれないなあ」で、この人が本気で面倒になり始めた合図だった。
夜遅くまで作業していると、源が迎えに来る。「作業って、そいつと二人で?」と睨む源の前で、先輩がわざと「そうそう、二人で仲良くやってたんだよね」と煽る。そこで源が先輩の手を払って言うのが「手に虫が止まってんのかと思ったけど、違ったみたいです」。「払おうとしてくれたんだ、優しいね」「俺、優しさだけで出来てる人間なんで」「そりゃモテそうだね」と続く応酬が、静かに火花を散らしていた。
俺は家族を大事にしたいだけだ
糸が席を外した隙に、先輩が本題を切り出す。「そんなにお姉ちゃんが心配? えらく過保護だよね」。そのうえで「糸ちゃんって、なんか一緒にいて落ち着くし、反応可愛いから、つい構いたくなっちゃうよね」と、自分がなぜ糸に構うのかまで正直に言ってしまう。
そして刺しにくる。「まあ、所詮は弟で、いくら大事にしても、糸ちゃんの一番にはなれないだろうけど」。これがこの回でいちばん残酷な一言だった。源が姉のために何をしても、弟という立場である限り越えられない線がある、と言っている。
源の答えが「どうとか関係ねえよ。俺は家族を大事にしたいだけだ」。そのうえで「ただの気まぐれで手を出そうとしてるなら気を付けろよ。あいつを傷つけるような真似したら、俺が」と言いかけたところで糸が戻ってくる。ここで言い切らせないのが上手い。源はまだ、自分の言葉の続きを持っていない。
第7話「弟が王子様?」まとめと考察
大切な人が目の前にいると思って
帰り道、源が台詞を覚えられないとこぼす。「人前でくせえセリフ吐く上に、キスシーンまであるんだぞ。感情が忙しすぎて頭から飛ぶんだよ。もともと王子なんて向いてないし」。そこで糸が返したのが「無理に王子様やらなくてもいいんじゃないかな。だって、ゲンはそのままで十分かっこいいもん」。本人は励ましているだけのつもりである。
続けて出した助言が問題だった。「あとは想像力ってやつ。大切な人が目の前にいると思ってさ。自分は今、その人に話しかけてるんだって思い込むんだよ。誰かいるでしょ、そういう人」。自分から相手に、誰かを思い浮かべろと言ってしまった。
そして源が糸を見ながら言う。「信じられない。なんて美しい姫なんだ。こうして巡り会えたというのに、死んでいるなんて」。言い終えて「こんな感じか」と平然としている源に対して、糸のほうが完全に崩れる。最後に源が放つ「もういい、これ以上注文すんな、バカ」が、この回でいちばん短くて、いちばん雄弁な一言だった。
もしも認めちゃったら
その様子を離れたところから見ていた先輩の感想が「何この甘酸っぱい人たち」。そして糸を捕まえて、逃げ道を全部塞ぎにかかる。「義理の弟があれじゃ無理ないか」「落ちてくれないわけだと思って」。「糸ちゃんの頭の中、もうあいつでいっぱいだもんね」「とてもじゃないけど、ただの弟とは思えないでしょ」と畳みかけていく。
止めがこれだった。「好きだよね、成田源のこと」。「恋が分からないとか言ってたけどさ、分かりたくなかっただけなんじゃないの?」「それ認めちゃったら、めんどくさいことにしかならないもんね」。軽薄な人だと思っていた相手が、誰よりも正確に糸の逃げ方を見抜いていた。
最後の場面がきれいだった。糸が「ゲンさ、ちょっと私のこと気にしすぎじゃない?」と探りを入れると、源は「そりゃ兄弟だからな、気にもなるだろ。何言ってんだ?」で終わらせる。そこにかぶさる糸の心の声が「ゲンが気にかけてくれればくれるほど、私、おかしくなっちゃうんだよ」。そして「ゲンといると、無でなんかいられなくなっちゃうんだよ」。
この「無」という言い方が、実は回の途中から仕込まれていた。文化祭の準備で帰りが遅くなると家族に告げる場面で、糸は心の中で「無だ、無になるのだ」と唱え、邪念を払って成田家の姉に戻ろうとしていた。感情を消すことでしか姉でいられないと、本人がもう気づいてしまっている。
そして先輩の声が反響する。「それ認めちゃったら、めんどくさいことにしかならないもんね」。糸の「もしも認めちゃったら」で、この回は切れる。自覚の一歩手前で止めるのがこの作品はうまい。メグの思いつき、先輩の指摘、そして王子の台詞。外から三回突かれて、糸はもう元の場所には戻れなくなった。次回、この続きをどう始めるのかが楽しみである。




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