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第6話のサブタイトルは「薫衣 -Lavender-」。落ちてくるダモクレスに対して迫られたのは止める判断ではなく、どこへ落とすかという判断だった。そして戦闘が終わったあとの街で、アッシュの前にアインベルクのナラ・ヴォーンが現れる。そこで告げられたのは、皇重護を殺したのはお前ではないという否定である。




落とせる場所を選ぶことしかできなかった
「落下地点は被害が少ないところにコントロールしてほしい」
第6話は「ダモクレス、落下速度上昇中」という報告から始まる。前話の最後で投棄された巨大兵器が、そのまま七煌星団の頭上へ落ちてくる状況である。「このままでは、江別市内に展開している部隊が巻き込まれます」という続報が入り、残ったフロートをバックドアから操作する試みが始まる。
ところが「入れた」という声のすぐあとに「エナジーがどんどん放出されてる」「墜落は免れない」と続く。落下そのものは、この時点でもう止められないと確定してしまう。そこで出てくるのが「時間稼ぎはできないか」という問いで、返ってきた答えも「エナジーの流れを調整できれば多少は」という頼りないものだった。
そして続く一言が今回いちばん重い。「落下地点は被害が少ないところにコントロールしてほしい。できるか」である。公式のあらすじが言う難しい判断とは、止めるか止めないかではなく、どこへ落とすかを人間の側が決めるという話だった。返事は「善処するよ」の一言で、引き受けた側もそれ以上は言わない。
ここからは黒戸の指揮が細かい。ハルカ隊はオルテギアのフォローへ回され、各隊は三時方向と八時方向へ振り分けられる。「全隊、安全圏に退避完了です」「フロートの反応、消えました」「ダモクレス落ちます」と報告が積み上がり、最後に「落下予想地点より早めにランディングに入ります」で着地点が確定する。
黒戸の「よくやってくれた。感謝する」で場面が閉じるのだが、勝ったという言葉はどこにも出てこない。落とす場所を選べただけであって、落ちたことは変えられていない。前話の派手な勝利ムードを、冒頭の数分で静かに引き算してくる作りが上手いなと思った。
「世界からフレイヤをなくすことができました」
戦闘の後始末として、ニーナ・アインシュタインの見送りが描かれる。「フレイヤエリミネーターで我々は命を救われた。感謝している」という礼に対して、返ってきたのは「それは私のセリフです。皆さんのおかげで、世界からフレイヤをなくすことができました」だった。
第4話で「フレイヤは私が作りました」「私はフレイヤを止めたい」と頭を下げた人物が、数話でその願いを完了させている。残弾は三発しかないと本人が言っていたものが、前話のダモクレス戦とオルテギアで使い切られ、製造設備も無い。つまりこの世界からフレイヤという兵器そのものが消えた、という決着である。
同行していたサカイは「私は黒の騎士団との連絡役を担い、ここに残ります」と居残りを選ぶ。ただし本人には、サクヤとロゼが同一人物であることが知らされていない。理由は「あいつは真面目で素直な奴だ。その秘密を抱えたままで、平常通りに任務は果たせまい」で、信用していないのではなく、真面目すぎるから隠しているという理屈になっている。
団員たちの雑談も入る。「よく無事に帰ってこれたよな俺たち」「被害ゼロとは行かなかったけど」「でも全滅しててもおかしくなかったんだぜ」「奇跡だろ」。外側では、ダモクレスとフレイヤを失ったネオ・ブリタニアに対して超合集国が和平交渉団を再び送る計画を進めており、どちらに転んでも即応できるよう体制を整える、という話が進んでいた。
「お飾りの皇帝」が一日だけ押し通す
「やめてくださいということは、できないということではないのですね」
報告に来たキャサリンの態度がまず徹底している。「というわけで、作戦は失敗しちゃったみたいです」から始まり、戦死した味方についても「野心家だったから、功名心に殺されちゃったのかな」と片づけて、「以上、報告終わりです」で切り上げようとする。
それを止めたのがサクラだった。「あの中に犠牲になった方は」と聞き、「そりゃ戦闘したんですから、多少の犠牲者は出ますよ」といなされてもなお、「負傷した日本人を救護するようお願いすることはできますか」と踏み込む。キャサリンの返しは「やめてくださいよ。あなたはお飾りの皇帝なんですから。でしゃばらないでください。私の仕事が増えるじゃないですか」である。
ここでサクラが返した一言が見事だった。「やめてくださいということは、できないということではないのですね」。できないと言われていない以上、それは断りではない、という詰め方である。続けて「私には何の力もないのかもしれないけれど、やれることはやっておきたいのです」と言い、「そういうのは強い人が考えることであって」と返されると「私は強くなりたい」で受け止める。
最後は「お飾りのくせに」と言われながら、「今から明日まで、私の方が強いんだから、言うこと聞いて」と押し切ってしまう。前話でノーランドへの直訴が「ご意見は拝聴しました。では」と最後まで言わせてもらえなかったことを思うと、同じ皇帝の言葉が初めて通った回になる。権限ではなく、屁理屈と粘りで通したというのが、この人らしくてよかった。
命日に墓参りへ行かないという選び方
護衛のヴァルターが「今日は重護様の命日です。お会いに行かれなくてもよろしかったのですか」と尋ねる場面がある。返事は「今回の戦闘で何人も犠牲者が出たんだ。そんな時に自分の親の墓参りなんて、身勝手すぎるでしょう」だった。影武者が、自分の親と言い切っているのがこの短いやりとりの怖いところである。
そのあと「慕われていたんだね」と漏らすと、ヴァルターが語り出す。「重護様は博愛の人でした。日本人もブリタニア人も分け隔てなく、いつも周りには笑顔が溢れていました」「シェリー様も同じで、お二人はとてもお似合いのご夫婦でした」「ですが、シェリー様は若くして病に倒れ、重護様は処刑と称してネオ・ブリタニアの軍人に殺されたとか」。公式サイトの人物紹介では、皇重護はホッカイドウブロックの元領主でサクヤの父、声を担当しているのは小山力也である。
締めくくりは「この戦いが終わったら、二人のお墓を一緒の所に移してあげたいと思ってる。手伝ってくれる」で、ヴァルターは「はい。必ず」と答える。演じている立場の人間が、演じている相手の両親の墓を本気で心配している。この一日の重さが、最後の最後でひっくり返されることになる。
買い出しの街で、旧知の相手とすれ違う
「ラズベリーさん」と呼ばれている時間
喫茶店の場面は完全に休憩回の顔をしている。注文がひっきりなしに飛び、見かねて「手伝おうか」と申し出るのだが、「大丈夫です、これがお仕事ですから」と断られてしまう。それでも「いつもいるわけじゃないし、買い物くらいだったら大丈夫だよ」と押し切って、買い出しに出るという流れである。
外に出てからの独り言が「なんでこの格好に」「やっぱり、まずいのかしら」で、前を通りかかったアッシュを見つけて「とりあえずここはやり過ごして」と身構える。ところが向こうから「奇遇ですね。ラズベリーさんも買い出しですか」と声をかけてきた。
「こっちは気持ちがぐちゃぐちゃなのに、ストレートに声をかけてくるのよね、この人」という心の声が最高だった。仇として殺すと決めている相手であり、同時に兄として組んでいる相手でもあり、さらに今は素性を隠した別人として立っている。三重の立場が全部混ざっている。
会話の中身は他愛がない。「最近お店に出てなかったようですけど、どこか体の具合でも」と聞けば「俺は相変わらずです。丈夫なだけが取り柄なので」と返り、「今度、栄養のつく物を持ってきましょう。何か苦手なものありますか」と踏み込むと、飼っている動物が「マグロ味のカリカリしか食べなくて」という話まで始まってしまう。心の中の「なんで、こんなことに」がそのまま視聴者の感想でもある。
別れ際の「また来てくださいね」に対する返事が「分かりました。誓って必ず」だった。喫茶店に通う約束に誓ってという言葉を使うあたりが、今回のサブタイトルとひそかに響き合っている。
「うちに猫ちゃんがやってくるようになりました」
同じ日、ナタリアのもとを皇帝としてのサクラが訪ねている。護衛代理はヴァルターで、二人は旧知の間柄だった。ナタリアが名前を呼び、ヴァルターが「リントシュテット家とルクセンブルグ家は、シェリー様のご成婚と同時に側近としてこの地へ移住してきた」と前置きしてから続けた言葉が刺さる。
「あなたは特別区で日本人を保護し、私はネオ・ブリタニア軍人として日本人を殺す。道は違えた。それだけのことです」。同じ理由でこの土地へ来た二つの家が、正反対の場所に立っている。それを恨み言でも言い訳でもなく、事実の確認として置いていくのがこの人物の描かれ方だった。
サクラのほうも動く。「あなたが領内で行っている特別区制度のお話、聞きました。日本人の保護をしていただき、ありがとうございます」と礼を言い、「いずれ国内に同じ制度をと考えていますが、今の私にその力はありません。ですが、やれることはやる。少しずつでも変えていく努力をする。それが誰かの願いや喜びに繋がると、私は信じています」と続けた。返ってきたのは「ご立派です。その志、叶えてください」である。
そのうえで、ナタリアがふと世間話を始める。「最近うちに猫ちゃんがやってくるようになりました」「とっても寝坊さんのお騒がせ猫ちゃん。美人さんで育ちは良さそうなのですけどね」。サクラは「今度、会ってみたいです」と応じ、「ぜひ」で終わる。ナタリアは本物のサクヤに店を貸している協力者であり、猫が誰を指しているかは明らかである。影武者のほうが、自分が演じている本人に会ってみたいと言っているわけで、世間話の形をした残酷な場面だった。
ラベンダーホームという名前が出てくる
「お前は皇重護を殺してはいない」
買い出しの途中でアッシュが急に「アインベルクのナラ・ヴォーン」とつぶやき、「すみません、急用を思い出しました」と離脱する。向こうも「私は向かうところがある。お前たちは先に行け」と護衛を下がらせており、互いに気づいたうえで人払いをしてから向かい合っている。
「やはりそうだったか」「こうして会話を交わすのは久しぶりだな、アッシュ」という入り方で、アッシュも「ノーランドの元を俺が去った以来だから、二年ぐらいになるか」と返す。「生きていたのなら、なぜ連絡をよこさなかった。どうしてテロリストなどに」と問われれば「お前こそ、なぜノーランドのもとなどに」と返す。ずっと平行線である。
そこから核心に入る。「軍に戻れとは言わない。敵対するのはやめろ」に続けて、「前にも言ったはずだ。皇重護の死はお前のせいではない」「自ら事実を曲解するな」「お前は皇重護を殺してはいない」「罪滅ぼしのつもりなら無意味だ」と畳みかけた。
第2話の時点で、ロゼは父の仇はアッシュだと断じ、そのうえで兄として傍に置いていた。全てが終わったらあなたを殺す、と内心で誓ってもいた。その前提が、当人たちのいないところで外から否定されたことになる。しかもアッシュ自身は否定を受け入れず、「違う。これは誓いだ」と言い切る。やっていないと言われてなお引き受け続ける理由があるということで、ここが今回いちばん引っ張られた場所だった。
「あの子たちの安住の地を作るまで」
アッシュが「ノーランドの下ではなくとも、他の方法があるはずだ」と促すと、返答は「これが最善だと判断した」だった。そして理由が語られる。
「ブリタニア帝国崩壊後、一見平和に見える世界の影で起きていたのは、猛烈なブリタニア・バッシング」「ラベンダーホームからも被害者が出た。あのホームの子供たちだ」「だから私は誓った。たとえノーランドに利用されてでも、あの子たちの安住の地を作るまで、ネオ・ブリタニア軍人として力を尽くすと」。サブタイトルの薫衣、つまりラベンダーがどこから来た言葉なのかが、ここで一気に明かされる。
「俺と戦うことになってもか」という問いには、「お前たちとノーランドの生活がどのようなものだったのかは知っている」と答えが返る。知ったうえで、それでも降りないという意思表示である。
面白いのは、同じ回にヴァルターとナタリアの分岐が置かれていることだった。守りたいものがあるから反対側に立った人間が、今回だけで二組も出てくる。敵側を悪として描かない作りが、ここまで来て一気に効いてきた感じがある。
食卓で、兄も弟も嘘をつく
帰宅したアッシュは、寄ってくる動物たちに「お前たちの餌はこの後だ」「まったく」「後だって言ってるだろ」と押し返しながら食事の支度をする。戦場での姿とのギャップは第3話でも描かれていたが、今回はそこに沈黙が乗る。
食卓でロゼが「あのさ、兄さん」「今日は何してたのかなって」と切り出す。返事は「いつも通りだ。トレーニングして、武器の手入れをして、少し街に出た。お前は」で、ロゼも「俺もいつも通り。協力者と会って、情報を集めて」と返す。兄はナラと会ったことを言わず、弟は兄と買い出しで鉢合わせたことを言わない。どちらも嘘ではないのに、どちらも本当ではない。
そのあとアッシュが一人で反芻するのが「俺に何をさせたか忘れたのか」という一言である。殺していないと言われても引き下がれない理由が、この短い言葉に押し込まれている。来週以降ここが開かれるのだとしたら、今回の食卓の沈黙は相当効いてくると思う。
破棄されたギアスのデータを掘り返す者たち
「実験体はまだいる。何が出てくるか楽しみだな」
ノーランドとクリストフの場面は、今回でいちばん温度が低い。ダモクレスと部下を失った報告に対する答えが「いや、十分だ」で、損失そのものを勘定に入れていない。そのうえで次の手として持ち出されたのが捕虜だった。
「札幌ゲットーでイレブンどもを逃がそうとしていた兵士を何人か捕まえた」「網走の時と同じ症状だ」「記憶にないと叫んでおる」。網走という単語が出た時点で、これがロゼのギアスの後始末だと分かる。第2話で看守が全ての囚人を解放させられた件と、前話で味方の兵士が日本人を逃がした件が、記憶のない人間という共通点で一本に繋がってしまった。
そして「破棄されたギアス関連のデータを発掘した甲斐があったというものだ」という台詞が出る。捕虜への尋問は「誰に命じられた」という問いに対して「あれは金髪の」まで引き出したところで、相手が息絶えて終わる。それに対する反応が「まだまだ調整が必要だの」「だが効果はあった」「実験体はまだいる」「何が出てくるか楽しみだな」だった。
人が死んだ直後の言葉として、調整と効果しか出てこない。ここまでの敵はそれぞれに理屈と事情を持って描かれてきただけに、理屈が要らない人間が一人混ざっている不気味さが際立っていた。
「薫衣 -Lavender-」まとめと考察
最後の一言が、この一日を全部ひっくり返す
締めくくりで、ナタリアの猫の話がもう一度流れる。そのうえで置かれるのが「お飾りの皇帝、スメラギ・サクヤ。それすら偽りとはな」という一言だった。誰がどの経路で掴んだのかは示されないまま終わるので、断定はできない。ただ、直前にわざわざあの世間話を差し込んでいる以上、あの一日そのものが糸口になったと読むのが自然だろうと思う。
今回を通して並んでいるのは、全部「誓い」だった。やっていないと言われても引き受け続けるアッシュの誓い、利用されてでも子供たちの居場所を作るというナラの誓い、喫茶店にまた来ると言うときの誓って必ず、そして墓を一緒にすると約束したヴァルターの必ず。薫衣という題は、そのうちの一つの出どころを指している。
考察として面白いのは、サクラの立ち位置がこの回で二度動いていることである。前話では最後まで言わせてもらえなかった皇帝が、今回は屁理屈で押し通した。力がないと自分で言いながら、やれることはやると宣言し、実際に日本人の救護を通した。ところが同じ回の最後で、その皇帝という立場そのものが偽物だと知られてしまう。一日かけて手に入れた小さな成果と、一言で失われかけている土台が、同じ回に同居している。
もう一つ気になるのは、ナラの側が最後まで戦う気で来ていないことだった。敵対をやめろと言い、こちらの事情も知っていると言い、それでも降りないと言う。どこかで手を組む余地があるのではないかという読みも出ていたが、少なくとも今回の描かれ方を見る限り、その線は完全には潰れていない。次回、アッシュの過去がどこまで開かれるのかを待ちたい。




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