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第7話のサブタイトルは「サーカスが、わからない」。前回ミッチャーが言い残した「本当のサーカス」の中身が、ようやく明かされる回である。ただし瑞佳に足りないものは技術ではなかった。意識して観客の前に立ったことが、一度もない。そして第1話の「死んでも嫌」には、十年前の続きがあった。今回いちばん効いたのは、これまで団を引っ張ってきた瑞佳を、今度は団のみんなが連れていく側に回るという反転である。




公式サブタイトルは「サーカスが、わからない」。十年前のロータスサーカス
団のみんなが家族だった娘
前回の引きは「じゃあ教えてあげる。本当のサーカス」だった。その続きが、ミッチャーの昔語りから始まる。瑞佳は物心ついた頃からロータスサーカス団と一緒に世界中を巡っていて、幼くして母親を亡くしたあの子にとって、団のみんなは家族そのものだった。
だから厳しい特訓にも負けず、大人たちに追いつこうといつも必死だったという。目指していたのは、ただ一つ。ロータスサーカスの舞台に立つことである。ところがミッチャーはそこに、「でもあの子は、夢に見た舞台に立つことはなかったの」と続けた。
母を失った子にとって、団が家族だったという一行が効く。前回の絵本の場面で、瑞佳が『オズの魔法使い』のあらすじを「仲間? お供しかいませんね」と言い換えていたのを思い出した。仲間という言葉に、あの子はもともと別の重さを持っていたのだと分かる。
なぜロータスサーカスは解散したのか
解散を決めたのはブラックロータス、つまり瑞佳の父である。理由を聞いた団員たちが納得できないのは当然で、「そもそもなんで解散したんですか」という質問が飛ぶ。答えは「根っからのサーカスバカでね」だった。
肉体の頂点を過ぎて最高のパフォーマンスを発揮できなくなった自分を、この人は許せなかった。「だからって解散? 指導に回るとか他にやりようあるのに」と食い下がられても、ミッチャーは首を振る。観客の大半はブラックロータスの演技を目当てに来ていて、やつなしでは期待に応えられない。だから「お客さんたちが夢見ている間に消えることを選んだ」。
「その気持ちわかる」と漏らす声もあった。演者としては筋が通っているし、間違ってもいない。それでも娘には、夢と居場所を奪われたようにしか見えなかった。正しさが人を傷つける形をきちんと両側から見せてくるのが、この作品の良いところだと思う。
最終公演の日と、「死んでも嫌」
泣き続けていた瑞佳が落ち着きを取り戻したのは、ロータスサーカス最終公演の日だった。その日、ブラックロータスは自分の夢を娘に託そうとする。自分に代わっていつか未来のサーカスを引っ張っていく演者になってほしい、と。かけた言葉が「いつかお前もサーカスの舞台に立つんだ」である。
返ってきたのが「死んでも嫌」だった。第1話でギャグとして置かれていたあの一言に、十年前の続きがあったことになる。しかも幼い瑞佳の言い分は、サーカスが嫌いだという話ではまったくない。「私が立ちたいのはロータスサーカスの舞台なの」「みんなと一緒に立ちたいんだよ」「みんなと一緒じゃなきゃ嫌だ」。
父が差し出したのは未来で、娘が欲しかったのは、もう無くなってしまった場所だった。噛み合いようがない。この一場面のためにギャグを一つ温存しておいた構成には、素直に感心した。
「一番大切なことを知らないまま」と、迫る存亡の危機
あなたたちはどうしてサーカスをやってるのかしら
話を聞いた団員から出たのは「かわいそう」「自分勝手すぎです」という素朴な感想と、そして肝心の疑問だった。それと瑞佳がサーカスを分かっていないという話は、どう繋がるのか。ミッチャーの答えが「舞台に立ったことのないあの子は、今も一番大切なことを知らないままなのよ」である。
確かめ方が上手かった。ミッチャーは団員たちに「あなたたちはどうしてサーカスやってるのかしら」と聞く。返ってきたのは「そりゃ楽しいから」「お客さんの笑顔見るの好きだし」。そこで一言、「それ。瑞佳は意識して観客の前に立ったことがない」。
教えればいいのでは、という提案も出たが、「それじゃダメなんだと思う」「お客さんの前で実感しないと」と却下される。技術の話なら口で伝わるが、これは口で伝わらない種類のものだ、という整理である。分かっていないのは瑞佳だけではなく、教えてこなかった側にも同じだけ落ち度がある、という結論に後半で着地するのがきれいだった。
ブルーローズサーカスが、また同じ場所に来る
そこへ凛が報告を持ってくる。次の公演地の近くにある大きな公演地に、皇グループの最上位集団ブルーローズサーカスがやってくるという。このままでは客はあちらへ流れる。
前回は伏兵として勝ってみせたが、今回は相手が違う。「さすがにブルーローズ相手では」「前回みたいな奇跡は、今回は起こりそうにない」と、団員の口ぶりからしてもう諦めが入っている。凛の言葉も容赦がない。「うちの経営にとって致命傷になってしまう可能性が高いです」。
自分を責める凛に、マリアが「凛のせいじゃないわ。キルコレ協会の管理不備よ」とかばう。問い合わせても相手が大きすぎて取り合ってもらえなかったらしい。皇に恨みでもあるのかと聞かれ、団の中から「私が七海さんの誘いを断ったから」という声が上がった。この一行が、後半の場面と繋がることになる。
「ここしかないの」「私も行くところなんてない」「僕らだってマリアの作ったここが大好きだ」と、居場所の話が重なっていく。瑞佳が失ったものと、団員たちが今まさに失いかけているものが、同じ形をしている。
キャッチャー対決 ― 技と、その先にあるもの
「私を誰だと思ってるの。伝説のスターよ」
深刻な空気に、事情を知らない瑞佳が戻ってくる。開口一番「いやだから、私、演者はもうやりたくないです」と繰り返すのだが、ここで刺さるのが「ここがなくなっても、お前の借金はなくならない」という現実だった。「それって脅迫みたいに聞こえるんですけど」に対する答えは「分かってる。でも今はどんなことをしてでも、ひまわりを守りたいの」。
そこへミッチャーが割り込んで「無駄よ無駄。瑞佳が出たところで何の手助けにもならないわよ」と煽る。「見ないと分からないじゃないですか」「分かるわよ。私を誰だと思ってるの。伝説のスターよ」「自分で言った」という応酬から、「そんなの大昔じゃないですか」「ただのヒゲ親父じゃないですか」と口が悪くなっていく。
賭けの条件が「あんたが勝ったら無条件で借金全額払ってあげる上に、次の公演にも出してあげる」。瑞佳は「勝って必ず公演に出てみせます」と即答し、桜翔を連れて着替えに行ってしまう。それを見ていた側の感想が「なるほど、こう扱うのか」「こっちの言うこと何でも聞くんじゃない」で、本人だけが「こんな安っぽい挑発なんかに乗らないですよ」と言い張っているのが可笑しい。
前回ミッチャーは、金を払ってでも瑞佳を辞めさせようとしていた。同じ借金を、今度は舞台に上げるための餌に使っている。やっていることは一貫していて、この人はずっと瑞佳を舞台に立たせようとしている。
山田が、ひまわりで飛ばなかった理由
対戦相手はミッチャーではなかった。「あなたたちも、ここを守るためにできることあるんじゃない」と振られて出てきたのが、雫とスヴェトラーナである。「こんな余興、ミッチャーさんが出るまでもないわ」と衣装まで着けて現れ、「聞いてないですよ」と慌てる瑞佳に「真剣勝負だろ。君こそ認識が甘いぞ」と返す。
驚いたのは桜翔のほうだった。「知らないでしょうけど、山田は空中芸の演者だった時代もあったのよ」。ひまわりで飛んでいるのを見たことがない、と言う桜翔への答えがこれである。「私たちがここに来た時に、あなたがいたからよ」「私よりあなたと組んだ方が、雫の求めるサーカスに近づけると思ったの」。
つまりスヴェトラーナは、桜翔に場所を譲るために飛ぶのをやめていた。雫が最後の一本を桜翔と飛んだあの場面の裏に、この判断が置かれていたことになる。譲った側が何も言わずにいた期間の長さが、そのまま重さになっていた。
それを打ち明けたうえで「目の前のことに集中して、お互い最高の演技をしましょう」と切り替えるのだから、この人は強い。本名が山田だと分かった途端に全員が山田呼びに切り替えている軽さも含めて、この団の空気が好きだと改めて思った。
技はこちらが上で、興奮したのは向こうだった
勝負は一回、勝敗はみんなの意見で決める、という取り決めだった。演技中、ミッチャーは何度も「瑞佳、もっと笑顔で」「笑顔が硬いぞ、瑞佳」と声を飛ばす。そして「あんたはその笑顔の意味を、誰のための笑顔なのか理解してないのね」と言い当てた。
判定は残酷なほどはっきりしていた。「正直、桜翔たちの方が演技はすごかった。でも見ていて興奮したのは山田たちの方」。技術で勝って、観客の心では負ける。「今の違い、理解できる?」と聞かれても、瑞佳には分からない。
続く問答がこの回の中心だった。「あんた、サーカスが楽しいって思ったことある?」に対する答えが「できなかった技が練習してできるようになるのは楽しいです」である。間違ってはいない。ただ、その楽しさに観客が一人も入っていない。
「演技に入る時のあの変な笑顔やめなさい」と指摘され、「変な顔なんてしてない」と言い返して逃げ出すところまで含めて、痛いところを突かれたことは本人が一番よく分かっている。逃げ足の速さを「世話の焼けるやつだな」で見送る空気も温かかった。
託す側と、欲しがる側
「あの子を導けるのはもう私なんかじゃない」
逃げた瑞佳を追わず、ミッチャーは桜翔を呼び止めて「あなたと大事な話をしたい」と切り出す。内容が、この回でいちばん誠実な部分だった。瑞佳はプロフェッショナルとして当たり前のことを積み上げてきたが、自分のことだけを知らない。そしてそれは「私たちの責任なの」だという。
もっとちゃんと教えてあげていれば、もっとちゃんと見せてあげていれば。「私たちはそれをしてあげられてると思ってしまっていたのね」。家族そのものだったはずの大人たちが、一番大事な一つだけを渡し忘れていたことを、十年たって認めている。
そのうえで頭を下げた。「自分勝手で申し訳ないんだけど」「瑞佳のことお願い」「あの子を導けるのはもう私なんかじゃない。あなたたちに任せたい」。前回あれだけ「才能ないわよ」と切り捨てた人が、切り捨てるためではなく引き渡すために来ていたことになる。
後の場面でマリアと紅茶を飲みながら「もう私の出る幕じゃないのよね」「嫌われてるし」と笑い、「あなたたち見てたら、なんかサーカスの楽しい未来が見えたのよね」と言い添える。公演の件も自分のほうで動いてみる、と申し出て去っていった。伝説の演者の役どころとして、退き方まで格好よかったと思う。
皇七海が欲しがっているもの
夜、七海のもとをむつみが訪ねる。シャイニーラベンダーからブルーローズへ移ってきた人物で、問いは率直だった。なぜひまわりサーカスにそこまで固執するのか。今回のブルーローズの公演地では集客に期待できないのに、と。
そこで出てきた名前が予想外だった。「川澄桜翔獲得のためですか。それほどまでに彼女が必要なのですか」。皇が狙っているのは瑞佳ではなく、桜翔である。先ほど団の中で上がった「私が七海さんの誘いを断ったから」という声と、ここで繋がる。
七海の答えも含みが多い。皇の娘としてグループ全体のことを第一に考えている、「でも、私がやらなければならないこともある」。公演地を潰しにかかる行為が、グループの利益のためではなく個人の目的のためだと本人が認めた形になる。
むつみへの言葉も気になった。移籍させたのも皇グループの未来のためであり、あなたにも期待している、と。格上の団から引き抜かれてきた人が、格下の団を潰す仕事を任されている。この作品の敵側は、いつも組織の都合と個人の事情が二重になっている。
「サーカスが、わからない」まとめと考察
バスの中で「やめちゃだめ」と言われた人
公演地へ向かうバスの中で、瑞佳が本音を落とす。「私、サーカスが嫌いだったことなんてないんです」。なのに演者はやらないと言い張っている、めちゃくちゃなことを言っている自覚もある。「でもこの気持ち、自分じゃどうにもできなくて」。
ロータスサーカスの仲間が大好きで、その舞台に立つのが夢だったこと。だから他の舞台では飛びたくないこと。全部聞いたうえで桜翔が確かめると、瑞佳は認めたうえでこう言った。「私、次の公演が終わったらサーカスやめます」。
そこからが良かった。桜翔の「やめちゃだめ」に続いて、「やめるなら本当に納得してからよ」「納得してます」「納得してないよね」「お前もっとめんどくさいやつだろ」と、団員たちが次々に言葉を重ねていく。自分勝手で、おせっかいで、それでもサーカスが好き。だから納得なんてしているわけがない、という決めつけ方が乱暴で愛がある。
結論が「だったら私たちが連れて行く」だった。瑞佳が立ったことのないところ、見なくちゃいけないところ、初めての景色が見えるところへ。送り出す言葉は「楽しんでね」である。
ここまでの六話で、ひまわりサーカスを技術面で引っ張ってきたのはずっと瑞佳だった。演目を組み替え、指導を頼まれ、キャッチャーを引き受け、そのたびに「私は演者じゃない」と言い続けてきた。その人が、今回は連れていかれる側に置かれている。ミッチャーが桜翔たちに託したものが、そのまま実行されたことになる。
最後は客席の少ない会場で「風前の灯火ってやつだな」とぼやかれながら幕が上がる。ブルーローズに客を取られ、皇は桜翔を狙い、団の存亡もかかったまま、瑞佳は初めて自分の意思で舞台に向かう。父が守ろうとした「夢見ている間に消える」という美学と、客が少なくても幕を上げるひまわりのやり方は、真っ向から反対である。その差を瑞佳がどう受け取るのかが、次回いちばんの見どころになりそうだ。




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