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第7話のサブタイトルは「透明」で、作品名の一語がそのまま置かれている。告白動画を送ってから一週間、冬月とは連絡がつかないどころか物理的に会えていない。そこへ鳴海が持ってきた一報で、空野と早瀬は病院へ走る。見どころは、ピアノの音を頼りに見つけた背中に空野が名前から告げ直す場面と、そこで返ってきた「どこかでお会いしたことありましたか?」である。そして最後に、冬月が中学3年で何を選んだのかが本人の口から語られる。




公式サブタイトルは「透明」。既読にならないまま過ぎた一週間
「失恋なのか」を、すぐに自分で打ち消す独白
冒頭は空野の独白から始まる。告白動画を送ってから冬月の返信は誰にもなく、「恥ずかしくて会えないとか、気まずいとか、そういうことではなく、物理的に会えてない」と、わざわざ念を押す形で一週間の空白が説明される。
月曜の講義のあとに二人でテラス席で時間を潰していたことが思い返され、「たわいない会話をして、冬月が笑う」「なんとなくそれが続くと思ってた」と続く。そこへ「そういえば炭酸が苦手って言ってたな」が挟まるのがうまい。積み上げてきた小さな情報が、いまは一人で反芻するだけの材料になっている。
画面に向かっての自問は「既読にならない」「無視されてる」「それともブロック」「これは何」「失恋なのか」と並んでいくのだが、そのすぐあとに「違う気がする」で打ち消される。「もっと大変なことが冬月に起きている気がする」「会いたい」「会って確認したい」。振られたかどうかを疑っている時間が驚くほど短くて、この一週間で何を考え続けてきたのかが伝わってくる並びだった。
ふっといなくなった父親と、同じ形で開く古い傷
独白はそのまま過去へ滑っていく。「大事な人がふっといなくなる」「まるでもともといなかったとでも言うように」に続くのが、「父親もいつの間にかふっと消えていなくなった」だった。第6話で本人が口にした両親の離婚が、ここでは理屈ではなく体感として出てくる。
さらに「そんなに大切なら奪ってやろう」「そう言われて、胸の奥に隠していたものを取り上げられたような」と重なり、「何の罰だろう」「前世でよっぽど重い罪を犯したんだな」で締まる。相手の身を案じる言葉のすぐ裏側で、自分の側の古い傷が同じ形をして開いている。
連絡が取れないという同じ出来事でも、受け取り方は人によってまったく違う、ということが最初の数分で示されている。この作品はこういう内側の描き方が本当に丁寧だと思う。
鳴海が持ってきた一報と、受付で止められる空野
「こう見えてメンタルはフニャフニャだよ」
早瀬との会話がいい。「なんか早瀬がこんなに参ってるって意外」に対して「私って強そうに見える」と返され、「自分から率先して動く人って」「まあそう見える」と言葉を選んだところに、「こう見えてメンタルはフニャフニャだよ」が返ってくる。
早瀬は「私が変な動画を送ったからかな」と自分を責めている。「変なってなんだよ」「人の告白茶化すようなことして」「ああそういう意味」というずれ方も含めて、二人とも相手の心配をしながら微妙にかみ合っていない。空野の独白が「きっと早瀬は人がいなくなることに慣れてないんだろう」「自分は早瀬ほど心に来てない」と流れて、次の行で「いや嘘」「訂正」と自分で取り消すのがこの回いちばん短い名場面だった。
前期試験の過去問の話でいったん空気がゆるんだところへ、鳴海が走り込んでくる。「なんで走ってんの」に「月島からダッシュ」と答え、「冬月よ、見かけたで」「新富町から歩いて大きな病院に入って行った」。手がかりは、たまたま通りかかった一人の目撃だけである。
「個人情報はちょっと」の前で、それでも止まれない
ここで押さえておきたいのは、鳴海は病院へ行っていないということだ。「すまん、欠席できん必修があんねん」で同行を断り、「場所わかるんか?」と気にかけたうえで送り出す側に回る。向かうのは空野と早瀬の二人だけになる。
病院の受付でのやりとりが厳しい。「この病院に冬月、冬月小春っていう人がいませんか?」と聞いた空野に返るのは「個人情報はちょっと」で、これはどう考えても受付のほうが正しい。それでも「お願いします、最近連絡取れなくて」と食い下がってしまう。
独白も「自分でも馬鹿なことを言ってるのはわかる」「けど止まれない、知りたい」「教えてほしい、会いたい」と、正しくないと分かったうえで続けていることを本人が認めている。別の職員に「どうしました?」と声をかけられて「あ、すみません、大丈夫です」と引き下がるのだが、この空振りをきちんと描いてから次へ進むところに好感を持った。
ピアノの音を頼りに見つけた背中と、待った15分
白杖を突く人はどこにいそうか、から絞り込む
遅れて早瀬が合流する。「早いね、電車で来たの?」「いや、タクシーが捕まったから」。受付で教えてもらえなかったと聞くと「馬鹿、当たり前じゃん」と即答されてしまい、空野も「けど、そうだよね、そうか」と受け入れる。
「よし、自分たちで探すしかない」と決めて、早瀬は「私、隣の旧館を探すから」「見つけたら連絡して」と分かれる。残された空野の探し方が「一番いそうなところは」「白杖を突く人は」という順番になっているのが目を引いた。
見た目の特徴ではなく、相手の持ち物と行動から場所を絞っている。六話かけて隣を歩いてきた相手だからこその探し方で、ここは説明の台詞をひとつも使わずに関係の長さを見せていると思う。
「いた、いたんだ」のあとに、すぐ駆け寄らない
最終的に手がかりになったのは音だった。ピアノの音である。独白が「いた、いたんだ」「よかった、よかった」「いなくなってなかった」「消えてなくて」と短く重なっていくところで、この一週間の重さがまとめて出てくる。文章として整っていないところがそのまま効いていた。
そのうえで、すぐには駆け寄らない。演奏の時間は15分ほど続き、空野はそれが終わるのを待っている。やっと「行こう」と足が出てから、次に出てくるのが「なんて話しかけよう」だった。
探している間はあれだけ止まれなかった人が、見つけた瞬間にいちばん慎重になる。この落差が、このあとの場面をきれいに用意している。
名前から告げ直した空野と、「はい」だけの返事
声色だけで伝わるようになっていた相手に、もう一度名乗る
ここが今回の芯だと思う。「目の見えない人に話しかけるとき、誰が話しかけているか名前を告げた方がいいのは知っている」と前置きしたうえで続くのが、「冬月にはもう声色だけで僕だと伝わるようになっていたのに」である。
名前を言わなくてよくなっていたこと自体が、二人の距離の証明だった。それでも「何か、何か違和感が」と引っかかって、口から出たのが「ごめん冬月、空野です」。築いてきたものを、自分の判断で一段階だけ巻き戻している。
そしてその判断が正しかったと、直後に分かってしまう。違和感の正体を先に感じ取っていたのが空野のほうだった、という順番が残酷でうまい。
「どこかでお会いしたことありましたか?」
続けて出るのは「探しましたよ」「お時間ありますか?お嬢様」といういつもの軽口である。ここに空野の独白で注釈が入るのが効いている。「いつもなら、どなた様でしょうかとか、人違いですって笑いながらノリに合わせて返してくれる」。返ってきたのは「はい」だけだった。
早瀬の「小春ちゃん、階段だからよかったら肘掴んで」にも「大丈夫です」と断る。第5話で「できない時は人に頼れるようになったし、そうやって仲良くなった友達もいる」と語っていた相手が、ここでは頼らない。断り方そのものは丁寧なのに、そこが逆に応える。
そして「あの、えっと、その、久しぶり」「心配したんだよ」「どうして連絡がつかなかったの?」への答えが、「え?あの、どこかでお会いしたことありましたか?」である。怒られるほうがまだよかった、という視聴後の声が多いのもよく分かる引きだった。
回想が明かす「白に似た、透明な靄の中」と、その先
第4話のカフェのやりとりが、続きまで映される
場面は回想へ移る。「言いたくなかったら言わなくて大丈夫なんだけど、その、目が見えないって、どういう見え方なの?」「暗闇だったりするの」への答えが「真っ黒って思われがちですけど、私の場合、逆です」「白に似た、透明な靄の中っていうのでしょうか?」だった。第4話のカフェで、空野が意を決して尋ねたあのやりとりである。
今回はその続きが映る。「これも言いたくなかったら言わなくていいんだけど」に「いえ、どんとこいです」と返し、「いつから目が見えないの?」「中学3年からですね」「事故?」と進んで、答えが「がんでした」「抗がん剤がこれまたつらくて」になる。
同じ場面の同じ調子のまま、切れていたところから先が出てくる作りになっている。三話ぶんの時間を挟んで戻ってくるので、軽い口調のままどんどん重い話になっていく落差がそのまま効いた。
頭の中の小さな白い点から、網膜への転移まで
ここから語り手が冬月に移る。「なんとなくかける君には全部聞いてほしかった」「全部話した」。聞き出したのではなく、話す側が選んで話したのだと最初に置かれる。
「一番最初は頭の中にできたちっちゃな出来物」「この小さな白い点が悪性の腫瘍です」。治療は「大きな機械の中で何回か寝るだけ」で済み、「なんだ楽勝じゃん」「これでぜーんぶ終わった、って思ってた」と当時の実感が入る。
ところが「その数年後転移が見つかった」「網膜に転移したことで選択を迫られた」。突きつけられたのは両目を摘出するか、眼球を温存して手術と抗がん剤治療をするかという二択で、「私は温存を選んだ」で答えが出る。ここまでを、本人がほとんど淡々と語るのがこわい。
「透明」まとめと考察
自らに劇薬を打つ、という言い方で語られる治療
抗がん剤治療の説明が、医学用語ではなく本人の言葉で置かれる。「がん細胞の増殖を抑えるため、自らに劇薬を打つ」「悪い細胞の増殖は止まるが、普通の細胞の働きも鈍くなる」。効くことと壊すことが同じ一本の中にある、という説明の仕方になっている。
そこから「私は次第に眠れなくなった」「眠れないせいか、頭がぼーっとして、記憶も混濁し始めた」と続き、「ケモブレインという副作用らしい」という名前が出る。最後の一言は「あれ?」で、そこで切れる。
病そのものの名前ではなく、副作用の名前で回が終わるのが大きいと思う。冒頭で空野が「これは何」「失恋なのか」と探していた答えが、本人にも気づかれないまま先に起きていた、という順番になっている。
サブタイトルの一語が指しているもの
サブタイトルは「透明」の二文字だけである。まっすぐ受け取れば、冬月が自分の見え方を説明した「白に似た、透明な靄の中」を指している。第4話で一度出た言葉を、今回わざわざ同じ台詞で置き直しているので、これは間違いないと思う。
ただ、この回の冬月は空野の側から見ても透明だった。一週間、姿も声も届かない。学内にもいない。病院にいると分かってからも、名前を出した瞬間に壁ができる。存在しないのではなく、こちらから確かめる手段だけが消えているという意味で、この一語は両側にかかっている。
そのうえで考えたいのは、空野が名前から告げ直したことだ。名前を言わなくても伝わる関係をつくったあとで、また名乗りからやり直している。関係が一度透明になり、名乗り直しから始める回だったと読むと、この短いサブタイトルはかなり厳しいことを言っている。次に会うとき、空野が何と名乗るのかがそのまま続きの見どころになりそうだ。




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