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第8話の公式サブタイトルは「王立学園の新たな出会い」。ところがこの回で描かれるのは、出会いの前に来る締め出しのほうである。教室ではルシアナが「貧乏貴族のくせに」と陰口を言われ、食堂ではメロディが相席を全部断られる。理由はどちらも同じで、舞踏会でルシアナが公爵家の令嬢より注目を浴びたからだった。そして弾かれた二人を拾ったのが、隣室のルーナと、そのインヴィディア家のメイドのサーシャ。主家も使用人も、同じ一軒の家に助けられている。




主家への感情が、使用人の座席にまで下りてくる
学園初日、ルシアナは廊下で「あれが舞踏会の妖精姫?」「いや、英雄姫じゃなかったか」「貧乏貴族のくせに」「幽霊屋敷のルトルバーグだろ?」と言われる。同じころ、メロディのほうは学園の食堂で相席を頼んで回り、そのすべてを断られている。「知り合いが来るのよ」「友人が来るから開けておきたいの」と、言い方だけ違って中身は同じだった。
断られている理由は、二人で一つしかない
その理由を教えてくれるのが、唯一声をかけてくれたサーシャである。ルトルバーグ家には不名誉な通り名がある。そこの令嬢が突然、称賛されるような通り名で呼ばれるようになった。「でもやっぱりそういう感情ってメイドにも影響するわけよ」。とくにランクドール公爵家の使用人たちが気にしている、と続く。新入生に公爵家の令嬢がいて、ルシアナは舞踏会でその令嬢よりも注目を浴びてしまったからだ。
つまり教室の陰口と食堂の空席は、まったく同じ一件から出ている。主家への感情が、そのまま使用人の座席表になって下りてくる。貴族社会の描き方として、これはかなり容赦がない。しかも当のルシアナは、自分のせいでメロディが弾かれていることを知らない。
もともとの友人とは、全員クラスが分かれてしまう
追い打ちのように効いているのが、クラス分けである。入学前から知り合いだったレアトリスたちと再会して「同じクラスだったらいいわね」と言い合った直後、三人とも別々のクラスになったことが分かる。昼食なら一緒に行けるかな、という慰め方まで含めて、この作品はこういう小さい不運の置き方がうまい。知っている相手が全員いない教室で、隣の席になったのが初対面のルーナだった。
弾かれた二人を拾ったのが、同じ一軒の家だった
ここが今回いちばん良かったところで、ルシアナを拾ったのは隣室のルーナ・インヴィディア、メロディを拾ったのはインヴィディア家のメイド・サーシャである。別々の階層で、別々の場所で、同じ日に、同じ家の主従がこちらの主従を拾っている。夜になって二人が「友達ができた」と報告し合い、「お揃いですね!」と喜ぶのだが、その「お揃い」の中身が同じ一軒の家だというところまでは、二人とも気づいていない。
第8話「王立学園の新たな出会い」で起きたこと(要点だけ)
公式のあらすじは「王立学園の寮が完成し、ルシアナは学園寮で生活することに。(中略)無事に到着した二人を待っていたのは、隣室に住むインヴィディア家の令嬢・ルーナで――。」(※1)。本編で起きる順に並べるとこうなる。
- アバン=乙女ゲーム「銀の聖女と五つの誓い」にリメイク版が出て再び流行っている。付録に「初代版の未公開画像」があり、メイド服のヒロインは初期段階の没案だと説明される
- 屋敷を空けるので、メロディが人形にメイド魔法で人格を与える。核にしたのは森の奥で見つけた銀の台座の一部
- できあがったセレーナは、なぜかメロディの母そっくりだった。本人にも理由が分からない
- ルシアナは指輪をペンダントにして持ち込む。メロディが提案した敵意の視線を知らせる魔法は断る
- 王立学園は身分で寮が分かれていて、伯爵家のルトルバーグは上位貴族寮
- 隣室はインヴィディア伯爵家長女ルーナ。翌日の教室で隣の席になり、呼び捨てで呼び合う仲になる
- 同じクラスにアンネマリーと王太子、そしてランクドール公爵家のオリビアもいる
- 担任の初仕事は抜き打ちの中間試験
- メロディは洗濯場でも食堂でも居場所がなく、インヴィディア家のメイド・サーシャにだけ拾われる
- レギンバース伯爵がメロディに「君はずっとメイドとして生きるのか」と尋ねる
筋は学園編の立ち上げそのものなのだが、同じ出来事を主従の両側から二度描くという組み方で通してある。教室で起きたことは食堂でも起きていて、救いの手も両方に一つずつ用意されている。
敵意を知らせる魔法を、ルシアナは自分から断っている
出発前のやりとりが効いている。ルシアナが「もらった指輪をペンダントにしてみたの。これなら制服の下に隠して持ち歩けるかなって」と見せると、メロディが敵意の視線を知らせてくれる魔法を付けましょうと言い出す。ところがルシアナの答えは「いいえやめておくわ」「学園での人間関係の構築も勉強の一つだもの」だった。
この指輪は前の回でメロディがルシアナに贈ったもので、藍色の石について「実は、母の瞳の色とそっくりなんです」「私が母に見守られ、癒しを得たように、お嬢様にも」と言い添えて渡されている。つまりルシアナは、敵意を知らせる装置のほうを断って、メロディの母の瞳の色だけを制服の下に下げて教室へ入っていく。守る仕掛けは外して、見守りだけを持っていった格好になる。
センサーを切った直後に、敵意の中へ入っていく
そのすぐあとの学園が、まさに敵意の展示場になる。廊下では通り名を肴にした陰口が飛び、教室には、舞踏会のときに敵意のある視線を向けられたとルシアナ自身が覚えているオリビアがいる。向けられた笑顔に対して、内心で「目が笑ってない」と気づいてもいる。自分で装置を断ったぶん、全部を素で受けているわけで、この配置は相当に意地が悪い。
堅苦しい話し方を重荷に思っていたのは、ルーナも同じだった
救いになっているのが、その敵意の中で唯一まっすぐ来た相手である。寮に着いた夜の挨拶は「あなたが隣室で安堵いたしました」「私も同じですわ」という完璧に堅い言葉づかいだった。ところがルシアナはその直後にメロディへ「でもこんな堅苦しい話し方、ずっとやらなくちゃダメなのかしら。正直勉強よりもきついかも」とこぼしている。
翌日の教室で、その堅さが一日で外れる。砕けた口調で話してもいいかというやりとりから、「私のことはルシアナって呼んでね」「私もルーナって呼んでね」まで一気に行く。同じ負担を感じていた者同士が隣の席になった、というだけの場面なのだが、陰口と敵意を一通り見せられたあとだと効き方が全然違う。
メロディは、断られたことを「情報収集」として引き取る
対するメロディの受け止め方がこの人らしい。席を断られ続けた理由を聞かされたあと、落ち込むのではなく「メイド仕事のもう一つの側面、情報収集! そんな大切な仕事をすっかり…」と反省し、「音もなく忍び寄る方法と気配を絶って身を隠す技術を練習しなきゃ!」と言い出す。サーシャの「ちょっと頑張る方向性を変えましょうか…」が全部を言っている。
公式サイトでメロディ役の宮本侑芽が「彼女のぶれなさや、実はパワフルなエネルギーを持った部分にとっても惹かれました」とコメントしている(※2)。仲間はずれにされた話がその場で潜入技術の練習計画に変わるのがこの主人公で、落ち込む時間が発生しない構造になっている。
母をめぐるものが、この回だけで四つ並んでいる
この回はもう一本、別の線が走っている。人形メイドのセレーナは、以前アンナから贈られた人形が元になっている。人が雇えないならこの子に働いてもらえばいい、という思いつきから、メイド魔法で人格を与えられた。核にしたのは森の奥で見つけた銀の台座の一部である。
作った本人にも、理由が分かっていない
問題はできあがった姿のほうで、メロディ自身が「どうしてセレーナはお母さんそっくりになっちゃったのかな」と首をかしげる。作り手が意図していない似姿が出てきてしまった、というのがこの回の置き方である。しかも本人はそれを不気味がらず、そのまま屋敷を任せて学園へ出ていく。
同じ回に、亡き妻を思い出している人がいる
一方、屋敷の外ではレギンバース伯爵が亡き妻を悼み、銀の髪を持つという自分の娘に会ってみたいと口にしている。公式サイトのキャストコメントでも、レクティアス役の小野友樹が「レギンバース伯爵に仕える護衛騎士で、伯爵の娘を捜していますが、これが物語の核心へと迫る形に転がります」と書いている(※2)。娘捜しがこの物語の背骨だと、公式の側は最初から言っている。
それでもメロディの答えは変わらない
その伯爵からメロディへ、「君はずっとメイドとして生きるのか。例えば王城で侍女をするとか」という問いが飛ぶ。返ってきたのが「亡くなった母に誓ったんです。世界で一番素敵なメイドになるって」、そして「もう少しだけ、お嬢様に時間をください」だった。母の似姿を作った当人が、母への誓いを理由に今の場所へ残る。母をめぐるものが同じ回に四つ並んでいて、どれもまだ噛み合っていない。母そっくりの人形、亡き妻を悼む父、母への誓い、そしてルシアナが制服の下に下げている母の瞳の色の石。噛み合った瞬間に話が動くのだろうな、という予感だけが残る。
公式が並べているものを見ると、この回の作り方が見える
公式サイトのエピソードページには、各話のスタッフまで載っている(※1)。第8話は脚本・藤本冴香/絵コンテ・村川直哉/演出・清水明、総作画監督はキャラクターデザインの徳川恵梨ほか。脚本は第7話に続いて二回連続で藤本冴香である。原作はあてきち、総監督が石平信司、監督が村川直哉、シリーズ構成が根元歳三、アニメーション制作はEMTスクエアード(※2)。
絵コンテを外に出していない
並べて驚いたのがコンテの担当で、第1話から第8話までのすべてを総監督の石平信司か、監督の村川直哉のどちらかが切っている(※1)。石平が第1・3・5・6・7話、村川が第2・4・8話。外部のコンテマンが一人も入っていない。同じ出来事を主従の両側から二度見せるような設計が最後まで崩れないのは、ここが効いているのだと思う。
公式のキャンペーンで、ルシアナの相方が入れ替わった
もう一つ、公式のニュース欄が分かりやすい。七月二十三日は「メロディ役宮本侑芽さん、ルシアナ役大久保瑠美さん」のサイン入り台本プレゼントだったのが、第8話の放送直後にあたる八月十九日は「ルシアナ役大久保瑠美さん、ルーナ役中村桜さん」になっている(※3)。ルーナはまだ公式のキャラクター一覧には載っていないのに、登場から数日でルシアナの相方の座に入っている。学園編に入ったことが、こういうところにも出る。
まとめと次回予想:ゲームの筋を知っている誰かが動き出す
今回は学園編の立ち上げでありながら、新しい場所に入ることは、新しい値札を貼られることだという話にきっちりなっていた。寮は身分で区分され、教室では家名で品定めされ、食堂では主家の評判が使用人の席を決める。そのうえで救いも二つ用意されていて、どちらも同じ家から来る。
アバンだけが、別の時間から届いている
引っかかるのは冒頭である。「銀の聖女と五つの誓い」はリメイク版が出て再び流行っていると説明され、付録の「初代版の未公開画像」にメイド服のヒロインが載っている。色も服も違うのに一目で分かる、それは初期段階の没案だ、と会話が続く。採用されなかったほうの姿が資料として世に出ている、というのがここで置かれた情報になる。
次回予想:孤児院
締めの独白がはっきりしている。「ここが本当に銀の聖女と五つの誓いの世界なら、この後孤児院は大変なことになるはず」「そんなのってダメ! 絶対止めなきゃ!」。予想として書けるのは、次は孤児院で起きるはずの出来事を先回りして止めにいく話になる、ということである。これまでこの作品は、ゲームの筋が勝手にずれていくのを周りが慌てて追いかける形で進んできた。ゲームの筋を知っている側から先に動くのだとしたら、ずれ方の質がここで変わることになる。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト エピソード(第8話のサブタイトル・あらすじ・各話スタッフ)/all-works-maid-anime.com
※2 テレビアニメ公式サイト スタッフ&キャスト(スタッフ表とキャストコメント)/all-works-maid-anime.com
※3 テレビアニメ公式サイト ニュース(プレゼントキャンペーンの告知)/all-works-maid-anime.com




















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