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第7話の公式サブタイトルは7本目「スーパーの裏と夏の終わり」。
レジから山田さんが消えていた理由は昇級試験の勉強で、田山はそれを教えたうえで、佐々木に紙を一枚書かせる。
「山田さんに渡しとくから」と言って受け取った人が、そのまま受け取る本人だった。
紙が一枚とたらいが一つしか動かないのに、「これが今年の夏の終わりか」という同じ一文が、正反対の温度で二度言われる回だ。




第7話「スーパーの裏と夏の終わり」で起きたこと(要点だけ)
公式サブタイトルは7本目「スーパーの裏と夏の終わり」(※1)。筋そのものはとても静かな回なので、まず起きたことだけ並べておく。
- 山田さんが二週間ほどレジにいない。佐々木は「退職してしまったのか」と気を揉み、その独り言を田山に拾われる。
- 理由はスタッフの昇級試験。店長の後藤が「いいから受けろ」と押し切り、問題集まで用意して勉強を見ていた。
- 田山は佐々木に「頑張れ的なこと」を書かせ、「山田さんに渡しとくから」と受け取る。代わりに自分の書いた紙を佐々木に渡す。
- 山田さんは合格。理由を「期待されて答えちゃっただけ」「私の鈍いファンがお守りもくれた」と説明する。
- 佐々木は会社でその紙を落としかけ、破れていないか確かめて挟み直す。
- レジ部門チーフの前澤が「裏に出る」という噂を持ち込む。青果部門の小畑はそれで禁煙中らしい。
- 田山は佐々木を怖がらせようとして失敗し、逆に自分が怖がっていることを見抜かれる。
- 音の正体は、店長が客から預かっている犬の大五郎だった。
- 夏の装飾を片付ける段ボールからたらいが出てきて、喫煙所が足水の場になる。締めは水鉄砲。
この7本目から、先に観ている人がいなくなった
放送の形も、この回で一段変わっている。公式サイトの放送情報には、ABEMA限定先行配信版について「7月から放送されるTV放送版の1話から6話を約10分のショート版として話数順に分割した内容となります」と書かれている(※2)。つまり先行配信版があったのは6本目まで。7本目は、この作品で初めて「先に観た人がいない回」ということになる。
6本目は佐々木が煙草をやめる寸前まで行き、田山が正体を明かしかけて、電話一本で全部が引き戻された回だった。そこまでを短い尺で先に観ていた層と、木曜深夜まで待っていた層が、ここでようやく同じ位置に並ぶ。その最初の一本が、こんなに何も起きない回だというのが、この作品らしい。
「山田さんに渡しとくから」という一言で、この回は出来ている
書かせた人が、そのまま受け取る人だった
裏で事情を聞いた佐々木は、「よかった、辞めたとかじゃなくて」と胸をなでおろす。田山の「嬉しい?」に対して返すのが「嬉しいとかじゃないよ、安心。安心したんですよ俺は」で、そのあと「山田さんのことを聞き出すような真似してしまって」と、聞いた側なのに謝る。田山の心の声は「安定のにぶす木」だ。
そこから田山が動く。「ねえ佐々木さん、これ書いて」「頑張れ的なこと」。お店の催しか何かだと思った佐々木が書き終えると、田山は「ありがとう佐々木さん。じゃこれ山田さんに渡しとくから」と言う。この一行が、この回のすべてだと思う。渡すも何も、受け取る本人がその紙を手に持っている。配達を装った直接の受け渡しで、佐々木だけがそれを知らない。
佐々木が断った理由が、そのまま作品の構造になっている
面白いのは、佐々木が本気で止めにかかるところだ。「そんなもんもらっても山田さん困るよ」「俺ただの客だし」「おっさんにそんなのもらっても」「やる気なくなっちゃったらどうするの?」。さらに「人様に渡すならもっとちゃんと書きたいというか」と、書き直しまで申し出ている。本人を目の前にして、本人が迷惑がると心配しているわけで、これほど無駄な気遣いもない。
それを黙らせる田山の返しが「出るよやる気」「私が保証するからさ」。保証できるのは、効くかどうかを自分の身で確かめられる立場にいるからだ。対する佐々木は「同僚の田山さんがそういうなら」で引き下がる。同僚だから山田さんの反応が分かるのだろう、という筋の通った誤読で、正しい情報を、正しく間違って受け取っている。この作品のギャグは、ずっとこの形をしている。
そして田山は「じゃ佐々木さんにはこれあげる」と、「クソ上司にムカついたら見て」と書いた紙を返す。頼まれてもいないのに、その場で交換が成立している。
「何の足しにもならない」と言った本人が、いちばん大事に持っている
会社で挟み直す佐々木
翌日以降、佐々木の側の描写が細かい。上司に呼びつけられて詰められ、鈴木に「今日はなんで詰められたんだお前」と聞かれ、「やつ当たりじゃねえか」と返される。その最中に思い出すのが、田山からもらった紙だ。
鈴木と昼を食べる場面では、「今日は激しかったなあ」と言い合いながら、鈴木が「おめぇはなんかダメージ少ねえな」と気づく。「おい、何持ってんだお前」と覗き込まれるのも、その紙。上司に「いつまでもデスクにかじりついとらんで」と追い立てられて席を立つとき、落としかけて「大丈夫だ、破けてない」と確かめ、「こうしてこうして、ここに挟んでおけば大丈夫だろう」としまい直す。台詞で説明せずに、扱い方だけで効き目を見せている。
「魔除け」と言い換えるおじさん
裏でこの話になったとき、佐々木は自分が渡した紙のほうを「そういうのは本人の努力だから」「あんなもん何の足しにもならないと思うけどね」と切り捨てる。その直後に自分の紙を落としかけて慌てるので、田山に「自分のは何の足しにもならないとか言っといて、やけに大事にしてくれてんじゃん」と突っ込まれる。
そこで出てくるのが「魔除けとして」という言い方だ。「魔除けって何なわけ」「要するに、お守りでしょ」「おじさんってすぐ変な言葉使う」というやり取りで終わるのだけれど、お守りと言えないところが佐々木らしい。お守りは願いを託すもので、魔除けは降ってくるものを防ぐもの。この人は、良いことが起きる側ではなく、悪いことが減る側で世界を数えている。
そして田山の心の声が「くしゃくしゃでもまだ持ってるとか、言えばすぐ書いてあげるっての」。何枚でも書く用意がある側と、最初の一枚を折り目までかばっている側。同じ紙一枚の価値が、二人のあいだで全然そろっていない。
昇級試験を受けさせたのは店長で、続けさせたのは紙一枚だった
アバンは店長のごり押しから始まる
冒頭は勉強会の場面から入る。山田さんの「店長、私お給料上がらなくたっていいんです」「この店で働けるだけで幸せなの」に対し、後藤の返しが「そんな人類おらん」「いいから受けろ」。そのうえで「もちろん絶対に受かるようにバッチリ教えてやる」「今回昇級試験を受ける各部門の奴ら用に問題集も用意した」と続く。
教え方も具体的で、「こことここは絶対に覚えておけ」「ここは勘違いしやすい」「フローをしっかり整理しておけ」、しまいには「ここは毎回書いてあるくせに出てないから捨てて」まで出る。山田さんの飲み込みが早いので「なんだ、ずいぶん理解が早いな」と驚き、「わからないことがあるなら遠慮せず聞け」と言い、最後は「寝るな山田」。6本目で「2番レジにいつもいるのはあたしです」と言ってしまえと勧めたのもこの人で、この店長は一貫して、山田さんの背中を押す側にしかいない。
「私の鈍いファンがお守りもくれたんで」
合格の報告も良い。「余裕ですよ店長」と言う山田さんに、後藤は「なーにが余裕じゃ。まったくやる気なかったくせによ」「しかしあんだけ嫌々だったお前がちゃんと勉強しだすなんて、いったいどういう風の吹き回しだ」と食い下がる。その答えが「期待されて答えちゃっただけっすよ」、そして「それに私の鈍いファンがお守りもくれたんで」だ。
本人が、効いたと認めている。しかも「鈍い」という語を選んでいるので、誰のことかは店長にも視聴者にも分かる形で言っている。一方の佐々木は同じ紙について「本人の努力だから」と言い張っていた。二人とも、相手の成果を相手の手柄にしている。紙を渡し合ったのに、功績だけは受け取らない。この回の温度は、たぶんここで決まっている。
この回、「怖いもの」の基準が三通り出てくる
幽霊で禁煙した人と、レジのほうが怖い人
Bパートの入口で、レジ部門チーフの前澤が「出る」と切り出す(※3)。場所は倉庫ではなく「うちの裏」。「なんか一人でタバコ吸ってたら、ペタペターって音が聞こえるんだって」と、青果部門の小畑から出た話で、「それで最近禁煙してるらしいわね」と続く。煙草をやめる理由として、6本目の健康診断の次に出てくるのが幽霊、というのが可笑しい。
「クールな山田ちゃんに鍛えてもらうべきだね」と話が振られると、山田さんが挙げた「怖いもの」は幽霊ではなく、「値札より高い値段で商品がレジを通ってしまうこと」のほうだった。「さすが山田ちゃん、怖いもの知らずね」で締まるが、怖いもの知らずなのではなく、怖がる対象が完全に実務側に寄っているだけだ。接客の笑顔を賞に推される人の、いちばん現実的な恐怖がこれだという置き方が良い。
「生きてる人間で精一杯だから」
同じ噂を、田山は佐々木を脅かす道具に使う。「いつもいいリアクションする佐々木さんに、いいこと教えてあげようか」「出るんだってさ、ここ」。ところが佐々木は「そいつは嫌だね」と言うだけで一向に騒がない。「なんでそこは騒がないの?」と詰められて返すのが、「生きてる人間で精一杯だから」。田山は「なんだ、つまんないの。むちゃくちゃビビると思ったのに」とこぼし、取ってつけたように「こわいこわい!」とやってみせる。
そのあと立場が入れ替わる。佐々木が「もしかして、こういうの怖かったりする?」と気づいてしまい、田山は「怖くない、なんでそう思ったの?」と突っぱねる。ここで佐々木が引く。「ごめん、変なこと聞いちゃって。話の流れでってやつだよ」。踏み込まずに逃げ道を作るのが、この人の一貫した作法だ。田山の返しは「おっさんは会話が続くこと優先で、中身がないからいただけないよね」で、助けられたことは認めない。
正体は犬で、そのあと佐々木が自分で台無しにする
ペタペタの音の正体は、店長が預かっている犬の大五郎だった。「常連のおばあさんがうちのガラポンで旅行を当てたはいいが、この子を預ける家族がいないから行けないとぼやいていてなあ」「私が預かって、たまに連れてきてたんだよ」という説明で、怪談の正体が店長の善意だったことになる。「また紐抜け出してうろついてたのか、大五郎さん」「うろつくのは外だけにしてくれよ」と、犬にだけ敬称が付くのも良い。
問題はそのあとだ。怖がった田山がぶつかってきたことについて、佐々木はその場では「大丈夫だよ、田山さん」と言うだけで触れずにおいた。ところが帰り際、わざわざ「さっきはぶつかってごめんね」と蒸し返してしまう。田山の「ぶつかってごめんって、分かってるくせに。大丈夫って言ったくせに」は当然で、黙っていられたのに、最後の最後で自分から掘り返した。この直後に犬へ「佐々木」と名付けようとして「佐々木君は人間で、犬は大五郎さんだ」と止められ、「じゃあ君は五郎ちゃんだ」に落ち着くのだが、その理由が「だって、だってムカつくんですもん」。八つ当たりの出どころが完全に見えている。
「これが今年の夏の終わりか」は、二度言われる
一度目は、冷房を切られた会社で
佐々木の会社では、「もう夏は終わりだから」「寒い」を理由に部長が冷房を切る。冷却シートを貼れば「たるんどる」と罵られ、「営業がそんなもんペタペタ貼るな」と言われる。その独白の締めが「これが今年の夏の終わりか」だ。夏が終わったのではなく、夏を終わったことにされた側の一言で、まだ暑いのに涼しくする手段だけが取り上げられている。
同じころスーパーでは、後藤が段ボールを抱えている。「そろそろお店の装飾を変えていこうと思ってな」「夏関連のものを回収していた」。こちらも夏じまいなのだが、「片付けるなら好きにしていいぞ」で終わるところが決定的に違う。会社の夏じまいは取り上げで、スーパーの夏じまいは持ち出しを許す。そこから出てきたたらいが、喫煙所へ運ばれる。
二度目は、水鉄砲を全部くらいながら
たらいを見つけた佐々木の反応は「なんで喫煙所に」だが、田山のほうは「なんでちょっといない隙に来るの?」と不機嫌で、小声で「入口で待ってたのに」とこぼす。「靴下脱ぎなよ、佐々木さん」に「一緒に入れるとか、ちょっと」と身構えると、返ってくるのは「ホースで水かけたげる」と「ご期待に添えられなくて、なんか、ごめんね」。佐々木の「やめて、田山さん、謝らないで」が正しい。
足を入れた瞬間の独白が良い。「地獄のような暑さに蒸されたコンクリートの上を四六時中歩き回ったこの脚には、あまりにも最高」。そこへ田山が「やったやった、佐々木さん、今ビビったでしょ」「これで佐々木さんびっくりさせてやろうって、ずっと待ってたんだから」。冒頭の「入口で待ってたのに」の答えがここで出る。幽霊で脅かすのに失敗した人が、水で脅かし直して成功しているわけで、この回の怪談は、ちゃんと落ちがついている。
最後は水鉄砲だ。「こっち来てよけられたら教えてあげる」から始まって、「佐々木さん、全部くらってるじゃん」「反射神経が」。そのうえで、同じ一文がもう一度置かれる。「これが今年の夏の終わりか」。同じ言葉が、取り上げられる側から、ずぶ濡れで受け取る側へ移っている。サブタイトルの「夏の終わり」は、この二回を並べるために置かれた語だと思う。
まとめ|副題から「ふたり」が消えて、これで二本続いた
1本目から7本目までを並べてみる
公式サイトのあらすじページに、全話の副題が並んでいる(※1)。1本目「スーパーの裏でヤニ吸うふたり」、2本目「スーパーの裏で添えるふたり」、3本目「スーパーの裏で贈るふたり」、4本目「スーパーの裏で学ぶひとり」、5本目「スーパーの裏でかけるふたり」、6本目「スーパーの裏に残る匂い」、そして7本目「スーパーの裏と夏の終わり」。
5本目までは「スーパーの裏で+動詞+人数」で完全にそろっている。崩れるのは6本目からで、「で」が「に」に変わり、人数が消えて「匂い」という物に置き換わる。7本目はさらに動詞まで消えて、「と」で場所と季節が並ぶだけになった。副題に人数が入っていないのは4本目・6本目・7本目の三本で、連続しているのは6本目と7本目だけだ。
その二本が何の回だったかを見ると、置き方の意味が見えてくる。6本目は佐々木が煙草をやめて来なくなりかけた回。7本目は山田さんがレジから消えたと思われた回。片方ずつ、相手がいなくなる可能性を経験している二本が並んでいて、その二本だけ副題から人数が落ちている。公式が理由を説明しているわけではないので、ここは読み方として書いておく。
絵コンテは、二人の監督が一本ずつ交互に切っている
同じページには各話のスタッフも載っている(※1)。絵コンテを並べると、1本目が鈴木理人さん、2本目が森あおいさん、3本目が鈴木理人さん、4本目が森あおいさん、5本目が鈴木理人さん、6本目が森あおいさん、7本目が鈴木理人さん。7本すべてが、監督である二人の一本ずつの交代で組まれている。この作品は監督が鈴木理人さんと森あおいさんの二人体制なので、コンテだけは外に出していないことになる。
違いが出るのは演出の渡し方だ。森あおいさんがコンテを切った2本目・4本目・6本目は、演出も本人が担当している。対して鈴木理人さんがコンテを切った回は、1本目を除いて演出が別の人で、3本目が山内東生雄さん、5本目が小野田雄亮さん、そして7本目が小坂春女さん。この名前がスタッフ表に出るのは今回が最初だ。同じ二人の監督でも、自分で最後まで演出する人と、コンテを渡して任せる人にはっきり分かれている。
脚本もシリーズ構成の井上美緒さんではなく森江美咲さんで、こちらは4本目・5本目に続いて三度目になる。コンテは監督、演出は初登板、脚本は構成担当ではない書き手。ほとんど何も起きない回ほど、体制の組み替えがしやすいのかもしれない。実際この回で動いたのは、紙が一枚と、たらいが一つだけだった。それでも、同じ一文を二度言わせるだけの構成が最後まで通っている。
出典
※1 TVアニメ『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』公式サイト STORY(7本目「スーパーの裏と夏の終わり」あらすじ・各話スタッフ)yanisuu.com
※2 同 公式サイト ON AIR(ABEMA限定先行配信版は1話から6話のショート版と明記)yanisuu.com
※3 同 公式サイト CHARACTER(前澤=レジ部門チーフ/小畑=青果部門チーフ)yanisuu.com




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