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第10話の副題は「奪われたイシュタル」。捕虜になったユーリは、目立たないよう脱がされた服のほうから正体を突き止められる。黒太子はイシュタルなど信じないと言いながら、見せしめのために刑場へ連れていく。生き残ったユーリが望んだのは、自分の自由ではなく捕虜の扱いの改善だった。そして黒太子が欲しがったのも、ユーリ本人ではなく噂のほうだ。最後に届くカイルの書簡には、文字が書かれていない。




「離せ」と言ったカイルを止めたのは、同じ言い方だった
第10話は、第9話の幕でユーリが戦利品として数えられたところの続きから始まる。まず動くのは、それを知らされたカイルのほうだ。
開幕は、ユーリが荷車で運び出されたという報告
入ってくるのが、ユーリがミタンニに、荷車で運び出されていた、という報せだ。第9話の最後に略奪兵が「後で高く売ろう」と数えていたものが、そのまま報告の形になって届く。
「ユーリは私のものだ」
カイルは「ユーリを取り戻す」と言って動こうとし、止められると「離せ」「ユーリは私のものだ」「一人でも取り戻しに行く」と続ける。撤退した敵を追うのは無意味だと言われても、判断ではなく所有の言い方で押し切ろうとしている。
参謀が返すのも「あなたのもの」の話だった
そこで返ってくるのが「確かにユーリ様は殿下のものでしょう」「ではあなたの指揮下にある五千の兵たちはいかがですか?」だ。止めるために持ち出されたのが、カイルが今使ったばかりの言い方そのものになっている。
我に返った合図は、指示を出し直すこと
カイルは「手を離せ」と言ったあと、捕虜を一室に集めることと町の秩序回復を指示する。取り乱していたことを言葉で認めず、命令の中身が戻ることでだけ示される。
最後まで言い切らない一言
奴隷として売られるのが通例だから殺されはしない、となだめられたカイルの答えが「分かっている」「ユーリが売られて」「どこかの男のもとで暮らすならそれでいい」「生きてさえいれば 必ず取り戻す」だ。第9話で「これは私のものだ」と言った人物が、他人のものになる形まで受け入れている。
その先に続くのが、ヒッタイトでイシュタルだと言われている女だと知れたら、という条件で、そこから先は言葉にならない。
隠すために脱がせた服が、身元を証明した
捕らえられた女たちの中にユーリがいる、という噂がミタンニ側へ渡る。ここで身を隠そうとした手が、そのまま裏目に出る。
「今の服じゃ目立ちすぎる」
リュイとシャラが真っ先にするのが、ユーリの服を脱がせることだ。目立つから脱がせるという判断は正しいのに、脱がせた服のほうが手元に残ってしまう。
女たちが自分から名乗り出る
集められた女たちの中から「他の方の側室より 私はいかがですか」「それなら私こそ」と申し出る声が上がる。返ってくるのが「女などに不自由はしておらん」で、探しているのは女ではないと先に線が引かれる。
黒太子が見ているのは布の質だった
紫の服を手に取った黒太子が言うのが「高級品だな」「なかなか着られる代物じゃない」だ。人の顔ではなく、着ていたものの値段のほうから絞り込みが始まっている。
決め手はカイルの移り香
続けて出るのが、かすかに高価な香がすること、それが男の移り香であること、そしてこの辺境でその香を使う男がヒッタイトの王子以外にいるか、という三段だ。証拠になったのは、カイルのそばにいたという事実そのものだった。
カイルが怖れていたのは、まさにこれだった
同じころカイルが言いかけて止めたのが、イシュタルだと知れたら、という条件だった。売られるだけなら取り戻せると計算していた側の、唯一の恐れがその場で現実になっている。
黒太子の結論が「お前がカイル・ムルシリの女だな」で、そのあとに続くのが「私はイシュタルなど信じぬ」だ。
黒太子は捕虜を「消耗品」と呼ぶ
ワスガンニへ向かう道中が、この回でいちばん短く、いちばん効いてくる場面になる。ここで見せられたものが、あとのユーリの選択をそのまま決めている。
水も与えられずに歩かされている
倒れた捕虜をかばってユーリが言うのが「マラティアを出てから水も口にしてないんだから」「歩けなくなって当たり前じゃない」だ。抗議の中身が、扱いの不当さではなく、水を与えていないという事実の指摘になっている。
「かまわん 殺せ」
黒太子の指示が「かまわん 殺せ」で、理由が「捕虜は消耗品」「働けないような奴は連れて帰るだけ無駄だ」だ。殺す判断が、罰でも怒りでもなく、持ち帰る価値の計算として出てくる。
「幸運なことだろう」という言い方
ユーリが「お水くらいあげたっていいじゃない」「なんてことするのよ」と食い下がると、返ってくるのが「幸運なことだろう」「さっさと殺してもらえたのだから」だ。殺されたほうが得だという理屈を、殺した本人が説明している。
競りにかけられた捕虜の言葉が引かれる
続けて出るのが、生き残って競りにかけられた捕虜たちは皆口を揃えて死んだほうがましだと言う、という一言だ。自分の残酷さの根拠として、被害者の側の言葉を引いてきている。
ここがミタンニの首都だと告げられる
道の終わりで告げられるのが、ここがミタンニの首都ワスガンニだ、という一言だ。公式サイトの解説によれば、ワスガンニはユーフラテス支流のハブル河が流れる首都で、ミタンニは最強の戦車軍団を擁する軍事国家にあたる。
「生き残ってみろ」と言われて、ユーリは戻りたいと即答していない
刑場へ入る前に、黒太子とユーリのあいだで短いやり取りがある。ここで交わされる問いが、そのまま条件になる。
群衆の値踏みから始まる
まわりから出るのが、あの小娘がイシュタルなのか、ヒッタイトの王子はどうかしている、という声だ。黒太子もそこに乗って、イシュタルを仕立て上げなければ勝てない男は武人とは言えない、と続ける。
「そばにいたいと言ったのは私」
ユーリの反論が「王子はイシュタルなんかに頼ったことはないよ」で、そばに置くための口実かと問われると「そばにいたいと言ったのは私」と返す。権力と財が魅力かと重ねられても、答えは「カイル王子だから」だけになる。
「ムルシリの元へ戻りたいか?」への返事が濁る
次に来る問いが「ムルシリの元へ戻りたいか?」で、ユーリの返事は「え? それは…」で止まる。ここまで即答していた相手が、いちばん答えやすいはずの問いで詰まっている。
「ならば生き残ってみろ」
黒太子が出す条件が「ならば生き残ってみろ」「この後お前が生きていたら その望みを叶えてやる」だ。望みの中身を本人に言わせないまま、生き残ることだけが条件にされている。
独白は「死ねない」だけ
刑場へ放り込まれる直前のユーリの独白が「王子の元に戻るためには」「死ねない」だ。助かりたいではなく、戻るために死ねない、という順番で言葉が出てくる。
刑場の絵が、伝承のイシュタルとそのまま重なる
刑場での戦いには台詞がほとんど無い。かわりに置かれているのが、それを見た観衆の声だ。
「あの女どもを放り込め」
黒太子の指示が「あの女どもを放り込め」で、放り込まれるのはユーリ一人ではない。記事内の箱でも複数のアカウントが、ユーリが獅子を退けたうえでリュイとシャラも助けたと書いている。
観衆が思い出すのは伝承のほう
観衆から出るのが「イシュタルは獅子を従え」「双子の女神ニナッタとクリッタを共に連れ」「暁の空を行くと」という言い伝えだ。目の前の出来事を見た人々が、まず照合しにいくのが知っている図像のほうになっている。
獅子を従え、双子を連れている
見えている絵は、獅子を退けた女が二人を連れて立っている、というものだ。言い伝えの三点のうち二点が、その場でそのまま揃ってしまっている。
リュイとシャラは双子だった
リュイとシャラは、第4話でハッティ族の族長タロスの娘として紹介された三姉妹のうち、長女ハディの下にいる双子の妹にあたる。助けられた二人が双子だという設定が、ここで初めて意味を持つ。
歓声を止めようとして止められない
上がった歓声に対して出るのが「静まれ!」という制止と、民は武勇を尊ぶ、抑えれば反発する、という判断だ。見せしめのつもりで用意した場が、抑えれば逆効果になる場に変わっている。
黒太子の側も「このままではヒッタイトの名声が高まる」と口にしていて、失敗したことは本人たちが先に認めている。
生き残った褒美を、自分の自由に使わなかった
条件は満たされた。ここでユーリが口にする望みが、この回でいちばん意外な一手になる。
望みは捕虜の扱いを改善すること
黒太子が「ムルシリの元へ帰りたいのだったな」「いいだろう 好きにしろ」と先回りしたところへ、ユーリが出すのが「望みは 捕虜たちの扱いを改善すること」だ。差し出された答えを断って、別の願いに差し替えている。
その場にいる民を巻き込む
続けてユーリが言うのが、ここにいるミタンニの人たちだって捕虜になって消耗品扱いされたら嫌でしょ、という問いかけだ。返ってきた「嫌に決まってる」という声を受けて、あなたの国の人たちも嫌だと言っている、と押し込んでいる。
「なぜ自分が自由になることを望まない?」
黒太子の問いが「なぜ自分が自由になることを望まない?」だ。叶えると言った側が、叶え方のほうに納得できずに聞き返している。
理由は善意ではなく不信だった
ユーリの答えが「あなたが言葉通り あたしを返してくれるとは思えない」「街を出たとこで 人知れず消されるなんて絶対嫌!」だ。捕虜のための願いに見えたものが、本人にとっては自分が消されないための手でもある。
黒太子がそれを外交感覚と呼ぶ
黒太子の受け方が「いい外交感覚をしている」「不確実な要求より 万人の目がある場で相手が守らざるを得ない要求を突きつけるとは」だ。やられた側が、その手の名前を正確に言い当てている。
泣きたかったと言うのは、終わってから
リュイとシャラに「お見事でした」「本当にご立派でしたわ」と称えられたユーリが返すのが「怖かった」「カイル王子のとこに返してって叫びたかった」だ。やり遂げた直後にだけ、やり遂げなかった側の言葉が出てくる。
黒太子が奪ったのは人ではなく名前だった
ここから黒太子の狙いが明かされる。副題の「奪われたイシュタル」が指しているものが、この節ではっきりする。
「イシュタルを利用させてもらうまでのこと」
名声が高まると心配する部下に対し、黒太子が返すのが「慌てることはない」「それならそれで こちらもイシュタルを利用させてもらうまでのこと」だ。見せしめが失敗した瞬間に、失敗の産物をそのまま次の材料に切り替えている。
必要なのは事実ではなく噂
部屋を移せと言われて拒むユーリに、黒太子が説明するのが「必要なのは 私の後宮にイシュタルが納められたという事実」「イシュタルが私のものになったという噂でよい」だ。噂でよい、と本人が言い切っている。
「本当に側室にするつもりはない」
そのうえで出るのが「牢獄にいたいのなら好きにしろ」「本当に側室にするつもりはない」という一言だ。手に入れたいものが人ではないことを、隠さずに本人へ告げている。
一番の目的はカイルの耳に入れること
噂を周辺の国へ広めればミタンニの士気も威信も上がる、と説明したうえで、黒太子が付け足すのが、ムルシリの耳に入れることが一番の目的だ、という一行だ。周辺国への宣伝という大きな話が、最後に一人の男へ届けるための口実に縮む。
噂は実際にヒッタイト側へ届く
ヒッタイト側では「兵士たちの噂だ」「とにかくカイル様のお耳には入れないようにするんだ」と箝口令が敷かれる。噂を止めようとする動きが起きた時点で、噂のほうはもう仕事を終えている。
読めない相手には、文字を送らない
最後に届くのが、カイルからの書簡だ。ここで第9話の副題が返ってくる。
使者は交渉に来て、断られる
使者が伝えるのは捕虜の交換という提案で、黒太子の答えが「そんな前例は聞いたこともない」「交渉には応じない」「捕虜を取り戻したければ力で来いとな」だ。断られること自体は、使者を送り込むための口実だったように見える運びになっている。
挨拶の形で伝言が届く
使者が「イシュタル様にご挨拶をしてもよろしいでしょうか?」と申し出て、許されると「他国に移られてもイシュタルはイシュタル」と祈りの言葉を並べる。何か余計なことを喋れば命はないと釘を刺されていたのはユーリのほうで、喋っているのは使者だ。
祈りに混ぜて三つの言葉が渡される
祈りの続きに小さく混ぜられるのが「カイル王子に」「あなただけを」「愛してるって」の三つだ。伝えているのは伝言ではなく、ユーリが返すための言葉のほうになっている。
「文字…読めない…」
渡された書簡を前にしたユーリの言葉が「でも私…」「文字…」「読めない…」だ。印章まで確かめられるのに、中身だけが本人には読めない、という状態がここで確認される。
書簡ではなかった
代わりに読もうとしたリュイとシャラが気づくのが「あら? 書簡じゃないみたいだわ」で、そこにあったのが手のしるしだった。読み上げてもらう必要のないものが、読めない相手に向けて選ばれている。
第9話で教えたしるしが返ってくる
第9話でユーリは自分の手のひらにしるしを描き、「あなたを愛してますってしるし」「私の国では誰でも知ってる」とカイルに教えていた。そのとき「私は私の国の方法の方が好きだ」と言った人物が、離れた場所では教わったほうの方法を選んでいる。




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