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『天幕のジャードゥーガル』第12幕の副題は「いつもと変わらない草原」。ソルコクタニは縁談を断り、オゴタイはドレゲネに穏やかな暮らしを差し出し、シタラには「お前たちがここで幸せになったら 俺の勝ちだ」と勝負を持ちかける。ところが二人が選ぶのは「2人でなら 嵐も起こせるわ」で、最後に交わされる言葉は「魔女となりましょう」。草原が変わらないまま、嵐の支度が始まる最終幕だった。




五本の矢の話で、束ねられるのを断る
公式サイトのあらすじは、第12幕を「シタラに心を動かされ、グユクとの政略結婚を断るソルコクタニ」から始め、ボラクチンの思惑を「見事にかわしてみせる」と書く。第11幕の終わりに出た断りの中身が、ここで語られる。
ボラクチンの押しは「これはモンゴルのためであり あなた自身のためでもある」「素直に私たちの手を取りなさい」。ソルコクタニは「お気遣い痛み入ります」と受けてから、大いなる母が五人の子に言ったという話を持ち出す。「一本ではたやすく折れる矢も」「五本束ねれば決して折れないと」。
束ねる話を使って、飲み込まれるのを断る
続きがうまい。「トルイはあなたに寄り添う一本の矢でした」「私は彼の息子たち」「まだ若く弱い次の矢を育てなければ」。五本の矢は本来、束ねて一つにする話である。その話を、オゴタイ家とトルイ家を一つに束ねる縁談を断る理屈に使っている。トルイはもう束の一本だった、だから自分は次の矢を育てる側に回る、という順番で断っている。
返ってくるのは「トルイ家はトルイ家」「オゴタイ家に飲まれはしないということか」。第11幕で分かったのは、ボラクチン自身が夫の死後に義理の息子へ引き取られて第一妃になった人だということだった。同じ形の再婚を差し出された側が、この幕では「飲まれはしない」と言い切っている。
断りの演説に、居場所の手がかりが混ざる
ソルコクタニはそのまま「それに家臣たちも同じです」と家臣筆頭の将軍に話を振り、「あなたはオゴタイ家の家臣筆頭」「大カアンはどんな宝物だって任せるほど 信頼してらっしゃるのでしょうね」と続ける。聞いていたシタラの側は、ここでドレゲネの居場所に気づく。
縁談を断る演説が、ドレゲネの隠し場所を知らせる合図にもなっている。あらすじの「ついに手がかりを見つけ」は、この「宝物」の一語のことだった。前の幕でシタラに心を動かされた人が、この幕ではシタラに手がかりを渡している。
取り上げられる前に、自分から差し出す
ボラクチンの機嫌が悪い理由は、「今朝 ソルコクタニが使いをよこしました」から始まる。中身は「大カアンが望むなら トルイ家の所有する4000の天幕を譲ってもよいと」。ボラクチンにとってそれは「取り上げようと思っていた領地と領民です」で、感想は「なめられたものです」だった。
奪うつもりだったものを、相手のほうから差し出されると、奪う理由がなくなる。ソルコクタニは天幕を手放して、息子たちという「次の矢」を手元に残した。作品名の「天幕」が、ここでは家や民を数える単位として出てくるのも印象に残る。
「あの人は俺にとって特別な人だから」
そのボラクチンに、オゴタイは「どうしてあなたを責められます」と言う。今ようやくやりたいことができるのは「あなたのおかげで」とまで言う。そのうえで一つだけ条件をつける。「これ以上ドレゲネを巻き込まないでくださいね」「あの人は俺にとって特別な人だから」。返事は「分かっています」の一言だった。
迷子の話が、ドレゲネまで届く
グユクたちが将軍の家へ乗り込み、「ここにドレゲネ様がいらっしゃるでしょう」「会わせていただきたい」と迫る。将軍の側は「さあ何のことやら」ととぼけながら、内心は「何としてもごまかしきらねば」。その裏で、食事を運ぶ場面に「すみません また迷っちゃって」という声が混じる。
「ウルムはないの」「ウルムの季節はとっくに終わってますが」「聞いてみただけよ もう下がって」という短いやりとりのあと、ついに「ドレゲネ様」と呼ぶ声が届く。
「私 あなたを裏切ってしまった」
再会したドレゲネが最初に口にするのは「私 あなたを裏切ってしまった」だった。ボラクチンは「私はかつてクラン妃にお仕えしていたのだ」と近づき、「滅びゆくメルキト族のため モンゴルへその身を捧げた」「今でも心の内に モンゴルへの恨みを秘めているはずだ」とドレゲネの胸の内を言い当ててみせた。ドレゲネは「ついにオゴタイを殺せると思った」と明かし、「愚かね」「あんな嘘を信じて」「クランもあなたも裏切ってしまった」と続ける。
シタラの返事は「守ってくださった 私の大切な思いを」。そして自分のほうも「私も考えてしまいました」「前に進んでもいいのでは」と打ち明ける。裏切ったと謝る側と、揺らいだと打ち明ける側が、ここで同じ高さに並んでいる。
処刑を覚悟した人に、差し出されたのは草原
そこへオゴタイが「邪魔するよ」と入ってくる。ドレゲネの第一声は「私を処刑しに来たのなら 覚悟はもう」。オゴタイは「違うよ」「君に頼みがあって来た」と返し、連れてきたグユクが「母上」と前に出た途端、場の空気が一変する。ドレゲネの「グユクちゃん」に、グユクは「母上 落ち着いてください」と繰り返すしかない。
本題はグユクの口から出る。「俺の領地へ来てください」「ここより西 アルタイ山脈と天山山脈の間の草原です」「冬は寒いけど 水はいいし 牧草も豊かです」。オゴタイも「君にもグユクにも この宮廷は騒がしすぎるだろう」と重ね、「君には 幸せになってほしいんだ」と言う。
シタラが一度は受け入れかけた筋書き
この申し出を、シタラは内心で「これで全部綺麗に片付くんだ」と受け止める。ボラクチンの企みは外れたが、「これで三人とも政治の場を去ることになるんだわ」「ドレゲネ様にとっても 悪い申し出じゃない」。処罰ではなく草原での暮らしという形で、宮廷から外す。オゴタイの優しさと、宮廷の整理が、一つの申し出の中で同時に片づいている。
星の問答と、「俺の勝ちだ」
帰りぎわ、オゴタイは「君の侍女を借りてもいいかな」とシタラを呼ぶ。「お前がファーティマだね」「モゲから聞いたよ」「すぐ迷子になるんだって」。側近の「このようなものに直接声などかけてはなりません」で、問いは「お前は星に詳しいかとお尋ねだ」と取り次ぎの形になる。
シタラが答えるのは本で学んだ天の姿で、「天は回転する球体で 八つの層をなし 私たちはその中心にいるのです」。オゴタイの知っている話は違う。「星っていうのは柱につながれた天の家畜たちなんだ」「北の空の動かない星がその柱さ」。シタラはそれを迷信だと退ける。
一頭の馬に、全員が乗っている
オゴタイは続けて「俺たちのこの世界も案外 つながれて回る一頭の馬かもよ」と言い、その馬には「俺やボラクチン ソルコクタニやトルイ それにお前やドレゲネも みんな乗っていて 同じ目的地に向かって回り続けるんだ」。シタラは「ありえません」「そんなの非科学的です」と返し、「科学とは 自然の摂理のことです」と言い切る。天体の位置は「地球を中心に計算されていますが 矛盾のない解が得られています」「それが何よりの証明で それが真理」。
天文学の話としては、シタラの答えがこの時代の学問の正解である。ただ、オゴタイが言っているのは星の仕組みではなく、全員が同じ馬に乗って同じ所へ回っているという国の話だ。二人の問答は、最初からかみ合わない場所で交わされている。
「その目で 俺のやることを見ていなさい」
そこからの「一つ勝負しないか」が、この幕の山場だった。「お前は見ているだけでいい」「俺はこれからこのモンゴルをもっと豊かにしていく」「父やトルイとは違うやり方で」「お前やドレゲネが 幸せになれるように」。ドレゲネと初めて会ったとき「自分がすべきことを悟った」「このモンゴルを作り変えなければ」「何より あの眼差しのために」。そしてシタラに向けて、「さっきの目」「あの日のドレゲネとよく似ていたもの」。
締めが「お前たちがここで幸せになったら 俺の勝ちだ」。非科学的だと退けた一頭の馬に、自分が気持ちよく乗ってしまうかどうかが、勝負の中身になっている。奪った側の王が、奪われた側の目を相手に勝負を挑むという形がこの作品らしい。
「2人でなら 嵐も起こせるわ」
戻ってきたシタラに、ドレゲネは「いろいろ考えたんだけど」「私 グユクちゃんのところへは行かないわ」と告げる。理由は「このままじゃ大カアンの言いなりだもの」。そして「もう一度 私と戦ってくれる」。
一度言われた言葉を、言い返す
ここでドレゲネが言うのが「2人でなら 嵐も起こせるわ」だった。かつてジャダ石を失ったドレゲネに、シタラは「私が あなたさまの新たなジャダ石と なりましょう」「2人でなら 嵐も起こせましょう」と申し出ていた。あのとき差し出された言葉を、今度はドレゲネのほうから差し出している。
続く「すべてを奪ったモンゴルを」「良かったことなんかにさせるものですか」は、オゴタイの勝負への返事としても読める。ここで幸せになれば勝ちだと言われた二人が、奪われたことを良かったことにはしないと言う。
題名が、自分たちの名乗りになる
「今度は私たちが」に続いて交わされるのが「魔女となりましょう」。公式サイトの英語版は作品名を「A Witch in Mongolia」としていて、ジャードゥーガルは魔女のことである。第11幕では「錬金術で人の生死を操るなんて、まるで魔女だわ」と、魔女は敵に向けられた言葉だった。前の幕で敵を指した呼び名を、最終幕で自分たちの名乗りにしている。
「いつもと変わらない草原」の下で
最後の語りは静かだ。「変わらない冬が過ぎ」「草原にはまた草が芽吹き」「羊たちが その柔らかい芽をはむ」「以前と何も変わらない いつもの草原」。副題はこの語りから来ている。ボラクチンにかけられる「ごきげんよう」の挨拶も、「この国のますますの繁栄を示しているよう」と穏やかに続く。
変わらない草原と、来る嵐
ところが語りの最後は「この年 皇帝オゴタイは ペルシアに総督府を定め」「シタラの故郷は 恒久的に モンゴル帝国の支配を受けることになる」、そして「この権益をめぐる争いが 帝国全体を揺るがす 大きな嵐となる」で終わる。ドレゲネが口にした「嵐」と同じ語である。草原は何も変わらないまま、二人の約束した嵐と、帝国を揺るがす嵐が同じ一語で重ねられている。
「このモンゴルを作り変えなければ」と言ったオゴタイの国で、語りは「以前と何も変わらない」と言う。変わらない表面の下で何が動いているかは、ここまで見てきた人にだけ分かる終わり方だった。
まとめ
公式サイトの各話スタッフでは、第12幕の脚本は加藤還一で、第1幕、第2幕、第5幕、第11幕に続く担当になる。シタラの始まりを書いた人が、二人が魔女になると決める終わりの幕も書いている。第12幕「いつもと変わらない草原」は、終わりの幕が、そのまま次の嵐の始まりになっている回だった。




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