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第95話の副題は「グランベルの希望」。冒頭の回想は、名前を持たない虫に「私が名付けをしよう」と声をかける場面から始まる。現在では、ラズルに「お前は弱い」と言われたシオンが「そうだな」と認めたところから反撃に出る。そして友を失ったグランベルは、それを絶望とは呼ばず、希望と呼んだ。名付けで始まった回が、そのまま名付けの話で閉じられる。




副題「グランベルの希望」と、公式のあらすじ
あらすじが書いているのはシオンの側だけだった
第95話の副題は「グランベルの希望」。ところが公式のあらすじは「クロエとヒナタの救出に向けてリムルたちが奮闘する一方で、シオンとランガはラズルを相手に戦い続けていた」と始まり、「圧倒的な力の差を前に諦めないシオンはその能力を進化させる」で終わる。題に名前が入っている人物のことが、あらすじには一行も書かれていない。
その希望は、いちばん絶望しそうな場面で出てくる
グランベルの希望が出てくるのは、友が死んだ直後だ。しかも本人はそれを絶望とは呼ばない。題の言葉が、悲報の受け取り方をそのまま指している。副題は展開の予告ではなく、ある一人の返事の中身だった。
冒頭は、名前を持たない虫と、名付ける男の話
「なぜ殺す気で来なかった」
この回は回想から始まる。倒れたラズルが「なぜ 俺を殺さない」と問い、返ってくるのは「逆に尋ねたい」「なぜ殺す気で来なかった」だ。ラズルは「何」としか返せない。殺さなかった理由を聞いた側が、殺す気がなかった理由を聞き返されている。
「迷いがあるのね」「ひょっとして あなたは反対なの」
見抜くのは連れの女性のほうだ。「迷いがあるのね」「ひょっとして あなたは反対なの」と重ねられ、ラズルは「冥界は貧しい」「現世を奪わなければ我々に未来はない」と大義を述べたうえで、「だが俺には分からないのだ」と漏らす。侵略の理由を説明できる本人が、その理由に納得していない。
「お前のような変わり者は嫌いじゃない」
そこでグランが言う。「お前のような変わり者は嫌いじゃない」「どうだ俺たちと一緒に来ないか」。ラズルは「一緒にだと」「インセクトの俺とか」と戸惑うが、返るのは「これから西へ 長い旅に出なくてはならないんだ」「だからね 信頼できる仲間が欲しいの」という実務的な理由だった。敵として来た相手を、旅の人手として誘っている。
「名はない」「では 私が名付けをしよう」
誘いの締めが名前の話になる。「あなた 名前は?」と聞かれて「名はない」と答えると、「ほう では 私が名付けをしよう」と続き、「これからは ラズルと名乗るがよい」で決まる。名乗り返しは「私はマリア そしてこの人が」「グランだ」、そして「よろしくね ラズル」だ。この回のいちばん最初の出来事が、名前を与えることだった。
魂を救うための、危ない手順
「相手の体内へ侵入する方法です」
現在に戻ると、リムルたちはクロエとヒナタの魂の救出を詰めている。思念伝達で呼びかける案に対し、ディアブロが出すのは「マテリアルボディが触れ合った状態で スピリチュアルボディのみとなり」「相手の体内へ侵入する方法です」という段取りだ。助ける方法が、そのまま自分も戻れなくなる方法になっている。
「お前は俺を過大評価しすぎだ」
危険度を確かめたうえで、リムルは礼を言い、そこに一言足す。「だが一つ言っておく」「お前は俺を過大評価しすぎだ」。ディアブロの返しは「これはまたご謙遜」で、リムルは内心で「謙遜じゃねえよ」と否定する。持ち上げる側と、持ち上げられて困っている側の温度差が最後まで縮まらない。
「あの仮面 今どこにあるんだ」
抗魔の仮面を、複製して使う
暴れる相手をどう落ち着かせるかという問題に、カリスが仮面を出す。「あの仮面は私を封じるほどのアイテムでした」「この者の精神を安定させる作用もあるのではないかと」。リムルは「シズさんから受け継いで クロエにあげたあの仮面なら」と乗りかけて、そこで止まる。封じるための道具が、落ち着かせるための道具として読み替えられている。
「だとしたら あの仮面は一体どこから来たんだ」
止まった理由が可笑しい。「あの仮面 今どこにあるんだ」と考え、「クロエと一緒に過去に戻ってるんだとしたら」「また巡り巡ってシズさんに受け継がれることになるのか」と辿り、「だとしたら あの仮面は一体どこから来たんだ」に行き着く。答えは出ないまま「いや 考えるのは後だ」で打ち切られる。作戦会議の途中で、時間の輪の話に迷い込んで自分から降りている。
「お前は弱い」に「そうだな」と返す
「認めろ」「お前は弱い」
一方の戦場では、シオンとランガがラズルに歯が立たない。ラズルの言葉は「認めろ」「お前は弱い」「弱者にできることなど」「何もない」だ。シオンの返しは反論ではない。「そうだな」「お前の言う通りだ」「私は弱い」と、そのまま受け取る。言われた通りに認めたところから、この戦いの後半が始まっている。
「私は自分が死んで初めて殺される恐怖を知った」
続くのは自分語りだ。「オーガの私にとって力は正義の象徴だった」「弱い者は死ぬ」「それは魔物にとって当然のことだ」と前置きし、だから他種族を殺さないという決まりも「どこか他人事のように感じていた」と認める。そのうえで「私は自分が死んで初めて殺される恐怖を知った」と言う。ルールを守れなかった理由を、守れるようになった理由と一緒に並べている。
「魂の価値はその生き様で決まる」
拠りどころとして持ち出すのは受け売りだ。「大事なのは」「魂のありようを見極めること」と言われたこと、そして「魂の価値はその生き様で決まる」「強いか弱いか そんなことに意味などないと」。締めは「私の生き様を見るがいい」だった。弱いと認めた相手に、強さ以外の物差しを持ち出して言い返している。
闘神化と、諦めなかったほうが勝つという理屈
「ディアブロと比べて劣っている自分に 不安になる時があった」
弱さの中身も言葉にされる。「ディアブロと比べて劣っている自分に 不安になる時があった」「力の及ばぬ私では いつかリムル様に見捨てられるのではないかと」。結論は「それが私の弱さだ」で、外の敵ではなく比べる癖のほうを弱さと呼ぶ。負けそうな理由ではなく、誰かと比べてしまうことのほうを弱さだと言っている。
「意識を向けるは己にのみ」「自分自身を彫刻するのだ」
言い直しがそのまま覚悟になる。「他人を羨んで何になる」「意識を向けるは己にのみ」「自分自身を彫刻するのだ」。直後に「個体名シオンの固有能力」が「ユニークスキル 闘神化へと進化しました」と告げられる。比べるのをやめると宣言した瞬間に、進化が確認されている。
「お前に教えてやろう」と前置きしてから殴る
攻撃が通ったあとの言葉も、教える形をとっている。硬い外骨格を砕かれて驚く相手に「お前に教えてやろう」と前置きし、勝利の女神は最後まで諦めない者に微笑むのだ、という意味のことを言う。そのまま解放の宣言に入り、決着へ向かう。力で勝ったのではなく、諦めなかったほうが勝ったのだと本人が説明している。
ラズルの最期と、「絶望?」「いいえ 違いますとも」
「俺は先に行く」「約束の場所で」
倒れたラズルが残すのは短い言葉だ。「すまんな グランよ」「ここまでのようだ」「俺は先に行く」「約束の場所で」「また」。冒頭で名前をもらった相手への、最後の報告になっている。名付けの場面で交わした約束が、死に際の言葉として戻ってくる。
「だからこんな世界など滅んでしまえばいいのです」
受け取ったグランベルは荒れる。「世界は常に私の願いを踏みにじる」「今もまた私の友が行きました」と言い、「だからこんな世界など滅んでしまえばいいのです」と続ける。相対するルミナスの返しは「バカを言うでないわ」「絶望するなら一人で勝手にするがよい」だ。慰めではなく、一人でやれと突き放す言葉が返っている。
「私はね たった今 心が希望で満たされたのです」
ところが否定される。「絶望?」「いいえ 違いますとも」と言い、「私はね たった今 心が希望で満たされたのです」と続く。理由は「愛する者と友との約束を今こそ」だ。直後に「諦めぬ者」が「アルティメットスキルサリエルへと進化しました」と告げられる。友の死が、願いを叶える合図として受け取られている。
「勝負は一瞬」
「その権能は同じく 生と死」
ルミナスの見立ては具体的だ。「アスモデウスと グランのサリエル」「おそらくその権能は同じく 生と死」と並べ、「同じ条件ならば」「より強固な意志を持つ者が勝つ」と続ける。締めが「勝負は一瞬」だった。力の比べ合いではなく、意志の強さで決まると先に宣言されている。
「しかと受け止めてやる」
向き合い方も独特だ。「今こそ因果を断ち切り決着をつけましょう」に対し、「しかと受け止めてやる」と応じ、そのうえで「そして必ず殺してやるゆえ安心するがよい」と付け足す。覚悟を受け止めると言った同じ口で、必ず殺すと約束している。
まとめと考察
「久しぶりだね スライムさん」「いや サトルさんだったね」
精神世界に入ったリムルを迎えるのはシズだ。「久しぶりだね スライムさん」「いや サトルさんだったね」と呼ばれ、リムルは「やめろよ 今の俺はリムルって名前なんだ」「過去を捨てる気はないけど」「そう呼ばれるとなんだか照れるんだよ」と返す。ここでも話題になっているのは、どの名前で呼ばれるかだった。
「ヒナタが名付けをしてくれなければ」
クロノアの説明も名前の話に着地する。「クロエの中に封じ込められた破壊の化身よ」「同時にもう一つの人格みたいなものなの」と明かしたうえで、「ヒナタが名付けをしてくれなければ」「ここまでの自我は生まれなかったと思うけどね」と言う。冒頭で虫に名を与えた場面と、まったく同じことがここでも起きていた。
「私が名付けをしよう」で始まり、「もう死んでる」で終わる
この回は名付けで始まり、名付けの話で閉じる。グランが名もない虫にラズルと名を与えて仲間にし、ヒナタが破壊の化身に名を与えて人格を生んだ。どちらも、敵だったものを敵でなくした行為だ。ところが最後に置かれるのは「ヒナタはもう死んでるの」という一言で、リムルの返事は「は?」だけだった。名前を与えた側が二人とも退場している、という並びで幕が下りる。




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