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他国の国王との婚姻を控えたビッラウラ王女。そばで彼女を守ってきたハリージュが惚れ薬を急いでいた本当の理由が、ついに明かされる。一方、湖の庵には先客のティエンが訪れていた。ロゼの名前と素顔をめぐって、ハリージュの胸に本人も知らない小さなざわめきが生まれる。王女の最初で最後のわがまま、特別な席、そしてハリージュの嫉妬まで、第4話を振り返る。




第4話 王女の婚姻と騎士の願い
第4話は、これまでロゼの視点で描かれてきた物語が、ハリージュの側から語られた回だった。他国の国王との婚姻を控えたビッラウラ王女のために、ハリージュが急いでいた惚れ薬の理由。そして湖の庵で出会った先客のティエンによって、ハリージュの胸に生まれた小さなざわめき。騎士の任と、本人もまだ気づいていない気持ちが交錯する第4話を振り返っていく。
晩餐会に向けて動く王女
冒頭は王宮の場面から始まる。今夜の晩餐会に、ビッラウラが嫁ぐ大国ニフリートの外交官夫人がやって来る。ビッラウラは相手の故郷の歴史を学び直し、楽団の曲目や料理まで相手に合わせて整えるよう指示を出していく。休み中の先生まで呼び立てて学ぼうとする姿は、まだ若い王女とは思えないほど真剣だった。
一方のハリージュは、同僚の騎士と昼休憩に入る。森へ寄るところがあるというハリージュに、同僚は肉体疲労時の栄養補給にと、いつもの眠気覚ましの薬を手渡す。午前中、ビッラウラは長話で知られる夫人のもとを訪ね、酸っぱすぎるレモンパイを二切れも食べながら話を聞き続けていたのだという。
その夫人が、外交官夫人を説き伏せて晩餐会に招いてくれたのだと知り、二人は王女の苦労が報われたと語り合う。嫌な顔一つせず長い話に付き合い続けた努力が、思わぬ縁を生んだのだ。午後の視察を後回しにしてまで、帰るなり自ら勉強に入ったというビッラウラ。その健気さが、かえってハリージュの胸を痛ませていた。
外交のために自分にできることを積み重ねていく王女の姿は、とても頼もしい。けれどその努力は、自分が望んだわけではない結婚のためのものでもある。明るい王宮の場面の裏に、どこか切なさが漂っていた。
あと二月という期限
ニフリートは外交上重要な大国だが、ビッラウラが嫁ぐ相手の国王は、ビッラウラより年上の孫までいる老体だった。16歳のビッラウラを、もうじき60になる男の第二の人生のパートナーとして求めたニフリートの要求は酷だと、同僚も認める。王侯貴族の長い歴史の中ではよくある話なのだろう。それでもハリージュは、そばで守ってきた彼女の「誰よりも幸せな結婚を願っていた」。
婚姻まで、あと二月。ハリージュの「それまでに何が何でも手に入れなければならない」という決意の裏には、ビッラウラから託された願いがあった。王女の命令ではなく、兄と慕うラウラのわがままとして聞いてほしい。王女の「最初で最後のわがまま」を叶えるもの、それが惚れ薬だったのだ。
第3話で語られた残された時間の正体が、ここでようやく明かされた。ハリージュがあれほど惚れ薬の完成を急いでいた理由は、恋のためではなく、妹のように見守ってきた王女の未来を少しでも明るくするためだった。ロゼが知らないところで、ハリージュは騎士として、そして兄のような存在として重い役目を背負っていたのだ。
ビッラウラが惚れ薬を誰に、何のために使うつもりなのかは、まだはっきりとは語られていない。けれど、その願いの重さを知ったことで、ハリージュの行動の一つひとつが違って見えてくる。
湖の庵に来た先客
特別な席
その頃、湖の庵のロゼは「あの人今日も来るの」と、ハリージュの訪問を気にしていた。そんなに簡単にできないと言っているのに、「どんだけ急かすんだあの騎士様は」とぼやきながらも、どこか落ち着かない様子なのが微笑ましい。ところが庵にやって来たのは、なじみの商人ティエンだった。
ティエンは、いつになく片付いた庵に驚く。人が座れる場所ができているのを、またこの庵で見られる日が来るとは思わなかった、と。単なる心境の変化だとごまかすロゼだが、その変化をもたらしたのが誰なのかは明らかだ。季節はすっかり秋。ハリージュが初めて庵を訪れてから、もうそれだけの時間が流れていた。
ティエンがいつものテーブルに腰を下ろした瞬間、ロゼの心の中に「そこは特別な席だから座らないで」という言葉が浮かぶ。けれどすぐに、「その席に意味なんて」、特別さなんて「最初から何もない」と自分に言い聞かせる。ハリージュが座る席を、ロゼはいつの間にか特別なものとして大切にしていたのだ。
好きな人が座った場所というだけで、ただのテーブルが特別に見える。けれど魔女は嘘をつけないから、ロゼは自分の気持ちからも目をそらせない。その葛藤が、短い心の声の中にぎゅっと詰まっていた。
ロゼの変化を喜ぶティエン
ロゼがお茶を出そうとすると、ティエンは「大人になったんだね」と感激する。ロゼがそんな社会性を身につけているなんて、と。幼いころからロゼを知るティエンにとって、片付いた庵もお茶のもてなしも、ロゼの大きな成長に映ったのだろう。第2話で語られた、祖母を亡くしたロゼを支えてきたティエン親子の存在を思うと、その喜びにも深い実感がこもっている。
ロゼの変化を一番近くで見てきたからこそ、ティエンはその理由にもすぐに気づいてしまう。ロゼが言葉にしない思いを、そっと察して喜ぶ。ティエンの存在は、不器用なロゼにとって頼れる兄のようなものなのだと感じさせる場面だった。
ハリージュの揺れる心
俺だけが見られるもの
庵へ向かったハリージュは、いつもの小舟がないことに気づく。「ちゃんと俺以外の客もいたんだな」、商売繁盛なら何よりだ。そう思いながらも、心のどこかが引っかかっている。手にしているのは、屋台で買ったパンと焼きリンゴ。恋人へのお土産かとからかわれても、「これはただの補給物資」だと言い張るのがハリージュらしい。
薬が完成するまでに飢えて倒れられたら困るから、リンゴは栄養価が高く魔女の好物だから。いくつも理由を並べるほど、それが言い訳に聞こえてしまう。彼女が喜ぶかどうかなど関係ないと言いながら、喜ぶ顔を思い浮かべているのは明らかだった。
そこでハリージュが目にしたのは、帰る客をわざわざ外まで見送るロゼの姿だった。しかもロゼはフードを取っている。唯一魔女の秘密を知る自分だけが、その素顔を「俺だけが見られるものだと思っていた」。第3話でフードを外してもらったときの特別さが、ここで一気に揺らいでしまう。
小舟を待つ間、ティエンはハリージュに「あなたずいぶんと顔がいいですね」と声をかける。ロゼにもそう言われたのではありませんか、と。ハリージュが初めて知った魔女の名前は、ティエンの口からこぼれたものだった。ローブにテーブルクロスに心境の変化、と一人で納得したティエンは「これは忙しくなりそうですね」と上機嫌で去っていく。何も知らないハリージュとの温度差がおかしい。
ロゼという名前
差し入れを受け取ったロゼに、ハリージュはロゼという名前を口にし、これからは自分もそう呼ぼうと告げる。ところがロゼの答えは「ダメです」。魔女は嘘をつけない。つまり本心から、自分にはそう呼ばれたくないということか。「あの男には呼ばせているくせに」とすねるハリージュの姿は、これまでの落ち着いた騎士とはまるで別人だった。
「ならば返せ」と差し入れを取り上げようとして、すぐに冗談だと引っ込める。けれど心の中では、誰がここに座ろうと、誰が彼女の名を呼ぼうと、素顔を見ようと「俺には何の関係もないはずだ」と繰り返している。関係ないと言い聞かせるほど、気にしていることがはっきりしてしまう。ハリージュ自身がまだその感情の名前に気づいていないのが、なんとももどかしい。
ロゼが名前で呼ばれることを拒んだのは、ハリージュを嫌っているからではないはずだ。好きな人に名前で呼ばれたら、きっと心臓が持たない。嘘をつけない魔女だからこそ、その一言に込められた本当の理由は、見ている側にはもどかしいほど伝わってくる。
胸焼けの正体
来たばかりなのに、今日はもう帰ると言い出すハリージュ。他の客なんて見たことがなかったから、「俺だけが特別なのかと」。ハリージュの心の声は、ロゼが特別な席に抱いた思いとまるで鏡合わせのようだった。互いに相手を特別に思いながら、そのことを口にできずにいる。
様子のおかしいハリージュを心配したロゼは、胸焼けだと思い込んで胃の調子を整える薬を煎じようとする。キャベツの絞り汁まで持ち出すロゼの真剣さに、ハリージュは「いやすまない気のせいだったようだ」と答える。胸のつかえの正体が嫉妬だとは、薬作りの名人のロゼにもわからない。
念のため休んでいってくださいと引き止めるロゼの優しさに、ハリージュは結局庵にとどまる。すれ違いながらも、相手を気づかう気持ちだけはしっかり通じ合っている。その温かさが、切ない回の最後にほっとする余韻を残していた。
第4話のまとめ考察
すれ違う二つの特別
振り返ってみると、第4話はロゼとハリージュが、互いを特別に思っていることに気づかないまますれ違った回だった。ロゼはハリージュが座る席を特別だと感じ、ハリージュはロゼの素顔を見られるのは自分だけだと思っていた。二人の気持ちは同じ方向を向いているのに、言葉にされないまま、勘違いだけが積み重なっていく。
ハリージュの側から描かれたことで、惚れ薬をめぐる事情も大きく動いた。ハリージュが惚れ薬を急いでいたのは、婚姻を控えたビッラウラのためだった。ロゼは今もハリージュに想い人がいると思い込んでいるが、実際にはハリージュ自身がロゼに惹かれ始めている。依頼する側とされる側の立場が、少しずつ入れ替わっていくようにも見えた。
ティエンの存在も、二人の関係に新しい風を吹き込んだ。ロゼの変化を誰よりも早く察し、ハリージュの前で何気なく名前を口にする。その一言がなければ、ハリージュは自分の中の嫉妬に触れることもなかっただろう。
一方で、ビッラウラの婚姻という重い現実は、二人の恋とは別のところで時を刻んでいる。あと二月という期限の中で、惚れ薬は完成するのか。そしてその薬は、誰の心を動かすことになるのか。騎士としての任と、芽生え始めた想いの間で、ハリージュがどんな答えを出すのかが気になる。
嘘をつけない魔女と、自分の気持ちに気づいていない騎士。この不器用な二人の距離は、ほんの少しずつしか縮まらない。けれど、そのゆっくりとした歩みこそがこの作品の魅力なのだと、改めて感じさせてくれる一話だった。




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