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『薬屋のひとりごと 第3期【第1クール】』第52話「最後の一冊」は、蝗害対策の鍵となる虫の図説の、最後の一冊を探す回だった。猫猫が訪ねたのは阿多の離宮。手がかりを握っていたのは、もうここにはいない子翠だった。阿多の離宮で翠苓が語った師の行方、子翠が残していた最後の一冊、そしてあ~んで蝗を食べる壬氏まで、第52話を場面ごとに振り返っていく。




第52話 阿多の離宮で翠苓と向き合う
『薬屋のひとりごと 第3期【第1クール】』第52話「最後の一冊」は、蝗害対策の鍵となる虫の図説の、行方の分からない最後の一冊を探す回だった。手がかりを求めて、猫猫は元上級妃の阿多のもとに身を寄せる翠苓を訪ねる。そこで浮かび上がったのは、もういない子翠が残していったものだった。場面ごとに振り返っていく。
元四夫人の住まいへ
着替えを済ませた猫猫が案内されたのは、阿多の住まい。お久しぶりですと挨拶する猫猫に、阿多は今日は彼女に用なんだってと、翠苓のほうへ目を向ける。翠苓は先帝の孫であり、子の一族の血縁でもある。今さら表に出るわけにもいかず、飼い殺しの人生しか残されていないだろう。優秀な彼女を埋もれさせるのはもったいない、という思いもにじむ。
私も同席するが、話は気にせず進めてくれ。そう言って腰を下ろす阿多に、気にするなと言われても気になると内心でつぶやく猫猫。阿多の前で始まる、猫猫と翠苓の静かな対話が、この回の前半を支えていく。
翠苓の師と温泉郷の老人
猫猫が差し出したのは、子翠が使っていた図説。確か15冊あったはずなのに、一冊足りない。残りの一冊の行方は、翠苓にも分からなかった。「そもそも嘘をつく理由がない」と猫猫は受け止め、今度は翠苓の師の行方を尋ねる。蘇りの薬を自ら試したのではないか、という問いに、翠苓はその通りですと答えた。
けれど、知りたいことがあっても聞き出せないだろうという。記憶を失い半身に麻痺が残った趙迂を見ていれば想像がつくはずだ、と。そして翠苓は、温泉郷を覚えているかと続ける。狐を祀っていたあの隠れ里にいた寝たきりの老人の一人が、翠苓の師だった。病人として紛れさせて、目をごまかしていたのだ。「すでに自分が何者であるかも忘れています」。
もし師が健在であれば、あの子も猫猫を事件に巻き込もうなんて考えなかったはず。猫猫は、子翠が事を起こしたのは父親と共にこの国の膿を出し切ること、そして姉を母親から解放したかったからだと思い返す。すれ違っていたかもしれない人の正体が明かされ、過去の事件が静かにつながっていく。
聡い子が残したもの
蝗の研究についても、翠苓は関わっていなかった。「虫についてはあの子の領分でしたから」。そして、あの子はもういない。研究の資料はほとんど処分され、残ったのはあの部屋にあったものくらい。手がかりはなしか、と肩を落とす猫猫に、口を開いたのは阿多だった。
「あの子というのはとても聡い子だったようだね」。いくら聡い子でも、もういません、と返す翠苓に、阿多は問いかける。「では、その聡い子が何も残さずにいなくなったと」。この一言で、猫猫と翠苓は同時にはっとする。子翠が何かを残したとしたら、いったいどこに。
猫猫の頭に浮かんだのは、後宮の診療所だった。後宮からさらわれる直前、確かにあの場所で虫の図説を見ていた。「まったく子翠ってのは抜け目がないやつだ」。そう思いながら笑う猫猫の表情には、子翠への変わらない信頼がにじんでいた。話を聞いただけで子翠の聡さを見抜いた阿多の鋭さにも、思わずうなった。
最後の一冊と蝗害の正体
届けられた図説
最後の一冊は、壬氏の手で猫猫のもとに届けられる。猫猫がさらわれたとき、診療所にあったものはすべて没収されていたが、その中にこれがあったのだという。診療所は一時閉鎖され、後宮からの脱出を助けた人物は罪人として捕らえられたそうだ。そんな後日談も、さらりと語られる。子翠が残した一冊は、猫猫がさらわれたあの日からずっと、没収品の中で誰かに見つけられるのを待っていたことになる。
図説はすべてバッタの絵。書き込みによると、大きく二つ、細かく三つに分類できる。普段見られるバッタに比べ、今年増えると思われる種類は色が緑から茶色になり、羽も長い。「数が増えるから形を変えるのか形を変えるから数が増えるのか」。図説によれば前者が原因で、変化には数世代かかり、そのたびに数を増やしていく。つまり、昨年の小規模な蝗害は、後に起こる大規模な害の前触れだった。
被害を防ぐ方法については、幼虫のうちに駆除する人海戦術、成虫になったらかがり火を焚くという古くからの対処法、あとは殺虫剤の製造法が書いてあるくらい。大した情報はなかったと謝る猫猫に、壬氏は殺虫剤の製造法だけでも参考になる、今のうちに材料を揃えておこうと前を向く。
はげ山と鳥と雀
壬氏が広げたのは、蝗害が起きている地域を示した地図。平原に被害が多いのはバッタが育ちやすいからだろうが、この地方ではもう数十年、深刻な蝗害が起きていなかった。そこで猫猫が目をつけたのは森。北の州は本来森林の豊かな地域なのに、先帝の崩御後、子の一族が勝手に伐採を始め、はげ山になっているという。森の木が切られて鳥がいなくなったから、蝗害が増えたのではないか。
穀物が取れない穴埋めに、木材を売って食料を買い付けようとしていた。生活のための選択が、まわりまわって被害を広げている。自然の釣り合いが崩れたことが蝗害の遠因になっているという見立ては、とても説得力があった。雀の捕獲を控えるにも、雀は一般的な食材で反発されそうだ、という現実的な壁もある。
宮廷料理とあ~ん
そこで猫猫が思いついたのが、「いっそバッタ料理を宮廷料理として作り上げてしまえばどうでしょう」という案。宮廷御用達の食材なら捕まえる者も増え、民にも広まる。顔をしかめる壬氏に、猫猫は内心で「残ってるバッタの煮付けを出してやろうか」とたくらむ。少しは前向きになったかと思えば、そんなに食べるのが嫌なのか、とのやりとりがおかしい。
食事をして帰られてはいかがでしょうか、とバッタの煮付けを差し出す猫猫。ところが壬氏は、自分では受け取らない。猫猫があ~んと口元へ運ぶと、ようやく口にするのだ。苦手な虫でも、猫猫に食べさせてもらうなら食べる壬氏の姿に、思わず笑ってしまった。見ていた者からは、子供には刺激が強すぎたかと言われ、「あと兄ちゃん、自分のやってることに責任持ちな」とまで言われてしまう。
緑青館の夜と白い仙女
猫猫の好みの男
緑青館では、やり手婆に言われて、趙迂が猫猫の好みの男を聞き出し、似顔絵を描くことになる。背は高くないほうがいい、痩せているよりふくよか、ひげはあってもいい、顔は鋭いより柔らかいほうがいい。「キツネ目とか最悪だ」。眉も下がっているくらいで、と注文を重ねていく。
出来上がった似顔絵を見た猫猫は、あまりに似ていたものでと首をかしげる。どんな男だいと聞かれ、後宮の医官そっくりですと答える猫猫。壬氏とは正反対の好みに、まわりの期待が一気にしぼんでいくのがおかしかった。なんだ、つまらないという反応まで含めて、緑青館のにぎやかさが楽しい。似顔絵の腕前を生かして稼ぐ趙迂の成長ぶりも、さりげなく描かれていた。
女華の言葉
けれど、その夜の会話には苦い味もあった。男なんていつ気が変わるか分かりやしない、それが力を持つ男ならなおさらだ、と女華は言う。「心が変わらぬ男なんていない」。ここにいたら嫌というほど分かる。「信じたところで何になる」。所詮自分は女郎で、猫猫は女郎の子。キセルをくゆらせながらの言葉は、緑青館で生きてきた人の実感そのものだった。からかい半分に二人の仲を期待するまわりの空気とは違う、重みのある言葉として胸に残った。
女華は猫猫のことを、どちらかといえば自分寄りだと言う。壬氏との関係をからかい半分に期待する者がいる一方で、その危うさを知っているからこそ釘を刺す者もいる。猫猫の男性不信の根っこが、緑青館という場所にあることを改めて感じさせる場面だった。
第52話のまとめ考察
白い仙女の噂
夜の緑青館では、客から聞いたという噂話も飛び出す。緑青館の三姫よりも珍しい、仙女のような娘がいるという。真っ白な髪に真っ赤な目。猫猫は、ごくまれに生まれつき色を持たない子どもがいる、髪も肌も白いけれど中身は変わらないと、養父の教えを思い出す。「白い仙女ね」。
仙女は本当に仙術を使うという。最初は見世物小屋だったのが、今は都の劇場で見られるらしい。花街の客もそちらに流れ、売上が2割も減ったとやり手婆がぼやいていた。仙女は珍しい容姿もさることながら、「人の心を読み金を生み出すらしい」。半信半疑で見に来た偉い人が自分の心を読まれれば、疑っていたぶん一気に信じ込み、不老不死の薬も実在すると思い込んでしまう。
蝗害対策で頭をひねる壬氏たちをよそに、ほかの偉い人々は呑気すぎる。気になるなら自分で見に行ったらどうだと言われても、高い見せ物料は払えない。誰に頼めばいいのか、そんな暇人はいないだろうと猫猫がこぼして、第52話は幕を閉じる。不老不死の薬と白い仙女という不穏な影が、蝗害の話と並んで動き出した。
振り返ると、第52話は子翠という不在の人物の存在感が際立つ回だった。図説の最後の一冊を、子翠は猫猫の目に触れる場所にそっと残していた。阿多の一言で猫猫と翠苓が同時に気づく場面は、二人がそれぞれ子翠を思い出す時間でもあった。子翠がいなくても、あの子らしさはちゃんと残っている。
そして、その一冊が蝗害の正体を明らかにし、壬氏たちの対策を前に進めていく。森林の伐採や鳥の減少といった遠因まで含めて、蝗害は人の営みと切り離せない災害として描かれていた。過去の事件で失ったものと、これから向き合う災いが、一冊の図説でつながった構成が見事だ。
一方で、あ~んで蝗を食べる壬氏や、好みの男の似顔絵で盛り上がる緑青館など、コミカルな場面もたっぷりあった。女華の言葉が示すように、猫猫と壬氏の関係はまだ甘いだけでは終わらない。白い仙女の噂がこれからどう物語に絡んでくるのかも含めて、蝗害の行方を見届けたい。子翠がつないでくれた一冊を、猫猫たちがどう生かしていくのかも楽しみだ。




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