第6話のサブタイトルは「蔵木エイジと篠宮マナ/陽光」。前半はまるごと敵側の回で、魔人化薬の元締めである蔵木エイジが、まだ弱かった頃の篠宮マナと出会った日が語られる。そこでトワの正体と経歴が特定され、「生きた状態で確保しろ」という指示が下る。後半は一転してシイナと過ごす公園の時間で、同じ一話とは思えない落差の回だった。




販売ルートが潰されまくって
活動開始時はこの女一人
第6話は、敵側の資料閲覧から始まる。画面に出るのは魔人狩りの調査書で、少し前から国内で活動している魔人集団、目的は魔人化薬とその販売ルートの破壊とまとめられている。最も古い痕跡は4年前で、薬物販売グループを全滅させていた。
被害の規模もはっきり示される。「販売ルートが潰されまくって、国内の一般販売ルートはほとんど壊滅状態だな」。そして人数の変遷が「活動開始時はこの女一人。3年前から増え始めて、今は5人いる」。こちらから見れば命がけの復讐でも、向こうの机の上では四年分の売上の推移として処理されている。
前半は全然リリカルじゃない、という感想に完全同意する。被害者の側の物語を、加害者が数字で読み上げていく時間が延々と続く。しかもマナの第一声が「薬販売の邪魔なんてエイジ君の稼ぎの敵じゃん。なんでほっといたの?」で、潰された理由すら関心の外にある。
この女はお前に2回も殺されたことになる
エイジが差し出した資料で、リーダーの正体が特定される。マナいわく「お前のラボにいた実験体」「食った相手の能力を取り込める子」で、エイジの反応は「覚えてないな。役に立たなかった廃棄物なんだろ」。抽出できない個体依存能力だったので払い下げた、というところまでは覚えているのに、顔は覚えていない。
そして経歴が読み上げられる。名前は夜海トワ。災害孤児として一般人夫婦に引き取られ、4年前の空港火災で両親と共に死んだことになっている。火災という単語にマナが引っかかると、エイジが答えを出す。「これだ。炎型の廃棄物が使われたやつ」。マナも「ああ、家でいらなくなった子を、テロ用か何かに払い下げたんだっけ」と思い出し、エイジが「炎型の実験とプレゼンを兼ねてな」と補う。
結論はこうだった。「この女はお前に2回も殺されたことになる。お前や魔人化薬に復讐を誓うには、十分な理由だな」。一度目は実験体として、二度目は義理の両親ごと。二人はトワの動機を完全に把握したうえで、まったく動じない。
すべてを奪ったうえで今度は本人を奪おうとしている、という指摘の通りだった。ただ「エイジ君も他人事じゃないでしょ」「私たちは友達、運命、共同体」という言い方に、この二人がただの悪の組織ではないことがにじむ。エイジの返しも「そうだが、少なくともお前が死んだり負けたりは想像できんぞ」で、会話としてはやたら仲が良い。
他人に能力を譲渡する能力
じゃないと仲間の強さの説明がつかないしね
マナがトワを欲しがる理由が、ここで初めて具体的に語られる。「この子、多分能力を奪うだけじゃなくて、他人に能力を譲渡する能力もゲットしてるみたいなの」。根拠が「じゃないと仲間の強さの説明がつかないしね」で、魔人狩りの五人が強い理由まで逆算されている。
そのうえで「この子を確保できれば、私はもっと強くなれる。能力譲渡の能力を薬に抽出できればよし」。エイジが「できなくても、お前のために働かせればいい」と補い、マナが「その通り。能力が空振りでも、ここまで育った魔人なら美味しくいただけそうだし」と受ける。抽出できても、できなくても、食べられる。どちらに転んでも損をしない設計になっていた。
マナが怖すぎる、という一言が的確だった。要求そのものは「私のラボに連れてきたいの。生きた状態で」という一行だけで、声を荒らげもしない。演じているのは上坂すみれで、甘えた口調のまま最悪のことを言い切る芝居が異様に効いている。
警察がこのレベルの魔人を捕まえられる?
段取りを考えるのはエイジの仕事である。下請けに振る案を挟みつつ、彼が出した方針が「警察を使うか」。マナの「警察? 警察がこのレベルの魔人を捕まえられる?」という当然の疑問に、「やり方次第さ。情報はもう少し集める必要があるが、多分うまくいく」。
この一言で、この二人の立ち位置が変わって見える。非合法の親玉が非合法の相手を潰すのに、いちばん確実なのは公権力を動かすことだと考えている。後半の回想で明かされるとおり、エイジは政府や警察の上層部にまで手が届く。
悪の組織なのに法律には律儀に従う、という昔の特撮の話が引き合いに出ていて笑った。ここは逆で、法律の側を道具として使う。見送りぎわにマナが「ありがとうエイジ君。大好き」と頬にキスをして帰るのだが、その直前の話題が生きたままの人身確保なので、画面の温度がずっとおかしい。
出会って2秒で殺されかけた
10年前まで俺には何もなかった
後半に入る前に、エイジの回想が挟まる。「10年前まで俺には何もなかった」。会社では激務に追われながら、成績や学歴を理由に役立たず扱い。休日も仕事を持ち帰り、カップ麺と半額弁当で食いつなぐ日々だった。魔人化薬の元締めの前身が、ただの疲れ切った会社員である。
転機は仕事だった。災害汚染地のライフライン復旧に出向いた日、エイジはマナと遭遇し、出会って2秒で殺されかけた。腕を持っていかれて倒れているところに掛けられた言葉が「もしかして死にたくない?」「顔は割と好みかな。私の言うことを聞いてくれるなら、生かしてあげてもいいよ」。命乞いの余地すら向こうの気まぐれだった。
喰われかけての始まり、という要約がそのまま正しい。この関係の第一歩は、契約ではなく捕食の中断だった。そのうえで、この回想がやたら軽快に描かれるのが怖い。エイジの語り口も、演じる矢田悠祐の芝居も、ずっと乾いた笑いの側にある。
この体の持ち主はそう呼ばれてた
死にかけのエイジに、マナは自分の血を分ける。「合わなくて死ぬかもしれないけど。私の血を分けた魔人だからね。今は再生能力くらいしかないだろうけど」。腕が戻ったエイジが問う。「俺を殺しかけて生き返らせた化け物。お前、名前は?」。
返ってきた答えが、この回いちばんの新情報だった。「篠宮マナ。だったかな。この体の持ち主はそう呼ばれてた」。エイジの見立てが「こいつは多分、寄生型の侵略種。人間の体と知識を奪った化け物」。篠宮マナという名前は、乗っ取った器の名前でしかない。本人にとっては、自分の名前ですら他人の持ち物だった。
さらに、当時のマナが弱っていた理由も語られる。「私、他の魔人と戦って負けたんだよね。それで弱くなって死にかけたところ」。そして「私を殺しかけたあいつを思うと、時々気が狂いそうになる」。この作品でいちばん上位に見える存在にも、同じ形の復讐心があることになる。
マナを弱体化させた魔人が誰なのか、という疑問はもっともだった。トワがマナを追い、マナはその誰かを追っている。復讐の連鎖が一本の線でつながっていて、しかもその先端がまだ画面に出ていない。
頑張った私、偉くない?
だから全部殺しといたよ
同居生活の描写が、悪趣味なほど楽しそうだった。マナは「もっと肉が欲しい」「あとお菓子も」とねだり、エイジは「うまいもんは金がかかるんだよ。俺には金がないの。明日になったら牛丼買ってやるから」と返す。モンスターと会社員の同棲生活である。
そこでエイジが漏らした愚痴が「会社のアホども全員死なねえかな」。翌日、遅刻しかけた部屋で待っていたのは札束の山だった。「これでいい?」。背後のニュースが銀行の金庫が襲われ現金2億円が盗まれたと伝えている。さらにマナは「あとエイジ君は会社の奴らみんな死ねばいいって言ってたじゃない? だから全部殺しといたよ」、そして「頑張った私、偉くない?」。
容赦がない、という感想の通りだった。怖いのは殺しの規模ではなく、マナにとってそれが「お世話をしてもらったお礼」でしかないことだ。願いを叶えているだけなので悪意がない。エイジの独白も「こいつは間違いなく人間じゃなくて、けど俺はこいつといると楽しかった」で、止める側が一人もいない。
お前を強くする仕組み、俺が作ってやろうか
そして提案が出る。また強くなりたいかと聞かれたマナが「うん、取り戻したいよ」と答えたのを受けて、「お前を強くする仕組み、俺が作ってやろうか」。ここから語られる設計が、この作品の世界そのものだった。
裏社会にすでにあった魔人研究に金を出し、研究者を囲う。マナが倒した侵略種や魔人の素材で、最先端かつ最強の魔人化薬を作らせる。流した薬は一大市場を形成し、元締めで生産元のエイジには莫大な金が入る。足りない人手はマナが生み出した人型侵略種で埋める。「休まず逆らわず給料もいらない。理想の部下だ」。そうしてマナは、薬で生まれた魔人の中から優秀な個体を選んで食べ、効率的に力をつけていく。
第4話でトワが受けていた仕打ちの、経営側から見た説明がこれである。実験も選別も廃棄も、すべて一つの循環として最初から設計されていた。マナの「欲しいものとやりたいことを言ったら、エイジ君とエイジ君の部下たちが何でもしてくれるね」という無邪気な確認が、そのまま仕組みの完成を意味している。
そして締めのエイジの独白が、この回でいちばん残った。「俺はこの世界に興味がない。金も女も力もすぐに飽きた。ただ、あいつを楽しませてやれるのは今のところ俺だけなので、頑張ってやるとするか」。野望でも思想でもなく、退屈しのぎと、一人だけを楽しませたい気持ちだけでここまで来ている。動機が小さいほど止めようがない、という嫌な説得力があった。
拾った子犬か何かだと思ってる
検索はダメですよ
後半はアジトの会話から始まる。トワが出かけたと聞いて、「学校の用事と、あとは人と会うんだって」「へー誰と? 情報屋とか?」「違うよ、トワさんの友達だよ」で全員が色めき立つ。「トワちゃん最近、時々スマホを見て楽しそうにしてたし」と、観察されているのが微笑ましい。
止めに入るのがユズで、「はい、そこまで。トワさんにもプライベートや気分転換は必要です」、そして念押しの「検索はダメですよ」。情報収集を本業にしている集団なので、この釘刺しは切実である。殺伐とした前半のあとで、この温度差がありがたかった。
尊さだけで原稿用紙が埋まる、という言い方に頷いてしまった。前半と後半で、同じ作品とは思えないほど話の速度が変わる。しかもどちらも手を抜いていない。
仲間とか友達とは思ってくれてない
和やかな会話の裏で、彼女たちの本音も出てくる。「もっとトワさんの力になりたいんだけどな」という言葉に続くのが「ただ、さ。トワちゃん相変わらず私たちのこと、仲間とか友達とは思ってくれてないよね」。そして自己評価が「拾った子犬か何かだと思ってる」だった。
それでも彼女たちは怒らない。「まあ、お世話してもらってるのは確かだから、それでもいいっちゃいいんだけど」と流し、「とりあえず私が頑張って、篠宮と蔵木の居場所を突き止めるから」と仕事に戻る。助けられた恩と、線を引かれている自覚を、両方抱えたまま働いている。
一方のトワも動いていた。先日の遭遇で自分たちの情報が調べられている可能性を考え、足跡を減らすために拠点を海外へ移し、学校も休学し、シイナと連絡を取ったり会ったりするのも控えるという判断に傾く。第4話の「ここから先は私一人でいい」の続きが、今度はシイナにも向けられようとしている。
身バレ、顔バレ、拾った犬猫扱い、と要点を並べた反応が的確だった。守るためにまず縁を切る、というのがこの人の唯一の手札で、しかもそれを相手に相談せず決めてしまう。そのまま公園の場面に入るので、余計に効く。
だって友達でしょ
ちょっとだけ甘えていい?
待ち合わせの場面から、空気が変わる。駆けつけた久瀬シイナが真っ先に報告するのが猫の話だった。橋の下でトワが助けようとしていたあの猫は、脱走していた飼い猫だったという後日談で、飼い主から「トワさんが助けてくださったそうで、本当にありがとうございます」と礼を言われる。二人の出会いのきっかけが、ちゃんと幸せに着地していた。
そのあとでトワが切り出す。「あのね、私、事情があってしばらく海外に行くの。しばらくの間あんまり会えなくなっちゃうかも」。シイナの返しが「じゃあ帰ってきた時に遊ぼう。予定いつでも開けるから」で、学校と仕事があるでしょと言われても「どうにかするよ。だってトワと遊びたいもん」。縁を切るつもりで来た側が、完全に押し負けている。
そこで出るのが「ありがとう。ちょっとだけ甘えていい?」。ベンチで身を預けるこの一言が、第3話からここまでの積み重ねの答えになっていた。
百合成分で満たされてヤバかった、という感想の熱量がそのまま画面の熱量だった。直前まで「会わないようにしないと」と考えていた相手に、その日のうちに寄りかかっている。決意より先に体が動いてしまうところが、この人のいちばん人間らしい部分だと思う。
困った時や悲しい時は頼ってくれた方が嬉しい
会話の中身も良かった。危険な侵略種が倒されていっているというニュースの話題に、シイナは「国連の人たちとかが頑張ってるらしいね」と返す。そこへ「やったの、私だけど」という心の声がかぶさる。実際に倒しているのはこの二人なのに、どちらも自分の手柄を伏せたまま世間話をしている。
そしてトワが初めて弱音を出す。「国連とか警察、表舞台にいる人たちは、私たちの家族を殺したような魔人には見向きもしないでしょ。誰も知らないところで、今日もどこかで誰かが魔人に殺されてる。世界はどうしてこんな風になってるんだろうね」。言ってすぐ「ごめん、シイナを困らせちゃった」「こんな愚痴、言わないんだけど」と引っ込める。
シイナの答えがまっすぐだった。「いいよいいよ、なんでもいいよ。だって友達でしょ。困った時や悲しい時は頼ってくれた方が嬉しい」。そのうえで「なっちゃったものは仕方ないから、その中で精一杯頑張るしかないかなって」と、自分の生き方をそのまま差し出す。説得でも励ましでもない返し方が、いちばん効いていた。
挿入歌「陽光」がサブタイトルにまで入っている理由が、この場面で分かる。トワの独白が「この子は、私が守れなかった世界の象徴みたいな子で、だから眩しくて大切で。私の戦いでこの子の笑顔を守れるなら」で、そのまま「これからもシイナと一緒に美味しいものを食べて、一緒に遊びたいな」と続く。戦うことしか見えていなかった人の口から、初めて戦いの後の予定が出てきた。
「蔵木エイジと篠宮マナ/陽光」まとめと考察
シイナの安全確保が先
シイナも「トワはきっと大丈夫。強くて優しい子なんだから、どんなことでも頑張れる」「私もトワと遊ぶのを楽しみにお仕事頑張るよ」と返し、この日はこのまま終わるかに見えた。そこへ緊急警報が鳴る。南側入口付近に侵略種が出現。
直後の演出が見事だった。「でもトワの」「シイナの安全確保が先」と、二人がまったく同じことを、相手の名前だけ入れ替えて考えている。シイナは「トワを避難所へ送ったら、私がすぐに現場に向かう」と段取りを立て、トワの側にも「もう向かってます」という連絡が入っている。正体を伏せ合ったまま、二人の判断だけが完全に噛み合っている。
二人が似たようなことを考えたシーンが印象深い、という感想がまさにそこだった。互いを守ろうとした結果、互いの正体に近づいてしまう。この構図が用意された時点で、次に起きることはもう決まっている。
同じ一話とは思えない落差
副題が「蔵木エイジと篠宮マナ/陽光」と二段になっているのが、そのまま今回の構造だった。前半は加害者側の馴れ初めで、後半は被害者側の休日。しかも前半で読み上げられていた資料の「この女」が、後半ではベンチで友達に甘えている。同じ人物を、まったく違う二つの目で見せられる。
そのうえで、今回いちばん厄介なのは敵側に一切の悪意が描かれていないことだと思う。マナは願いを叶えているだけで、エイジは退屈しのぎに一人だけを楽しませているだけ。トワの両親を奪ったのも「炎型の実験とプレゼンを兼ねて」で、憎しみも侮蔑もない。ここまで徹底して私怨のない相手に、私怨だけで挑んでいるのがトワの構図で、だからこの復讐は最初から噛み合っていない。
そこに差し込まれたのがシイナだった。第4話のラストでトワは「やるべきことを終えたら生きていようと思わない」と独白していた。その人が今回、「これからもシイナと一緒に美味しいものを食べて、一緒に遊びたいな」と考えている。復讐の話に、初めて終わったあとに残したいものが生まれた。マナとエイジが欲しがっているのが、よりによってその人本人だというのが残酷すぎる。
前半から一転して後半は尊いデート回、その対比が美しいという評がこの回のすべてだった。敵の側の物語を丸ごと一本見せられた直後だからこそ、公園のベンチの時間が壊れそうに見える。最後の警報で、その予感がそのまま形になった。次回、二人がどこで何を知るのか。怖くて仕方がないのに、いちばん見たい続きでもある。




















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