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第6話のサブタイトルは「第一皇子ギルバート」。治療に通い続けるカロリーナと、それを遠くから見ているエドワードの回だった。「師匠」と慕われる距離感に戸惑う彼女へ、テオドールが「それで傷つく方もいますから」と踏み込み、ギルバートが「カロリーナはもらっていくね」と火をつける。そこから「離婚にだって応じよう」で始まる告白までが一息に流れ、最後にはその病がとっくに治っていたことまで明かされてしまう。




「師匠」と呼ばれて、断りきれない日々
魔道具と引き換えのティータイム
第6話は、治療のためにダイヤモンド宮殿へ通うカロリーナの日常から始まる。出迎える第一声が「おはよう、師匠。また来てくれて嬉しいよ」で、「その、大変申し訳…」と訂正しようとしても「どうしてだい。師匠は師匠じゃないか」と流されてしまう。前回の終わりに投げられた呼び方が、そのまま既成事実として定着している。
そして魔道具を使ったやりとりが始まる。常時発動型のそれを見てもマナを感知できないということは、まだ神聖力が体内に残っている証拠だという説明なのだが、カロリーナは「いきなり治療の効果が切れたらどうするんですか」と食い下がる。そこで持ち出されたのが取引だった。
「私とのティータイムに付き合ってくれたら、この魔道具は師匠にあげる。もちろん他の魔道具も用意したりしない。これでどうだい」。不安を煽っておいて、その不安を人質に交渉している。結果、この日は治療もそこそこにお互いの失敗談や幼少期の話でずっとお茶の時間になってしまう。カロリーナが庭の蝶を見ながら「この蝶はどこかギルバート殿下に似ている。つかみどころがないわ」と考えるのが、この時点での正確な人物評だった。
数週間で、マナの流れが薄くなる
翌日以降も検査は続く。神聖力が残っていないことを確かめ、魔道具でマナの見え方を測る。序盤の反応は「心なしか以前よりマナが薄く見えるような気がするぐらい。あまり変化はないね」で、落ち込むカロリーナに「まだ始めたばかりだよ。成果がなくて当たり前だよ」と声がかかる。
そこからしばらく時間が飛ぶ。数週間後には「以前まではっきり見えていたマナの流れが、うっすらとしか見えなくなっている」というところまで来ていた。教皇聖下でも届かなかった水準を、この短期間で更新しているわけで、テオドールからも「たった数週間で、早くも症状に変化が現れるとは」と驚かれる。
面白いのは、褒められた側の反応だ。「これも全て師匠のおかげだよ」「私は師匠のことを心から尊敬している」「こんな力があるというのに、こんなにも謙虚だなんて」と重ねられて、カロリーナは完全に固まってしまう。力を評価されることに、この人はいまだに慣れていない。この作品が第1話から積み上げてきた部分がここにも出ていて、褒め言葉が刺さるほど逃げ腰になるのが痛々しくもあり、可愛くもあった。
言葉にしないと、伝わらない
「なんだかカロリーナと話がしたくなってな」
一方のエドワードは、明らかに様子がおかしい。部屋に顔を出した理由が「特に用はないんだが、なんだかカロリーナと話がしたくなってな」で、忙しい中わざわざ時間を作って来ている。用がないのに会いに来る、という時点でもう答えは出ているのだが、本人はそれを言葉にしない。
話題はすぐ兄の治療に移る。「この調子で兄上の病が完治してくれるといいのだが」と言いながら、カロリーナの表情の曇りを見逃さず「では、なぜそんな顔をしている?」「前にも言っただろう。私はお前の一番の理解者でいたいんだ。教えてくれ」と踏み込む。観察の鋭さと、そこから先の不器用さが同居しているのがこの人らしい。
打ち明けられた中身は「ギルバート殿下が私を…師匠と…」「その信頼というか、好意があまりにも行き過ぎていまして」というもので、エドワードの反応は「理解が追いつかない」「あの兄上がカロリーナを師匠と」。心配していた本人が、いちばん動揺しているという形になっていた。
「お前は、誰の妻だ?」
その動揺が、そのまま奇妙な確認に化ける。「カロリーナ、確認させてくれ。お前は、誰の妻だ?」。返ってきたのが「エドワード・ルビー・マルティネス第二皇子の妻ですわ」で、それを聞いて「そうか、それならいい」と引き下がってしまう。
これが今回いちばん的確な描写だと思う。聞きたいのは立場ではなく気持ちなのに、聞けたのは立場のほうだけ。しかも本人は答えを得たつもりで満足してしまっている。同じ場面でカロリーナが返した「言葉で伝えてくれないと、あなたの気持ちを理解することができませんわ」が、この回全体の主題になっていた。
さらに後の場面でも、「カロリーナが最近、毎日兄上のところに通っているらしいが」「二人はどうなんだ?」「どうとは?」「あ、いや、なんでもない」と、また途中で止めてしまう。聞きたいことの手前で必ず引き返すという同じ失敗を繰り返していて、この積み重ねがあるからこそ、終盤の爆発が効いてくる。
テオドールの報告と、踏み込んだ忠告
派閥問題は解決へ、しかし噂が立った
ここでテオドールから正式な報告が入る。結論から言うと派閥問題は解決へ向かっており、ギルバートが社交界に姿を見せたことで過激派も落ち着いたという。前回の目的はきちんと達成されていた。
ところが問題は別のところで起きていた。「どこから情報が漏れたのか、カロリーナ妃殿下が毎日ダイヤモンド宮殿に通っていることが貴族たちに知られてしまいました」「一部では良くない噂が広がっています」。テオドールは「私が迂闊でした」と頭を下げつつ、「情報の発信源については、すでに目星がついている」とも言っている。この一言が終盤で回収されるので、聞き逃せない。
あわせて検査方法の変更も提案される。神聖力がゼロの状態でダイヤモンド宮殿から外出してもらい、マナの見える範囲を調べるという内容で、「不安は分かりますが、避けては通れない道です」と押し切る。この人の提案はいつも正しいのに、いつも痛い。
「それで傷つく方もいますから」
報告を終えた後、テオドールが付け足した一言が今回の分岐点だった。「出過ぎた真似かとは存じますが、ギルバート殿下とあまり仲良くされない方がよろしいかと。それで傷つく方もいますから」。
カロリーナは当然「傷つく? それはどういう」と食い下がるのだが、返ってきたのは「私が言えるのはここまでです。後はご自分でお考えください」。答えを渡さずに、考える場所だけ指し示している。ここで名前を出してしまえば早いのに、そうしない。主君の気持ちを本人の口から言わせるために、あえて途中で止めるという判断だった。
この作品でテオドールが果たしている役割は、有能な補佐というより言葉を渋る二人の通訳に近い。ただし訳しすぎない。最後の一歩は必ず本人にやらせるので、この人が動くたびに二人の関係が一段進む。今回もその型がきれいに出ていた。
病の正体と、外へ出るという検査
「殿下の目が良すぎることにある」
検査を前に、マナ過敏性症候群の正体がはっきり語られる。カロリーナの見立ては「ギルバート殿下の病の原因は、殿下の目が良すぎることにあると私は考えております」「本来は見えないはずのマナが、視覚神経が過敏すぎるせいで、何らかのきっかけで見えるようになってしまう」というもの。
そのうえで、「病が完治しても、それは変わりませんから。何かの拍子に再発する恐れがあります」と釘を刺す。返ってきたのが「そうか。忌々しい病だ」。治っても体質は残るという説明の仕方が、ファンタジーの病を扱っているのに妙に現実的で良かった。根治ではなく寛解に近い、という線引きをきちんと引いている。
それでも外出は決行される。理由が「皇帝を目指す以上、いつまでもここに引きこもっているわけにはいかないからね」。前回の時点でこの人は一度その道を手放していたはずで、治ったことで前を向き直しているのが分かる一言だった。護衛には烈火の不死鳥団から、魔力に頼らない剣術に長けた者が選ばれる。宮殿の性質上、魔力持ちが入れないという設定がここでも効いている。
「大切だからこそ、ぶつからなきゃいけない時がある」
同じ頃、エドワードはテオドールに探りを入れていた。「なあテオ、カロリーナはどうしている」「私に聞かれましても。そのくらい本人に聞いたら、どうですか?」「今は少し気まずいというか、カロリーナを傷つけたくないんだ」。傷つけたくないから聞かない、という言い訳がここでも出てくる。
それに対するテオドールの返しが、今回の名台詞だった。「大切だから傷つけたくないという気持ちは分かる。でも、その気持ちは時に相手を深く傷つけることになるぞ」「大切だからこそ、ぶつからなきゃいけない時がある。たとえ相手を傷つけることになったとしてもだ」。
ここが良いのは、優しさを否定していないところだ。気持ちは分かる、と最初に認めたうえで、それでも黙っていることのほうが罪だと言い切っている。そして「カロリーナは今日、ダイヤモンド宮殿にいらっしゃるご予定です」と行き先まで教えてしまう。説教した直後に背中を押す道具まで渡しているあたりが、この人の手際の良さだった。
「カロリーナはもらっていくね」
目の前で連れていかれる
外出検査は、始まってすぐに苦しくなる。「大丈夫ですか?」に対する答えが「ああ、大丈夫だよ。ちょっと苦しいだけで…」で、カロリーナが即座に「それは大丈夫とは言いません。すぐに宮殿に戻りましょう」と返す。それでも「ここで諦めるなんて、私にはできない」と食い下がり、「三十分だけ。決して無理はしないと誓うよ」で押し通してしまう。
そこへ現れたのがエドワードだった。そして目の前で、兄がカロリーナを抱き寄せて言い放つ。「カロリーナはもらっていくね」。★これ以上ないほど分かりやすい挑発である。
エドワードは「カロリーナ、こっちに来い」と引き離し、問い詰められても「そんなことは今どうでもいい」としか言わない。その内心が「本当は優しくしたいのに」「俺がやりたかったのは、こんなことじゃなかったはずなのに」で、自分の振る舞いを制御できていない自覚だけはあるのが余計に痛い。
「離婚にだって応じよう」で始まる告白
そこから出たのが「カロリーナは…兄上のことが好きなのか?」だった。続く言い分が「誰からも好かれる兄上と違って、俺は荒っぽくて不愛想な人間だ」「カロリーナが兄上を選ぶのも仕方ない」で、比較して自分から降りにいっている。極めつけが「もしカロリーナが兄上と一緒になりたいなら、俺は…離婚にだって応じよう」。
ところが、その直後に方向が変わる。「だが、その前に一つだけ伝えさせてくれ」「俺は、カロリーナのことが好きだ。兄上より…いや、世界中の誰よりもカロリーナのことを愛している」。身を引く準備をしてから、全力で告白しているという順番が独特で、この人の不器用さがそのまま構文になっていた。
そして自己申告される情けなさが良い。「お前が俺以外の男と一緒にいるのを見ると、不安と嫉妬でおかしくなってしまうんだ」「騎士団の団長などと言いながら、情けない男だ」。カロリーナがずっと求めていたのは言葉で伝えてもらうことだったので、情けない中身であっても、言葉にした時点でこの人は要求に応えている。格好いい告白ではなく、格好悪い告白だからこそ届いたのがこの場面の芯だと思う。
「エド」と「リーナ」、そして全部見抜いていた男
呼び方を変える、という申し出
気持ちが通じた後の一手が、呼び方の変更だった。「なあカロリーナ、俺のことは、その…エドと呼んでくれないか?」「敬語もやめてほしい」、そして「俺は、カロリーナと本当の夫婦になりたいんだ」。
答えが「分かりました…あっ、いえ、わかったわ」で、言い直す一拍がそのまま距離の変化になっている。続けて「私のこともリーナと呼んでちょうだい」と自分からも差し出し、「愛している、リーナ」「私も愛してるわ」で着地する。政略結婚から始まった二人が、呼び方を選び直すところまで来た。第1話の距離を覚えていると、ここは相当に感慨深い。
注目したいのは、この変化を起こしたのが三人目の存在だったことだ。テオドールが忠告し、ギルバートが挑発しなければ、この二人は永遠に手前で止まっていた。当人同士だけでは動かなかったという描き方が正直で、だからこそ余計に納得できる着地だった。
全部見抜いていたテオドール
残された側のつぶやきが「絶対に手に入らないと分かっていたからこそ、少し意地悪してみたくなってしまった。私も幼稚だな」。そこへ現れたテオドールの第一声が「少々、お遊びが過ぎるんじゃないですか?」だった。
追及の中身が見事だった。第一に「マナ過敏性症候群なんて、もうほとんど治っているんでしょ?」。根拠が「転移魔法を使っても、めまい一つ覚えなかった時点で、演技なのはバレバレです」と「教皇聖下の診断書には、視覚神経はだいぶ落ち着いているとありました。それにしては、殿下の回復はあまりにも遅すぎます」。自分の魔法を検査に使っていたわけで、上がってくる情報の使い方がうまい。
第二に「カロリーナ妃殿下がダイヤモンド宮殿に通っていることを周りに流したのも、あなたですね」。根拠は「第一皇子派にも第二皇子派にもデメリットしかない噂ですからね」という一点で、得をする人間が一人もいない噂は、目的が別にあるという消去法だった。そのうえで「仲を引き裂くためと見えますが、同時に、奥手なエドワード殿下を焚きつけるためとも思えます」とまで読み切る。返ってきたのが「まあ、何はともあれ結果オーライということで」なので、後者が正解だったことになる。
「第一皇子ギルバート」まとめと考察
謝罪と、最後のわがまま
ギルバートは最後に、自分から全部並べていく。「マナ過敏性症候群の治療で、嘘の報告をしていた」「私の病は、とっくに治っていたんだよ」、そして「師匠の前でエドワードを煽って怒らせたのも。二人とも本当にすまなかった」。謝罪の中身が、そのまま今回の全部の種明かしになっている。
そのうえで告げられるのが「最後に、もう一度だけ私のわがままを聞いてほしい。師匠、私は君のことを愛している」。「真面目で優しくてお人よしな師匠が、私は大好きだ」「心配したと怒る君も、花が綺麗だと笑う君も全部」「もし叶うのならば、君の笑顔を私だけに向けてほしい」。意地悪だと自分で言った直後に、ここまで本気の言葉が出てくるのがずるい。
返答は一切ぶれなかった。「単刀直入に申し上げます。ギルバート殿下のお気持ちには応えられません。私が愛しているのは、エドワード・ルビー・マルティネス、ただ一人ですから」「彼以外の男性を愛することは、一生ありません」。★無自覚と言われ続けてきた人が、この一点だけは完全に自覚している。そして弟に向けた「お前はよくできた弟だよ」「悔しいけど、カロリーナを幸せにできるのはお前だけだ」で、この人は自分から退場していく。策士として登場して、負けを認めて去るまでを一話でやりきったのが鮮やかだった。
「カロリーナ様を我が国へ取り戻しませんか?」
そして最後の数十秒で、話が一気に別の場所へ飛ぶ。舞台はセレスティアで、フローラの聖女試験の失敗が「最近は不調続きでしたし」と語られている。そこへジョナサン大司教が夜分に面会を求めてくる。
告げられたのが「我が国にはびこる問題の原因をお伝えするためです」「フローラ様ではなく、全ては妹のカロリーナ様がいなくなったことが原因なのです」「カロリーナ様は神聖力、それも国全体に影響を及ぼすような強力な力の持ち主です」。前回フローラから引き出した仮説を、そのまま国の上層部に持ち込んでいる。しかも同席しているのがレイモンド公爵、つまりカロリーナの実の父親である。
そして締めの一言が「カロリーナ様を我が国へ取り戻しませんか?」。★役立たずと切り捨てて他国へ嫁がせた側が、今度は資源として回収しようとしている。しかもこの回で、カロリーナは「彼以外の男性を愛することは一生ありません」と言い切ったばかりだ。いちばん幸せな瞬間の直後に、いちばん嫌な予告を置いていくという構成で、ここまで見事に落とされると次が気になって仕方ない。
改めて振り返ると、この回は「言葉にしないと伝わらない」だけで一話を通している。エドワードは「誰の妻だ」としか聞けず、テオドールは「後はご自分でお考えください」と途中で止め、ギルバートは嘘の報告でしか本心に近づけなかった。登場人物全員が言葉を出し惜しみしている中で、最後に一番はっきり言い切ったのがカロリーナだったという構図が美しい。無自覚なのは力のことだけで、気持ちについてはとっくに自覚していたわけで、そこがこの人の強さなのだと思う。




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