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第6話のサブタイトルは「DUMB BARTER」。冒頭で顔を作り替えていた男が、その日のうちに草薙の部屋のドアの外へ爆弾を置いていく。手口は四年前に草薙が使ったものとそっくりで、相馬亨という名前が出た時点で、話はいったん私怨の側に傾く。ところが廃工場で撃ち合っている相手の正体が、身内であるはずの公安一課だった。




顔を作り替える男から始まる
手術台の上で交わされる、金の話
第6話は、誰とも分からない男の頭の中身をいじっている場面から始まる。微細な機械を頭部へ注入し、先に入れた側の面へ七割が吸着して数マイクロ秒でつながる、といった説明が延々と続く。古い機械を無理に剥がすと脳細胞を痛めるので残す、という但し書きまで付く。
その横で当人が言うのは「だから鎮痛薬よこせって言ってるだろうが」で、返事が「その分払えばね」。七割しか定着しないと聞けば「じゃあ三割分払い戻すんだろうな」と食い下がる。命がけの改造の場で交わされているのが、最後まで値段の話なのがこの作品らしかった。
締めに「最後に、モデルイメージとシンクロするかどうかテスト」と促されて、「必要ねえよ先生。俺がネットしたかったものと、うまくシンクロしてるようだからな」と断る。誰が何のために顔と脳を作り替えたのかを一切説明しないまま次へ行くので、この数分がまるごと後半への仕掛けになっている。ネットの反応で最初に話題をさらったのがこの場面に立っていた看護師だったのも、いかにもこの作品らしい入り口だった。
制服の朝と、ドアの向こう側
切り替わると、草薙が恋人と過ごしている朝になる。「午後には帰れると思うけど」という何気ない会話から、服装を見た相手が今日の予定を当てにかかり、「つまらない詮索で二人の関係をこじらせたい?」と返される。そこで出るのが「九課はタイトすぎるよ」という愚痴だった。
呼び鈴が鳴って、二人は「四階の人だわ」「静寂を求める自称漫画家の?」「昨晩ちょっと騒ぎすぎたかな」と笑い合う。苦情が来たのだと思っている。この作品の主人公が、一日のうちでいちばん無防備な顔をしている数十秒だった。
恋人の設定がここまで生活の側に寄っているのは珍しく、ネットの反応でも人間味という言葉が並んでいた。ただ、無防備であることをこれだけ丁寧に見せた直後に来るのが呼び鈴なので、作り手の意地の悪さのほうが先に立つ。
同じ手口、四年前の意趣返し
ドアの外と内に残されたもの
報告が入り、荒巻が動く。「一番近い空港と港を封鎖し、本庁を呼び出せ」「全員に警戒を出して待機」「病院にはワシとバトが行く」と、指示だけで状況の重さが伝わる作りになっていた。現場検証の主導権は九課が先に押さえている。
現場の読み上げが具体的で良かった。ドアの外に十番ゲージの薬莢が一つ、内側にセブロM5の薬莢が十二個。「ここでこのポーズで撃ったんだな、少佐は」と姿勢まで復元される。そしてドアの外にあったのが死体とC4爆弾で、片面だけを固めて周囲はねじ釘だらけという作りだった。
病院で荒巻が漏らす「無事なら無事と言わんか、バカモノ」が今回の一つ目の見どころだと思う。この人がここまで感情を表に出す回は多くない。そのあとバトーが「お前、あの野郎と七ヶ月も続いてるじゃん」「記録更新だぜ」と茶々を入れて、空気の重さがきちんと崩される。
「私は部下を二人殺された報復で」
心当たりを問われた草薙が挙げたのが、「かつて私たちが暗殺し損ねた唯一の男」である相馬亨だった。根拠は手口で、「同じ手法で奴の仲間を六人殺したのよ」「奴も死ぬはずだった」と続く。
問題はその先だった。「私は部下を二人殺された報復で、奴に自分の息子を撃たせた」「ドア越しにね」。息子は十六歳で、部下の拷問に加わったことを自慢していたという。爆破のあと死を確実にするため部屋に入ったが、そこにはアームスーツの足跡しか残っていなかった。四年前の話だと締めくくられる。
つまり今回の襲撃は、四年前に草薙がやったことの完全な写しになっている。ドア越しに撃たせるという一点まで同じで、相手はそれを再現するために顔まで作り替えてきた。復讐の宣戦布告か、と受け取った荒巻がその線で押すと決めるところまで、話は一度きれいに私怨へ寄せられる。ここで納得してしまうと、後半で足をすくわれることになる。
餌を外して釣りはせん
荒巻の配置と、外されなかった草薙
捜査の割り振りが早い。イシカワは相馬の委託先に接触、バトーは武器の売人を当たる。草薙が「そりゃこの場合、私を外すのが常識かもしれないけど」と言いかけたところへ、「寝ぼけるな。餌を外して釣りはせん」が飛ぶ。
続けて「お前はあちこち嗅ぎ回れ」「距離を置いてトグサにバックアップさせる」と決まり、「わしは部下思いだからな。我が子のようにだいじに思っとるぞ」と付け足される。草薙の返しが「せめて孫と思って」で、とばっちりを受けたバトーが「ちくしょう、暴力女め」「俺も全身サイボーグ化すっかな」とこぼす。
囮に使うと言い切ったうえで部下思いを名乗るのが、この部長の一貫したやり方だ。後半で判明する事情を考えると、この時点で餌という単語を使わせているのがかなり効いている。同じ言葉を、もっとたちの悪い形で使っていた組織が別にいた。
名前のない恋人が、一課の人間だった
病室での質問が今回の分岐点になる。「私の写真を誰かに見せたことある?」、そして「名前や住所を知る者が存在する」。相手は「こんなことは言いたくないが、嘘もつきたくない」と前置きしてから認める。
答えは「一課課長と二人の部下が君の情報を持ってる」だった。理由は「部下の女房が四年間、情報を流し続けてたことがあって以来の慣習さ」。つまりこの恋人は公安一課の人間で、朝の会話で出た「それとも君まで、一課はザルだと思ってる?」がそのまま伏線になっていた。草薙も「いいのよ。九課でもあなたのこと調べたもの」と返す。
そのうえで交わされるのが「一般人なら良かったのにな」「そうかもね」。この人物には最後まで名前が与えられず、ネットの反応でもそこを不思議がる声が出ていた。重要人物なのに名前がないのは、今回の彼が個人ではなく一課という組織の窓口として置かれているからだと思う。
病院を出てからの逃走
なぜ救急車で仕掛けてこなかったのか
草薙とトグサが病院を出ると、すぐに尾行が付く。「次の角左折」「もう一回左折」「一台ついてくるわね」と指示が飛び、「気づいて仕掛けてくるわよ」と続く。行き先に選ばれたのが、南へ十五分の大きな廃工場だった。
移動中の会話がうまい。「ずっとつけていたのなら、なぜ救急車や病院で仕掛けてこなかったんだろう」に対して、「長距離用の武装がないか、手応え十分にやりたいかどちらかね」。結論は「とにかく廃工場で、後ろの連中から情報をもらいましょう」で、逃げているように見えて完全に誘い込みに切り替わっている。
この判断の速さが、後半の絶望的な戦力差を成立させてしまうのが皮肉だった。相手が個人の復讐者だという前提で計算しているので、人通りのない場所を選んだこと自体が裏目に出る。海外の反応では髪の色の変化に触れる声もあって、今回は見た目の面でも印象の変わる回だったようだ。
武器の売人が知っていた相馬亨
並行してバトーが売人を当たる。「光学迷彩で来る客は?」「みんな警察だろ?」という軽口から入り、「近頃、組織に抱き込まれた軍や警察の連中も多いからな」と嫌みが返る。そこで出てくるのが相馬亨の名前だった。
売人の説明が状況を整理してくれる。相馬はグループを通さず、直接弁天一家と取引したがっていた。麻薬、武器、人材その他。だが弁天は相手にしなかった。「グループとのパイプの方が太くて安定しているからだ」。そのうえで「我々が知る一番新しい相馬亨の顔だ」と写真が渡される。
冒頭の手術がここで回収される。顔を作り替えていたのは、追われる側の当たり前の準備だったわけだ。同時に「弁天も奴のことはよく思ってないから、潜伏は自前だろ」と、相馬が裏社会でも孤立していることが分かる。この孤立が、次に何を売ろうとしたかの動機になっていく。
廃工場と、ドイツ製の思考戦車
立ち退かない人たちがいる工場
着いてみると、工場の図面は改築前のものだった。「どうせすぐ片がつく」「フチコマもいるしね」と軽く構えるトグサに、草薙が「ダメよ、トグさん。たとえ相手が小学生でも全力投球しなきゃ」と釘を刺す。直後に「小学生どころか、かなり高度に訓練された連中ね」と評価が上がる。
ここで効いてくるのが、廃工場に人が住んでいたことだ。驚かせるなと文句を言う相手に「俺たちは立ち退かねえぞ」と身構えられ、草薙は「少しの間、隠れてて」と伏せさせる。戦場を選んだつもりの場所に、退かない生活者がいた。
この一場面があるかないかで、後の破壊の意味がまるで変わる。本人たちにとっては何の関係もない争いが上から降ってきているわけで、ネットの反応では乗り物の造形に厳しい声もあったものの、戦闘の運び自体は高く評価されていた。
敵の正体が読めなくなる
現れたのは戦車だった。フチコマが「俺これ知ってます」「兵器の雑誌で見ました」「ドイツ製の思考戦車っす。オツムは日本製ですけど」と即答する。荒巻はすぐ防衛庁特殊兵器課の宮崎を呼び出し、サイトーに製造数と販売先、盗難の有無を洗わせる。
現場では草薙が「ボーマとパズが到着するまで時間を稼ぐのよ」と決め、「車で工場の端まで行けば歩兵は撒けるわ」と動線を組む。そのうえで漏らすのが「敵は相馬と仲間だけじゃなさそうね」「非合法とは思えないほど組織化、重武装した連中だわ」、そして「相馬に手を貸してる合法組織がある」。
屋根の上へ逃げる判断も理屈が通っていて、「装甲が厚い分、重すぎて登れないのよ」と説明が付く。私怨の話だと思って見ていた視聴者が、草薙と同じ速さで前提を組み替えさせられる作りになっていた。嫌な山になりそうね、という一言が本当にそのとおりになる。
敵は公安一課だった
「本部、部長に大至急伝えて」
決定的な報告が上がる。「敵は公安一課よ」。本部からの返答が「部長は現在、公安一課長のところへ」で、荒巻のほうが先に着いていた。
乗り込んだ荒巻の言い方が容赦ない。戦車を照合したうえで「今、わしの部下を追い回しとる奴だ」「今すぐ引かせろ、今すぐにだ」。撤退命令が飛び、そのあとに「それから、事情を説明してもらおうか。事と次第によっては、タダでは済まさんからだ」と続く。
身内が身内を撃っていたという構図が、たった一言の報告でひっくり返るのが気持ちよかった。ネットの反応でも一課への風当たりは強く、情報の入手が遅れている点まで含めて、味方のほうが厄介だという感想が並んでいた。
何と何が交換されたのか
一課長の言い分が「アナコンダの実名と証拠が手に入る作戦だったんだぞ」だった。南米の幽霊と呼ばれる麻薬王で、その情報と引き換えに差し出したのが草薙素子という一人の部下だったことになる。
からくりはこうだ。相馬は弁天一家に無視された腹いせに、グループの取引相手であるアナコンダを売ろうとした。公安一課と取引できれば草薙を探すのも訳ない。アナコンダは弁天を潰し、一課はアナコンダを押さえ、相馬は草薙を得る。荒巻の断が「お前たちの作戦じゃない、相馬の作戦だ」だった。
全員が得をするはずの取引を持ちかけた側が、最初から一人だけ別の目的を持っていたという構図で、一課は自分たちが主導していると思い込んだまま使われている。しかも当の相馬は「奴は我々を信じていない、思考戦車に乗っている」で、取引相手のことすら信用していない。
「DUMB BARTER」まとめと考察
二度とあの世から出てくるな
撤退命令を聞かされたバトーは止まらない。「部長、撤退命令聞かなかったんですか?」と確かめる相手に「モトコがやられちまう」「車にミサイル積んでるから、持ってこい」と押し切る。そのミサイルは、荒巻が呼び出した特殊兵器課の宮崎が貸してくれたものだった。
決着で草薙が言い放つのが「この世の中が嫌いなら、二度とあの世から出てくるな」。四年前に殺し損ねた相手へ、何発も撃ち込む。任務として処理する少佐ではなく、朝を壊された一人の人間の怒りがそのまま出ている場面だった。その横でトグサは血まみれのまま踏みとどまっていて、「トグサを病院に、出血がひどい」で運ばれていく。
ネットの反応で今回いちばん多く挙がっていたのが、まさにこの撃ち込む姿だった。冒頭の無防備な朝と、四年前の告白と、最後の連射がひと続きになっているので、戦闘の派手さよりも先に、怒っている本人の顔が残る。
交換に見合うものは、最初からなかった
後始末の会話で、一課長が乗せられていたと分かった経緯が説明される。戦車の線をたどって一課長から話を聞いた時だという。そのうえで「相馬が実際にアナコンダを知っていたかは疑わしいな」と釘が刺され、「もし事実なら、我々は大物を逃したことになりますよ」に対する答えが「我々はじゃない、一課はだ」。
そして最後の一撃が来る。「今朝、私、制服を着てたでしょ?」「ある国の公安大臣と乾杯するためだったのよ」、「アナコンダ暗殺作戦の成功を祝って、ね?」。一課が部下を売ってまで買おうとしていた情報は、その朝すでに用済みになっていた。
題名がそのまま落ちになっている回だった。冒頭近くで、テロリストは殺しても新顔が出てくるので壊滅させるよりコントロールするべきだ、という方針が語られている。その理屈を最後まで押し通した側が上を行き、目先の手柄と引き換えに仲間を差し出した側が空振りに終わる。私怨の話として始まり、組織どうしの取引の話に化け、その取引そのものが無意味だったと明かして終わる三段構えで、しかも軸にあるのは四年前に草薙が選んだ報復のやり方だ。戦車との撃ち合いが目立つ回でありながら、残るのが人間関係のほうだというのが、この回のいちばん厄介なところだった。
























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