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第6話の副題は「薫衣 -Lavender-」である。本編でラベンダーという語が出てくるのは、買い出しの途中で出くわしたナラ・ヴォーンが、「ラベンダーホームからも被害者が出た」と言う場面だ。ところが公式サイトの第6話あらすじには、その場面がまるごと書かれていない。名前が挙がるのは黒戸・ロゼ・アッシュ・ノーランド・クリストフ・サクラ・キャサリンの七人で、ナラ・ヴォーンの名は一度も出てこない。副題の出どころだけが、公式の紹介から抜け落ちている。




副題の出どころだけが、公式の紹介から抜け落ちている
公式サイトの第6話あらすじは、三つのことしか書いていない。七煌星団とロゼたちがダモクレスを止めるために迫られたギリギリの判断。戦況を意にも介さないノーランドが、クリストフと次の手を打つ算段をしていること。そして犠牲になった兵士と日本人のことを思ったサクラが、キャサリンに訴えかけること(※1)。名前が挙がるのは黒戸・ロゼ・アッシュ・ノーランド・クリストフ・サクラ・キャサリンの七人で、買い出しの街での再会には一言も割かれていない。
前の回のあらすじには、フルネームで書かれていた人物
念のため第5話のあらすじを見ると、「アインベルクの黒のクイーン、ナラ・ヴォーン」と肩書つきのフルネームで登場し、専用機のクインアスラまで名指しされている(※1)。つまり公式は、この人物を紹介しないまま話を進めているのではない。前の回では名前で書かれた人物が、次の回のあらすじからだけ消えている。しかも第6話で前提がひっくり返るのは、その抜けた場面のほうである。父の仇という第2話以来の枠組みが外から否定されるのは、ここしかない。
英語の側に置かれているのは、訳語ではなくその回に出てくる名前
副題は漢字二字と英語を並べる形で統一されている。第1話「雪解 -Melting Snow-」、第2話「氷壁 -Ice Wall-」までは英語が訳語になっているが、第3話「紅霞 -Raspberry-」以降は様子が変わる。Raspberry は、第6話でアッシュがサクヤを呼ぶ「ラズベリーさん」と同じ語であり、第4話「蛍火 -Alliance-」は三勢力の同盟、第5話「光芒 -Damocles-」は要塞の名である。英語の側には、その回に出てくる固有の名前が置かれている。では第6話の Lavender は何を指しているのか。その答えは、次の回の公式あらすじのほうに書いてある。
抜けた場面の続きは、公式の第7話あらすじにそのまま書いてある
第7話「朧月 -Hazy Moon-」の公式あらすじは、こう始まる。「これまで父の仇と信じてきたロゼは、アッシュの過去を再び調べるべく、彼の育ったラベンダーホームを訪れる」(※1)。第6話でナラが自分の誓いの理由として挙げた場所は、アッシュが育った場所でもあると公式が書いている。ところが第6話の会話では、二人ともそこを説明しない。ナラは「ラベンダーホームからも被害者が出た。あのホームの子供たちだ」と言い、アッシュはその場でホームの説明を求めない。説明が要らない相手どうしの会話として書かれているので、見ている側にだけ情報が渡らない。
では、やっていないと言われた側は、なぜ自分が殺したと言い続けるのか。第6話はそこを説明しない。答えは第7話の公式あらすじのほうにあって、「ホームでの元気な生活、ノーランドに引き取られてからの気の休まることのない生活、訓練と暗殺」と続いている(※1)。この回で引っかかるところに、次の回がまるごと当てられている。
第6話「薫衣 -Lavender-」で起きたこと(要点だけ)
戦闘は冒頭のダモクレス処理だけで、残りはほぼ全部が会話で組まれている回である。
- 投棄されたダモクレスは残ったフロートをバックドアから制御しようとするが「エナジーがどんどん放出されてる」「墜落は免れない」。黒戸が求めたのは止めることではなく「落下地点は被害が少ないところにコントロールしてほしい。できるか」=どこへ落とすかを人間が決める
- 退避完了の報告のあと黒戸は「よくやってくれた。感謝する」とだけ言う。勝ったという言葉は誰も口にしない
- ニーナ・アインシュタインが離脱。黒戸の「フレイヤエリミネーターで我々は命を救われた」に対し「それは私のセリフです。皆さんのおかげで、世界からフレイヤをなくすことができました」
- 坂井は「私は黒の騎士団との連絡役を担い、ここに残ります」と残留。ロゼは正体を伏せたままにする
- キャサリンの報告を受けたサクラが、負傷した日本人の救護を求めて押し切る
- 重護の命日。サクラは墓参りに行かず、護衛のヴァルターが重護とシェリーの人柄を語る
- 喫茶店で働くサクヤは「ラズベリーさん」と呼ばれている。買い出しに出たところでアッシュと出くわす
- 皇帝としてのサクラがナタリアを訪ね、特別区の話を聞く。別れ際にナタリアが「最近うちに猫ちゃんがやってくるようになりました」と世間話をする
- アッシュがナラ・ヴォーンと再会。「お前は皇重護を殺してはいない」「罪滅ぼしのつもりなら無意味だ」に対し、アッシュは「違う。これは誓いだ」と返す
- 帰宅した兄弟は食卓で互いに「いつも通り」と答える。どちらも本当のことを言っていない
- ノーランドとクリストフ。「網走の時と同じ症状だ」「記憶にないと叫んでおる」「破棄されたギアス関連のデータを発掘した甲斐があったというものだ」「実験体はまだいる」
- 締めは「お飾りの皇帝、スメラギ・サクヤ。それすら偽りとはな」
公式のあらすじが挙げた三つは、たしかにこの並びの中にある。ただし副題を決めたのは、その三つのどれでもない。
サクラがキャサリンを動かせた理由は、公式の人物紹介に書いてある
公式サイトのキャサリン・サバスラの欄には、こう書かれている。「アインベルクのヴァイスリッター『白のクイーン』。自身も非常に戦闘に長け、『強い人が好き』という信念を持つ」(※2)。三行に満たない紹介文だが、この回の勝負はここで決まっている。
「できない」とは一度も言っていない、という読み方
キャサリンの断り方は、よく聞くと要求を否定していない。「やめてくださいよ。あなたはお飾りの皇帝なんですから。でしゃばらないでください。私の仕事が増えるじゃないですか」。面倒だとは言っているが、できないとは言っていない。サクラが拾ったのはそこだけだった。「やめてくださいということは、できないということではないのですね」。報告に来た側の言葉づかいの隙を、その場で正確に突いている。
相手の物差しに合わせて、言い方を変えている
押し問答の終盤で、キャサリンは「そういうのは強い人が考えることであって」と言う。ここでサクラが返すのが「私は強くなりたい」で、最後は「お飾りのくせに」に対して「今から明日まで、私の方が強いんだから、言うこと聞いて」と押し切る。皇帝の権限を持ち出してはいない。強いか弱いかという、相手が人を測るのに使っている物差しのほうに乗り換えている。公式の紹介文がわざわざ「『強い人が好き』という信念」と書いているのだから、この乗り換えは効くべくして効いている。
同じ願いが、前の回では途中で切られている
第5話でサクラはノーランドに直接訴えていた。「札幌ゲットーを壊滅させるなど無意味です。今すぐ中止させなさい」「無辜の民に犠牲が出れば国際社会から批判の的にされます。そうなれば、この国の未来は」。返ってきたのは「ご意見は拝聴しました。では」で、最後まで言わせてもらえなかった。第6話で通ったのは、願いの中身が変わったからではない。変わったのは相手と、その相手に合わせた言い方だけである。お飾りだと繰り返し言われている人物が、一日ぶんの権限を自分で見つけて使っているという回だった。
人物紹介には、当たっている欄と止まったままの欄が混在している
公式のキャラクター欄を第6話と突き合わせると、台詞の下書きのように読める紹介文が見つかる一方で、本編とずれたままの欄もある。
坂井ミナトの欄に、ロゼの台詞がほぼそのまま載っている
公式の坂井ミナトの紹介はこうである。「黒の騎士団・八戸基地から、ニーナの護衛として派遣された女性。真面目な性格のため秘密を抱えたままの任務遂行は難しいと判断され、上層部からはロゼの正体を知らされていない」(※2)。第6話でロゼが残留を認めるときに言うのが「あいつは真面目で素直な奴だ。その秘密を抱えたままで、平常通りに任務は果たせまい」。言い回しまで含めてほとんど同じで、設定資料の一文がそのまま台詞になった形になっている。
「野心」という語が使われているのは、十一人のうち一人だけ
アインベルクは白六人と黒五人の十一人で、公式はそれぞれに二行から三行の紹介文を付けている(※2)。その紹介文を読み比べると、「野心」という語が出てくるのはディボック・メルテの欄だけで、「功績を上げることに対し野心を燃やしている」と書かれている。第6話でキャサリンは戦死した相手を「野心家だったから、功名心に殺されちゃったのかな」と片づけるのだが、それが誰を指すかは本編で名指しされない。ただ、第5話で自爆した本人が最後に言っていたのは「このままでは私は敗戦の責を問われる。ノーランド様は部下の失敗を許しはしない」で、野心というより恐怖である。紹介文の言葉と、本人が最後に口にした言葉は、そこで食い違っている。
サクヤの欄だけが、第1話のまま止まっている
公式のサクヤの紹介は「ネオ・ブリタニアによって殺害されたホッカイドウブロックの領主、皇重護の娘。現在その身柄を囚われている」のままである(※2)。囚われていたのが影武者だったことは第2話で分かっていて、第6話ではその影武者が皇帝として動いているのに、欄は更新されていない。そもそもサクラは公式のキャラクター一覧に載っていない。一方で皇重護の欄は追加されていて、「博愛の人として、日本人からもブリタニア人からも慕われていた」と書かれている。これは第6話でヴァルターが墓参りの話の流れで語った「重護様は博愛の人でした。日本人もブリタニア人も分け隔てなく」と同じ内容で、この回で追いついた欄と、止まったままの欄が並んでいる。
「実戦を得意とする」側の三人が、この回では一度も戦っていない
公式の説明によれば、アインベルクは「戦略面を得意とするヴァイスリッター6名と、実戦面を得意とするシュヴァルツリッター5名」からなり、チェスの駒になぞらえた地位が与えられ、それぞれ領地と騎士団を持っている(※2)。白がキング・クイーン・ビショップ・ルーク・ナイト・ポーンの六つ、黒はクイーンから下の五つで、黒側にキングはいない。
黒の三人が、それぞれ別の理由でノーランドの下にいる
第6話に出てくるシュヴァルツリッターは三人で、揃って自分の立ち位置を言葉にしている。黒のクイーンであるナラは「たとえノーランドに利用されてでも、あの子たちの安住の地を作るまで、ネオ・ブリタニア軍人として力を尽くす」と誓いを語る。黒のビショップであるヴァルターは「あなたは特別区で日本人を保護し、私はネオ・ブリタニア軍人として日本人を殺す。道は違えた。それだけのことです」と諦めのほうを語る。黒のルークであるクリストフは「実験体はまだいる。何が出てくるか楽しみだな」で、理由らしい理由を語らない。実戦担当と書かれた三人が、実戦以外の場所でだけ自分を見せている。
ギアスの定義のほうから読むと、クリストフの場面の位置が変わる
公式の用語解説はギアスを「不老不死のコードを持つ者によって与えられる特殊な力。光や音によって他者の思考などに干渉する」と説明し、「その力を得た人間によって発現する能力が異なり、これは、その人間の本質や願望が現れるとも言われている」と続けている(※3)。クリストフが掘り返しているのは、その力の記録である。捕らえられたのは「札幌ゲットーでイレブンどもを逃がそうとしていた兵士」で、その本人たちが「記憶にないと叫んでおる」。逃がそうとした当人に、そうした覚えが残っていないという状態である。かけた側が誰なのかを、かけられた側から逆算しようとしているのがこの場面になる。
達人級の二人が、機体を降りて向かい合っている
第2幕のスタッフトークで、CGアニメーションのチーフを務めた笠原季生は第5話のナラとアッシュの戦いについて「互いにナイトメアフレームの操縦は達人級。徐々にテンションが上がっていき、後半の方は画と画の間が飛んでしまっているように見えるくらい派手な戦闘シーンをと監督からオーダーされた」と語っている(※4)。大橋誉志光監督も同席で「アポロは曲線的で円運動、対するナラは直線的で垂直的な運動」と補足している。その二人が、次の回では買い出しの途中で、機体を降りて向かい合っている。派手に描かれた回の直後に、同じ二人の関係を台詞だけで書き直しているのがこの回である。
制作側は、画面に出ないことと出ていることを両方明かしている
劇場公開時のスタッフトークが公式サイトにレポートとして残っていて、第6話を見返すときの手がかりがいくつも置かれている(※4・※5)。
監督が明かした「寝床」に、兄弟の距離が置かれている
第2幕のトークで、大橋誉志光監督は二人のトレーラー生活についてこう語っている。「基本的にアッシュは運転席で寝ています。ロゼは運転席の上のスペースが本来ベッドだったんですけど、父親の件を聞いてからアッシュが下にいるのが耐えられなくなったので、第1幕ではリビングの椅子で寝ています」(※4)。レポートも「寝ているシーンは本編では描かれていない」と断ったうえで伝えている裏設定である。第6話で描かれるのは食卓のほうで、そこで交わされるのは「今日は何してたのかなって」「いつも通りだ。トレーニングして、武器の手入れをして、少し街に出た。お前は」「俺もいつも通り。協力者と会って、情報を集めて」という、兄も弟も嘘をついている会話だった。描かれる食卓には嘘が置かれ、描かれない寝床には理由が置かれている。
サクヤとサクラは、黒目の輪郭が違う
第1幕のトークでは、撮影監督の千葉洋之が「サクヤとサクラの黒目の輪郭の違い」を撮影処理のこだわりとして挙げている(※5)。同じ顔を上田麗奈が一人で演じ分けているうえに、仕上げの側でも線を変えているということになる。千葉は「『反逆のルルーシュ』や『亡国のアキト』は撮影処理の規制が厳しくて。『奪還のロゼ』に関しては許可が出たので、自分が思う形で全編やらせてもらっています」とも語っている。第6話はその二人が同じ日に別の場所で動く回なので、見比べる材料としてはいちばん条件がいい。
色まで指定されていた唯一のキャラクターが、この回で押し切られる
キャラクターデザインの島村秀一は、第1幕のトークでどのキャラクターが一番プレッシャーだったかと聞かれ、キャサリンの名を挙げている。色まで指定していたのは同じくキャラクターデザインの木村貴宏で、島村は「全てにおいて木村さんの想いが詰まったキャラクター」と語っている(※5)。その人物が、第6話ではお飾りと呼んだ相手に押し切られる。島村は同じ場で「『ギアス』というと美男美女ばかりが目立ちがちですが、今回はおじさんも多いので、その辺も観て頂けると嬉しいです」とも言っていて、黒戸・ヴァルター・クリストフ・ノーランドが順に画面を占めるこの回は、たしかにその言葉どおりの構成になっている。
こうして並べてみると、第6話は会話しか起きていない回ではない。画面に出ないところと、出ているのに気づきにくいところの両方に、制作側が手がかりを置いている回である。
まとめと次回予想:この回は、劇場では幕の終わりに置かれていた
見落としやすいのだが、公式のトークレポートは「第1幕となる1~3話」「第2幕となる4~6話」と明記している(※4・※5)。劇場公開は全四幕で、2024年5月から毎月連続で上映された。つまり第6話は、劇場では幕を閉じる位置に置かれた回である。
締めの一言は、幕引きとして設計されている
そう思って見ると、ナタリアの猫の話をもう一度流したあとに「お飾りの皇帝、スメラギ・サクヤ。それすら偽りとはな」を置く終わり方は、次の週に続けるための引きというより、三話ぶんをまとめて畳むための一言に見えてくる。大橋誉志光監督は第1幕のトークで「第2幕は折り返しになるので、メカ戦は盛り盛りです」と予告していた(※5)。実際にはその三話のメカ戦は第5話にほぼ全部入っていて、第6話に残ったのは冒頭の落下処理だけである。戦いを前の回に寄せて、幕の最後を会話と一言に空けてあるという配分だった。
第2幕のトークで島村秀一は「第3幕から重い展開にはなっていってしまいますが、すごく面白いので観てください」と言っている(※4)。第6話までを軽い回だと受け取ったなら、その体感は作り手の区切りとそのまま重なっている。
次回予想:名前だけ出た場所が、そのまま次の舞台になる
次回予想として書けることは、実のところ公式が先に書いてしまっている。第7話「朧月 -Hazy Moon-」のあらすじは、ロゼがアッシュの過去を調べるためにラベンダーホームを訪れると明記している(※1)。第6話で名前だけ出て説明されなかった場所が、次の回の舞台になる。ナラが「お前たちとノーランドの生活がどのようなものだったのかは知っている」と言い置いた、その中身が開かれるということでもある。逆に言えば、第6話は説明を全部次に預けたまま幕を下ろした回だった。最後の「それすら偽りとはな」を誰がどの経路で掴んだのかも、この回では一切示されない。分かっているのは、皇帝の椅子に座っている人物が偽者だと、それを口に出せる誰かがすでに知っているということだけである。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト ストーリー(第5話・第6話・第7話のあらすじと副題)/geass.jp
※2 テレビアニメ公式サイト キャラクター(キャサリン/坂井ミナト/ディボック・メルテ/サクヤ/皇重護/アインベルクの構成)/geass.jp
※3 テレビアニメ公式サイト キーワード解説(ギアス)/geass.jp
※4 テレビアニメ公式サイト 第2幕スタッフトークイベントつき上映レポート/geass.jp
※5 テレビアニメ公式サイト 第1幕スタッフトークイベントつき上映レポート/geass.jp




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