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第8話のサブタイトルは「空中城塞」で、ここから新章ケイオスブレイカー編に入る。公式あらすじにある「意外な人物の名前」は、探しに行った先ではなく、同行していたエリナリーゼ本人だった。もう一つ大きいのが転移事件は誰の仕業でもなく、偶然起きたものだったという答えで、シリーズの発端がここで一度片付く。そして締めは解毒の魔力が通らないままのナナホシの吐血である。




公式サブタイトルは「空中城塞」。新章の入り口で置いていかれる人
落城した砦の跡から、暦になった男の話へ
開幕は地上の遺跡である。「戦争中、人族が魔族侵攻の際に、立てこもって抵抗した場所だそうです」「最後には力及ばず、攻め落とされてしまったとか」。これから向かう先の説明が、まず負けた側の話から始まるのが良い入り方だった。
そこにペルギウスの説明が重なる。「彼はラプラス戦役の英雄だ」「十二体の使い魔を操り、古の空中城塞を復活させ、仲間と共にラプラスを封印した」、そして功績をたたえて新しい暦が使われるようになったという。強さではなく、暦の名前になったという事実で格を示す紹介の仕方である。
第7話のラストで名前だけ出ていた人物が、こうして本編に入ってくる。名前を聞かされてから実物に会うまでに一話ぶんの間が空いているので、視聴している側の身構え方まで作中の一行と揃うようになっていた。
「だが、魔族はダメだ」で置いていかれるロキシー
呼び出しに応じて現れた使い魔が、名乗るなり人数を確認する。「これは構わぬ」に続いた言葉が「だが、魔族はダメだ」だった。「どうにかならないの?」と食い下がられても、「ペルギウス様は寛大なお方ではあるが、魔族はお嫌いだ」で終わる。
ここでロキシーが返す一言が重い。「大丈夫です」「こういったことには慣れていますから」。魔神殺しの英雄と呼ばれる側に、これだけはっきりした線引きがあり、断られた本人が慣れていると言う。この世界がどう出来ているかを、たった二行で見せてしまう。
ルーデウスが「お土産もらってくるから」と言い、ロキシーが「帰ってきた時にギュッとしてくれれば、それでいいです」と返す。重い場面をそのまま重く終わらせないのがこの作品らしくて、見送る側の言葉としても気が利いていた。
城に入る前に、たった一つだけ聞かれること
光輝のアルマンフィと、空虚のシルヴァリル
転移の手順が独特だった。渡されたのはただの棒に見えるもので、「何ですか、これ」に対する答えが「持っているだけでいい」「では待たれよ、しばし」。「なんかドキドキしますね」という声が重なった直後、視界が切り替わる。
到着した先が空中城塞ケイオスブレイカーである。「我らが空中城塞からの風景は、お気に召していただけたでしょうか」と現れたのが「私はペルギウス様の第一のしもべ、空虚のシルヴァリルと申します」。使い魔がそれぞれ二つ名で名乗るので、十二体いるという説明が一気に現実味を持つ。
景色を見せてから名乗る順番も含めて、この城の主が客をどう扱う気なのかが最初の一分で分かる作りになっていた。新章の入り口としては、これ以上ないくらい丁寧な導入だと思う。
「その名前を聞いて、怒りや殺意が湧き出してきたりはしますか」
案内の途中、シルヴァリルが「ですが、一つだけ質問をしてもよろしいですか」と切り出す。内容が「ヒトガミという名前に聞き覚えがありますか」だった。答えが「ありません」だと確認すると、続けてこう聞く。「では、その名前を聞いて、怒りや殺意が湧き出してきたりはしますか」。
「しません」という答えに、ルーデウスも「俺も同じです」と重ねる。シルヴァリルは「でしたら、私から申すべきことはございません」で引き下がった。
この質問の作りが面白い。知っているかどうかではなく、名前を聞いて感情が動くかどうかを確かめている。つまりこの城が警戒しているのは知識ではなく、その名前に反応してしまう心の側なのだと分かる。直後に置かれる「くれぐれも粗相のないようにお願いします」も、儀礼の注意というより検問の締めくくりに聞こえた。
謁見の間で交わされたもの
王女の魂胆と、ラプラスを彷彿とさせる魔力
「我が甲龍王、ペルギウス・ドーラである」で謁見が始まる。ナナホシへの第一声が「戻ってきたということは、異世界からの召喚について何かが掴めたということだな」で、成果を心配する言葉に対しては「成果など、知識の探求こそが我ら龍族の宿命だ」と切り返す。
アリエルは「ただ世界に名だたる英雄に一目お会いできれば」と言うが、返ってきたのが「魂胆が透けて見えるぞ、アリエル・アネモイ・アスラ」。そのうえで「だが貴様はここに来た」「それもまた運命」「我が城への滞在を許す」と続く。見抜いたうえで通す、という許し方である。
ルーデウスへの言葉はもっと直接的だった。「貴様を転移させるのには、少々骨が折れたぞ」「もし貴様が本気で抵抗したなら、転移させることができなかったろう」、そして「貴様の魔力はラプラスを彷彿とさせる」「この城内で使おうとは考えぬことだ」。ナナホシが「もう少し優しくしてやってくださいませんか?」と口を挟み、「ふん、ならば優しくしてやろう」で空気が切り替わるまで、ずっと値踏みが続く。
ゼニスの病と、口にされた意外な名前
「ナナホシの協力者よ、貴様が望むものは何だ? 金か? それとも力か?」に対して、ルーデウスが母のことを尋ねる。返ってきた答えが「古き迷宮には、人を捕らえ、己が心臓として機能させるものもあると聞く」「心臓となった者は魔力によって変容し、例外なく記憶を失い、そして、その身に神秘の力を持つ」だった。聞き返した「神秘の力?」に対する答えが「呪子、あるいは神子と呼ばれている者の持つ力だ」で、ただし「詳しいことは我も知らぬ」と自分で線を引く。
そのうえで出てくるのが「だが、かつて似たような運命を辿った女なら知っている」という前置きと、「エリナリーゼ・ドラゴンロード」という名前である。公式あらすじが言う「意外な人物の名前」は、遠くの誰かではなく、その場に一緒に立っていた同行者だった。
「貴様は確か二百年ほど前に、我が友の手によって迷宮より救い出されたはずだ」「なぜ話してやらぬ? 共にここにいる以上、貴様らは知り合いなのだろう?」と重ねられ、エリナリーゼが「ごめんなさい、ルーデウス」「言っておくべきだと思っていましたけれど、ためらってしまって」と折れる。ルーデウスの返しが「詳しい話を、後で聞かせてください」だけなのも、人前で問い詰めない選択として静かに効いていた。
謁見のもう半分、王子と妻の質問
紋章の持ち主は狂龍王カオスだった
ザノバは「シーローン王国第三王子、ザノバ・シーローンと申します」と名乗る。「貴様も王権争いの後ろ盾を探しているのか?」と聞かれて「いえ、そんなものはどうでもよろしい」と即答するのが、この人の一番の強みである。聞きたかったのは、持ち込んだ紋章のことだけだった。
答えは「知っている。狂龍王カオスのものだ」。「今、何処に?」には「死んだ」「数十年前だ。後継者がいるかどうかは分からぬ」。出どころを聞かれたザノバが「廃屋にて、自動で動く人形のそばで見つけました」と答え、「それは素晴らしいものであったか?」に対して「細部に刻まれた技術は惚れ惚れするほどで、かのお方がどれほど人形を愛していたのかが伝わってくるほどでございます」と熱弁する。
ペルギウスの評価が「貴様は芸術を分かる者のようだな」で、「この城の宝物殿にもカオスの作品はいくつかある。後で見せてやろう」まで引き出してしまう。王族としての立場を全部捨てた質問だけが、この城では通った。ザノバの偏りが、初めてはっきり得になった場面だった。
転移事件は、誰の仕業でもなかった
シルフィエットの名乗りが「アスラ王国第二王女、アリエル様の護衛にして、ルーデウス・グレイラットの妻、シルフィエット・グレイラットと申します」。ペルギウスは「夫婦そろってか」と受けたあと、「質問の前に一つ答えよう」「貴様ら、息子はいるのか?」と先に聞き返す。「娘だけですけど」と答えると「もし息子が生まれることがあれば、我が元に連れてくるがよい」「名を授けてやろう」。
そのうえでの質問が転移事件だった。「あれは結局のところ、誰が引き起こしたものだったのでしょうか」。答えは「判明しておらぬ」から始まり、「当初はラプラスか、それに連なる者の仕業かと思ったが」「ナナホシを召喚することは、この我でも不可能だ」「となれば、この世界にて可能なものは誰一人としておらぬ」と続く。
結論が「あれは人為的なものではない、偶然起きたものだ」である。物語の発端がここで一度片付いてしまうのだが、よく聞くと「この世界にて可能な者はいない」という限定つきになっている。直前に城の入り口でヒトガミの名前を確認されたことと並べると、この答えは終点ではなく、別の場所を指す矢印に見えてくる。
二百年前の話と、出汁を取っていない味噌汁
エリナリーゼが黙っていたこと
謁見のあと、本人の口から二百年前が語られる。迷宮から救出された時点で「記憶も感情も失っていましたわ」。預けられたエルフの集落では「身内でもない私を優しく受け入れてくれたんですの」。数年で感情が戻り、集落の男性と結ばれ、「記憶が戻ることはなかったけれど、それでも幸せでしたわ」。
呪いが表面化したのはその頃からだった。毎晩のように相手を求めるようになり、体は月に一度、小さな魔力結晶を生み落とすようになる。本人の言い方が「最初は気味が悪かったけれど、これが家計の足しになったのも事実ですわね」で、呪いを収入として説明してしまうのが、この人の生き延び方だった。
転落は早い。魔力結晶を売りに出た夫が盗賊に襲われて命を落とし、一人で生きようと決めたそばから「呪いがそれを許さなかった」。集落の男たちを次々と襲い、追放される。それが今の冒険者暮らしにつながり、締めが「もちろん今はクリフ一筋でしてよ」。
重要なのは結論の方だった。記憶は今も戻っていないが、「でもゼニスの様子は、私とは大きく違っていますわ」「多分、別の呪いにかかっていますわね」。根拠を聞かれても「なんとなく、としか」で、希望も断定も渡さないまま「とにかく油断は禁物ですわよ」で終わる。ルーデウスの受け止めが「俺だって、過去を言いたくないという気持ちはよくわかる」「だから、彼女のことを責めるのはなしだ」で、隠されていた側が先に理由を作ってやるのが良かった。
美味しくないと言い切ってから、手が止まらない
ゼニスの件は進まなかったが、代わりに召喚魔術の授業に混ぜてもらえることになる。「まだ基礎の部分しか教わっていないが、これからが楽しみだな」。休憩の献立を聞かれ、「材料がなくとも、アルマンフィが手に入れてきますので」と言われた時点で、ルーデウスの頭が回り始める。「そんな高速のパシリみたいなことさせていいのだろうか」「いや、これはチャンスかもしれない」。
出てきたのはなんちゃって和風定食だった。「この世界に醤油があるのか」と驚き、酒は見つからず、代わりにビヘイリル王国にあるという豆の発酵食品を運んでもらったという。手を合わせて「いただきます」から始まるのに、ナナホシの第一声が「お味噌汁、出汁も取ってないじゃないの」。
ここからの二行がこの回の芯だと思う。「実際、美味しくはなかった」「記憶の中にある日本食は、もっと繊細なものだったはずだ」、そして「けれど、俺たちの手は止まらなかった」。感動的な味だったことにしないのがこの作品の誠実なところで、まずくても止まらないという書き方だけで、二人が何を失っているかが伝わる。
故郷の味を再現できるのは、この世界でこの二人だけである。それなのに再現しきれない。分かち合える相手がいるのに分かち合っているのが不足だけ、という食卓になっていて、泣きながら食べる絵の意味が一段深くなっていた。
「空中城塞」まとめと考察
壁画の前で、城の主が漏らした本音
食後は探検になる。「ほとんどの部屋は鍵がかかっているけど、一つ面白いものがあるわ」と案内された先が壁画だった。「かなり古いものだな」と見上げながら、「なんかこの物語、どっかで見たことある気がするな」「僕もだ、でも何だったか」という引っかかり方をするのがうまい。
そこへペルギウス本人が現れ、「よい、立て」と止めてから壁画の由来を語る。「空中城塞を手に入れたとき、内部にはほとんど何も残っていなかった」「だがこの壁画だけは、今と同じ、ほぼ完全な姿で残っていた」「他の何が塵芥になろうとも、これだけはな」。そして「我はそこに先人の思いを見た。この出来事だけは後世に伝えん、とな」。
ザノバが「深いロマンを感じますなぁ」と受けたところで、返ってきたのが本音だった。「我もそう思いたいところだが、この壁画は好かん」「どうにも息苦しさとやるせなさ、そして胸クソ悪さを感じてしまう」。格式ばった喋り方をしてきた人物が、最後の一語だけ言葉づかいを崩すので余計に重い。残す価値は認めているのに、見ていると気分が悪い。この矛盾を訂正せずに置いたまま「長居すべきではありますまい」で終わるのが、今回いちばん引っかかる場面だった。
謁見で何も解決していない回が、いちばん動いた回になっている
締めは日常から落とす形だった。シルフィエットとの会話でアリエルの攻略を相談し、「まずは仲良くなるかな」「趣味の話とか武勇伝とか聞いてさ」と助言してみせた直後に、「ルディって、ナナホシとずいぶん仲良いよね」で足元をすくわれる。「ごめんごめん、ちょっと意地悪したくなっただけ」で済むのに、心の中で反省文を書いているのが可笑しかった。
その流れのまま、ナナホシが咳き込む。「解毒をかけてもらおうと思って」と言われてシルフィエットが引き受けるが、「あれ、なんかおかしいな」「魔力がなんか」と手が止まり、そのまま吐血する。第7話で「解毒魔術じゃ、不健康な体までは治らないんだぞ」と言っていたことが、解毒そのものが効かないという形で一段悪い方へ更新された。
通してみると、この回は謁見では何一つ解決していない。ゼニスの治し方は分からないままで、転移事件も偶然だったと片付けられ、壁画の正体も明かされない。それでも大きく動いて見えるのは、答えの代わりに人が動いたからだと思う。エリナリーゼが二百年黙っていたことを話し、ロキシーが置いていかれ、ザノバが王子であることを捨てて質問し、ペルギウスが自分の趣味を否定してみせた。
そう考えると、副題が「ケイオスブレイカー」ではなく普通名詞の「空中城塞」なのも納得がいく。今回描かれたのは城の秘密ではなく、そこに入るために各自が差し出したものの方だった。次回は、倒れたナナホシの側に話が寄ることになりそうだ。




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