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第7話「闇夜の報復」でいちばん怖いのは、報復の場面そのものではない。エリーが一度も嘘をついていないことである。謝りに来たロベルトに、彼女は「もう済んだ話です」と答える。終盤、まったく同じ言葉がもう一度出てくる。「ええ、もう済んだことですわ。何もかもが済んでしまった。何一つ取り返しがつきません」。一字も変えないまま、意味だけが正反対になる。訳を間違えたのは、受け取った側だった。




結論:エリーは一度も嘘をついていない。訳を間違えたのは受け取った側である
この回は復讐ものの見せ場としてよくできているのだが、面白さの中心は残酷さのほうではないと思う。エリーがこの回で口にしたことは、最初から最後まで一つも嘘になっていない。にもかかわらず、聞いた側は全部を取り違える。嘘をつかずに相手を勘違いさせる、という一点だけで一話が組まれている。
「もう済んだ話です」は、二度出てくる
一度目は投降の直後、ロベルトが「一年前、私はあなたに対して許されないことをしました」「フリード殿下とシルビア嬢の話を鵜呑みにし、自らの目で確かめることもなく、あなたを断じた」と頭を下げる場面である。エリーの答えが「もう済んだ話です」で、続けて「すべてはフリード殿下と友好的な関係を築けなかった私の責任」「あなたが気にすることではありません」とまで言う。二度目は帝都へ向かう道中で、「ですが、もう済んだことだと」と縋るロベルトに返す「ええ、もう済んだことですわ。何もかもが済んでしまった。何一つ取り返しがつきません」である。
「済んだ」の訳が二通りあることだけを使っている
日本語の「済んだ」には、もう終わったから水に流すという意味と、もう終わってしまったから戻せないという意味がある。エリーは最初から後者で言っていて、ロベルトが前者で受け取った。それだけである。言い換えも訂正もせず、同じ語をもう一度置くだけで反転させるので、反転したのは意味ではなく、聞いた側の願望のほうだったことがはっきりする。この作りが分かると、前半の穏やかな場面が全部こわくなる。
何が起きたか(要点だけ)
戦況が一気に動き、政変まで入る回なので、先に事実を並べておく。
- フリードの部下だったロベルト・アーティの部隊が投降する。理由は「帝国への嫌がらせのためだけに村人たちからの略奪を命じ」たことで、「国を守る騎士として、これ以上は耐えられない」。
- 当のフリードは「俺は国へ帰る」と言って離脱する。「そもそもこの紛争は、貴様らサージャス小王国が起こしたのだ。俺には関係ない」。
- 軍議でエリーはロベルトを肯定する。「時に汚名をかぶってでも主君の間違いを正すのが忠臣、そして友というものではなくて」。
- ロベルトの情報で戦線は数日で王都へ届く。大きな犠牲は出ない。
- サージャス小王国は降伏を決める。国王ザントラが「理由はどうあれ、戦を仕掛けたのは我々だ」と言い、政権移譲を王命として出す。
- 和平交渉。差し出されたのはザントラ本人の首で、グリントが第10代国王として応じる。
- フリードの指示書は引き渡される手筈だったが、直後に王城が燃える。火を点けたのは第6話で取り逃がした一団だった。
- 帝都への帰路、エリーは投降兵に同行する。別ルートを選ぶ理由まで用意したうえで、報復が始まる。
第7話の脚本は山下憲一、絵コンテは葛谷直行、演出はスタジオリングスと東亮佑(※1)。葛谷直行は監督で、第7話までのうち5本の絵コンテを自分で切っている(第1話・第2話・第4話・第6話・第7話/※1)。原作ははぐれメタボが書き、昌未がイラストを担当しているHJノベルスの作品で、Web連載は2020年10月6日開始、書籍は2022年5月19日刊行開始(※1)。制作はスタジオコメット、シリーズ構成は広田光毅(※1)。
謝罪の場が二度あり、同じ言葉が正反対に働く
一度目は、赦しの形にきちんと見える
一度目の謝罪でエリーが返すのは、受け止めの言葉として過不足がない。自分の責任だと言い、相手を気にするなと言い、さらに「それに、私は今のこの生活も楽しんでおりますのよ」まで添える。この一言があるので、ロベルトの側には「立ち直った人が水に流してくれた」という絵が完成する。しかも直後に彼女は「エリー。今の私は帝国の一商人、エリー・レイスですわ」と呼び方まで訂正していて、過去の名前を捨てた人物として振る舞う。ここまで揃うと、誤解しないほうが難しい。
二度目は、赦しを与えていないことを先に確認する
二度目でロベルトが言うのは「あなたにあのような仕打ちをした私を許し、受け入れていただいた」「このご恩は必ずお返しする。騎士としての誇りにかけてお約束しよう」である。エリーの返しは反論ではなく事実確認だ。「何を言ってるのかしら。私はあなたを許すなんて、一言も言っておりません」。言われてみると本当に一度も言っていない。済んだ話だとは言ったが、許すとは言っていない。台本を読み返すと成立しているタイプの仕掛けで、視聴中に見抜くのはほぼ不可能に作られている。
軍議での肯定も、嘘ではないまま使われている
軍議でロベルトを励ました言葉も同じ構造をしている。「あなたの気持ちは理解できます。一度剣を捧げた主君を裏切る形になるのですから」「けれど、間違っているのは明らかにフリード殿下です」。内容としてはどこも間違っていないし、実際この肯定があったから彼は情報を出し切り、戦線が短期で片付いた。正しいことを言って、正しく機能させて、そのうえで目的が別にある。ルーカスの「王国に帰参できる可能性もあるだろう」まで含めて、この場の善意は本物として描かれているのがたちが悪い。
この回のエリーの台詞は、全部が字義通りに正しいまま別の目的に使われている
帰り道を変えた理由が、親切として完璧に通っている
別ルートを選ぶくだりが一番分かりやすい。「ここから帝都へ戻る通常ルートは、今回の紛争で被害を受けた村々を通ることになります」「離反したとはいえハルドリア王国軍であった皆さんが、無事に通過できるとお思いですか」「ですから、その村々を避け帝都に向かってもらいます」「私も同行しますのでご安心ください」。筋は通っているどころか、投降兵を守るための配慮としてこれ以上ないほど正しい。結果として選ばれるのが人目のない道だという一点だけが、目的のほうである。
手紙の書き方も、嘘になっていない
アルノーが受け取る手紙も同じで、「サージャスを発ちます。途中、野暮用があるので帰りは少々遅くなりますわ」としか書かない。「野暮用って何でしょうか」に対するアルノーの返しは「さあ、私は存じませんね」で、ここも否定はしていない。言っていないことと、嘘をつくことは違うという線を、この回は登場人物の側でもきちんと守らせている。
ミレイだけが、最初から全部分かっている
エルザの「ミレイ、エリーはどこにいるんだ」に対して、ミレイは「エリー様は、投降したハルドリア王国の兵に同行されます」とだけ答える。「大丈夫なのか、エリー一人で」と重ねられて返すのが「好奇心とは死神の名前である。不要な詮索をなさらない方がよろしいのでは」。これは第5話で冒険者の言葉として出てきて、エリーが金言だと評したものだった。その言葉を、今度はミレイが冒険者に向かって使う。知っている側と知らない側が、この一往復ではっきり分かれる。
報復の場面で明かされるのは、動機と、神器の本当の名前である
動機を聞かれて、大義を一つも出さない
「なぜこんなことを」に対する答えが「決まっていますわ。これは報復です」で、「なら私だけ殺せばいいだろう。なぜ罪のない兵士達に」に返すのが「理由なんてありません。単にあなたと共にいたから殺しました」である。復讐ものはたいてい、巻き添えに何らかの理屈を用意する。この回は用意しない。それどころか「あなたさえいなければ、彼らは苦しみながら溶かされることなく愛する家族のもとに戻ることができた」と、巻き添えであることを本人が正面から認めている。
「行き過ぎている」という受け取りは、作品の想定内に見える
投降した兵まで殺すのはさすがに度が過ぎる、という反応が出るのは当然で、実際そう受け取れるように作られている。重要なのは、作品の側が一度もこれを正当化していないことだ。エリーは兵士たちを「身勝手で自己満足なあなたの騎士ごっこに巻き込まれた、哀れな犠牲者です」と呼ぶ。犠牲者だと言い切ったうえで殺している。擁護も反省もさせないまま置いていくので、主人公を支持できるかどうかを判断する材料は、視聴する側に全部渡されている。
神器の構造が、ここでようやく確定する
ロベルトが口にする神器の名は「グリモア・ウィズダム」で、それに対するエリーの訂正が「いいえ、それは偽りです。私の本当の神器は、7種類の魔導書を作り出すグリモア・セブンス」。つまり七つの魔導書そのものが神器なのではなく、七つを作り出す親のほうが神器だった。なお、この回で実際に使われる魔導書は3冊である(逃げ道を塞ぐベルゼブブ、魔石を贄にウーズオリジンを呼ぶベルフェゴール、そして仕上げのアスモデウス)。ウーズオリジンは「魔界に生息するスライムの原種」で、「粘液を触手のように伸ばし、獲物を溶かしながら捕食します」と説明される。
本筋の外側で、大きなことが二つ起きている
王の死を、台詞で一度も説明しない
サージャス国王ザントラは、降伏を決めたあと「わしは愚かな王であったな」「お前にこのような苦労を押し付けてしまう父を許せ」「わしにできる最後の仕事だ」と独白する。死ぬ場面は出てこない。次の場面で変わるのは呼び方だけで、「グリント殿下」が「グリント国王陛下」になっている。和平交渉の席でグリントは「第9代国王ザントラは、この度の戦の責任を取り自害した。現在は私が第10代国王として戴冠している」と説明し、差し出される謝罪の中身がザントラの首だと分かるのはその後である。順番を入れ替えて、観ている側に先に気づかせる作りになっている。
傭兵団は、傭兵ではなかった
王城の火が消えたあとに残るのが、この回の最大の未回収である。放火したのは第6話で取り逃がした一団で、「これでハルドリアのバカ王子がやらかした証拠は、燃え尽きるだろう」「上からは可能なら処分しろとしか言われてねえんだからよ」と話す。雇い主が別にいることがこの時点で分かる。決定的なのは撤収の号令で、「傭兵ごっこは終わりだ。これより本国へ帰還する」「本国で会おう」。傭兵に本国はない。エリーの見立ても「王国に、あのような部隊はなかったはずです」で、ハルドリアの手勢だという線を本人が否定している。
燃やされたものが何だったかは、はっきりしている
エリーは焼け跡から「ところどころに、意図的に何かを燃やした痕跡があります」と読み取り、それが「ハルドリア王国が国際法違反を犯した証拠となる、フリードからの指示書」だろうと言う。魔力の残り方も第6話で交戦した相手と似ている、と判断の根拠まで添える。つまり物的証拠は、引き渡しの直前で確実に消された。第6話から続いていた「証拠がなければ王国は関与を否定する」という筋は、この回で前進したように見えて、実は振り出しに戻っている。
まとめ:題名の「闇夜の報復」は、報復ではなく報復の開始を指している
ロベルトだけが、殺されずに送り返される
仕上げに使われるグリモア・アスモデウスの効能は「相手の記憶を改ざんし、強力な暗示を与えることができるわ」で、エリー自身が「使用条件が多くてあまり使いたくはないけれど」と前置きする。そのうえでロベルトに与えられるのが「特別な役目」=「報復の始まりを知らせる鐘を鳴らすのよ」である。締めが「最後くらい役に立ってね。騎士モドキさん」。この回で完了したのは復讐ではなく、復讐が始まったという通知の発送だった。
「騎士」という語だけを、最後まで剥がしにいく
言葉での追い打ちも、狙いが一点に絞られている。「主の暴走も止められず、挙句の果てに裏切りまでした自分が、本当に騎士を名乗れる人間だと思っていたのですか」「随分と都合のいい騎士道ですわね」。神器の名前まで「クレスト・オブ・ナイツとは、あなたのような騎士もどきには過ぎた名前ね」と否定される。ロベルトが投降の理由に掲げたのは「国を守る騎士として」だった。彼が最後に持っていた一語を、狙って取り上げている。
次回の見どころ(予想)
ここからは予想になる。この回で残ったのは、生きて帰されたロベルトと、正体不明の一団の二つである。ロベルトは記憶をいじられたうえで鐘の役目を負わされているので、戻った先で何を言うかが次の起点になるはずだ。もう一つ、指示書が焼けた以上、フリードの関与を示す材料はロベルト本人の証言しか残っていないという状態になっている。証拠を消した側が、その証人を生かして帰す結果になっているのは噛み合わせが悪い。あの一団の「本国」がどこなのかも、まだ一言も出ていない。
出典
※1 ウィキペディア「ブチ切れ令嬢は報復を誓いました。」(原作の刊行状況・Web連載・コミカライズ/アニメのスタッフ/第1話〜第7話の脚本・絵コンテ・演出)/ja.wikipedia.org



















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