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第7話の公式サブタイトルは「汚い口を閉じろ、ゴミが」。ところが同じ公式サイトに載っているあらすじは、マリエが前世の妹だったこと、その人生を知ってリオンが衝撃を受けることしか書いていない。あらすじは情の話で、副題は罵倒である。実際この回は、妹の前世を聞く前半と、公爵を人前で叩き潰す後半が、同じ人物の同じ一日として並んでいる。




副題は罵倒で、公式あらすじは情の話になっている
公式サイトの第7話のページを開くと、見出しと本文で温度がまるで違う(※1)。サブタイトルが「汚い口を閉じろ、ゴミが」、すぐ下のあらすじが「マリエこそが転生前のリオンの妹だった。彼女が現実世界で辿った人生に、リオンは大きな衝撃を受けながらも、この世界を引っかき回した責任を取らせようとする。」である。
あらすじは、後半に一行も触れていない
あらすじが書いているのは兄妹の話だけである。ところが実際の第7話は、時間のうえでも分量のうえでも、後半のほうが長い。総司令官への任命、フランプトン公爵の断罪、そして就任の宣言。副題になっている言葉は、その後半で公爵に向けて吐き捨てられる。
あらすじが情の話で、副題が罵倒、という組み合わせは、そのままこの回の構造でもある。前半で妹の人生を聞いた男が、後半では人前で公爵を叩き潰す。同じ一日の中に、二つの顔が並べて置いてある。
衝撃を受けた素振りは、画面にほとんど出てこない
あらすじの「大きな衝撃を受けながらも」という部分も、本編を見ると受け取り方が変わる。妹の話を聞いたリオンの反応は「自分の子供をおふくろとおやじに預けたのか」という確認で、ひどくないかと訴えられても「いや、まったく」と切り返す。衝撃よりも先に、評価が出てくる。
第7話「汚い口を閉じろ、ゴミが」で起きたこと(要点だけ)
本編で起きる順に並べるとこうなる。
- マリエの前世が語られる。兄の葬式に出られなかったところから転落が始まる。
- リオンは同情せず、「二度目の最後くらい真面目に人生に向き合ったらどうだ?」と返す。
- 要求は王家の船を動かし、本来の主人公であるオリヴィアのサポートに回ること。
- 出陣の準備が整い、リオンが呼ばれる。
- オリヴィアが「私はリオンさんにふさわしくない」と身を引こうとする。
- マリエのもとへ、従者たちが迎えに来る。「偽物でも聖女様に、せめてもの格好はつけないと」。
- それを見たオリヴィアが「私は一人なのに」とこぼす。
- アンジェが「私はリオンが好きだよ」「だからお前も身を引くな」と告げる。
- 公国側では、守護神の力に選ばれた者が名乗りを上げる。
- フランプトン公爵が、失敗した部下に「必要な犠牲だ」と言って責任を取らせる。
- 王宮。リオンが総司令官に任命される。反対した公爵に副題の一言が飛ぶ。
- 公爵の断罪。ヘルトルーデが証言に立ち、公国との取引が明るみに出る。
- リオンの就任宣言。「俺はお前らが嫌いだ」から始まる四つの宣言。
マリエの転落は、兄の葬式に出られなかったところから始まる
前半はほぼマリエの独白でできている。冒頭の一行が「人生はある意味でゲームと同じだ。選択次第でとんでもなくバッドな展開を迎える」で、乙女ゲームの世界の話をしている作品が、現実の人生のほうをゲームにたとえて始める。
起点が、この兄の死である
転落の順番がはっきりしている。「せっかくのバカンス気分を邪魔されたくなくて、両親からの連絡はガン無視」、「そのせいで兄貴が死んだことも知らず、お葬式にも出られなくて、完全に親の信用を失った」。そこから実家を追い出され、夜の世界に入り、男に恵まれないまま子どもができて逃げられる。
いま目の前にいる兄が、その葬式の主だった。連絡を無視した相手と、いま責任を取れと言ってくる相手が同じ人物である。謝るべき相手が生きて目の前にいるのに、その話は一度も出ない。出てくるのは「助けてよお兄ちゃん!」のほうで、「うるせぇ! 調子よくお兄ちゃんって呼ぶな!」と返される。
死ぬ直前に思っていたのは、娘のこと
生活が立ち行かず、両親を頼るしかなくなる。条件が月数回の面会で、娘と離れ離れで生活することになった。そのうえで、また悪い男につかまる。最後の場面で繰り返されるのが「今日はあの子の誕生日なのよ」、そして「あの子に会いたい」である。
前世の最後の願いが、逆ハーレムでも金でもなく、娘に会うことだった。この一点があるので、今世でイケメンを五人囲い込んでいる行動が、笑えるだけの設定ではなくなる。やり直しの二度目で、手に入らなかったものを全部並べようとした人、という読み方ができるようになる。
それでもリオンは同情しない
ここでこの作品らしいのが、兄の側の反応である。「大事な孫は面倒見るけど、私は自分でなんとかしろって。ひどくな?」という訴えに、返ってくるのが「いや、まったく」。さらに「二度目の最後くらい真面目に人生に向き合ったらどうだ?」と続ける。
要求も具体的で、「お前は責任を取って王家の船を動かせ」「本来の主人公であるオリヴィアのサポートをするんだ」である。同情の代わりに仕事を割り当てている。あらすじの「責任を取らせようとする」は、感情の整理より先に来ていた。
恋敵が「身を引くな」と言い、聖女は「私は一人なのに」と言う
中盤は、リオンをめぐる三人の場面になる。ここが今回いちばん静かで、いちばん残る。
支えが二人いる側と、一人もいない側
オリヴィアは自分から下がろうとする。「リオンさんを助けられるのはアンジェだけですから!」と送り出しておいて、一人になってから「私が邪魔をしたらダメ」「私はリオンさんにふさわしくない」とこぼす。
一方のマリエのところには、従者たちが迎えに来る。「ご主人様はわがままで身勝手で、いつも苦労させられてばかりです」と言いながら、「でも本当は気遣いのできる、優しい人だと知っています」と続け、「偽物でも聖女様に、せめてもの格好はつけないと」と連れ出す。偽物だと知ったうえで仕えているという一言が効いている。
それを見たオリヴィアの独白が「全部失ってなんかないじゃない。支えてくれる人が二人もいるじゃない」、そして「私は一人なのに」「私には何も残らないのに」である。全部を持っているように見える側が、いちばん孤独になっている。聖女の力を開花させつつある少女の口から出るのがこれ、という置き方が良かった。
アンジェは、勝ちに行かせるほうを選ぶ
そこへ来るアンジェの言葉が、この回でいちばん強い。「私はリオンが好きだよ」と自分から明かしたうえで、「だからお前も身を引くな」「リオンにちゃんと気持ちを伝えろ」「私も気持ちを伝えるから」と続ける。恋敵に、正面から勝負しろと言っている。
理屈も添えてある。「何かを好きだという思いに、身分の差などない」、そして「諦められるなら、誰も苦しんだりしない」。平民と公爵令嬢という差を、身を引く理由にしてはいけないものとして先に潰している。締めが「私にとってはお前も大切な存在だ。だから泣くのをやめろ」で、恋の相手より先に、友人としての言葉が来る。
オリヴィアの返しが「伝えました。リオンさんはまだ答えをくれないんです」「きっとアンジェのことが好きだから」なので、もう一往復してもまだ答えは出ない。アンジェの「あいつには逃げられないようにする」だけが約束として残る。
「必要な犠牲だ」を、そのまま本人に返している
後半の断罪は、台詞の使い回しでできている。公爵が自分で言った理屈を、そのまま公爵に適用するという形だ。
先に、公爵自身が二度言っている
順番が親切に作ってある。失敗した部下を切り捨てる場面で、公爵が言うのが「必要な犠牲だ」「政治に犠牲はつきものだからな」である。その部下は、遺書を残して自分の命を絶ち、公爵の名を騙って王国を裏切った罪を償うという筋書きになる。
追い詰められた公爵は「全ては私の預かり知らぬこと」「どうか私の忠誠は信じていただきたい」と言い、部下に全部なすりつける。リオンの評が「ずいぶん芝居がうまいな」で、任命のときに陛下へ言った「ずいぶん芝居がかったセリフだ。けど嫌いじゃない」と対になっている。
褒めてから落とし、最後に本人の言葉で刺す
詰め方の順番も良い。公爵が「私がどれだけ国のために尽くしてきたか」と食い下がると、リオンはまず肯定する。「何か勘違いしてますね。俺はあなたを認めてますよ」「今まで立派に王国を支えてきたのでしょう」「うん、よく頑張った。尊敬しよう。あんた最高だ」。そのうえで「けど、失敗したら責任を取らないとね」と落とす。
最後の一撃が、公爵自身の言葉である。「必要な犠牲だ。政治に犠牲はつきものだ」と繰り返す相手に、リオンが「その通り」と同意したうえで、「国のためなら仕方がない。必要な犠牲だ。政治に犠牲はつきものだ」「だから、分かってくれるよね」と返す。反論ではなく、同意して同じ理屈を適用している。言い返せなくしてから切り捨てるので、逃げ道が残らない。
証言に立つのが、敵国の王女である
決め手になるのがヘルトルーデの証言で、「あなたと公国とのやりとりは、すべて話させてもらったわ」、内容は領地の割譲と引き換えに講和をまとめ、地位を確約する話だった。捕虜になっている敵国の王女が、王国の公爵を落とす証人になるという構図である。
そのうえヘルトルーデは、公爵を敵としても評価しない。「そもそも領地の割譲など生ぬるいわ」「公国は己の力で王国を倒す」、そして「あなたも最上の地位は、己の力で手に入れたら」。味方からも敵からも同時に見限られている。断罪の場面で、いちばん厳しい一言を敵に言わせたのが上手い。
副題は毎回リオンの口から出た言葉で、回を追うごとに口が悪くなっている
公式サイトのストーリー欄に並ぶサブタイトルを、そのまま書き出してみる(※1)。
- 第1話 愛こそ、世界を救うんだよなぁ
- 第2話 滅びの美学がお好みですか?
- 第3話 おい、クソガキ
- 第4話 また手のひら返しかよ
- 第5話 建前が大好きでしてね
- 第6話 嫌なら俺は逃げるだけです
- 第7話 汚い口を閉じろ、ゴミが
どれも説明ではなく、そのまま誰かに向けて言われた言葉である。第3話はカイルに向けた一言だった。そして並べると、語尾がどんどん短く、荒くなっていくのが分かる。第1話の「〜なぁ」から、第7話の「ゴミが」まで、七話かけて敬語も相槌も落ちていく。
この回のリオンは、冤罪で牢に入れられ、そこから引っ張り出されて総司令官にされている。言葉遣いが荒れていく過程が、そのまま副題に記録されているという見方ができる。副題を全部リオンの発話でそろえているからこそ効く並びだった。
脚本は七話ぶん全部、同じ人が書いている
各話スタッフも公式サイトに出ている(※1)。脚本は第1話から第7話まですべて猪原健太で、分担がゼロである。副題の言い回しが一本の線でつながって聞こえるのは、そもそも全部同じ人が書いているからだった。
第7話の絵コンテは石山タカアキで、この人はここまでで初めての登板になる。演出は伊藤史夫、総作画監督は鈴木政彦と柄谷綾子である。鈴木政彦は全話に入っている総作画監督で、もう一人が回ごとに替わる形になっている。柄谷綾子が入るのは第3話以来で、第3話も副題がリオンの罵倒だった回である。
まとめと次回:就任演説が「俺はお前らが嫌いだ」から始まる
締めは総司令官としての宣言で、これが四つに分かれている。普通の作品なら士気を上げる場面だが、この回はまず嫌いだと言うところから入る。
四つの宣言
一つ目が「俺はお前らが嫌いだ。この国が嫌いだ」で、理由が「お前らが間抜けなせいで、俺が働くことになったからだ」「もっとちゃんと仕事しろ」。二つ目が「俺はお前らを信用してない」「お前らが俺を信用してないことも理解している」。
三つ目が「いつでも立場を変わってやる」「この状況を覆して王国を勝利に導けると思う奴がいれば前に出ろ」。そして四つ目が「俺に従わないなら、さっさと逃げろ」「疑問を持つな。口答えをするな」「お前らに許されるのは、俺の命令に従うことだけだ」、締めが「俺のために戦って死ね。俺がこの国を救ってやる」。
信用がないことを前提にして命令しているのが要点である。忠誠も団結も求めず、代わりに嫌なら降りていい、やるなら従えという二択だけを置いた。直前に、忠誠を口にした公爵が裏切っていたことを全員が見ているので、忠誠という言葉が使えない場になっている。そこを逆手に取った演説になっていた。
次回:公式は副題まで出している
予想として書けるのはここまでだ。公式アカウントは放送終了と同時に、第8話「愛を数値ではかるなんておかしいよ!」が8月26日から放送・配信だと告知している(※2)。副題がまた口語に戻っているので、今回の罵倒は決戦前の一回だけということになりそうである。
残っているものも多い。オリヴィアの気持ちには答えが出ておらず、アンジェの「あいつには逃げられないようにする」も宣言のままだ。マリエは王家の船を動かす役目を負ったが、まだ動かしていない。公国の側では守護神の力に選ばれた者が使用者の命を対価に力を授けるという代物を受け入れている。戦う準備だけが全部そろって、まだ一度も戦っていないのがこの回だった。
出典
※1 テレビアニメ公式サイト STORY(第1〜7話のサブタイトル・あらすじ・各話スタッフ)/mobseka.com
※2 テレビアニメ公式Xアカウント(第7話の放送終了告知。第8話「愛を数値ではかるなんておかしいよ!」は8月26日から放送・配信)/@mobseka_anime




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