この記事の作品:
突然の持病で倒れたイザークのため、言葉も通じない町で必死に医者を呼びに走るノリコ。町長から盗賊退治の依頼を持ちかけられたイザークは、苦しい息の下でそれを静かに引き受ける。しかしその夜、弱ったイザークを狙って盗賊たちが宿を襲い、イザークの悲しい過去も明かされる。イザークの持病、幼い頃の過去、そしてノリコの祈りまで、第3話を振り返る。




第3話は倒れたイザークとノリコが盗賊に襲われる回
『彼方から』第3話は、持病で倒れたイザークのためにノリコが必死に医者を呼びに走り、町長から持ちかけられた盗賊退治の依頼をイザークが引き受ける回だった。ところが、弱ったイザークを狙って盗賊たちが夜の宿を襲う。言葉も通じない異世界で、ノリコは初めて自分の意思でイザークを守ろうとする。そして描かれたのは、イザークが背負ってきた過去の痛み。二人の関係が大きく動き出す、印象的な一話だった。
倒れたイザークと医者
冒頭、体が重い、とつぶやいたイザークは、そのまま寝台で動けなくなってしまう。何と言ったのかは分からなかったけれど、きっと具合が悪いんだ。ノリコは昨日会ったお医者さんを呼びに宿を飛び出していく。あんなイザーク、初めて見た、というノリコの心の声に、これまで頼りきりだった相手が弱っている不安がにじんでいた。言葉が通じないまま、身振り手振りで医者の特徴を説明しようとするノリコの必死さも胸を打つ。
駆けつけた医者は熱が相当高いと驚くが、イザークは診察の必要はないと首を振る。時々こうなる、1年分の疲労を寄せ集めたような状態が突然やってくる、薬も効かない、黙って通り過ぎるのを待つだけ、ずっとそうしてきた。「それが俺の持病なんだ」という言葉からは、イザークがこの苦しみに一人で耐えてきた長い時間が伝わってくる。そんな病は聞いたことがない、という医者の反応も、イザークが普通の人間とは違う何かを抱えていることを感じさせた。
町長の依頼と5000ゾル
医者と一緒にやってきたのは町長だった。盗賊の頭を傷つけた男がいると聞いて、盗賊退治を頼むつもりだったのに、細い体のしかも病人では頼りにならない。けれど報酬を尋ねたイザークは、5000ゾルという金額を聞くと、苦しい息の下で依頼を引き受ける。相場からすれば安いかもしれないが、これは町の人々が寄せ集めた貴重な金で、盗賊に家を襲われた農民は数知れない。それが渡り戦士の仕事だ、と言い切るイザークの姿は、病に伏せっていても戦士そのものだった。
そんな体で何ができる、と声を荒らげる町長に、怒鳴らないで、イザークは具合が悪いのに、と食ってかかるノリコ。言葉は通じなくても、その剣幕は町長にもしっかり伝わったようで、病人に大声を出してどうする、と町長が困り果てるやりとりが少しおかしい。一日か二日すれば元に戻る、金は後払いでいい、と話をまとめたイザークは、ドアの外にいた人物の気配にもしっかり気づいていた。何の用だ、ドアの外の人、と声をかけられて、部屋の掃除に来たけれどまた来ます、とそそくさと立ち去る宿の使用人。熱にうなされながらも周囲への警戒を解かないイザークの鋭さが際立つ場面であり、同時に、この宿の中にも油断できない人物がいることを示す不穏な一幕でもあった。
町長が帰ったあと、部屋に残されたのはイザークとノリコの二人だけ。ノリコはまだこの世界の言葉をほとんど話せないが、イザークの様子を見れば、具合がどれほど悪いのかはよく分かる。これまでイザークに助けられ、守られてきたノリコにとって、今度は自分がそばにいて支える番だった。何もできない無力さと、それでも何かしたいという気持ちの間で揺れるノリコの表情が、静かな部屋の空気をいっそう切なくしていた。
盗賊たちの企み
町に潜む内通者
その頃、町では盗賊たちの企みが進んでいた。イザークが依頼を引き受けたことを知った盗賊の頭は、奴は並の野郎じゃない、と警戒しながらも、今ならひどく弱っていると聞いて好機と見る。町の自衛団はすでに潰してあり、残っているのは腰抜けばかり。しかも盗賊たちには、町の中で情報を流し、夜に忍び込むための手引きをする協力者がいた。人の良さそうな顔をして町の人々と言葉を交わしていた人物が、裏で盗賊とつながっているという構図はなんとも不気味だ。町の市場では、盗賊のせいで仕入れも難しいとこぼす商人たちが、町一番の大商人のおかげでなんとか商売ができている、と語り合っていた。町の人々が頼りにしている存在が、実は町を苦しめる側に通じているのだとしたら、これほど救いのない話もない。報酬を多めに頼むぞ、という取引の言葉が、町の人々の苦労を踏みにじっているようで腹立たしかった。
町の人々が必死に寄せ集めた報酬と、その裏で糸を引く内通者。弱っているイザークを狙って、盗賊たちは総勢で夜の宿へ押し寄せることになる。盗賊の頭が連れていた妙な生き物の存在も含めて、この町の平和がいかに危ういものの上に成り立っていたのかが、少しずつ明らかになっていく。
イザークの過去
そして描かれたのが、イザークの幼い頃の記憶だった。盗賊に襲われた町で、母親を守ろうとした少年の力が暴走し、町は一瞬にして壊滅してしまう。お母さんを離せ、と叫んだ少年に向けられたのは、あんたは私の子じゃない、寄らないで、この化け物、という母親の言葉だった。守ろうとした相手から拒絶されるという残酷な経験が、イザークの冷たさの根っこにあったのだと思うと、これまでの言動の見え方が大きく変わる。第1話で俺に触るなと言い放ったのも、ノリコを遠ざけようとしてきたのも、誰かに近づかれることそのものを恐れていたからなのかもしれない。幼いイザークが一人で立ち尽くす場面は、短いながらも強烈な印象を残した。
目覚めが俺を気遣う、皮肉な話だな、とイザークはつぶやく。看病してくれるノリコこそが目覚めであり、イザーク自身はその目覚めを消し去るために樹海へ入ったはずだった。それでも、この少女は何も知らない。何も知らないのに、勝手に宿命を背負わされている。ノリコの理不尽な境遇に、イザークは自分自身の過去を重ねていたのかもしれない。
夜の襲撃とノリコの祈り
病のまま戦うイザーク
夜、盗賊たちが宿を襲う。俺の体調は最悪だ、手加減などできん、来るなら死ぬ気でかかってこい。高熱にうなされているとは思えない動きで、イザークは次々と盗賊たちを退けていく。あいつのどこが病人だ、もう何人もやられた、と盗賊たちが悲鳴を上げるほどの強さだった。とはいえ、盗賊の頭は奴が疲れてくれば勝てる勝負だと読み、イザークの視界を奪いにかかる。総勢で繰り出したのにこの始末か、と苛立つ頭の声に、イザークはどこかで聞き覚えがあると気づく。病で弱っているという情報を流した内通者の存在も、盗賊たち自身の口からあらわになっていく。暗闇の中、熱で重い体を引きずりながら、何人もの盗賊を相手にするイザーク。月明かりに浮かぶ剣戟の作画には力が入っていて、イザークの強さと苦しさの両方が伝わってくる迫力ある場面になっていた。
そして盗賊たちが目をつけたのが、物陰にいたノリコだった。その娘を捕まえて人質にしろ、という声に、イザークは自分の中の葛藤と向き合う。こいつが殺されようと、それはむしろ俺の望んだことのはずだ。それなのに体は勝手に動く。「どこかへ行って隠れろ」、俺はもうしばらく動けん、裏通りへ出るんだ。ノリコを逃がそうとするイザークの言葉には、本人も気づいていない優しさがあふれていた。
ノリコの祈りと反撃
窓を破って逃げ出したノリコは、暗い路地で必死に身を隠しながら祈る。こっちの世界にも神様がいるのなら、どうか私にイザークを守る力を。見つかりませんように、どうか見つかりませんように。これまで守られるばかりだったノリコが、初めて誰かを守りたいと願った瞬間だった。言葉が通じなくても、イザークのために何かしたいという気持ちだけは本物だ。すぐそばを盗賊たちが通り過ぎていく足音に、息を殺して身を縮めるノリコ。行っちゃったみたい、と胸をなでおろしたのもつかの間、再び見つかりそうになる緊張感は、見ているこちらまで手に汗を握るほどだった。
再び盗賊に追い詰められたイザークは、少し楽になってきた、一気に片をつける、と最後の力を振り絞る。決定的な場面で状況を変えたのは、盗賊の頭が大切にしていたあの妙な生き物をめぐる出来事だった。急所を外し、まだ戦えるイザークを前に、化け物だと逃げ出す盗賊たち。終わったの、とつぶやくノリコの横顔に、長い長い夜を越えた安堵がにじんでいた。二人とも無事で本当によかった。
第3話のまとめ考察
守られる側から守る側へ
第3話は、ノリコが守られる側から守ろうとする側へと一歩踏み出した回だった。言葉も分からない世界で、病に倒れたイザークのために医者を呼び、町長に食ってかかり、暗い路地で神様に祈る。その一つひとつは小さくても、ノリコという少女の芯の強さをはっきりと示していた。突然知らない世界に放り込まれ、言葉も分からず、頼れるのはイザークただ一人。そんな状況で、ノリコは泣いてばかりいるのではなく、自分にできることを探して動き出した。この一歩は、ノリコがこの世界で生きていくための大きな一歩でもあったと思う。
同時に、イザークの過去が描かれたことで、彼がなぜノリコを突き放そうとするのかも見えてきた。守ろうとした母親に化け物と呼ばれた少年は、自分の力が誰かを傷つけることを誰よりも恐れているのだろう。目覚めであるノリコを消し去るはずだったイザークが、そのノリコに気遣われ、そのノリコを守るために戦っている。宿命に縛られた二人が、これからどんな関係を築いていくのか、続きを見守りたい。
また、この回でイザークが町の中で力を使わない理由も、過去の描写から推し量れるようになった。力が暴走すれば、守りたいものまで壊してしまう。だからこそ、病で体が動かない夜でも、イザークは剣一本で盗賊たちと向き合ったのだろう。強大な力を持ちながら、それを封じて戦う姿には、過去の過ちを二度と繰り返さないという静かな決意がにじんでいた。その決意を、何も知らないノリコがいつか知る日が来るのかどうかも気になるところだ。




関連作品:






































コメント