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第3話は、雷が苦手なぼたんが、いぶきにナイトキャップ(寝酒)を勧められる夜から始まる。あかねのレコード鑑賞会を挟み、二人は海沿いの貸切温泉へ。地酒に酔って開放的になったぼたんの願いで名前を呼び合うようになり、いぶきは「もっとボタンと二人で飲みたい」と本音を明かす。作画を大胆に変えた、挑戦的な映像でも語り草になった一話である。




雷の夜と、はじめてのアブサン
雷が苦手なぼたんと、同じ記憶
ゴールデンウィークで寮はがらんと空っぽ。そんな夜、ぼたんは雷が大の苦手だと打ち明ける。小学生の頃、水泳教室のサマーキャンプで、山で一晩、雷雨の中に取り残された経験がトラウマになっているのだという。
すると、いぶきも同じキャンプに参加していたと明かす。「親に無理やり行かされて、あれは散々だった」——二人が同じ苦い記憶を共有していると分かる瞬間が、そっと距離を縮める。
怖がりという可愛い弱点から、偶然の共通点へ。何気ない会話が、二人を結ぶ細い糸を一本ずつ増やしていく。派手さのない親密さの描き方が丁寧だ。
眠るための、ナイトキャップ
眠ってしまえば雷も気にならない、と、いぶきはナイトキャップ(寝酒)を提案する。取り出したのは、細く真っ黒な瓶のアブサン。苦よもぎを主原料とする薬草系リキュールで、昔から多くの芸術家に愛されてきたお酒だ。
アルコール度数は80%近く、まずはストレートで。「特殊なお酒だから無理しないで」と気遣ういぶきに、ぼたんは「飲むほどハマりそうでワクワクする」と目を輝かせる。「私も初めて飲んだとき、同じことを思った」——また一つ、二人は“お揃い”になる。
強いお酒を怖がるのではなく面白がるぼたんの感性が、いぶきの若い頃と重なる。同じベッドで眠りにつく二人の穏やかな距離が、この夜をやさしく包んでいた。
レコードとビールの、音楽鑑賞会
あかねのプレーヤーと、ぼたんのレコード
場面は変わって、あかねの部屋での音楽鑑賞会。最近レコードプレーヤーを手に入れたあかねのために、ぼたんは実家の親のコレクションからレコードを持ち込んでいた。
針を落とすときの所作ひとつまで、丁寧に描かれるのがこの回の特徴。アナログ盤の音に耳を傾けながらの一杯は、いつものお酒とはまた違う趣がある。
お酒と音楽という、大人の楽しみがゆったりと流れる時間。レコードを扱う指先の芝居に、作り手のこだわりがはっきりと表れていた。
パンクIPAで、乾杯
あかねが用意したのは、スコットランド生まれのパンクIPA。通常のラガーの40倍ものホップを使った苦いビールで、「40倍苦いわけじゃない、実際は2倍くらい」という豆知識つきだ。
IPAが大好きだというあかねは、「カミーナさんも好きだったら嬉しいな」と、自分の“好き”をそっと分け合おうとする。お酒を通じて好みを重ねていく、この作品らしいやりとりだ。
海沿いの、貸切温泉へ
温泉でお酒を飲む、いぶきの秘密
秩父そばやわらじカツで腹ごしらえをした流れで、話題は温泉へ。実はいぶきは、温泉で一人お酒を飲むのが好き。ただし人の多い湯で飲むのは恥ずかしく、そして——ぼたんと一緒に入るのも、少し照れくさいらしい。
「一人でよく温泉に行くのに」と不思議がるぼたんに、いぶきは言葉を濁す。その照れの正体こそ、この回の甘い伏線になっている。
お酒の好みだけでなく、恥ずかしさの在り処まで少しずつ開かれていく。クールな寮長のガードが下がっていく過程が、じっくりと味わえる。
水天の湯、二合の地酒
二人が訪れたのは、目の前に海が広がる貸切露天風呂・水天の湯。モダンな造りの湯に、電話で頼んでおいた二合の地酒まで用意されている。「早く飲みたい」と気もそぞろのぼたんの心の声は、いぶきにもすっかり見透かされていた。
湯に浸かり、地酒を酌み交わすうち、ぼたんはすっかり開放的になっていく。海と湯気とお酒に包まれた、この作品でも屈指のぜいたくなシチュエーションだ。
いぶきの、ちいさな告白
名前で、呼び合おう
お酒の力を借りて、ぼたんが一つお願いを切り出す。「愛の告白?」とからかういぶきに、ぼたんが望んだのは——お互いを名前で呼び合うことだった。
「ボタンって呼ぶか」。名字から名前へ。たった一歩の変化が、二人の関係が確かに進んだことを、静かに告げていた。
もっとボタンと、二人で飲みたい
そしていぶきもまた、お酒の力を借りて本音を口にする。「一緒にお酒を飲んでくれてありがとう。最近、一人で飲んでも物足りない時があるんだ」。あの子がいたら、もっとお酒が美味しいのに——と。
「だから私、もっとボタンと二人で飲みたい」。ずっと一人飲みにこだわってきたいぶきが、自分からそう願う。第1話からの変化が、はっきりと言葉になった、この回いちばんの名場面だった。
まとめ——挑戦的な作画と、確かな一歩
別作品のような、映像の呼吸
第3話は、内容以上に映像そのものが大きな話題になった。キャラクターデザインからカット割り、間の取り方まで、それまでとガラリと作風を変え、「別作品のような雰囲気」と評されるほど挑戦的だったのだ。
賛否も含めて語られたこの実験精神は、日常アニメとしては珍しい冒険だった。画面の強さに引っ張られつつも、物語の芯はきちんと通っている。
一人飲みから、二人の時間へ
雷の夜のアブサン、レコードとIPA、そして海辺の湯での地酒。さまざまなお酒を巡りながら、この回がたどり着いたのは「もっと二人で飲みたい」といういぶきの願いだった。
一人でいることを選んできた人が、誰かと過ごす時間を欲しがるようになる。その静かな一歩を、酔いの心地よさごと丁寧にすくい取った、忘れがたい一話である。




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