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マルコシアス帝国への道中、盗賊の夜襲で仲間のコレットが瀕死の重傷を負う。誰も助けられないその命を救ったのは、「魔力なし」のはずのカロリーナが捧げた祈りだった。帝都では皇帝夫妻に「家族」と迎えられ、翌日からは皇后直々の淑女教育とテオドールの魔法学講義が始まる。火魔法の暴走、癒えた致命傷、寄りつかない魔物——バラバラの出来事が、彼女の無自覚な『聖女の力』へと繋がっていく第2話。




出立の握手と、馬車の中の第二皇子
噂と違う『戦好きの第二皇子』
落ちこぼれと言われ続けてきた公爵令嬢カロリーナ・サンチェス。突然降って湧いた縁談で、彼女は隣国マルコシアス帝国へと向かっていた。出迎えたのは、結婚相手である第二皇子エドワード・ルビー・マルティネス。約束の時間を過ぎたわけでもないのに「謝罪の必要はない」と気遣い、「長い付き合いになるだろうから、よろしく頼む」と握手を交わす。もっとも、力加減を間違えて「すまない」と慌てる不器用さも見せる。補佐役で幼馴染のテオドール・ガルシア(烈火の不死鳥団の副団長)も、同じ馬車に同乗した。
道中、カロリーナは馬車酔いに苦しむ。するとエドワードは「少し風に当たれば、多少は楽になるはずだ」「それでも辛いなら、馬車の速度を落とす」と、細やかに気を配る。世間で囁かれる『戦好きの第二皇子』という物騒なイメージとは、どうも様子が違う。対等な人間として扱ってくれる彼に、カロリーナは戸惑いながらも小さな安堵を覚えていた。
1ヶ月後に控えた結婚式
体調が落ち着いたところで、テオドールが今後の予定を切り出す。2週間後の建国記念パーティーで婚約と結婚を大々的に発表し、さらにその2週間後、つまり今からちょうど1ヶ月後には結婚式を挙げるという。あまりに急な話に、うまくいく自信がないと気後れするカロリーナ。だがエドワードは「できないと嘆くのは、挑戦してからでも遅くない。一緒に頑張ろう」と、まっすぐに背を押すのだった。
夜営の火と、盗賊の襲撃
名前を尋ねられた、コレットの喜び
一行は道中で野営することになる。若い団員のコレットは、貴族令嬢を野宿させることを申し訳なさそうに詫びた。「カロリーナ様だけでも街の宿に、と団長と副団長に頼んだのですが、リスクが大きすぎると断られてしまって」。カロリーナは「気遣ってくれてありがとう。でも私は大丈夫よ」と微笑み、彼の名前を尋ねる。名を聞かれたコレットは「カロリーナ様に名前を聞かれるだなんて、光栄です」と、顔をほころばせた。
落ちこぼれと蔑まれてきたカロリーナにとって、相手を対等に扱い、名前を尋ねるのはごく当たり前の優しさ。だがそのささやかなやり取りが、この直後に起こる出来事の伏線になっていく。
燃える馬車と、お姫様抱っこ
その夜、静寂を破って警戒の声が飛ぶ。「南方面の草むらより、複数の賊を確認」。盗賊の夜襲だった。カロリーナは馬車の中で伏せているよう言われるが、次の瞬間、その馬車が炎に包まれる。逃げ場を失い怯える彼女のもとへ、エドワードが駆けつけた。「勝手に死ぬ覚悟を決められては困る。君は、私の花嫁なのだから」。そう言って、彼女をお姫様抱っこで救い出す。
じつは火の出どころは、皮肉にもエドワード自身だった。「君を守るために放った火魔法が、思ったよりも強くなって、馬車に燃え移ってしまったんだ。すまなかった」。炎魔法の使い手である彼の力が、なぜか制御を超えて膨れ上がっていたのだ。「まだ残党がいるかもしれない。君は安全な場所で待っていてくれ」。エドワードは再び戦いへと戻っていく。
止まらない血と、届いた祈り
目を背けたくない
混乱の中、さらに悪い報せが届く。あのコレットが、襲撃で深手を負ったのだ。止血と治癒の魔法をかけても、出血がいっこうに止まらない。エドワードは「私が戻るまで治療を続けてくれ」と指示を出し、彼の命を救えるかもしれないテオドールを呼びに走る。結界が張られたテントはそこ一つきり。カロリーナも、その場に留まることになった。
「君は何も見なくていい。まだ幼すぎる。だから、何も見るな」。瀕死のコレットから目を逸らすよう促されても、カロリーナは首を横に振る。「きちんと向き合いたいのです。決して目を背けたくない。何もできないのなら、せめて」。そう言って、彼女はコレットのそばで静かに祈りを捧げた。
癒えていく致命傷
その瞬間、異変が起きる。「俺の魔法で、こんな大怪我が治せるはずないのに」。治療にあたっていた団員が驚愕するほど、コレットの致命傷がみるみる塞がっていく。カロリーナが祈りを捧げた、まさにその時のことだった。
当の本人は「私は魔力なしなので」と、自分の力だとは露ほども思っていない。幼い頃に受けた魔力検査で、そう診断されたからだ。誰も、そして彼女自身さえも気づかないうちに、無自覚な『聖女の力』が、確かに一つの命を救っていた。タイトル通り、今日も彼女は無意識に力を垂れ流していたのである。
誤解の謝罪と、暴れた不思議な力
温室育ちではなかった令嬢
コレットの容体が落ち着くと、エドワードはカロリーナに深く頭を下げた。「まず、コレットの怪我から目を背けず、見守ってくれたことを感謝する。私は君を、温室育ちのか弱い公爵令嬢だと勘違いしていた。人の生死に立ち会う度胸などないと、思い込んでいたんだ。本当にすまない」。
これほど正面から誤解を認められ、詫びられたことなど、カロリーナには初めての経験だった。「こんなふうに言ってもらえたのは初めてです。むしろ、誤解していたのは私の方。謝罪を受け入れますから、どうか顔を上げてください。一国の王子が、そう簡単に頭を下げてはいけませんわ」。凛としたその返しに、エドワードは「君は、帝王みたいなことを言うんだな」と目を細めた。
溢れ出す力の謎
貴族用の馬車は焼け落ち、コレットは出血のせいで馬車での移動を余儀なくされる。残った小さな馬車の都合から、カロリーナはエドワードの馬に相乗りして帝都を目指すことになった。道すがら、エドワードは腑に落ちない様子でこぼす。「あの時は自分でも不思議なんだが、なぜか力が溢れ出て、うまくコントロールできなかった」。
同じ感覚を、テオドールも、力を暴走させた他の団員たちも味わっていたという。そしてコレットの傷を癒した謎の力。そのすべてに調査が必要だと二人は考える。だが、その源が今まさに同じ馬に揺られている少女だとは、まだ誰も気づいていない。「国内でよければ、また旅に連れて行ってやる」というエドワードの言葉に、社交辞令かと思いつつも「ぜひ、また一緒にいろんなものを見て回りたいですわ」と応じるカロリーナ。本気だと知った彼も、「ああ、また一緒に見て回ろう」と静かに笑った。
帝都の食卓と、「家族」という言葉
雷帝と、氷結の皇后
国境を越え、一行はマルコシアス帝国の帝都にたどり着く。到着するや、カロリーナは皇帝・皇后への謁見に臨むことになった。皇帝エリック・ルビー・マルティネスは、落雷魔法を自在に操り、数多の敵を退けてきた最強の魔法剣士『雷帝』。皇后バネッサ・ルビー・マルティネスは、世界的にも珍しい氷結魔法の使い手で、民を守るため強力な魔物を退けた逸話を持つ人物だ。「うう、胃が痛い……」と気圧されるカロリーナだが、皇帝夫妻は「遠路はるばる、よく来てくれた」と、思いがけず温かく歓迎してくれる。
サラダしか食べられない令嬢
そのまま昼食に招かれるが、カロリーナは緊張のあまりサラダにしか手をつけられない。皇帝夫妻にじっと見つめられ、テオドールに教わったテーブルマナーを一つでも間違えれば、王家にふさわしくないと国へ送り返されるのでは……と、怖くて仕方がないのだ。「お野菜が好きなの? それとも、鶏肉は苦手?」と気遣う皇后に、「朝食を食べ過ぎてしまって」と言い訳するが、エドワードの「今日はいつもより朝食が少なかったと思うが」という善意のフォローが、あっさりその言い訳を粉砕してしまう。
それでも皇帝夫妻は「不満があるなら、遠慮なく言ってほしい。これから私たちは家族になるのだから」と、重ねて優しく促す。『家族』——その一言に、カロリーナの張り詰めていた心がほどけていく。本当はただ二人に見つめられて緊張していただけなのだと打ち明けると、夫妻は「こんな可愛い子が娘になるんだ、じっくり見たいだろう」「うちは男ばかりだったから、娘ができると思うと嬉しくてついね」と破顔した。カロリーナの赤い瞳をルビーになぞらえ、「結婚指輪は絶対ルビーがいいわ」と盛り上がる皇后。次々と注がれる優しい言葉に、カロリーナは思わず涙を浮かべるのだった。
皇后直々の授業と、聖女の片鱗
『出来損ない』が、優秀な生徒
しばらく帝都で過ごすことになったカロリーナには、侍女のマリッサ・キッシンジャー(伯爵家の三女)と、護衛騎士オーウェン・クライン(男爵家の次男)が付けられる。そして翌日から始まったのは、なんと皇后バネッサ自らが講師を買って出た淑女教育だった。『帝国式マナー入門編』を教材に、みっちりと特訓が続いていく。
授業を終えた皇后は「ちょっと飛ばしすぎたかも。カロリーナは飲み込みが早いから、つい張り切っちゃった」と笑う。「サンチェス公爵家、唯一の出来損ないと言われた私が……飲み込みが早い?」。理解力が高く、物覚えもよく、意欲的な態度も好ましい。皇后から「あなたが優秀な生徒であることは、間違いないでしょう」と評され、カロリーナは戸惑いながらも、じんわりと面映ゆさを噛みしめる。
5歳と16歳の魔力検査
続く魔法学の講義には、なぜかエドワードも同席する。講師のテオドールが切り出したのは、魔力についての話だった。カロリーナは自分を『魔力なし』だと思っているが、その検査を受けたのは子供の頃に一度きり。「魔力の有無や属性の適性は、生まれつき決まっている。そう考えられていますが、それは大きな間違いです」とテオドールは言う。子供の頃の魔力は非常に不安定で乱れやすいため、マルコシアス帝国では5歳と16歳の二度、魔力検査が義務づけられているのだという。後天的に魔力を得る例は極めて稀だが、決してないわけではない。カロリーナにも、望みはある。
さらにテオドールは、もう一つの違和感を口にする。遠征の帰り道、一行は魔物に一度も遭遇しなかったのだ。問われたカロリーナは「私は公爵領から離れた場所へ行ったことがなくて、野生の魔物を見たことがないんです」と答える。障壁や結界があったとしても、野生の魔物がまったくのゼロなどありえない。それはもしや、彼女の無自覚な力がもたらした恩恵ではないか——。火魔法の暴走、増幅する仲間の力、癒えた致命傷、そして寄りつかない魔物。バラバラに見えた出来事が、一人の少女へと静かに繋がっていく。すっかり回復したコレットと、口の悪いオーウェンの賑やかな掛け合いに見送られ、第2話は幕を閉じた。




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