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第6話のサブタイトルは「砦、奪還作戦」。占拠された村の解放から、ブロッケン砦の奪還までを一気に駆け抜けた回だった。捕らえた兵から出てきたのはフリードが村を襲えと命令したという証言で、エリーはそこから塩の支援を握られたサージャス小王国という構図まで一息に読み切る。そして「償いたい」と言い出した兵に返したのが、「頭の中にお花畑でも広がっている?」だった。




「騒いだり抵抗したら即殺すわよ」
冒険者たちは野営地に残す
第6話は、村の救出に向かうという決断の直後から始まる。「村にいる男たちを捕らえて尋問でもすれば、少しは敵軍の情報が手に入るでしょう」という提案に、雇われた面々が「よし、いっちょ暴れてやるか」と沸くのだが、エリーの答えは「村にはエルザのパーティーで行くわ」だった。
理由が「まだ野営地の設営が終わっていないのよ」「ここの守りをおろそかにできない」で、そのうえで「安心して。あなたたちには後々暴れてもらうから」と続ける。全員で行けば早い場面で、あえて手札を分けているのが商会長らしい。戦力の投入先を決めるのに、感情ではなく事業と同じ判断をしている。
そして「もうすぐ日が暮れる。暗くなったら行動開始としましょう」で夜襲が決まる。この回は最初から最後まで、判断が早くて説明が短いのが気持ちよかった。義勇軍を率いる立場になっても、指示の出し方が商談のときと変わらないのがいい。
見張りの口から出てきた王太子の名
続く見張りの捕縛が、この回の空気を決めてしまう。背後から押さえたエリーの第一声が「いい? 手を離すけど、騒いだり抵抗したら即殺すわよ」「理解したらゆっくりと瞬きしなさい」。脅しではなく手順として言っているのが分かる言い方で、相手が何でも話すと言い出すのも当然だった。
出てきた答えが「俺たちはハルドリア王国の者だ」で、エリーは「王国が属国のために援軍を出したってこと」と受けてから「続けて」と促す。そして「王太子様が従軍すれば金を与えるって」という一言が落ちてくる。
報復の相手の名前が、こんな辺境の見張りの口から出てくるという導線が上手い。しかも本人が来ているのではなく、金で人を集めて連れてきているという形なのが、フリードという人物の底の浅さをそのまま説明していた。商会長として来たはずの戦場が、ここで一気に個人的な話に接続されるのが今回の折り返し方だと思う。
塩を止めると言えば、どんな指示でも聞くしかない
「まるで紛争が起こることが分かっていたかのように」
証言はさらに続く。「紛争が起こったときに、たまたま王太子様が軍事訓練で国境の近くにいたとかで」。これを聞いたエリーの反応が「フリードが軍事訓練に参加?」「今まで何かと理由をつけて逃げていたくせに」で、続けて「しかも偶然近くにいたですって」「まるで紛争が起こることが分かっていたかのように」。
不自然さの指摘が、素行の悪さの記憶から入っているのが面白い。軍事の常識でも諜報でもなく、「あの男が訓練に出るはずがない」という元婚約者としての知識が最初の手がかりになっている。他の誰にも取れない筋の通し方だった。
そして「あの馬鹿が噛んでいたのか」で確信に変わる。第5話でエリーが戦場に出る理由として挙げていた「今回の紛争は何かおかしい」という引っかかりが、証言ひとつであっさり答えに届いてしまうのがこの作品らしい速さだった。調べに来た人間が、着いた初日に答えを引き当てているようなものだ。
支援の内容を決めるのは、今はフリード
そこから語られる独白が、今回いちばん大きい情報だった。サージャス小王国は食糧自給率が低く、特に塩をハルドリア王国からの支援に頼っている。そしてその支援を担当しているのがフリードで、「かつては私が書類を作り、フリードはサインするだけだった」「今は支援の内容を決めるのはフリード」。
つまり★「フリードが塩を止めるといえば、サージャスはどんな指示でも聞くしかない」。属国が帝国に宣戦布告するという不可解な出来事の理屈が、兵力でも領土でもなく、塩ひとつで説明されてしまう。第5話でフリードが「支援内容を修正するぞ」「これは俺がやる」と言い出していた、あの中身がここで判明したことになる。
動機についても「単純だ」と切り捨てている。「私がフォローしなくなったことで下がり続ける自分の評価を、武勲を立てて挽回しようと考えたのだろう」。国をひとつ動かした理由が、個人の評価の落ち込みだったわけで、このスケールの落差こそがこの作品の芯だと思う。やっていることは大きいのに、動機はどこまでも小さい。
「私はね」エリーの許し方
戦時国際法違反という宣告
尋問の続きで、村に何をしたのかが明かされる。「村の男連中はその、抵抗したから」「女子供は家に閉じ込めて、その、いろいろと」。言い淀みだけで全部を伝える書き方で、エリーの返事は「もういいわ」だった。
そのうえで告げるのが「せっかくだし教えてあげる。あなたたちのやったことは戦時国際法違反、重罪よ」。兵が「俺たちは王太子様に命令されたことを」と言い訳すると、「王太子が村を襲えと命令したの?」と確かめ、民間人に手を出された以上、帝国は和平交渉に応じられないという説明が続く。「下手をすれば全面戦争に突入です」。
命令に従った兵が、自分の国を滅ぼす引き金を引いていたという構図で、しかもその命令を出したのは他国の王太子だ。ここでいちばん報われないのは、村を襲った兵でも村人でもなく何も知らないサージャス小王国そのものだというのが効いていた。第5話で「国王は穏やかな方で、こんな暴挙に出る人ではない」と言われていた分、余計に重い。
「でも、みんなはあなたを許すかしら?」
そして今回いちばん語られているのが、捕らえた兵の「償いたいんだ」という申し出への返答だった。「あんたたちと一緒に戦って、傷つけてしまった村人たちに償いをしたい」に対して、「あなた、何を言っているの? 頭の中にお花畑でも広がっている?」「償いですって? 今のあなたにできることは一つだけ」。
ここで許してしまうのが物語の型なので、そうならなかったこと自体が今回の宣言になっている。続く指揮官の尋問でも「助かりたいなら、死ぬ気でさえずりなさい」「無駄なさえずりはいらないわ。聞かれたことだけ答えなさい」と一切ぶれない。
極めつけが最後だ。全部話したのだから許してくれるのだろう、と縋る相手に対して★「ええ、許すわよ。私はね。でも、みんなはあなたを許すかしら?」。そこに解放された村人たちが集まってきて、「こいつがお父さんを!」「許さない」という声だけが重なっていく。自分の手を汚さずに、しかも一番残酷な形で渡している。許すという言葉を、これほど怖く使った場面はなかなか無いと思う。
片付けと、代価の話
「村人の気が済んだら片付けましょうか」
処刑のあとの一言がまた冷たい。「しばらくは村の近くで様子を見ましょう。他にも部隊が潜んでいるかもしれないわ」という警戒の指示に続けて、残されたものについて「村人の気が済んだら片付けましょうか」。
私刑を止めもせず、急かしもせず、終わるまで待つと決めているのがこの人だった。感情に任せているのではなく、村人の気持ちの整理までを含めて工程として扱っている感じがある。見ていて背筋が寒くなるのは、怒っているからではなく怒っていないからだと思う。
場面が帝都に移ると、留守を預かる側の様子が挟まる。ルノアたちが鑑定の仕事を続けながら、生産拠点の村に運び込んだ荷物のほとんどが奪われたという話をしていて、「今私たちができることは、エリー様が無事戻られるまでこの商会を守ること」と言い合う。戦場の残酷さの直後に、まったく同じ事件を数字の側から見せる構成が上手かった。
「きっちりと代価を支払っていただきますわ」
その頃、レブリック子爵軍との接触にも成功している。使者のイグルが「領主ルーカス・レブリックに代わり、感謝を申し上げます」と挨拶し、今後の方針としてサージャス軍に実効支配されている村々を解放しながら東へ進み、砦を奪還すると説明する。義勇軍も同じ形で砦へ向かうことになった。この場でエリーが言うのが「外交ルートを通じてハルドリア王国に抗議しておりますが、多分、無駄ですわね」「フリードが帝国侵略の指示を出した物的証拠でもない限り、王国は関与を否定するでしょう」で、物的証拠という言葉がこの時点で一度置かれているのが、後から効いてくる。
合流したルーカスとのやり取りが、この回でいちばんこの作品らしい場面かもしれない。投資している村の被害を問われて「運び込んだ物資がほぼ略奪されてしまったものの、人的な被害は免れました」と答え、「死者が出なかったことを喜ぶべきか」という言葉に「命は戻りませんからね。ですが、物は別です」と返す。
そして★「取られた物資は、きっちりと代価を支払っていただきますわ」。戦争の被害を、そのまま請求書として扱っているわけで、この直後に「相変わらず恐ろしい人だ」と漏らされるのも分かる。
感心したのは、この人が命と物をきちんと分けていることだ。命は戻らないから数えない、物は戻らないぶんを払わせる。弔いと請求を混ぜないので、どちらも中途半端にならない。義勇軍を率いていても本業は商人だ、というのが台詞ひとつで通っていた。
作戦会議と、二手に分かれる神器使い
正面から攻め込むのは難しい
斥候がブロッケン砦を捉え、作戦会議が始まる。レブリック子爵軍の軍団長ドレックが「非常に守りの堅い砦だ」「正面から攻め込むのは難しい」と言うと、エリーが「神器を使える者のみで侵入し、一気に制圧、ですわね」と先に結論を出す。
使える顔ぶれは、こちらがエリーとエルザ、向こうがルーカスとドレックの計4人。そこでエリーが出したのが南北で担当を分けるという提案だった。根拠は尋問で得た配置で、砦の南側にサージャスの正規兵、北側に凄腕の傭兵団。南側の兵士に神器使いはいないが、ハルドリア王国の援軍が入っている。
ここで新しい名前が出る。フリードと、その護衛騎士ロベルト・アーティは神器を使えるはずだという。ただし読みは冷ややかで、「自国の危機でもないのに、王太子が危険を冒すとは思えません」「戦況が不利になれば、すぐに撤退するはず」。敵将の性格を、戦力ではなく人物評として計算に入れているのがこの人の強みだった。
「非戦闘員はなるべく殺さないでね」
エリーが北側を志願する理由も明快だった。北の傭兵団に神器使いがいる可能性が高く、自分は魔法による広範囲攻撃が得意で、エルザなら敵わない相手でも逃げ切れる。「だが無理はするな。自らの命を優先しろ」と念を押されて「もちろんですわ」。
潜入前の打ち合わせがまた短い。「潜入した後は、可能な限り敵戦力をすり潰す。派手に暴れて構わないわ」、「捕虜など必要ないのだな」に「ええ」。そして最後に付け加えるのが「ただ、非戦闘員はなるべく殺さないでね。さらわれた村人もいるかもしれないし」。
捕虜は要らないが、非戦闘員は守るという線の引き方がはっきりしている。第3話の野盗に対する態度もそうだったが、この人の残酷さには一貫した基準があって、気分で動いていない。だから怖いのに嫌いになれない、というのが今回よく分かった。留守は「ミレイ、あなたはここでみんなの指揮を頼むわ」で任され、決行は「本日の夕刻」「闇に紛れて、砦の奪還と参りましょう」。
アイスレインと、烏合の衆ではない傭兵団
「魔女って、失礼ね」
潜入後のエリー側は、まず様子見から入る。「威力の強い魔法は使えないわね」と断ってからアイスレイン、アイスバレットと刻んでいき、駐屯地側は「魔法を打ち込まれているんだ」「術師をさっさと見つけて」と混乱する。強い魔法を使わない理由が、気づかれないためだと先に言っているのが丁寧だった。
見つかってからは容赦がない。フリージングアースで凍らせてから片付けていくのだが、その最中に飛んできた罵声への返しが「魔女って、失礼ね」。言葉遣いだけは最後まで令嬢のままなのが、この作品の一番おかしいところだと思う。
一方のエルザ側は苦戦していた。傭兵団の相手が「ここまでの烏合の衆とはまるで違う」と褒め、エルザも「一人一人はそれほどでもないが、複数で来られるのは厄介だな」「何よりあの男の指揮」と認めている。「深追いするな」「囲んで少しずつ削れ」「互いをフォローしろ」という指示が的確で、主人公側が押されるのが理屈で説明されているのが良かった。無双にならない戦闘は、それだけで見応えが変わる。
フリューゲルと、逃げられた相手
均衡が崩れるのは、両者が神器を出したところからだ。エルザが神器を使った魔力の動きを察知したエリーが「あちらが本命ってことね」と判断し、神器、グリモア・ベルゼブブで乱入する。「随分と乱暴な登場だな」と言われるあたり、相手も崩れていない。
そして武器の正体が明かされる。エリーの得物は魔法武器フリューゲルで、「ミスリルすら簡単に両断できる反面、随分と脆い代物だと聞くからな」「どこぞの国の宝物庫に納められていると噂で聞いていたが、あんた、いったい何者だ」。返事は「私はただの商人ですわ」だった。敵のほうが持ち主の正体に近づいているというのが不穏でいい。
決着はつかない。サージャス小王国のグリント王子という名が出たところで、マジックスクロールの「ゲート」で逃げられてしまう。砦は奪還できたのに、肝心の相手は取り逃がしたという終わり方で、不気味な傭兵団の正体も、結局この回では分からずじまいだった。ここを持ち越したのは、明らかに続きのためだと思う。
「砦、奪還作戦」まとめと考察
皇帝陛下の財産
戦後の詰めが、この回でいちばん理屈の通ったところだった。帝国法では、帝国人民はすべて皇帝陛下の財産である。だから村人が他国から不当に害されれば、それは皇帝の財産に手を出したのと同じことになる。民間人への加害を、感情ではなく財産権の侵害として処理するという理屈だ。
ところが賠償の道は塞がっている。帝国はサージャス小王国と国交がなく、ハルドリア王国に求めようにも確実に証拠を隠滅する人物として、レイストン公爵の名が挙がる。エリー自身の生家の名がここで出てくるのが今回いちばん静かな衝撃だった。報復の相手はフリードだけではない、ということが名前ひとつで示されている。
結論は「ここで取るべき選択は一つだな」で、サージャス小王国への侵攻が宣言される。交渉できないなら取りに行く、という運びが乱暴なようでいて、直前に置かれた「代価を支払っていただきますわ」と完全に同じ考え方なのが上手い。国家の判断と商会長の判断が、同じ理屈で並んでいる。
投降してきたのは誰か
そして引きが効いていた。サージャス軍が白旗を挙げて投降を希望してきて、その中にロベルト・アーティと名乗る者がいるという。作戦会議で名前だけ出ていた、フリードの護衛騎士だ。エリーの「彼と会わせていただけますか」で次回に投げられる。
考察として気になるのは、なぜ護衛騎士が残っているのかという点だ。エリー自身が「戦況が不利になればすぐに撤退するはず」と読んでいて、実際フリードは戦場に姿を見せていない。主が逃げたのに護衛だけが降っているのだから、置いていかれたか、あるいは自分から残ったかのどちらかになる。フリードが村を襲えと命じた証拠を持っている人物としては、これ以上ない位置にいる。
今回は、報復の物語がついに実力行使に踏み込んだ回だったと思う。第5話までは商売と人脈で外堀を埋めていたのが、ここで初めて剣と魔法で相手の国そのものを削りに行った。しかも動機は復讐ではなく、奪われた物資の代価と、皇帝の財産という理屈で組み立てられている。怒りを法と帳簿の形に変換して振るうのがこの主人公のやり方で、その意味で今回の副題は、砦だけの話ではなかったのだと思う。























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