この記事の作品:
『クレバテスII』第9幕の副題は「鏡の迷宮」。元の姿に戻るための条件が、落ちることから始まる回だ。そして入り込んだ迷宮は、扉を何度替えても同じ場所へ戻してくる。逃げた敵まで、同じ理屈でここへ戻ってくると言われる。姫が二人いる理由も、幼い日に用意されていた説明を裏返す形で明かされる。そして最後の台詞が、落ちてばっかだよな、である。




副題「鏡の迷宮」と、第5幕とそっくり同じ組
副題は公式のストーリー欄で確認できる
第9幕の副題は「鏡の迷宮」。公式サイトのストーリー欄に、あらすじと並んで同じ表記が載っている。
この作品は話数を幕と数える。公式のストーリー欄も第1幕から第9幕まで幕で通されていて、番号のふり方そのものが作品の作法になっている。
担当者は、動画検査や色指定検査まで載る
公式のストーリー欄には、あらすじの下に担当者がそのまま並んでいる。脚本、絵コンテ、演出、総作画監督、作画監督まではよくある形だ。
ところがこの作品はさらに、動画検査、色指定検査、話数制作担当まで載せている。制作進行にあたる役職まで話数ごとに公開しているサイトは多くない。おかげで担当者の回り方を外から数えられる。
第9幕は、第5幕と五つの欄が一致する
第9幕は脚本が小柳啓伍、絵コンテが齋藤徳明、演出が小野亮汰、総作画監督が佐古宗一郎。動画検査が花芽実明、色指定検査が中川昭洋である。
これを第5幕と並べると、絵コンテ、演出、総作画監督、動画検査、色指定検査の五つがそのまま一致する。違うのは話数制作担当だけだった。第5幕の副題は「自分との戦い」で、鏡の中の自分と殴り合う回である。同じ組が、また鏡の中のもう一人を描いていることになる。
総作画監督は、奇数と偶数で分かれている
総作画監督を第1幕から並べると、奇数の幕が佐古宗一郎、偶数の幕が近藤奈都子で、きれいに交互になっている。
例外は第8幕だけで、公式の欄が空のまま置かれている。その第8幕は絵コンテも演出も同じ二人が担当し、話数制作担当まで同じ名前になっていた。別のラインで作られた回だと分かる形になっている。
落ちることが、元の姿に戻る条件になっている
取引の中身は「落ちるまで辛抱しろ」
冒頭、小さくされたままのアリシアに提示される条件が変わっている。影に接していないときは力になれん、と断ったうえで、落ちるまで辛抱しろ、と言われる。
落ちるまで、と聞き返すと、損傷は元の体に戻すついでに修復してやる、何も問題はない、と返ってくる。落ちて壊れるのを、戻すための工程として組み込んでいる理屈である。ないわけないだろ、と言い返すのが精一杯だった。
戻った直後に出るのが、服の話
実際に元の姿へ戻ると、まず出るのが回復の痛みで、痛すぎて死ぬ、と転げ回ることになる。
そのうえで口から出るのが、服くらいなんとかならんか、である。戻れた感慨より先に、目の前の実務的な困りごとが来る。この作品の主人公の反応はいつもこの順番になっている。
助けは来る、ただし着くまでは一人
続く指示が、我が到着するまで一人で戦え、だった。返事は、はいそうですか、の一言で終わる。
助けが来ることは確定していて、それでも到着までは一人だと最初に言い渡されている。この回のアリシアがずっと単独で動く理由が、冒頭で先に説明されている形になる。
迷宮は、出ても出ても同じ場所へ戻す
扉を六回替えると、七回目で戻る
公式のあらすじも、落下して最初に入った拷問部屋を出ようとしたが部屋を何度出ても元の場所に戻ってきてしまう、と書いている。迷宮で合流した姫が差し出す情報は、その仕掛けを数字にしたものだった。扉を開け閉めするたびに行き先が六回変わり、七回目で最初に出た場所へ戻る。
しかも、すべての扉でそうでした、と付け加えられる。めちゃくちゃ有益な情報だな、と即座に受け取られ、片っ端から試していこう、で攻略が始まる。仕掛けの説明が、そのまま突破口として渡されている。
逃げた側も、同じ理屈で戻ってくる
追手が一度引いたときも、追わない理由がその場で語られる。どの道ここへ戻ってくる、正しい道を知らなければな。
この迷宮では、逃げることと戻ることが同じ意味になっている。逃げたのはいいが、きっとあそこに戻る、とアリシア側も同じ結論に立つ。追う側と追われる側が、同じ理屈を別々に口にしている。
人形は、操っている何かを止めない限り立ち上がる
迷宮の下層で襲ってくる相手についての見立ても、同じ形をしている。操っている何かを止めない限り動き続ける、何度でも立ち上がる。
倒しても終わらない相手が、戻り続ける通路の中に配置されている。次から次へと拉致があかない、という愚痴が出るのも当然で、この回の戦闘は勝ち負けではなく消耗の話になっている。
双子まで、同じ迷宮に潜り込んでいた
合わせ鏡の通路で鉢合わせるのが、学校で同盟を結んだ双子だった。広く見えるが細い一本道、という空間の説明もここで入る。
元の姿を知らないので、誰だてめえは、から始まる。決め手になったのが目の傷で、この目の傷見覚えあるだろう、で通じる。名乗りは、そうだ本名はアリシアだけど、だった。偽名で結んだ同盟が、本名で結び直されている。
ユニオンの目的が、ついに全部言葉になる
北の魔獣王が隠しているものの在りかが示される
冒頭の魔獣王どうしの会話で、ヴォーデインの話になる。人族に対する思い入れは彼のほうがよほど深そうだった、執着には並々ならぬものを感じた、と続く。
そのうえで出るのが、おそらく彼と戦った最後の勇者との出来事に理由がある、である。最後の勇者、と聞き返し、今の勇者と何が違う、と重ねると、返事は、全て、の二文字だけだった。
その魔獣王が、秘密の部屋の最も深い場所へ呼ばれる
場面が変わると、秘密の部屋の解放を前に、会わせておきたいお方がいる、と紹介が始まる。導き、書の収集に尽力してくださったお方、という説明のあとに現れるのが北の魔獣王だった。
出迎える側は、居伏せよ同胞たち、と声を張り、本物の魔獣王、とどよめく。秘密の部屋の最も深い場所は、本来は二つ目の試練を越えた勇者が神の声を聞くための空間だと説明される。今は沈黙しているが、それも今日までだ、と続く。
石棺には、魂の帰還を待つ肉体がある
目的の説明はここで一気に具体的になる。神殿の中央の石棺には、魂の帰還を待つ真の勇者の肉体が安置されている。
そこへ、エドセア全土に散らばってしまった勇者の魂を集め戻すことが我らユニオンの究極目的、と続く。真の勇者が目覚めれば、止まってしまった神殿の時も勇者伝承も動き出す。これまでの犠牲も積み重ねた罪も今日この時のため、という言い方まで出てくる。
聞いていた側が、それを一言でまとめ直す
この演説を、アリシアは隠れて全部聞いている。その場での感想が、魔獣王が復活させようとする勇者なんて怪しすぎるな、だった。
そして後で双子に伝えるときの言い方が、あいつらは罪のない赤子を集めて何かに使っている、になる。散らばった魂を集める、という壮大な説明と、赤子を集めている、という具体が、同じ回の中に並んで置かれている。どんな理由があろうと許されることじゃない、で切って捨てるのがこの主人公である。
姫が二人いる理由が、幼い日の説明を裏返す
並んで立っているところを、誰も見ていない
姫が語り出す回想は、まず見え方の話から入る。はっきりと見えているだろうが、実際は違う。
続くのが、誰も私とお前が並んで立っているところを見たことがない、である。二人でいるところを目撃した者がいない、という一点だけで、二人が別々に存在していた説明がついてしまう。
血の呪いという説明が、先に用意されていた
そのうえで持ち出されるのが血筋の話だった。これはアローザの血の呪い、始まりの町の書の管理者たるアローザの宿命なのだ。
母も宿命と知らずに苦しみ死んだ、まで重ねられる。すべてが定め書に書かれたシナリオ通りなのだ、と締められて、片付けの言葉としては完璧に用意されている。見えないものを見ているように振る舞う子どもがいても、血のせいで説明がついてしまう。
送った側の言い分が「二役を演じればいい」
決定的なのは、その次に来る一行である。お前はこの先邪魔になる、だから鏡の中に送る。
鏡の中、と聞き返す相手に返すのが、私が二役を演じればいいだけのこと、だった。せいぜい頑張れ、で回想が終わる。片方を鏡へ落として、外に残った側が二人分をやる、という段取りが、本人の口から説明されている。
問いには答えないまま、話は攻略へ戻る
これを聞いたアリシアが口にするのが、じゃあ学長の正体って、である。
ところが姫はそれに答えず、人形たちに捕まってしまうまで私はこの迷宮をさまよっていました、と自分の話を続ける。そのまま扉の法則の説明へつながっていくので、いちばん大きな答えだけが宙に浮いたまま残る。双子も、その後ろの女は学長に化けてた女じゃねえか、と反応するので、外側の顔がどう見えているかも同時に示される。
敵に教わった作法で技名を決め、また落ちる
技名の作法は、あの園芸少年に習った
追手を片付けるときに、アリシアがわざわざ前置きを入れる。この程度の相手に使うのはもったいないが仕方ない、のあとに来るのが、あの園芸少年に習って技名はもう決めた、である。
技に名前を付けて宣言する作法を、敵として戦った相手から取り入れている。紋の名前は人それぞれで各自が適当に名付けている、と説明していたのはその園芸少年のほうだった。負けかけた相手の流儀だけを持ち帰っている。
姫を双子に預けて、自分は残る
脱出の指示は簡潔だった。お前たちは姫を連れて脱出しろ、上を目指せば地上に出られるはずだ。
そこに、ここを抜けられたらの話だが、という但し書きが自分で付く。鏡の奥に何かいる、じわじわこっちに来てる、という状況で、走れ早く向こうの扉へ、と送り出す側に回っている。冒頭で一人で戦えと言われた人物が、今度は他人を先に逃がす側にいる。
もう一度落ちて、そのまま回が終わる
床まで鏡だと気づいたところで、また落ちる。この回でアリシアが落ちるのはこれが最後になる。
そして最後の台詞が、落ちてばっかだよな、である。冒頭の条件が落ちるまで辛抱しろで、締めが落ちてばっかだよな。同じところへ戻り続ける迷宮の話が、落ちるという一語で最初と最後を留められている。




関連作品:
































コメント