この記事の作品:
第14話は、スピカがレグルス邸でメイドとして働く回。扉は異常に重く、使用人は男女問わず筋骨隆々、庭にはサバンナが広がっている。そして社交界デビュー寸前、レオは一言残して失踪してしまう。その裏にあったのは、亡き母と誓った夢と、父に言い出せずにいた本心だった。カオスの奥に、驚くほど繊細な親子の物語が置かれている。




レグルス家社交界とレオの失踪
重すぎる扉の先に待っていた筋肉
第14話は、スピカがレグルス邸に到着するところから始まる。初めてのメイドのお仕事に心を躍らせる彼女だったが、その期待は玄関先で早々に打ち砕かれることになる。
まず、扉が異常に重い。精一杯の力でどうにか押し開けた先で待ち構えていたのは、男女を問わず筋骨隆々な使用人たちだった。屋敷を間違えたと確信したスピカは、すぐさま逃げ出そうとする。
ところが、その行く手に現れたのが、獰猛そうなライオンにまたがったレオ・レグルス本人。どうやら屋敷は間違っていなかったらしい。ここが正真正銘、レグルス家なのだ。
メイド服で挑むのは、まさかのトレーニング
意気揚々とメイド服に着替え、張り切るスピカ。ところが任されたのはレオの付き人としての務め、要するにトレーニングへの付き合いだった。掃除でも給仕でもない。筋肉である。
時間になると、今度はガーデンに誘われる。そこに広がっていたのは、まるでアフリカのサバンナだった。ありとあらゆる動物がひしめいている。もはや伯爵家の庭という概念ではない。
しかもその動物たちに紛れて、猫の姿の先生までもが、一頭の動物として丁寧に扱われていた。そして翌日は、レオの社交界デビューの日だという。とんでもない一日の幕開けである。
原始人のような当主と、風圧で消えたタキシード
メイド生活2日目、当主が帰ってくる
スピカのメイド生活2日目は、朝からハードスケジュールだった。この日は当主——レオの父が戻ってくるため、その出迎えに立つことになる。
姿を現した当主を見たスピカの評は、実に率直だった。原始人、である。伯爵家の当主に対する感想として、これ以上ないほど身も蓋もない。
その当主は、社交界の前にまず領民へ挨拶に行くという。ここまでは立派な領主の姿だ。ただし、なぜか走って向かう。馬車でも魔法でもなく、自分の脚で。
裸で走ってくる領主と、ムキムキの領民たち
屋敷を出るときに着ていた正装のタキシードは、領地に到着した時点で風圧に耐えきれず破れ、当主はほぼ裸になっていた。ただ走ってきただけである。物理法則がまったく仕事をしていない。
そして出迎える領民たちもまた、当然のようにムキムキだった。この地では、それが自然なのだ。
とはいえ、この当主が領民に心から親しまれ、深く愛されているのは間違いない。裸で走ってきた領主に、皆が笑顔で応えている。おかしいのに、なぜか良い光景なんだよな。
社交界デビュー寸前、レオが消えた
デビューパーティーからの、まさかの失踪
そして迎えた、レオの社交界デビューパーティー。その寸前、彼女が放った一言が凄まじい。お花摘みに——といった上品な言い回しですらない、実にレオらしい直球の言葉を残して、そのまま失踪してしまうのだ。
逃げ込んだ先は、あのガーデンだった。動物たちに囲まれながら、レオは亡くなった母のことを想っている。笑いっぱなしだった回が、ここで急に静かになる。
レオが舞踏会を拒んだ理由は、はっきりしていた。領主になってしまえば、自分の夢は叶えられないからだ。彼女はスピカを連れて、屋敷から逃げ出す。
母と誓った、動物学者になるという夢
逃げた先で、レオはスピカに自分の夢を語り始める。母がまだ健在だった幼い日、彼女は動物学者になるのだと誓っていたのだという。
母が亡くなったあと、父は、かつて母と一緒に見た動物園の動物たちを、そっくり屋敷へ引き取ってくれた。あのサバンナのようなガーデンは、そういう庭だったんだ。ふざけた光景に見えていたものの正体が、父の愛情だったと分かる瞬間である。
動物たちのおかげで、レオは母の死から立ち直ることができた。だからこそ言えない。父の夢はきっと自分を領主にすることで、その父をがっかりさせたくない——そうやって、彼女は自分の夢を打ち明けられずにきたんだ。
絵面はどこまでもカオスなのに、話は驚くほど繊細なところに着地している。この落差こそが第14話の妙だった。
哺乳類最強の親子喧嘩と、誰もいないホール
砂埃を上げて現れる父、そして激高
親とぶつかることについて、スピカが自分の言葉で語り始めたところ——砂埃を上げて、レグルスの父が現れる。逃げた娘を、当然のように追ってきたのだ。
そして父は激高する。普通なら、ここから言葉の応酬になるところだ。ところが、この家は違った。
レオは自分の気持ちをぶつけるために、変身魔法を使い、文字どおり物理的にぶつかっていく。殴り合いながら、動物学者になりたいという夢を語る親子。ネットで「哺乳類最強の親子喧嘩」と呼ばれていたのも納得だ。
「幸せが一番だ」と父は言った
拳をぶつけ合った末に、父が出した答えはこうだった。おまえが幸せになることが一番だ、と。あれほど言い出せなかった夢が、あっさりと認められる。
領主にすることが父の夢なのだと、レオはずっと思い込んでいた。けれど父にとっての夢は、ただ娘が幸せであることだった。すれ違っていたものが、殴り合いによって初めて通じ合う。この作品らしい、めちゃくちゃで温かい解決なんだよな。
そして最後。レオは誰もいないホールにスピカを誘い、二人きりで踊り始める。社交界のパーティーからは逃げ出したのに、彼女はここで、自分のためのダンスを踊るんだ。静かで、最高の締めくくりだった。




関連作品:





















コメント