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『LV999の村人』第9話は、この世界の機能がまるごと説明される回だ。ダークドラゴンが明かしたのは、魔王がリセットされ続けてきたという事実と、到達者に用意された二つの選択肢。ところが鏡はそのどちらも選ばない。そもそも彼は、ここへ来るための二つの条件をどちらも満たしていなかった。副題「これまでにない希望」の出どころが、そのまま今回の骨格になっている。




この世界の機能が、まるごと説明される回
第9話は、これまで断片的に匂わされてきた世界の仕組みが一気に言語化される回である。しかも説明役が、隠す気のまったくない相手だ。
ダークドラゴンは神ではない
地下で待っていた相手は、自らをこの世界の特異点の一つと名乗り、この世界の全てを知る者であり、この世界の機能を保ち続ける者だと説明する。神なのかと問われると、我と神とは異なる存在だと即答する。神はいる。ただし目の前にいるのは神ではなく、神に世界を任された管理者だ。
面白いのは第一声が完全な誤解から始まる点で、よくぞ全ての試練を乗り越えたと讃えられた鏡が、ナイフを使って降りてきただけだと返す。そのような前例はないと相手が動揺し、以後この調子で前提が次々にずれていく。威厳のある説明役が、説明のたびに驚かされる側に回るという構図が、この回のずっと下地にある。
機能とは「真に強き者を定期的に生み出すこと」
世界の機能とは何かという問いへの答えが、お主たちのような真に強き者を定期的に生み出すことである。ここは到達者の力を知るための場所で、たどり着く条件は二つ。魔王を倒すか、一万ゴールドを集めるか。前者は力の証明、後者は力ではなく知恵とカリスマ性の証明にあたるという。
鏡はここで自分なりの理解を口にする。モンスターを倒すと金が手に入り、自分より強いモンスターを倒すと強くなる。この世界にはあらかじめ道筋が用意されていて、それに従って生きるのが一番効率がいい。つまり全ては魔王を倒し、次のステージに行ける強い人間を作るための装置だったという結論だ。視聴者からも、運営が調整を入れるゲームシステムのようだという読みが出ていた。
ここでも会話は噛み合わない。一万ゴールドのアイテムを買ってもここに来られたのかと鏡が驚くと、あれも強さを証明する手段であり、力ではなく知恵とカリスマ性がなければたどり着けないことの証明だと返される。それを手に入れたのかと問われて、いや、そうじゃないけど、と口ごもる。どちらの条件にも当てはまらない相手が、なぜか目の前にいるという状況が、この時点ですでに成立している。
魔王は、リセットされる存在だった
仕組みの説明でいちばん重い部分が、魔王の扱いである。しかもこれを、魔王に仕えていたメノウが横で聞かされる。
人間が魔王を倒したことがないのではなかった
魔王はこれより復活する、いやリセットされると言った方が正しい、と告げられる。鏡はそこで気づく。これまで人間は一度も魔王を倒したことがないのではなく、倒したという事実が残されていないだけだった。魔王はこれまでも幾度となく殺され続けてきて、そのたびに倒されたという記憶も消されてきた。
この一言がメノウに刺さる。自分がお慕いしていた魔王は、前の魔王が殺されたあとに新たに生み出されたものだと言われるからだ。忠誠の対象そのものが使い捨ての部品だったことになる。最後にリセットが行われてから三十年、今回の魔王は強すぎた、強制的に排除できないのがこの仕組みの欠点だとも語られる。
娘も「ただの魔族として再配置される」
では魔王の娘はどうなるのかと問われて返るのが、あらゆる記憶を消した上でただの魔族として再配置される、である。無論お前もな、と横のメノウにも同じ処理が宣告される。殺されるのではなく、続きを消して置き直されるという言い方が、この世界の非情さをよく表している。
そして三ヶ月という数字が出る。エステラーに連れ去られてからそれだけ経っていて、ダークドラゴンにも魔王の魔力が感知できなくなっていた。だから死んだと勘違いしていた。世界の全てを知るはずの存在が、身内に隠された一点だけ把握できていない。この穴が、後半の展開にそのまま効いてくる。
メノウの側の反応も丁寧に置かれている。人間の味方をした理由を問われた鏡が、監禁してビンタと勧誘を繰り返して洗脳したのだと軽口で説明する場面があり、そこは笑い所として処理されるのだが、直後に忠誠の対象が使い捨てだったと知らされるので落差が大きい。温和な性格のメノウが声を荒らげるところまで含めて、今回は彼の回でもある。
用意された二択を、どちらも選ばない
到達者には願いが一つ叶えられ、そのうえで二択を迫られる。ここが今回の分岐点になる。
記憶を消して帰る選択肢のほうが恐ろしい
一つ目は、この世界を捨てて次のステージへ赴くこと。より厳しい戦いへの道になる。二つ目は、力は残したまま魔王討伐に関する記憶と付随する事実の全てを抹消して地上に戻ること。傷つき、もはや戦いを望まぬ者のために用意された、いわば救済措置である。
ただし条件が付く。お主を知る者たちも、お主が戦ったという記憶を失う。しかも用意された理由が救済ではない。心を癒した本人が再びこの場所へ戻るよう願っている、というものだ。休ませる制度に見えて、実際は同じ人間をもう一度使うための仕込みになっている。強き者を定期的に生み出すという目的に、この選択肢もきちんと従っている。
もう一つ見落とせないのが、願いを叶える条件に付いたただし人間のみという但し書きである。何でも一つ叶えてやると言いながら、鏡がいちばん助けたい相手は最初から対象外になっている。この制度が誰のために作られているのかが、この一言で分かる仕掛けだ。
「一生後悔し続ける未来を想像する方が、俺は怖い」
鏡の返事は「選ばねえよ」で、続けて魔族は絶対に消させないと言う。理由の説明が、この作品の主人公らしくて良い。魔族も人間と同じように笑うし、一緒に徹夜で働いたりもする。人間よりずっと素直で気遣いもできて優しい奴だっている、と。制度の是非ではなく、自分が見てきた個体の話でしか反論していない。
怖くないのかと問われた場面の答えも同じ形をしている。そういう仕組みだからと諦めたくない、何もせず大切な友人を殺されて一生後悔し続ける未来を想像する方が、俺は怖い。勇気があるという話ではなく、二つの恐怖を並べてより怖い方を避けているだけだと本人が説明している。だからこの覚悟は、彼が特別に強いから成立しているわけではない。
魔力がないことが、そのまま防御になっていた
戦闘に入ってからの見どころは、この作品がずっと主人公の弱点として扱ってきたものが、初めて武器の側に回る点である。
位置を掴めない理由
全方位からの攻撃を抜けた鏡が、この魔法には欠点があると指摘する。煙に紛れて移動している間も同じ場所を攻撃し続けていた、つまり相手の正確な位置を掴めていない、と。返ってくる説明が、本来ならば攻撃対象から放たれる魔力で位置を把握できる、である。
そこへ鏡が、自分は魔力がほとんどないから、と返す。成長しなかった部分が、そのまま索敵を無効化していたわけだ。冒頭の会話とも噛み合っている。ダークドラゴンの魔力に常に包まれていながら、それを自覚できるのは押しのけるほどの魔力を持つ者だけだと説明されていた。感じ取れない側は、感じ取られない側でもある。
そこへ至るまでの防戦も、力押しではなく理屈で組み立てられている。片手で熱線に触れて爆発させ、もう片方の手で振り抜いて爆風をそらす。正直、直撃しまくったけどな、と本人は付け足すが、レベル500の相手が世界中を覆い尽くすほどの魔力を持つと説明された直後にこれである。傷つき死の寸前まで追いやられても闘争心を失わない点を驚かれて、返すのが諦めの悪さと根性、それとタフさが俺の売りでねだ。強さの内訳を、能力ではなく態度で答えている。
戦いの最中に、やっと使えるスキルが手に入る
さらに、直撃を受けたときにおかしな変化に気づいたと言い、同じ攻撃をもう一発撃つよう促す。レベルが上がったのかと問われて、上がってはいないと答える。限界を超えて強くなれるスキルを持っている自分が、この戦いでちょうど次を獲得できるところまで成長したのだ、と。
ここでダークドラゴンの驚き方が二段になるのが良い。レベル999という数字に驚き、次に村人だとと絶句する。村人は才能を持たずして生まれた存在で、レベルはもう上がらないはずだし、スキルを突然覚えるなど不可能。正論だけどな、と鏡が受け流す。説明役が自分の説明を破られていく形が、ここで頂点に達する。
まとめ、条件を満たさずに来た男が、用意された道を両方断る
乱入したエステラーが、ダークドラゴンの前提をさらに崩していく。ここで今回のタイトルの出どころもはっきりする。
この男は魔王を倒していない
まず、この男は魔王を倒してなどいないと明かされる。魔王は空間の歪みの中に保護されていた。ここへ到達する者があまりに長い間現れないので、三ヶ月ほど前にメシアを動かしたのだが、この男に倒された、と。第5話の侵攻は、到達者を作るための呼び水だったことになる。
そして、この男は魔王を倒そうとしないどころか救おうとしたので新たにルールを設けた、と続く。鏡が、自分をここへ来させるために嘘をついたのかと問うと、嘘ではない、一年が過ぎれば予定通り魔王を使うつもりだった、と返る。期限も条件も本当で、ただし出題者が答えを見たがっていたという関係だ。エステラーの立場もここで明かされ、ダークドラゴンと同じくこの世界の機能を保つべき存在であり、リセットのたびに誕生する魔王に仕えて調和を保つ役だという。
「これまでにない希望」
では魔王も倒さず一万ゴールドも集めていないなら、どうやってここへ来たのか。答えが地上から穴を掘って自力でたどり着いたである。大地の再生が追いつかぬほどの速度で掘り進んだ、と説明され、ダークドラゴンがもう一度言ってくれと聞き返す。
この者は二つの条件をどちらも満たしていないのかという驚愕に対して、エステラーが返すのが、この男の規格外の強さを見たであろう、これまでにない希望を、という言葉である。副題はここから来ている。入口の条件を二つとも外して入ってきた男が、出口の選択肢も二つとも断る。この対応が今回の骨格になっている。
三つ目の道と、次回への持ち越し
鏡が示す第三の道はこうだ。次のステージには行く、でもそれは今じゃない。ここでどう足掻いてもリセットの仕組みが変わらないなら別の手段を取るだけで、そのために地上へ戻ってやっておきたいことができた。終わったら一万ゴールドを貯めて、もう一度ここに来る、と。拒否ではなく順番の入れ替えを宣言している。
そのうえで魔王を返してくれと頼む。理由は、自分がやりたいことのためにどうしてもその力が必要だから。ダークドラゴンが今その者に魔王を渡した方が面白い未来が訪れそうだと言い、取引が成立する。信じたのではない、期待しただけだという締めの一言も、管理する側が予想を超えるものを求めているという今回の説明と一致している。地上で何をするつもりなのかは伏せられたままで、次回に持ち越しとなった。




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